ゼフィルス、結婚は嫌よ

多谷昇太

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チェリッシュ

火花散らす美枝子と義男

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「いやどうも、痛くもない腹を探られてしまって、ははは、閉口しますな。お若い皆様がたと違って私はもう36才です。しかも無教養の無粋者で、間違ってもどなたかを目当てになどということはありません。こうして何回かお会いしたのはまったくの偶然です。ただ…いつも輝いているみなさんがたが、どこにいても目に付く…ということはあります。そのオーラに引きつけられて、ということにしておいてください」義男がはぐらかした。そのときコンサート再演のベルが鳴った。美枝子が義男の真正面に立って「そうですか。わかりました。ではそういうことにしておきましょう。わたしの名前はさっきからお聞きでしょうが、美枝子、飛島美枝子と云います。あなたがいつも一番視線をやっているこちらの美女は…」と惑香を指して云いかけるのに「いやいや、ははは、もう、もう、勘弁してください。目をやってるなんて…そんな失礼なことはしていません。それよりほら、開演ですよ。もうそろそろ極めつけ、ライク・ア・バージンでしょう。聞き逃してはたいへんですよ」と美枝子をそらそうとする。なぜか自分の名を云いたがらないようだ。女性が名乗ったにもかかわらず、である。その義男の様子になにかを悟った風の美枝子が「いいでしょう。名前はお聞きしません。とにかく、わたしはこちらの美女の大親友なんです。ひょっとしてあなたの好敵手かも?…ふふふ。最後に握手をしていただけません?あなたのオーラを感じたい」と云って男のように義男に手を差し出した。一瞬とまどったが義男がその手を握る。二人の間に‘男気’の交錯とでも云ったものがそのとき行き交ったようにも見えた。その美枝子に、また別の面々にお辞儀をしてから義男は去って行った。そしてその日は公演が終わっても彼はもう彼女たちの前に現れることはなかったのだ。いまこうして偶然をよそおって惑香の目の前に再び現れるまでは…。
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