無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

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抗争東支部編

相変わらずの戦後処理

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 執務室に帰ってきた俺と猫耳パーカーは、既に俺らの帰りを待っていた護海竜愛ごうりゅうたちに相手したアサシンどもについて話した。

 一人だけ明らかに話を聞かず気ままに紅茶飲んでいた紳士がいて、羨ましいなあコイツなどと思いながらも、やはり始まるのだった。毎度お馴染み、戦後処理のお時間である。

「チッ……俺が息の根を止めてやりたかったのに、余計なことしやがって」

「いやいや、息の根止めちゃダメっすから」

 俺の悪態に、猫耳パーカーは苦笑いし、金髪野郎と御玲みれいは肩を竦め、護海竜愛ごうりゅうどもは眉を顰める。セレスと澄連すみれんどもは、俺を中心に放たれるピリピリとした空気感など意に介す様子もなく、どこ吹く風だ。

 敵の首魁的な奴がすっげぇ喧嘩売ってきたのでブチのめそうと思い、猫耳パーカーを振り切って迷宮ブチ壊して分からせに行こうとしたが、すぐに全体連絡が霊子通信で言い渡された。東支部の代表、仙獄觀音せんごくかんのんによる戦争の終結宣言である。

 舐められたまま終わるってのはなんというか釈然としない。こちとら罵られ損だし、一発ぶん殴るぐらいはしたかった。まあその場合、相手は顔面複雑骨折ぐらいしていただろうが、むしろその程度で済ませてやるんだから感謝して欲しいところだ。

「まあ……ともかく。全能度五百の伏兵が三名……本当に危なかったな。そんな物騒な戦力が潜伏していたとは」

 黒髪ストレートコート女が室内に張り詰めた空気を振り払うように、俺らから聞いた報告を蒸し返す。仙獄觀音せんごくかんのんは割と憮然としていたが、中には血の気が引いている奴もいた。

「あの……その……迷宮壊すなって言って……すみません……まさか、そんな大きな敵と戦っていたなんて……」

 迷宮作戦の要、地味眼鏡っ子がドチャクソ平謝りしてきた。

 俺からしたら等しく雑魚だったんだが、支部勤めの奴らからしたら、全能度五百は化け物レベルの猛者だ。いくら護海竜愛ごうりゅうでも全員がかりでやっと一人殺れるかどうかってくらいの強さである。

 ここで変なリアクションをとると話が進まなくて更に面倒になる予感しかしないので、謝罪はとりあえず受けとっておくことにする。

「正直敵軍の将より、その伏兵から事情を聞いた方が良さそうだな」

「そりゃどうだかな」

 仙獄觀音せんごくかんのんの言葉に護海竜愛ごうりゅうたちは首を縦に振るが、俺や御玲みれい、そして猫耳パーカーは顔を顰めた。俺らだけじゃない、金髪野郎もだ。

「ソイツらはおそらく、情報なんて吐かないぞ。むしろ捕らえられた時点で、もう生きること自体を諦めてる可能性もある」

「我々は拷問や誅殺などしない。きちんと本部へ送り届ける」

「そりゃ分かってるさ。でもソイツらの雇い主はどう思ってるかな」

 そこで、ようやく仙獄觀音せんごくかんのんは金髪野郎の言葉の真意を理解する。俺たちは、言われなくても予想はついていた。

 俺と猫耳パーカーが倒した伏兵たちは、明らかに凪上なぎうえ家よりも上位の暴閥ぼうばつから派遣された奴らだ。そんな奴らが任務遂行に失敗した今、雇い主―――つまり派遣を命令した当主が、のうのうとソイツらを生かすと思えない。

 情報を洗いざらい吐けば、その当主の命によって別の奴らが使わされ、今回倒した伏兵は殺されてしまうだろう。釈放されたとて同じことである。

 そうなると伏兵たちは少しでも生き延びるために黙秘を決め込むことで、任務請負機関を安地として利用するだろう。任務請負機関本部の牢屋がどれだけ厳重かは知らないが、外にほっぽり出されるより安全なのは馬鹿な俺でも分かる。

 命あっての物種、拷問される方がマシだと考えるだろう。人によるとは思うが、アサシンをやっているのなら、並大抵の拷問には耐え切りそうだった。

「であれば凪上なぎうえ家の当主を縛り上げるしかないか」

「それもどうだかなぁ……凪上なぎうえ家よりデカいバックヤードがある以上、小物がロクなこと知ってると思えねぇな」

「嘘八百並べて逃れようとするでしょうね。撹乱されるだけなので、情報源としての価値は低いと見るべきです」

 俺と御玲みれいは面倒くさげに呟く。

 凪上なぎうえ雅和まさかずとかいう奴は、間違いなく上位の暴閥ぼうばつに褒美的な何かをちらつかされて、まんまと乗ってしまった小物だ。東支部に対する私怨を利用され、短絡的に戦争をしかけただけだろう。

 まあ伏兵と違って馬鹿そうだから、小物なりに洗いざらい喋ればとりあえず安全とか考えてそうだが、そんなことをすれば殺されるだけだ。流石にそれが分からん馬鹿でもないとは思うが。

「ふむ。では聴取の価値はないと見るべきか」

「そうかもしれんが、それでも本部に身柄を送致する価値はある。凪上なぎうえ家の当主はともかく、伏兵の方は情報源だからな」

 金髪野郎の言葉に護海竜愛ごうりゅうの大半は首を傾げたが、レモン色の髪の黒バトルスーツ女と俺たち、そして猫耳パーカーは頷いた。

 今回潜伏していた三人の伏兵はより上位の暴閥ぼうばつから遣わされた。つまり上位の暴閥ぼうばつに精通する人物であり、遣わせた上位の暴閥ぼうばつは自身の漏洩を防ぐため、なんらかの行動を取ってくるはずだからだ。

 例えばさらに腕の立つ腹心を遣わせて、伏兵を始末させるとか。

 分かりやすい手だが、任務請負機関本部に情報が渡ってしまうことだけは絶対に避けたいはずだから。

「伏兵を始末しにくる奴をとっ捕まえれば、悪い奴を引き摺り出せるっスね!」

 俺たちが言いたかったことをバトルスーツ女が代弁してくれる。後は本部の奴らが勝手に処理してくれるだろう。つまり伏兵と小物を本部の牢屋にぶち込めば、晴れてお役御免ってわけだ。

「じゃあ本部の奴らに送検してもらうよう頼むか。そこらの処理は任せていいか」

「いやむしろ後の事は我々に任せてくれ。これ以上北支部の皆殿に迷惑をかけるわけにはいかない」

「あれ? 私が勘定に入ってねーんっすけど」

「お前は例外だ。我が敬愛する兄様にいさまを侮辱したのは重罪だからな」

「はーッ、そんな昔のことまーだ根に持ってんすか、くそめんどくせー奴っすね」

「当然だ。兄様にいさまを侮辱するなど許されざる愚行、本来なら万死に値するぞ」

 クッソシリアスな表情で猫耳パーカーを睨む仙獄觀音せんごくかんのんと苦笑いを浮かべる護海竜愛ごうりゅう一同。いつも毅然とした態度で話している仙獄觀音せんごくかんのんだが、なんか途端に威厳がなくなったように見えるのは何故だろう。

 というか、ところどころで出てくる兄様にいさまって誰だろう。喧嘩の種になっているようでいい加減嫌でも気になってくるのだが、コイツ兄妹とかいるのか。

「ゴホン!! とりあえず、これで終わりだな」

 話が変な方向に向かおうとしていたのを感じ取ったのか、金髪野郎の不自然極まりない咳払いで雰囲気が引き締まる。

 かくして不完全燃焼が拭えない、ただただ大規模な物量戦にすぎなかった合同任務は終わりを告げた。不穏な種の温床としか思えない、新たなる影を残して―――。


 その後は俺の記憶にとどめておくようなことでもない雑事ばかりだった。地下迷宮の後片付け、避難させておいた請負人たちへの告知、今回捕らえた主犯格どもの移送等々。俺ら新人請負人は速攻蚊帳の外になるような話ばかりで、俺は半分寝ているようなものだった。馬鹿真面目に聞いていたのは御玲みれいぐらいだったと思う。

 御玲みれいに起こされて会議が終わったことを知った俺は、特に用もないしさっさと帰るかと東支部の執務室を後にする。

 未だ眠気で思考力が半減している中、廊下に出て、ロビーを抜けて、外に出て適当な場所で転移の技能球スキルボールをどこで使うかを御玲みれいと話さなきゃなと思い至った、次の瞬間だった。

「君にはまず、謝らなければならないな。すまない」

「……あぁ?」

 睡魔の残り香に惑わされている中、突然脈絡のない事を言われ、思わず喧嘩腰みたいな口調と声音になってしまう。眠くて半眼となっている眼をこすると、そこには黒髪ストレートコート女が立っていた。

 確かコイツ、男が苦手で、俺はおろか金髪野郎にも警戒心剥き出しだったはずだが、そんなクソ面倒そうな奴が一体どんな風の吹き回しだろうか。眠いから意味不明なことを唐突に言ってくるのやめてほしいのだが。

「そして感謝しなければならない。私は君を誤解していた。君がいなければ、私は過去から逃げていた。護海竜愛ごうりゅう隊長として、そして私個人として、ありがとう……と言わせてくれ」

 謝罪してきたと思ったら今度は何か知らんけど感謝された。マジで一体何のつもりだ。

 俺は別に感謝されるような真似をした覚えはないし、いわれもない事で頭を下げられるのは正直かったるいだけだ。悪い気分にはならないが、良い気分にもならないのが正直な本音である。

「えっと……話がよく見えねぇんだけど?」

「ん? 君のおかげで、私は過去の因縁と、まあ……完全とまではいかないが、ある程度ケジメをつけることができた。最初君のことはその……失礼ながら、ただの横暴で身勝手な男としか思っていなかったからな……」

 それに東支部の恩人だし、ともじもじして俺を見つめてくる。眠気に襲われながらも、少しだけ後ずさる。

 何のことだか分からなかったが、少し話が見えてきた。俺が伏兵を始末しにいくとき、そういえばコイツが霊子通信に割り込んできたんだったか。そのときゴチャゴチャと難癖つけてきやがったから、色々言って追っ払おうとしたんだっけ。

 ため息を吐きながら、面倒くさげに頭を掻く。

「……俺はただ思ったことを思ったまま言っただけだ。そっちがどう思おうが俺には関係ねぇ」

 その言葉は予想外だったのか、黒髪ストレートコート女は目を丸くしつつも、少し顔を暗くする。

 正直黙ってくれればなんでもよかった思いで言ったから何言ったかあんまり覚えていないぐらいだし、そのときのことを言っているのなら、感謝されるいわれはあまりない。俺はただ、自分のやると決めたことをやり通したかっただけなのだから。

 とはいえ―――と、また無造作に頭を掻きむしる。

 本音に更に本音を言っただけだし、感謝されるいわれはないって考えを変えるつもりはないが、凛々しい女に薄暗い表情をされるとそれはそれで後味の悪い気分に苛まれる。仲間以外の奴らにどう思われようと、正直どうでもいいはずなんだが―――。

「まあ……感謝の方は受け取っとくよ。謝罪の方は要らんがな、そっちは事実だし」

「謙遜を。君は暴君のように見えて、とても優しい人だと思うぞ」

「黙れ。俺は仲間以外に優しくした覚えはねぇし、するつもりもねぇ」

「ふふ、そうか」

「そうだ。お前も護海竜愛ごうりゅう隊長とかやってんだったら、全力でその仲間を守ることに力を注ぐんだな」

「私にとっては、仲間は東支部の請負人全てだよ。護海竜愛ごうりゅうや大姉様には特別思い入れはあるが、それで差別はしたくない」

「へぇ……抱えきれなかったら本末転倒だな」

「そうだろうか? なら何故君は私たちに手を貸したんだ」

「っ……それは」

「同じさ。助けられるものなら助けたい。その純粋な思いに、嘘はつけまい。人間ならばね」

 さっきとは打って変わり、凛々しさと似ても似つかない朗らかな笑みを浮かべる。その笑みを浮かべる彼女の顔は、一人の年頃な女の子に思えた。一瞬、本当に一瞬だけだが、その顔が木萩きはぎ澪華れいかに重なったように思え、思わず視線を逸らしてしまう。

 もう、色々面倒くさくなってきた。

「チッ……調子狂うぜ。もう帰る」

 男嫌いで、正直そこらの有象無象と大して変わらないと思っていた奴が、途端にガラにもない微笑みを向けてきて、それが馬鹿らしくも澪華れいかの笑った顔と重なるとか、気色悪い。この世にもう澪華れいかと同じくらいの女なんざ存在しえないし、したとしてもそれはただの別物だ。ただの別物にくれてやる慈しみなんざ、今更これっぽっちもありはしない。

 東支部請負人を助けたのは、ただ単に助けられる奴をみすみす見殺しにするような真似をしたら、仲間を死んでも守りきるって俺の中の絶対ルールが途端にただの綺麗事のようになってしまうようで、それを否定したかったがためにとった行動にすぎない。

 感謝だって、本当はいわれもないから受け取りたくはない。でも凛々しさが似合う女に暗い顔をされたら後味悪いからとりあえず受け取っておくって話であって、他意なんざこれっぽっちもありはしない。

 全くこの隊長女は輪をかけて面倒くさい。調子狂うし、いわれもないことで一々謝罪やら感謝やらされると思うと身が持たない。何度も言うが、俺の慈悲は仲間だけに向けられるべきものなんだ。

 強く黒髪ストレートコート女を指さした。指をさす行為は無礼に思われるとか聞いたことがあるが、知ったことじゃない。俺は礼儀とかいうものを一々気にするほど、殊勝な人間じゃないのだ。

「最後に言っとく。俺は慈善家じゃねぇ。俺は俺と、俺の仲間のために動く。それ以外は蛇足だ」

 行くぞお前ら、と御玲みれい澄連すみれんどもを手招きし、黒髪ストレートコート女の顔を一瞥することなく、そそくさとその場を去る。

 なんか捨て台詞みたいになってしまったがこれでいい。慈しみのバーゲンセールをしていると勘違いされるのは心外だ。自分らの身は自分で守り合うのがスジだし、東支部全体を守るとかデカい口叩くなら、それだけの能と気概を持って臨んでもらいたい。もちろん、俺らとは関係ないところで―――だが。

 俺はもう面倒な女と今後関わり合いにならないことを望みながらも、多分なんとなくだけどどうせ叶わないんだろうなという現実に落胆しながら、逃げるように東支部を後にしたのだった。
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