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愚弟怨讐編 上
決行! ``北の魔境``大遠征 1
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時は四日後。五月十日。
ものすごく集中していたせいか、準備や計画立案とかの作業が、なんと一日早く終わったので出立日を一日繰り上げることにし、俺と御玲は朝の十時くらいに流川本家邸新館から御玲の実家である水守邸へ向かった。当然、技能球による空間転移で移動だ。
弥平から聞かされて初めて知ったが、水守邸は流川本家領から武市、巫市、農村過疎地域を超えて遥か北方、あの北ヘルリオン山脈の麓にあるらしい。
そんなに遠いと転移以外の方法じゃ、物理的な距離がありすぎて行けない。久三男に頼めば戦闘機の一機くらい貸してくれそうな気がしたが、アイツには関わらない方がいいと、弥平に釘を刺された。
正直なんで関わらない方がいいのか皆目分からなかったが、下手に反論して面倒になるのも嫌だったし、空間転移で全部すっ飛ばせるなら、それに越したことはなかった。
「それにしても、寒い……」
俺は乾布摩擦で両腕を必死に温める。
御玲の実家は大暴閥の割に木造建築の和風な豪邸、といった感じである。
俺ん家みたく何かしらギミックがあるワケでもなく、よく分からんハイテクがあるワケでもなく、魔法のトラップや魔生物が領地をうろうろしてるワケでもない。
言ってしまえば、普通の豪邸だ。和風で、木造で、廊下は木の床。部屋は畳。
ただそれだけでも印象としては良いんだが、無駄な家具は一切なく、生活に必要最低限なものしか置いていないのと、どことなく家ん中全体が薄暗いところが、ものすごく気がかりだ。
そして最後に重大な欠点を述べるなら、やはりコイツん家が異常に寒いことである。
「申し訳ありません。然水氷園の中にありますので、季節関係なく、気温は十度以下になっております」
「いや……暖房つけろよ……なんでお前ン家、暖房という暖房が一切無いの……」
俺は少しばかり震えながら、この寒さに全く動じない御玲の後をついていく。
然水氷園。水守邸は氷と水と雪しかないちょっとした凍土の中心部にあり、とにかくものすごく寒い。
窓からの背景も、一面が白銀。草木もなく、あるとすれば凍った湖と、バッキバキに凍った氷の山、屋根から垂れ下がってるつららだけだ。
どこを見渡しても氷と雪と水しかない。家は立派なのに、なんでこんな勿体ないんだろうか。なおかつなんでか知らないが、家の中には暖房が一切無い。
ストーブもエアコンもなく、木造建築の家なだけに隙間から入ってくる風が嫌がらせレベルの冷たさだ。
御玲が寒いのに平気なのは、この家ン中で過ごしてきたせいだったからか。
「澄男さまはこちらのお部屋になります」
俺が身を震わせ、寒さに耐え忍んでる最中、御玲は淡々と襖で閉ざされた部屋を開ける。
その部屋は殺風景な邸宅の景色とは違い、色々と装飾がなされていた。
床は畳ではなく絨毯が敷かれ、部屋のかなり広い。こじんまりしたワンルームどころか、人が二人三人ぐらい泊まれるくらいの広さだ。
家具が無いのは他の部屋と同じだが、部屋の奥には暖炉があり、暖炉の前には一人分のソファと、テーブルが置かれていた。
和風の豪邸なのに、別世界の雰囲気に包まれている一室に、一瞬、思考が止まった。俺はアレを見るやいなや、すぐに我に帰る。
「な、なぁ。なんでベッドに枕が二つもあるんだ? ここ、俺の部屋なんだよな」
「そうですが」
「いや……枕二つもいらんよな……? まさかだけどお前、俺とルームシェアするつもりか?」
「何か問題でも?」
「いや。いやいやいやあるだろ!! お前と俺、そんな年違わないしほぼ同い年なワケで況してや女と一緒に寝るなんざ色々と……」
「私は流川本家派当主の専属メイドなので、主人から離れるわけには参りません」
「そ、それでも一つのベッドに二人寝るのは……」
「では床で結構です」
「いや床はお前……肩凝るだろ。俺が床で寝るよ」
「主人より高い位置で寝るなど、そのような不敬も甚だしい行為は行えません」
「いやいいよそういうの面倒だしお前ベッドで寝ろって。それが無理ならせめてソファとかで寝ろよ」
「…………分かりました。ではソファを使います」
一瞬、御玲の眉が歪んだ気がしたが、気のせいだろうか。気のせいだと信じたい。
御玲は俺の荷物や自分の荷物を床に置く。
エスパーダに会える確証が無い今、道中で日を跨ぐ必要が出てきたとき、この部屋に戻ってくる手筈になっている。
そもそも日を跨ぐ必要ってあるんだろうか。転移できるんなら、一気にヴァルヴァリオンの所まで行ったらいいんじゃね。と誰しも思うだろう。
俺も最初はそう思った。でも現実ってのは、やっぱり全然甘くない。
弥平曰く、転移するための技能球に封じられてる無系魔法``顕現``は、本来``一度行った経験のある場所``に対してしか使えないらしい。
ヴァルヴァリオンはチート級の魔生物が跋扈する``北の魔境``のどこかにあると、弥平が予想立ててる超絶辺境の国。つまり、行った経験のある奴なんて、俺達はおろか、世界中のどこを探してもいないのだ。
どこにもいないってことは、地図もないし、地図を作れる製図家もいない。
分家とかが持ってる衛星も、流石に大陸北部だと厚い雲に覆われてて使い物にならず、地図を独自に作ろうにも、作るための情報が集められない。
結局残された手段となると、俺と御玲が実際に現地に赴く以外にない、というワケである。
そうなると嫌でも日を跨がなきゃならなくなるし、夜通しで探すのは危ない魔生物の種類が更に増えるらしいから、拠点である御玲の家に転移で帰ってこなきゃならないって結論に至るワケだ。
一度行ってしまえば、あとは技能球で自由に往復できるようになるから、明日の朝は昨日進んだ分の距離を転移ですっ飛ばして探索を再開すればいい。
つまり、ベースは御玲ン家。一日単位でベースへの帰還と朝昼ぶっ通しの登山を繰り返して、ヴァルヴァリオン法国探しをする。
わかりやすくなるようにクソみたく話を噛み砕くと、全体の流れはこうなるワケだ。
一番手っ取り早いのはエスパーダに会うことだからそっちを優先するが、会えない場合や協力してくれない場合を考えて、長期戦覚悟の国探しである。
「さて……早速行きたいんだがその前に。お前ンとこの親父に挨拶しときてぇんだが」
荷物から衣服やら清掃器具やらを取り出し黙々と作業をする御玲に、俺は背伸びをしながら問いかけた。
流石に傘下の暴閥とはいえ、主人として顔合わせしておくべきだろう。一応、相手の方が年齢は上だし、黙って部屋借りるのも癪だ。
「呼んで参ります」
頼む、と俺は一声かけると、御玲は部屋を後にし、長い廊下へと消えていった。
木の床が御玲の足踏みに合わせて軋み、一人になったせいなのか、隙間風がさっきよりやけに冷たい。
軋む音もなにか物悲しく、木の床に描かれた木目も、周りが薄暗いせいか、いっそう不気味に感じる。
「そういや、一つの部屋に女と一緒って初めてだな」
俺は誰もいない、荷物と燃え盛る暖炉が目立つ部屋を見渡した。
御玲や弥平と会うまで、女はおろか、友達すら家に呼んだことはない。
俺は流川の末裔だから、友達なんぞ家に呼べたモンじゃなかったからだが、まさか一つの部屋で人生初めて一緒に過ごす奴が、女でなおかつメイドってのは予想すらしてなかった。澪華ですら、家に呼んだこともなかったし。
女と一つ屋根の下、かつルームシェア。
普通なら鼻の下を伸ばすシチュエーションだが、なんだろう。全然盛り上がらない。
躍動しないというかテンションが上がらないというか。普通に戸惑いと羞恥心しかなくて、そこにときめきなんてものは一切ない。
やっぱり、三月十六日に見たアレのせいなんだろうか。それとも、相手が御玲だからか。
確かに御玲には何の感情もないし、言ってしまえばただのメイドぐらいの認識しかないけれど、それでも女なワケで。だからつまり―――。
俺はそこまで考えると、頭を左右に振った。
だめだやっぱ。考えたところで何も分かんない。
こういう湿っぽい考え事はやるだけ何の意味もなく時間が過ぎるだけだから深入りしないに越したことはない。ヴァルヴァリオンとかいう国だけに意識を向けとこう。
幸い御玲もこっちから下手に話しかけなければ接してこないし、義務的な応対しかする気が無いのなら、こっちも淡々としていればいい。
三月十六日のアレを味わった今、同年代の女と仲睦まじく話すなんざ、もはやありえないことだし、都合がいいと考えるべきだ。
「おまたせ致しました」
俺の思索を破って、御玲が部屋へ戻ってきた。御玲の背後には、俺の親父と同年代ぐらいのオッサンが顔を出す。
黒い髪にやせこけた顔。家ン中にいるというのに、何故か全身重装甲の鎧を身に纏い、半開きの目で俺を見つめてくる。
俺は僅かに眉を潜めた。
口に出す気は当然無い。なぜなら面倒な事になるのが考えるまでもなく明らかだからだが、どうせ聞こえないんだからと思って、身勝手に思った事を心の内に吐き出すなら、ものすごく印象が悪い。
ついでにいうと、全体的に薄汚い。
まず異常にやせこけた顔と萎びた黒髪。この時点で不健康さがやたら目立つ。まるで無茶苦茶なダイエットでもしてる女みたいな形相だ。
瞼も半開きで瞳も濁ってるし、俺を見てるっていうより、ぼうっと虚空を見つめてるような視線も気になる。
御玲の父親、水守璃厳。
かつて水守守備隊という、母さんを守るために存在してた軍隊長を担い、戦場を闊歩してた大幹部の一人。
でもかなりイメージと乖離した印象しかない。そんな大それた役職を担ってた大物とは思えない姿だ。ひょっとして影武者だったりするんだろうか。
いや、流川本家の当主を目前にして影武者よこすワケない。どう考えても無礼だし、それが分からん水守家じゃないだろう。
本家傘下の暴閥が仕える主人を目前にしている。だとしたらこのオッサンはモノホンってことになる。
「お初にお目にかかり、光栄の至りでございます。私、水守璃厳と申す者です」
「あ、ああ……こんちはっす。流川澄男っす。知ってると思いますけど本家の当主におなり申し上げました」
俺は使い慣れてないちぐはぐな敬語を駆使しながら、自己紹介する。
敬語なんざ使いもしないから苦手だ。多分色々おかしいと思うが、気にするのも面倒だしこのまま押し切っちまおう。
「このたび、このお部屋をお貸しいただき申し上げ候……ん? あれ、あー……お貸しいただきまして感謝の意を示す」
「本家派当主様に水守邸の一角をお使いいただける。ただそれだけでこれ以上の喜びはございません」
「そっすか。でもなんか悪いっすねこんな良いお部屋をお使いいただきまするのは」
「私どものことはお気になさらず、貴台のありのままにお振る舞い下さいませ」
「き、きだい……? えっと……まあはいよろしくお願い申し上げ候」
璃厳のオッサンが頭を下げてきたので、俺はノリに任せて頭を下げる。
うん。敬語嫌いだ。できれば二度と使いたくない。
「すぐにご出立なさるのでしょうか」
「そっすね。準備できたらすぐ行きます」
「我が娘は無芸でございますが、これでも良ければご自由にお使いくださいませ。期待は裏切りません」
俺はついいつもの癖で舌打ちしそうになるのを必死に抑え込んだ。
今コイツ何つった。御玲の事、``これ``って言ったか。実の娘を物みたいに。
俺の親父が裏切り者でなおかつ倒すべき敵だったのもそうだが、父親ってのは実の息子娘を何だと思ってんだろうか。
なんにせよコイツの人となりは大体分かった。余程の事がない限り、コイツとは口を利いてやらん。
「…………んじゃ準備しなきゃなんで、俺はこれで。御玲、持ちモンの確認すんぞ」
はっ、と御玲は俺のそばに駆け寄る。璃厳と目を合わせず部屋の奥、荷物が置いてある場所へ移動した。
璃厳が歩き去る足音を聞きつつ、俺は御玲が置いた荷物から必要なものとそうじゃないものとで分別するべく、御玲と荷物を挟んで向かい合う。
特に何のリアクションも無しか。話してる感じ、こっちには興味なしって感じだ。
一応、ものすごく丁寧な口調で話してたが、はっきりいって相手の方が立場が上だからとりあえず敬語使ってテキトーにもてなしとけ、みたいな雰囲気で話しているように思える。
平坦な声音で、教科書に載ってる応対を形式的に義務的にぺらぺら話しているような違和感。絶対間違いない。
どこまでも不快な野郎だ。アレは完全にこっちを舐めて見てやがる。
今から遠征とかじゃなきゃ気にくわねえからボッコボコにしてやったところだが、とりあえずあんな萎びたオッサンは忘れる事にしよう。任務にさしつかえる。重要なのはどっちか、考えるまでもない。
「俺とお前の着替えは、このデカい鞄の中に入れとくぞ」
「はい。洗面器は持っていかれますか」
「ああ。歯ブラシとかそんなんは置いとくとして、洗面器は水掬ったりするのに要るからな」
俺と御玲は探索に必要なものとそうじゃないものを一つ一つお互い質問し合いながら選り分け、旅行鞄から肩掛けサイズの魔導鞄を取り出し、中に必要なものを順次入れていった。
ちなみに、魔導鞄ってのは複数の鞄と中身を共有できる機能を持った特殊な鞄のことだ。
要は旅行鞄並みに大きい魔導鞄―――つまりメインバッグに、複数の肩掛けサイズの魔導鞄―――サブバッグを登録して使う、いわば異次元空間で繋がった鞄だと考えてもらっていい。
コイツは例えば、広範囲探索、兵站の確保に使われる流川御用達アイテムの一種で、武器とか、食料とか、強化アイテムとか、生活必需品とかを大量に入れておいて、なおかつどこでも取り出すことができる超有能アイテムなのだ。
鞄の中は専用の異次元空間になってるらしく、人間が使う分には容量の限界を感じないほどデカいと弥平が言っていた。取り出すときは取り出すアイテムを思い浮かべれば、勝手にアイテムが手元に来てくれる。
んで、今回の場合は広範囲探索になるが、探索に行くのに、旅行鞄並みのデカい鞄を持ち歩くのは正直邪魔にしかならんのは考えるまでもないと思う。
だからこそ、サブバッグに必要な持ち物を入れなおす必要がでてくるワケだ。
サブバッグは基本的に持ち運びに適した形をしてる割に、容量は見た目が大きいメインバッグと変わらない。
つまり、肩掛け鞄サイズなのに色々なものを入れられるってワケなのだ。
当然、異次元空間に入るのでどれだけ入れても重さは感じない。何も入れてない肩掛け鞄を肩に背負ってるぐらいしかないわけである。
メインバッグには探索に関係ない生活必需品も入っている。それらはメインバッグに置いておいて、探索に必要なアイテムや武器は、サブバッグの中に入れておく。
あと、メインバッグにはメインバッグの登録もできる。
俺ン家のリビングと分家にメインバッグが一つずつ置いてあって、三つめのメインバッグが、まさしく俺達の手元にある旅行鞄だ。
俺ン家のリビングと分家の方に置いてあるメインバッグは、弥平が俺らに必要なアイテムを支給するためにアイツが配置してくれたもの。
俺らが霊子通信で弥平に頼めば、アイツが都合に合わせてそのバッグどもの中に必要なアイテムを投げ込んでくれる手筈になっている。
つまり、わざわざ俺らが分家に行ってアイテムを貰いにいく必要がなく、弥平にさえ頼んでおけば、あとはこの部屋に置いてあるメインバッグをまさぐるだけでよくなるワケである。
画期的なまでに無駄がないアイテムの補給。これを可能にするために、メインバッグにメインバッグを登録する機能があるワケだ。
それに、もう一つ。
メインバッグとサブバッグを使い分ける別の理由として、探索の道中にアイテムを失くすというアクシデントを、可能な限り回避できるというすさまじいメリットがあることだ。
要はもしサブバッグを失くしたとしても、中の持ち物はメインバッグに共有されてるから、失くしてしまうことがまずないってハナシである。
これは、サブバッグからメインバッグの中身は取り出せないが、メインバッグからなら、全てのサブバッグに入ってる全てのアイテムを取り出せるというメインバッグ特有の機能によるメリット。
だからサブバッグをなくす、盗まれる、破壊されても、転移の技能球で御玲ン家に戻って、メインバッグをあさればアイテムだけは取り戻せる。
予備のサブもメインの方に入っているし、予備のサブにもう一度、必要な持ち物を入れ直せば問題解決ってワケである。
「さて、生活必需品はこのくらいか。後は持参物の確認っと」
俺は魔道鞄の使い方を頭の中で思い浮かべながら、粗方の仕分けを終えると、再びメインバッグに片手を突っ込んで中身をまさぐる。
メインバッグから色んなものを出すやいなや、俺は腕を組み、その状況に首をかしげた。
持っていくものは武器の他、バフやデバフの魔法が封じ込められた技能球と、弥平から渡された魔法薬。今、俺の目の前に広がっているものたちが、まさしくそれらだ。
技能球や魔法薬は、一つ一ついろんな色をしていて、ぱっと見どれがどれだか分かったものじゃない。使うにしても、これだと何をどんなときに使うのか皆目分からないんじゃ、いざというときにものすごく困る。
基本的に技能球や魔法薬は御玲が使う事になってるが、場合によっては俺が使うことになるかもしれない。無系魔法のことをさわりだけでも知るチャンスだし、タイミングとしては最良といったところだろう。
俺は、床に広げた魔法薬や技能球をよそに、御玲へと視線を移す。
「なぁお前、これ全部見分けられるか?」
「概ね」
「んじゃあ悪りぃけどさ。無系魔法のこと、さわりだけでもいいから教えてくれや。ついでにどんなときにどれを使うのかも」
「はぁ。では、そうですね……」
仕分け作業の手を止め、四つんばいになって床に転がっている技能球のうち、一つを、手に取った。
それは白く光る技能球。
「まず澄男さまは、魔法の系譜をご存知ですか?」
俺は左右に首を振る。
「魔法は大雑把に無系と属性系に二分され、更に攻撃系、防御系、探知系、阻止系、汎用系の五区分に分かれています」
「多いな……」
「今回の任務で使用する系譜は、無系のうちの、探知系、汎用系のニ系譜」
俺は、ほうほう、と相槌を打つ。
そういや、弥平が探知系だのなんだのが必須とか言ってたな。アレは無系っていうデカいくくりの中に入ってる概念だったのか。
「たとえば、この技能球」
御玲は手に取っておいた技能球を手の上に乗せ、俺に見せる。
「この技能球には、``探査``と呼ばれる探知系魔法が組み込まれています」
「プローブ? 変な名前だな……」
「``探査``というのは、一定範囲内に存在する全ての生命体の位置、肉体性能、能力などを参照するのに使用される魔法です」
「なるほど。つまり、その魔法で索敵するってワケか」
左様です、と無表情で頷く。
一定範囲内に存在する全ての生命体ってことは、魔生物も索敵対象に含まれるってことだ。
山ン中をとぼとぼ歩くワケだから、相手が俺らを見つけるより先に、俺らが魔生物の位置や能力、性能を把握してしまえば、無駄な労力を可能な限り削ることができる。
中々有能な魔法だ。索敵ができるなら、できるに越した事はない。
「それともう一つ。今回の任務でおそらく、最も重要となる技能球は、こちらとなりましょう」
御玲はまた、床に転がっているたくさんの技能球から、ぱっと見見分けがつかないうちの一つを手に乗せる。
「この技能球スキルボールには``隠匿``という無系魔法が付与されておりまして、作戦の要ともなりうる、今回の任務では決して外せない魔法と言えます」
「へぇー……それも探知系?」
「いえ。これは汎用系ですね。色んな事に使える魔法の一種、という分類になります」
「ああ、なるほど。だから``汎用``なワケね」
御玲が静かに首を縦に振る。
一つだけえらく仰々しい系譜があるな、とは思ってたが、そういうことか。いわゆるどんな状況でも大概使える便利で有能な魔法ってところだろう。大雑把には。
「この魔法は、五感のみならず、霊力すらも一切隠蔽する強力な潜伏魔法でして、この魔法を使うとあらゆる者から存在を悟られなくなります」
「なにそれ。要は透明人間になるってこと?」
「まあ、そうですね。大雑把には。体から溢れる微細な霊力すらも分からなくするので、ただ目に見えないだけではなく、本当に存在しないような状態になります」
「さっき言ってたプローブとかいうのでも探知できなくなるのか?」
はい、と御玲は答えた。俺は驚きながらも、苦笑いを浮かべた。
なにそれ。ここにきてチートな魔法が来たぞ。探知系で探知すらできないって、もはやガチレベルの透明人間じゃないか。
いや透明どころか、本当にいないも同然って感じ。暗殺者とかが好んで使う系のやつだ。
まあそんなんじゃなくても、色々な事に使える魔法ってところが更に拍車をかけてる。日常的に使えれば、普通なら行けない聞けない分からないところも全部行ける聞ける分かるようになってしまうだろう。
見えない感じられないものほど恐ろしいものはない。気がついたら背後を取られてるようなものだ。
そんな魔法が自在に使えたら背後取り放題だし、俺みたいなパワー馬鹿には恐怖以外の何物でもない。どこの馬の骨とも分からん奴に背後取られるなんざこの上ない悪夢だ。
俺は心の中のざわめきを顔に出ないよう、懸命に取り繕いつつ、こほん、と一度咳払いをした。
「他は……ないか」
「そうですね……使わない可能性の方が高いですが、``詠唱阻止``の技能球でしょうか」
「グロー……なんて?」
「``詠唱阻止``。相手に魔法や魔術などを一切使えなくする阻止系魔法の一種で、これを使えば相手の戦闘手段を大幅に削る事ができます」
今回必要になるのはこのくらいでしょうか、と言いながら、技能球を肩掛けタイプのサブバッグへしまう。
魔法や魔術を一切使えなくするとか、これまた虐殺的な魔法だ。俺は別に殴る蹴るでもいけなくもないが、魔法使いとか魔術師にとって天敵以外の何物でもない魔法じゃないか。
今回の場合、使うとしたら魔生物相手だが、魔法を使ってくるタイプの魔生物だったら、最悪この技能球で大概は乗り切れてしまうのだ。
いわゆる緊急用の技能球。``隠匿``ほどじゃないけど、中々厄介な魔法である。
俺は聞くだけ聞いた魔法の話を頭ン中で整理する。
俺が聞いた魔法は、どうせ全体からすればカス程度の種類でしかないんだろうが、素人目から見る限り、どれも強力なやつばかりだ。
相手に一切魔法や魔術を使えなくする魔法。相手から見たらいないも同然になれる魔法。一定範囲内にいる全部の生物の場所、性能、能力を把握できる魔法。
これら全部を用意してくれた弥平には、ガチで感謝しなきゃならねぇ。
俺なんてこれら一つもロクに知らなかった。知らずに山登りはおろか、国探しなんざしようとしてた。
もし知らずに行ってたらどうなっていただろうか。そもそも戦いでも当たり前に使われると思うと、生きて帰れる自信がなくなってきやがる。
おそらくどれも基本的な魔法ばかりのはず。いずれきたる戦場で思い出せるよう、脳筋と化しつつあるこの脳味噌に深く深く刻み込んでおくとするか。
特に``隠匿``とか、な。
俺はサブバッグを肩に担ぎ、腰にディセクタムを携える。御玲も槍を手に持ち、小さく頷いた。
「サブバッグの中身に忘れモンは無いな。んじゃ行くぞ」
御玲ン家に着いたのも束の間、俺達は茶を濁す事もなく、さっさと水守邸を後にした。
ものすごく集中していたせいか、準備や計画立案とかの作業が、なんと一日早く終わったので出立日を一日繰り上げることにし、俺と御玲は朝の十時くらいに流川本家邸新館から御玲の実家である水守邸へ向かった。当然、技能球による空間転移で移動だ。
弥平から聞かされて初めて知ったが、水守邸は流川本家領から武市、巫市、農村過疎地域を超えて遥か北方、あの北ヘルリオン山脈の麓にあるらしい。
そんなに遠いと転移以外の方法じゃ、物理的な距離がありすぎて行けない。久三男に頼めば戦闘機の一機くらい貸してくれそうな気がしたが、アイツには関わらない方がいいと、弥平に釘を刺された。
正直なんで関わらない方がいいのか皆目分からなかったが、下手に反論して面倒になるのも嫌だったし、空間転移で全部すっ飛ばせるなら、それに越したことはなかった。
「それにしても、寒い……」
俺は乾布摩擦で両腕を必死に温める。
御玲の実家は大暴閥の割に木造建築の和風な豪邸、といった感じである。
俺ん家みたく何かしらギミックがあるワケでもなく、よく分からんハイテクがあるワケでもなく、魔法のトラップや魔生物が領地をうろうろしてるワケでもない。
言ってしまえば、普通の豪邸だ。和風で、木造で、廊下は木の床。部屋は畳。
ただそれだけでも印象としては良いんだが、無駄な家具は一切なく、生活に必要最低限なものしか置いていないのと、どことなく家ん中全体が薄暗いところが、ものすごく気がかりだ。
そして最後に重大な欠点を述べるなら、やはりコイツん家が異常に寒いことである。
「申し訳ありません。然水氷園の中にありますので、季節関係なく、気温は十度以下になっております」
「いや……暖房つけろよ……なんでお前ン家、暖房という暖房が一切無いの……」
俺は少しばかり震えながら、この寒さに全く動じない御玲の後をついていく。
然水氷園。水守邸は氷と水と雪しかないちょっとした凍土の中心部にあり、とにかくものすごく寒い。
窓からの背景も、一面が白銀。草木もなく、あるとすれば凍った湖と、バッキバキに凍った氷の山、屋根から垂れ下がってるつららだけだ。
どこを見渡しても氷と雪と水しかない。家は立派なのに、なんでこんな勿体ないんだろうか。なおかつなんでか知らないが、家の中には暖房が一切無い。
ストーブもエアコンもなく、木造建築の家なだけに隙間から入ってくる風が嫌がらせレベルの冷たさだ。
御玲が寒いのに平気なのは、この家ン中で過ごしてきたせいだったからか。
「澄男さまはこちらのお部屋になります」
俺が身を震わせ、寒さに耐え忍んでる最中、御玲は淡々と襖で閉ざされた部屋を開ける。
その部屋は殺風景な邸宅の景色とは違い、色々と装飾がなされていた。
床は畳ではなく絨毯が敷かれ、部屋のかなり広い。こじんまりしたワンルームどころか、人が二人三人ぐらい泊まれるくらいの広さだ。
家具が無いのは他の部屋と同じだが、部屋の奥には暖炉があり、暖炉の前には一人分のソファと、テーブルが置かれていた。
和風の豪邸なのに、別世界の雰囲気に包まれている一室に、一瞬、思考が止まった。俺はアレを見るやいなや、すぐに我に帰る。
「な、なぁ。なんでベッドに枕が二つもあるんだ? ここ、俺の部屋なんだよな」
「そうですが」
「いや……枕二つもいらんよな……? まさかだけどお前、俺とルームシェアするつもりか?」
「何か問題でも?」
「いや。いやいやいやあるだろ!! お前と俺、そんな年違わないしほぼ同い年なワケで況してや女と一緒に寝るなんざ色々と……」
「私は流川本家派当主の専属メイドなので、主人から離れるわけには参りません」
「そ、それでも一つのベッドに二人寝るのは……」
「では床で結構です」
「いや床はお前……肩凝るだろ。俺が床で寝るよ」
「主人より高い位置で寝るなど、そのような不敬も甚だしい行為は行えません」
「いやいいよそういうの面倒だしお前ベッドで寝ろって。それが無理ならせめてソファとかで寝ろよ」
「…………分かりました。ではソファを使います」
一瞬、御玲の眉が歪んだ気がしたが、気のせいだろうか。気のせいだと信じたい。
御玲は俺の荷物や自分の荷物を床に置く。
エスパーダに会える確証が無い今、道中で日を跨ぐ必要が出てきたとき、この部屋に戻ってくる手筈になっている。
そもそも日を跨ぐ必要ってあるんだろうか。転移できるんなら、一気にヴァルヴァリオンの所まで行ったらいいんじゃね。と誰しも思うだろう。
俺も最初はそう思った。でも現実ってのは、やっぱり全然甘くない。
弥平曰く、転移するための技能球に封じられてる無系魔法``顕現``は、本来``一度行った経験のある場所``に対してしか使えないらしい。
ヴァルヴァリオンはチート級の魔生物が跋扈する``北の魔境``のどこかにあると、弥平が予想立ててる超絶辺境の国。つまり、行った経験のある奴なんて、俺達はおろか、世界中のどこを探してもいないのだ。
どこにもいないってことは、地図もないし、地図を作れる製図家もいない。
分家とかが持ってる衛星も、流石に大陸北部だと厚い雲に覆われてて使い物にならず、地図を独自に作ろうにも、作るための情報が集められない。
結局残された手段となると、俺と御玲が実際に現地に赴く以外にない、というワケである。
そうなると嫌でも日を跨がなきゃならなくなるし、夜通しで探すのは危ない魔生物の種類が更に増えるらしいから、拠点である御玲の家に転移で帰ってこなきゃならないって結論に至るワケだ。
一度行ってしまえば、あとは技能球で自由に往復できるようになるから、明日の朝は昨日進んだ分の距離を転移ですっ飛ばして探索を再開すればいい。
つまり、ベースは御玲ン家。一日単位でベースへの帰還と朝昼ぶっ通しの登山を繰り返して、ヴァルヴァリオン法国探しをする。
わかりやすくなるようにクソみたく話を噛み砕くと、全体の流れはこうなるワケだ。
一番手っ取り早いのはエスパーダに会うことだからそっちを優先するが、会えない場合や協力してくれない場合を考えて、長期戦覚悟の国探しである。
「さて……早速行きたいんだがその前に。お前ンとこの親父に挨拶しときてぇんだが」
荷物から衣服やら清掃器具やらを取り出し黙々と作業をする御玲に、俺は背伸びをしながら問いかけた。
流石に傘下の暴閥とはいえ、主人として顔合わせしておくべきだろう。一応、相手の方が年齢は上だし、黙って部屋借りるのも癪だ。
「呼んで参ります」
頼む、と俺は一声かけると、御玲は部屋を後にし、長い廊下へと消えていった。
木の床が御玲の足踏みに合わせて軋み、一人になったせいなのか、隙間風がさっきよりやけに冷たい。
軋む音もなにか物悲しく、木の床に描かれた木目も、周りが薄暗いせいか、いっそう不気味に感じる。
「そういや、一つの部屋に女と一緒って初めてだな」
俺は誰もいない、荷物と燃え盛る暖炉が目立つ部屋を見渡した。
御玲や弥平と会うまで、女はおろか、友達すら家に呼んだことはない。
俺は流川の末裔だから、友達なんぞ家に呼べたモンじゃなかったからだが、まさか一つの部屋で人生初めて一緒に過ごす奴が、女でなおかつメイドってのは予想すらしてなかった。澪華ですら、家に呼んだこともなかったし。
女と一つ屋根の下、かつルームシェア。
普通なら鼻の下を伸ばすシチュエーションだが、なんだろう。全然盛り上がらない。
躍動しないというかテンションが上がらないというか。普通に戸惑いと羞恥心しかなくて、そこにときめきなんてものは一切ない。
やっぱり、三月十六日に見たアレのせいなんだろうか。それとも、相手が御玲だからか。
確かに御玲には何の感情もないし、言ってしまえばただのメイドぐらいの認識しかないけれど、それでも女なワケで。だからつまり―――。
俺はそこまで考えると、頭を左右に振った。
だめだやっぱ。考えたところで何も分かんない。
こういう湿っぽい考え事はやるだけ何の意味もなく時間が過ぎるだけだから深入りしないに越したことはない。ヴァルヴァリオンとかいう国だけに意識を向けとこう。
幸い御玲もこっちから下手に話しかけなければ接してこないし、義務的な応対しかする気が無いのなら、こっちも淡々としていればいい。
三月十六日のアレを味わった今、同年代の女と仲睦まじく話すなんざ、もはやありえないことだし、都合がいいと考えるべきだ。
「おまたせ致しました」
俺の思索を破って、御玲が部屋へ戻ってきた。御玲の背後には、俺の親父と同年代ぐらいのオッサンが顔を出す。
黒い髪にやせこけた顔。家ン中にいるというのに、何故か全身重装甲の鎧を身に纏い、半開きの目で俺を見つめてくる。
俺は僅かに眉を潜めた。
口に出す気は当然無い。なぜなら面倒な事になるのが考えるまでもなく明らかだからだが、どうせ聞こえないんだからと思って、身勝手に思った事を心の内に吐き出すなら、ものすごく印象が悪い。
ついでにいうと、全体的に薄汚い。
まず異常にやせこけた顔と萎びた黒髪。この時点で不健康さがやたら目立つ。まるで無茶苦茶なダイエットでもしてる女みたいな形相だ。
瞼も半開きで瞳も濁ってるし、俺を見てるっていうより、ぼうっと虚空を見つめてるような視線も気になる。
御玲の父親、水守璃厳。
かつて水守守備隊という、母さんを守るために存在してた軍隊長を担い、戦場を闊歩してた大幹部の一人。
でもかなりイメージと乖離した印象しかない。そんな大それた役職を担ってた大物とは思えない姿だ。ひょっとして影武者だったりするんだろうか。
いや、流川本家の当主を目前にして影武者よこすワケない。どう考えても無礼だし、それが分からん水守家じゃないだろう。
本家傘下の暴閥が仕える主人を目前にしている。だとしたらこのオッサンはモノホンってことになる。
「お初にお目にかかり、光栄の至りでございます。私、水守璃厳と申す者です」
「あ、ああ……こんちはっす。流川澄男っす。知ってると思いますけど本家の当主におなり申し上げました」
俺は使い慣れてないちぐはぐな敬語を駆使しながら、自己紹介する。
敬語なんざ使いもしないから苦手だ。多分色々おかしいと思うが、気にするのも面倒だしこのまま押し切っちまおう。
「このたび、このお部屋をお貸しいただき申し上げ候……ん? あれ、あー……お貸しいただきまして感謝の意を示す」
「本家派当主様に水守邸の一角をお使いいただける。ただそれだけでこれ以上の喜びはございません」
「そっすか。でもなんか悪いっすねこんな良いお部屋をお使いいただきまするのは」
「私どものことはお気になさらず、貴台のありのままにお振る舞い下さいませ」
「き、きだい……? えっと……まあはいよろしくお願い申し上げ候」
璃厳のオッサンが頭を下げてきたので、俺はノリに任せて頭を下げる。
うん。敬語嫌いだ。できれば二度と使いたくない。
「すぐにご出立なさるのでしょうか」
「そっすね。準備できたらすぐ行きます」
「我が娘は無芸でございますが、これでも良ければご自由にお使いくださいませ。期待は裏切りません」
俺はついいつもの癖で舌打ちしそうになるのを必死に抑え込んだ。
今コイツ何つった。御玲の事、``これ``って言ったか。実の娘を物みたいに。
俺の親父が裏切り者でなおかつ倒すべき敵だったのもそうだが、父親ってのは実の息子娘を何だと思ってんだろうか。
なんにせよコイツの人となりは大体分かった。余程の事がない限り、コイツとは口を利いてやらん。
「…………んじゃ準備しなきゃなんで、俺はこれで。御玲、持ちモンの確認すんぞ」
はっ、と御玲は俺のそばに駆け寄る。璃厳と目を合わせず部屋の奥、荷物が置いてある場所へ移動した。
璃厳が歩き去る足音を聞きつつ、俺は御玲が置いた荷物から必要なものとそうじゃないものとで分別するべく、御玲と荷物を挟んで向かい合う。
特に何のリアクションも無しか。話してる感じ、こっちには興味なしって感じだ。
一応、ものすごく丁寧な口調で話してたが、はっきりいって相手の方が立場が上だからとりあえず敬語使ってテキトーにもてなしとけ、みたいな雰囲気で話しているように思える。
平坦な声音で、教科書に載ってる応対を形式的に義務的にぺらぺら話しているような違和感。絶対間違いない。
どこまでも不快な野郎だ。アレは完全にこっちを舐めて見てやがる。
今から遠征とかじゃなきゃ気にくわねえからボッコボコにしてやったところだが、とりあえずあんな萎びたオッサンは忘れる事にしよう。任務にさしつかえる。重要なのはどっちか、考えるまでもない。
「俺とお前の着替えは、このデカい鞄の中に入れとくぞ」
「はい。洗面器は持っていかれますか」
「ああ。歯ブラシとかそんなんは置いとくとして、洗面器は水掬ったりするのに要るからな」
俺と御玲は探索に必要なものとそうじゃないものを一つ一つお互い質問し合いながら選り分け、旅行鞄から肩掛けサイズの魔導鞄を取り出し、中に必要なものを順次入れていった。
ちなみに、魔導鞄ってのは複数の鞄と中身を共有できる機能を持った特殊な鞄のことだ。
要は旅行鞄並みに大きい魔導鞄―――つまりメインバッグに、複数の肩掛けサイズの魔導鞄―――サブバッグを登録して使う、いわば異次元空間で繋がった鞄だと考えてもらっていい。
コイツは例えば、広範囲探索、兵站の確保に使われる流川御用達アイテムの一種で、武器とか、食料とか、強化アイテムとか、生活必需品とかを大量に入れておいて、なおかつどこでも取り出すことができる超有能アイテムなのだ。
鞄の中は専用の異次元空間になってるらしく、人間が使う分には容量の限界を感じないほどデカいと弥平が言っていた。取り出すときは取り出すアイテムを思い浮かべれば、勝手にアイテムが手元に来てくれる。
んで、今回の場合は広範囲探索になるが、探索に行くのに、旅行鞄並みのデカい鞄を持ち歩くのは正直邪魔にしかならんのは考えるまでもないと思う。
だからこそ、サブバッグに必要な持ち物を入れなおす必要がでてくるワケだ。
サブバッグは基本的に持ち運びに適した形をしてる割に、容量は見た目が大きいメインバッグと変わらない。
つまり、肩掛け鞄サイズなのに色々なものを入れられるってワケなのだ。
当然、異次元空間に入るのでどれだけ入れても重さは感じない。何も入れてない肩掛け鞄を肩に背負ってるぐらいしかないわけである。
メインバッグには探索に関係ない生活必需品も入っている。それらはメインバッグに置いておいて、探索に必要なアイテムや武器は、サブバッグの中に入れておく。
あと、メインバッグにはメインバッグの登録もできる。
俺ン家のリビングと分家にメインバッグが一つずつ置いてあって、三つめのメインバッグが、まさしく俺達の手元にある旅行鞄だ。
俺ン家のリビングと分家の方に置いてあるメインバッグは、弥平が俺らに必要なアイテムを支給するためにアイツが配置してくれたもの。
俺らが霊子通信で弥平に頼めば、アイツが都合に合わせてそのバッグどもの中に必要なアイテムを投げ込んでくれる手筈になっている。
つまり、わざわざ俺らが分家に行ってアイテムを貰いにいく必要がなく、弥平にさえ頼んでおけば、あとはこの部屋に置いてあるメインバッグをまさぐるだけでよくなるワケである。
画期的なまでに無駄がないアイテムの補給。これを可能にするために、メインバッグにメインバッグを登録する機能があるワケだ。
それに、もう一つ。
メインバッグとサブバッグを使い分ける別の理由として、探索の道中にアイテムを失くすというアクシデントを、可能な限り回避できるというすさまじいメリットがあることだ。
要はもしサブバッグを失くしたとしても、中の持ち物はメインバッグに共有されてるから、失くしてしまうことがまずないってハナシである。
これは、サブバッグからメインバッグの中身は取り出せないが、メインバッグからなら、全てのサブバッグに入ってる全てのアイテムを取り出せるというメインバッグ特有の機能によるメリット。
だからサブバッグをなくす、盗まれる、破壊されても、転移の技能球で御玲ン家に戻って、メインバッグをあさればアイテムだけは取り戻せる。
予備のサブもメインの方に入っているし、予備のサブにもう一度、必要な持ち物を入れ直せば問題解決ってワケである。
「さて、生活必需品はこのくらいか。後は持参物の確認っと」
俺は魔道鞄の使い方を頭の中で思い浮かべながら、粗方の仕分けを終えると、再びメインバッグに片手を突っ込んで中身をまさぐる。
メインバッグから色んなものを出すやいなや、俺は腕を組み、その状況に首をかしげた。
持っていくものは武器の他、バフやデバフの魔法が封じ込められた技能球と、弥平から渡された魔法薬。今、俺の目の前に広がっているものたちが、まさしくそれらだ。
技能球や魔法薬は、一つ一ついろんな色をしていて、ぱっと見どれがどれだか分かったものじゃない。使うにしても、これだと何をどんなときに使うのか皆目分からないんじゃ、いざというときにものすごく困る。
基本的に技能球や魔法薬は御玲が使う事になってるが、場合によっては俺が使うことになるかもしれない。無系魔法のことをさわりだけでも知るチャンスだし、タイミングとしては最良といったところだろう。
俺は、床に広げた魔法薬や技能球をよそに、御玲へと視線を移す。
「なぁお前、これ全部見分けられるか?」
「概ね」
「んじゃあ悪りぃけどさ。無系魔法のこと、さわりだけでもいいから教えてくれや。ついでにどんなときにどれを使うのかも」
「はぁ。では、そうですね……」
仕分け作業の手を止め、四つんばいになって床に転がっている技能球のうち、一つを、手に取った。
それは白く光る技能球。
「まず澄男さまは、魔法の系譜をご存知ですか?」
俺は左右に首を振る。
「魔法は大雑把に無系と属性系に二分され、更に攻撃系、防御系、探知系、阻止系、汎用系の五区分に分かれています」
「多いな……」
「今回の任務で使用する系譜は、無系のうちの、探知系、汎用系のニ系譜」
俺は、ほうほう、と相槌を打つ。
そういや、弥平が探知系だのなんだのが必須とか言ってたな。アレは無系っていうデカいくくりの中に入ってる概念だったのか。
「たとえば、この技能球」
御玲は手に取っておいた技能球を手の上に乗せ、俺に見せる。
「この技能球には、``探査``と呼ばれる探知系魔法が組み込まれています」
「プローブ? 変な名前だな……」
「``探査``というのは、一定範囲内に存在する全ての生命体の位置、肉体性能、能力などを参照するのに使用される魔法です」
「なるほど。つまり、その魔法で索敵するってワケか」
左様です、と無表情で頷く。
一定範囲内に存在する全ての生命体ってことは、魔生物も索敵対象に含まれるってことだ。
山ン中をとぼとぼ歩くワケだから、相手が俺らを見つけるより先に、俺らが魔生物の位置や能力、性能を把握してしまえば、無駄な労力を可能な限り削ることができる。
中々有能な魔法だ。索敵ができるなら、できるに越した事はない。
「それともう一つ。今回の任務でおそらく、最も重要となる技能球は、こちらとなりましょう」
御玲はまた、床に転がっているたくさんの技能球から、ぱっと見見分けがつかないうちの一つを手に乗せる。
「この技能球スキルボールには``隠匿``という無系魔法が付与されておりまして、作戦の要ともなりうる、今回の任務では決して外せない魔法と言えます」
「へぇー……それも探知系?」
「いえ。これは汎用系ですね。色んな事に使える魔法の一種、という分類になります」
「ああ、なるほど。だから``汎用``なワケね」
御玲が静かに首を縦に振る。
一つだけえらく仰々しい系譜があるな、とは思ってたが、そういうことか。いわゆるどんな状況でも大概使える便利で有能な魔法ってところだろう。大雑把には。
「この魔法は、五感のみならず、霊力すらも一切隠蔽する強力な潜伏魔法でして、この魔法を使うとあらゆる者から存在を悟られなくなります」
「なにそれ。要は透明人間になるってこと?」
「まあ、そうですね。大雑把には。体から溢れる微細な霊力すらも分からなくするので、ただ目に見えないだけではなく、本当に存在しないような状態になります」
「さっき言ってたプローブとかいうのでも探知できなくなるのか?」
はい、と御玲は答えた。俺は驚きながらも、苦笑いを浮かべた。
なにそれ。ここにきてチートな魔法が来たぞ。探知系で探知すらできないって、もはやガチレベルの透明人間じゃないか。
いや透明どころか、本当にいないも同然って感じ。暗殺者とかが好んで使う系のやつだ。
まあそんなんじゃなくても、色々な事に使える魔法ってところが更に拍車をかけてる。日常的に使えれば、普通なら行けない聞けない分からないところも全部行ける聞ける分かるようになってしまうだろう。
見えない感じられないものほど恐ろしいものはない。気がついたら背後を取られてるようなものだ。
そんな魔法が自在に使えたら背後取り放題だし、俺みたいなパワー馬鹿には恐怖以外の何物でもない。どこの馬の骨とも分からん奴に背後取られるなんざこの上ない悪夢だ。
俺は心の中のざわめきを顔に出ないよう、懸命に取り繕いつつ、こほん、と一度咳払いをした。
「他は……ないか」
「そうですね……使わない可能性の方が高いですが、``詠唱阻止``の技能球でしょうか」
「グロー……なんて?」
「``詠唱阻止``。相手に魔法や魔術などを一切使えなくする阻止系魔法の一種で、これを使えば相手の戦闘手段を大幅に削る事ができます」
今回必要になるのはこのくらいでしょうか、と言いながら、技能球を肩掛けタイプのサブバッグへしまう。
魔法や魔術を一切使えなくするとか、これまた虐殺的な魔法だ。俺は別に殴る蹴るでもいけなくもないが、魔法使いとか魔術師にとって天敵以外の何物でもない魔法じゃないか。
今回の場合、使うとしたら魔生物相手だが、魔法を使ってくるタイプの魔生物だったら、最悪この技能球で大概は乗り切れてしまうのだ。
いわゆる緊急用の技能球。``隠匿``ほどじゃないけど、中々厄介な魔法である。
俺は聞くだけ聞いた魔法の話を頭ン中で整理する。
俺が聞いた魔法は、どうせ全体からすればカス程度の種類でしかないんだろうが、素人目から見る限り、どれも強力なやつばかりだ。
相手に一切魔法や魔術を使えなくする魔法。相手から見たらいないも同然になれる魔法。一定範囲内にいる全部の生物の場所、性能、能力を把握できる魔法。
これら全部を用意してくれた弥平には、ガチで感謝しなきゃならねぇ。
俺なんてこれら一つもロクに知らなかった。知らずに山登りはおろか、国探しなんざしようとしてた。
もし知らずに行ってたらどうなっていただろうか。そもそも戦いでも当たり前に使われると思うと、生きて帰れる自信がなくなってきやがる。
おそらくどれも基本的な魔法ばかりのはず。いずれきたる戦場で思い出せるよう、脳筋と化しつつあるこの脳味噌に深く深く刻み込んでおくとするか。
特に``隠匿``とか、な。
俺はサブバッグを肩に担ぎ、腰にディセクタムを携える。御玲も槍を手に持ち、小さく頷いた。
「サブバッグの中身に忘れモンは無いな。んじゃ行くぞ」
御玲ン家に着いたのも束の間、俺達は茶を濁す事もなく、さっさと水守邸を後にした。
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