自らを越えて 第一巻

多谷昇太

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丹沢行(3)new birthへの旅

ミカの挑戦

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どんなに強い人でも一人では生きて行けない。俺はいままで縷々記したように人一倍(心が)弱かったが、しかしそれゆえにこそ、その弱い心を人に気取られまいとして、人から守ろうとして、いたずらに人に頑なだったのだ。それがオーバーかも知れないがこうして命を救ってもらって、しかもその人から抱きしめられもして、誰か頑なさを解かないだろうか?その抱擁にわが身をすべて託したくもなったのである。だが苟も男と女の身で、またこれでは男女の立場が逆だし、相手は先輩でマドンナだし、下からカナとミカも見ているし、首を大伴さんの肩に置いて両手を背にまわし、托身の表現などできる筈もなかった。案の定下からカナが「おい、おい。勘弁してくれよな。見てる方が恥ずかしくなるぜ」そう聞こえよがしに云い「感動的な先輩と後輩の抱擁でがんす」とこちらは大伴さんからのお叱りを慮って小声でミカが云う。ただあわや滑落という切迫さは伝わっただろうし、男女云々などではない俺の真摯で素直な感謝の気持ちも伝わったようで、2人の声に毒はなかったが。「だいじょうぶね?(あわや滑落しそうだった気持ちが落ちついたわね?)」俺の表情を確かめるようにそう聞いたあとで大伴さんは俺から離れて下の2人に向き直った。「よーし、こんどはあんたたちよ。ミカ、ゆっくりと、足元に気をつけながら登って来て。カナはミカをカバーしてね。はい、じゃミカ、直登開始!」大伴さんの指示を受けていままで軽口をたたいていたミカが口元を引き締めて登攀を開始した。富士型の滝の威容に「すげえ」と圧倒されていたミカの登攀への心意気は充分に伝わってくる。「何でもすぐに放ってしまう、(カナ流に云わせれば)強い者や問題を前にするとすぐに引いてしまう)ミカ」と姉貴分のカナから云われた手前、なにくそとするミカの気概が現れていた。上からのぞき込む大伴さんや俺の顔を時折り見上げながらしかし登るにつれて段々と高くなる下の景色は決して見ないようにして粛粛とミカが登ってくる。大滝を登る〝いま〟こそがミカにとっては峻厳な時だった。〝自らを超え行く〟その一時であった。
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