喜劇・魔切の渡し

多谷昇太

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第二場 和子の自宅

良夫、湯船で気絶する

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為子、風呂の戸を開ける。良夫、湯船の縁に両手を乗せ頭を乗せてぐったりとしている。

為子「あんた!どうしたの?大丈夫?」
良夫「(首だけ回転して為子を見て)あ、母さん……て、天使さんは?……悪魔さんは?」
為子「なにが天使で悪魔さんよ。まったく。のぼせてんじゃないの?もう上がりなさいよ。ほら。ビールでも飲んで涼みなさい」
良夫「あ、そうだ……ビ、ビールぅ……」

良夫、気を失って湯の中に沈んで行く。

為子「あんた!……ちょっと、和子!来て!お、お父さんが……」
和子「え?!どうしたの?……」

和子、すっ飛んで来る。風呂場の中で良夫を引き上げようとしている為子に手を貸す。

和子「ほら、お父さん、起きて。立って!……あ、ちょっと待って。お客さんの目が……(上手に向かって)ちょっと黒子さん。幕を引いて」
黒子「はい」

黒子、上手から下手に引割幕を引きながら登場。

黒子「(天使と悪魔、観客に)風紀上、ここまでです」
悪魔「そりゃそうだ。第一見たくねえよ」
天使「んだっぺ。あとはご家族にお任せするだ。行くずら。(黒子に)黒子さん、まんずご苦労だっちゃ」

黒子、引割幕を和子宅いっぱいまで引いて(下手の通り側はそのまま)観客にピースサインをしながら下手に退がる。

天使「まんず、これでよかっぺさ。んだば悪魔、おらたちゃ矢切の渡しまで帰るべえよ。舟さ、心配だっぺ?」
悪魔「バカ。俺たちの船が人間に見えるかよ。触れるかよ。そんなことより、まあ、ちょっと待て。俺は和子に一言云い残しておかなきゃならねえ。(引割幕に向かって)おーい、和子。待ってろよ。
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