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第四章 得度式と鏡僧侶
峻厳な住職代理と大らかな鏡僧侶
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その感覚で云えばいまのこの得度の瞬間は「そのすべてを忘れおって!」と叱責を受けているような、針のムシロ以外のなにものでもなかった。事実、代理の声は次第にとげとげしくなり、さっさと式を切り上げたい風がありありとなってくる。『誓文の意味も解さぬ者との問答など馬鹿馬鹿しい』が本当だったかも知れないが、もしかしたら俺の心構えのいい加減さと、心そのものの汚れを見ておられたのかも知れない。その代理はじめ居並ぶ高弟たちはタイ人僧侶だったが1人だけ日本人僧侶がまじっていた。山本僧侶ではなく鑑(かがみ)という方で、日本の永平寺から赴かれているこちらはプロの僧侶だった。年は30半ばくらいの、いたって端正な顔立ちをしている。たかだかサマネイの得度とは云え、いやしくも僧形には厳しいタイ僧侶と違って、一般人の一時的な仏道修業なら致し方なし、とでもするような大乗の(?)おおらかさがその表情に出ていた。代理のいらつきなどどこ吹く風、すました顔で合掌唱和している。この何日か前にこの鑑僧侶が俺の髪と眉を剃ってくださったのだった。場所は大理石寺ではなくワット・パクナム、市郊外に位置するチャオプラヤ川沿いのこちらは禅寺である。そう云えば永平寺も鶴見の総持寺と並んで日本の禅宗の総本山だったが、その寺から赴任されている眼前の鑑師のことや、大理石寺からパクナムへ移った経緯など、割愛した部分は次に述べよう。
住職代理ではないがいまは早く得度式を終らせてほしかった。仏からの叱責だけではなく、おそらく、この先も俺はあの世での言挙げを体現できそうもないからだ。
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