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終章・新時代の幕開け編
プロローグ:復讐の後
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翌日、六月二十三日。
御玲、あくのだいまおう、パオング、カエル、シャル、ナージ、ミキティウスの八人は、流川本家領の庭の一画、木々の拓けた場所にいた。
御玲は魔導鞄のサブバッグを肩にかけ、少し離れた場所でお互い向かい合う二人の少年を眺める。
右側に立つのは、腰に剣を携え、薄着のTシャツと短パンで身を包む紅眼の少年、流川澄男。そして鏡面加工の銀髪を靡かせる、これまた同じファッションセンスの少年、裏鏡水月である。
本来であれば、今から昼までに出かける準備を済ませ、昼頃に転移の技能球で移動し、弥平と合流する手筈だった。
だがその予定は、彼と無言で向かい合う裏鏡水月によって、むなしくも阻まれる結果となった。戦いが終わったらすぐに転移できるよう、あらかじめ必要な準備は全て済ませてあるが、裏鏡水月への不満は募るばかりだ。
「どうして戦わなければならないのでしょうか……」
思わずぼそりと本音が漏れる。
かつてからの最終目標であった流川佳霖の討伐は終わり、彼の復讐は幕を下ろした。
これからは皆で何をしていくかを決めなければならないというのに、何故今になって裏鏡の思惑に乗らねばならないのか。皆目分からない。
彼がただ強い程度であったなら抵抗の一つや二つしたが、彼に逆らえない理由は単純にして明快だ。
純粋に、彼はあまりにも強すぎる。
昨日の夕方、佳霖を打倒した直後に現れた彼は、有無を言わせない殺気を放ち、一方的にこちらを抑えこんで反論する隙も与えないまま、約束を取りつけた。
仮に抵抗していたとしたら、抵抗する間もなく一瞬で消されていただろう。それを誰もが悟ったからこそ、彼の頼みを断ることはできなかったのである。
たとえ、あの超がつくほど天邪鬼な澄男ですら―――。
「いやー、旦那。ありゃあ勝ち目あるっすかねぇ」
黄緑色の体をした二足歩行の蛙、カエル総隊長は細長い両腕を頭の後ろに回し、あくのだいまおうに視線を向ける。
「ないでしょうね」
右手の指でモノクルの位置を調整する。あくのだいまおうから告げられたその言葉が酷く淡々としているせいか、まるで錘でも投げ渡されたように、その言葉が重くのしかかる。
「ないって……どういうことですか」
「そのままの意味ですよ」
目線すら合わせず、これまた淡々と言い放った。意味がないと知りながら問い返してなお、彼の答えは変わらない。
「残念なことですが、絶対に避けられない出来事というものは、否応なく存在するものです。澄男さんには気の毒ですが、彼の下した判断は正しかった」
「そんな。敗北が分かっている戦いなんて、何の意味があるんですか」
「どんな結果になろうとも、受けるしか道はありません。裏鏡水月……彼の存在を考えるならばね」
「裏鏡水月の存在……? 確かに彼の誘いを受けなければ、私たちの命はなかったかもしれませんが……」
「いやはや……この世界はまた、大変な存在に目をつけられてしまいましたね」
「ちょっと。質問にきちんと答えてください」
しかし、あくのだいまおうは答えない。それでも強く見つめるが、もう話に応じる素振りを見せなかった。
あくのだいまおうの底知れなさは分かっていたつもりだし、自分は全て分かっている風の発言しかしないが、今回はやけに曖昧だ。まるで裏鏡が得体の知れない何かであると言っているように聞こえる。
現に裏鏡の素性は割れている。彼は大陸八暴閥、裏鏡家の当主。``皙仙``の名を持つ四強の一人。周囲からもそれで認識されているし、その素性を疑う者はいない。
でも、本当は違うというのだろうか。
本当は得体の知れない何かで、大陸八暴閥の当主を装っているだけなんだろうか。弥平率いる流川分家派や、世界情勢の全ての情報を有する久三男をさしおいて、そんな現実離れした偽装ができるとは思えないが―――。
「まさか……ね」
脳裏に浮かんだ推測を吐き捨てるように深く、息を吐く。
我ながらくだらない妄想をしてしまった。弥平も久三男も疑問に思っていない以上、そんな現実離れが起こっているとは思えない。
最近は色々あって、その末に佳霖らの討伐も重なり、精神的に疲れているのもあるだろう。これからのことも考えなくてはならないし、現実味の薄い推測に頭を練り回すのは、気力の無駄遣いというものだ。
「そろそろ始まるようですよ」
あくのだいまおうの声で、思考の渦から引きずり出される。
肌から如実に感じる、霊力の波。それは鳥肌が立つほど強く、迸る熱さと激流、そして静寂に似た冷たさと清流が、同時に覆いかぶさってくる感覚に近い。
感覚を研ぎ澄ましてみる。澄男から放たれるは真っ赤な炎に似た、頗る熱い波。
霊圧であるにもかかわらず、もはやそれは熱風に等しい。あまりの霊力の濃さに、身体があたかも熱風に当てられていると錯覚を起こしてしまっている。
澄男を中心に発する膨大な霊力の渦は、さながら恒星から噴き出る紅炎。ただ霊力を垂れ流すだけで大地を焼き、空気を薄くしていく。
だが驚くべきはそれだけではない。その澄男と同じくらいの強さ、密度で相反する霊圧を平然と発することができている裏鏡だ。
静謐にして精緻。どこまでも冷たく、どこまでも整えられた流れで周囲を包み込むように広がる霊圧は、全てを焼き尽くし破壊し尽くさんとする澄男の霊圧とは、まさに表裏一体ともいうほどに対極の流動を示している。
もはやこの時点でついていけない。霊力でお互いを牽制し合っているだけなのだが、人間からすれば、相反する特性を持つ二つの災害が、今まさにぶつかり合おうとしている瞬間に他ならない。
お互いの霊圧が完全に干渉し合ったとき、一体何が起こるのか。想像したくなかった。
あまりの霊圧に、思わず固唾を呑む。かつて武市の大都市圏を更地に変えたことのある二人。世界を滅ぼしうる存在同士が今―――ぶつかり合おうとしていた。
御玲、あくのだいまおう、パオング、カエル、シャル、ナージ、ミキティウスの八人は、流川本家領の庭の一画、木々の拓けた場所にいた。
御玲は魔導鞄のサブバッグを肩にかけ、少し離れた場所でお互い向かい合う二人の少年を眺める。
右側に立つのは、腰に剣を携え、薄着のTシャツと短パンで身を包む紅眼の少年、流川澄男。そして鏡面加工の銀髪を靡かせる、これまた同じファッションセンスの少年、裏鏡水月である。
本来であれば、今から昼までに出かける準備を済ませ、昼頃に転移の技能球で移動し、弥平と合流する手筈だった。
だがその予定は、彼と無言で向かい合う裏鏡水月によって、むなしくも阻まれる結果となった。戦いが終わったらすぐに転移できるよう、あらかじめ必要な準備は全て済ませてあるが、裏鏡水月への不満は募るばかりだ。
「どうして戦わなければならないのでしょうか……」
思わずぼそりと本音が漏れる。
かつてからの最終目標であった流川佳霖の討伐は終わり、彼の復讐は幕を下ろした。
これからは皆で何をしていくかを決めなければならないというのに、何故今になって裏鏡の思惑に乗らねばならないのか。皆目分からない。
彼がただ強い程度であったなら抵抗の一つや二つしたが、彼に逆らえない理由は単純にして明快だ。
純粋に、彼はあまりにも強すぎる。
昨日の夕方、佳霖を打倒した直後に現れた彼は、有無を言わせない殺気を放ち、一方的にこちらを抑えこんで反論する隙も与えないまま、約束を取りつけた。
仮に抵抗していたとしたら、抵抗する間もなく一瞬で消されていただろう。それを誰もが悟ったからこそ、彼の頼みを断ることはできなかったのである。
たとえ、あの超がつくほど天邪鬼な澄男ですら―――。
「いやー、旦那。ありゃあ勝ち目あるっすかねぇ」
黄緑色の体をした二足歩行の蛙、カエル総隊長は細長い両腕を頭の後ろに回し、あくのだいまおうに視線を向ける。
「ないでしょうね」
右手の指でモノクルの位置を調整する。あくのだいまおうから告げられたその言葉が酷く淡々としているせいか、まるで錘でも投げ渡されたように、その言葉が重くのしかかる。
「ないって……どういうことですか」
「そのままの意味ですよ」
目線すら合わせず、これまた淡々と言い放った。意味がないと知りながら問い返してなお、彼の答えは変わらない。
「残念なことですが、絶対に避けられない出来事というものは、否応なく存在するものです。澄男さんには気の毒ですが、彼の下した判断は正しかった」
「そんな。敗北が分かっている戦いなんて、何の意味があるんですか」
「どんな結果になろうとも、受けるしか道はありません。裏鏡水月……彼の存在を考えるならばね」
「裏鏡水月の存在……? 確かに彼の誘いを受けなければ、私たちの命はなかったかもしれませんが……」
「いやはや……この世界はまた、大変な存在に目をつけられてしまいましたね」
「ちょっと。質問にきちんと答えてください」
しかし、あくのだいまおうは答えない。それでも強く見つめるが、もう話に応じる素振りを見せなかった。
あくのだいまおうの底知れなさは分かっていたつもりだし、自分は全て分かっている風の発言しかしないが、今回はやけに曖昧だ。まるで裏鏡が得体の知れない何かであると言っているように聞こえる。
現に裏鏡の素性は割れている。彼は大陸八暴閥、裏鏡家の当主。``皙仙``の名を持つ四強の一人。周囲からもそれで認識されているし、その素性を疑う者はいない。
でも、本当は違うというのだろうか。
本当は得体の知れない何かで、大陸八暴閥の当主を装っているだけなんだろうか。弥平率いる流川分家派や、世界情勢の全ての情報を有する久三男をさしおいて、そんな現実離れした偽装ができるとは思えないが―――。
「まさか……ね」
脳裏に浮かんだ推測を吐き捨てるように深く、息を吐く。
我ながらくだらない妄想をしてしまった。弥平も久三男も疑問に思っていない以上、そんな現実離れが起こっているとは思えない。
最近は色々あって、その末に佳霖らの討伐も重なり、精神的に疲れているのもあるだろう。これからのことも考えなくてはならないし、現実味の薄い推測に頭を練り回すのは、気力の無駄遣いというものだ。
「そろそろ始まるようですよ」
あくのだいまおうの声で、思考の渦から引きずり出される。
肌から如実に感じる、霊力の波。それは鳥肌が立つほど強く、迸る熱さと激流、そして静寂に似た冷たさと清流が、同時に覆いかぶさってくる感覚に近い。
感覚を研ぎ澄ましてみる。澄男から放たれるは真っ赤な炎に似た、頗る熱い波。
霊圧であるにもかかわらず、もはやそれは熱風に等しい。あまりの霊力の濃さに、身体があたかも熱風に当てられていると錯覚を起こしてしまっている。
澄男を中心に発する膨大な霊力の渦は、さながら恒星から噴き出る紅炎。ただ霊力を垂れ流すだけで大地を焼き、空気を薄くしていく。
だが驚くべきはそれだけではない。その澄男と同じくらいの強さ、密度で相反する霊圧を平然と発することができている裏鏡だ。
静謐にして精緻。どこまでも冷たく、どこまでも整えられた流れで周囲を包み込むように広がる霊圧は、全てを焼き尽くし破壊し尽くさんとする澄男の霊圧とは、まさに表裏一体ともいうほどに対極の流動を示している。
もはやこの時点でついていけない。霊力でお互いを牽制し合っているだけなのだが、人間からすれば、相反する特性を持つ二つの災害が、今まさにぶつかり合おうとしている瞬間に他ならない。
お互いの霊圧が完全に干渉し合ったとき、一体何が起こるのか。想像したくなかった。
あまりの霊圧に、思わず固唾を呑む。かつて武市の大都市圏を更地に変えたことのある二人。世界を滅ぼしうる存在同士が今―――ぶつかり合おうとしていた。
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