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第三章 山本僧侶
詐称なら詐称でかまわない
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とにかく、ここで堪えねばあとあと困るだろうとわかっているのに、えーいっとばかりやってしまうのである。ぶちまけてしまうのだ。いまもご同様だった。「いや、お気づきかも知れませんが実は北国大出とは真っ赤な嘘で…」「おいおい、村田氏、それはちょっと…」傍らの俊田があわてて止めるがあとの祭りだった。「いや、いいんだ」と俊田を制して「実は嘘で、私は高校しか出ていません。サマネイになるのにその方がいいと云うのでつい方便的に詐称してしまったのです。もしそれが駄目だと云うのなら…」しかし意外にも他ならぬその‘審査官’の山本から止めが入った。「いやいや、なにも、誰もそんなことまで聞いてはいませんよ。詐称なら詐称でかまいやしない。むしろ正直に云ってくれるのが気に入った。うん…」と一呼吸置いてうなずいて見せた後「いや、あんたね、この寺には元ヒッピーだったアメリカの青年とか、バングラデシュで食い詰めたのとか、さっきのソムスイとか色々いるんだから。あんたなんかむしろいい方だよ」と俺をかばってくれたのだった。横で俊田がホーという顔をしている。こちらも御同様だった。それならばとばかりあらためて固唾を飲んでかしこまっていると山本は続けて「ほんと、ぜんぜん気にしなくていいから。ここにいればあんた、食事もタダ、住まいもタダ、バスも電車もタダで乗り放題。いいこと尽くめなんだから。やっぱりあれでしょ?あんたもその辺のところを当てにして来たんでしょ?」と、本音を云えよとばかりいたってザックバランな調子で迫ってくる。
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