サマネイ

多谷昇太

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第四章 得度式と鏡僧侶

僧侶はバス代タダ

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すると自動的に男が2人立って我々に席をゆずってくれた。山本師には問答無用で、俺には山本師の連れとわかってから譲ってくれたのだった。僧の坐る席は最後尾と決まっていて例えそこに女性がいようとも僧に席を譲るのだからまったく恵まれたタイの僧侶と云わざるを得ない。小銭を入れた金属の筒を鳴らしながら車掌のあんちゃんがやって来る。はて僧から乗車賃を取るのかなと思いきやさにあらず、行く先を尋ねに来たのだった。「ワット・パクナム?」と確認すると俺からだけ2バーツを徴収して離れて行った。僧はどこまで乗ってもタダだ。目的地まで来れば車掌が教えてくれるという親切さだった。乗車区間8キロメートルというとおよそ15分くらいで着くのだがバンコク名物の交通渋滞にはまるとそうも行かない。適時状況を判断して歩いて行くほうが早い場合が往々にしてある。この時はさほどでもなくほぼ同様の時間で行けた。ただ窓は全部開けっ放しなのでどうかすると排気ガスがたまらない時もあるらしい。1975年の当時は排ガス規制などなかった。当時の日本人観光客が一番驚くのがそれなのだが俺はもうなれっ子になっていた。チャオプラヤ河をジグザグに2回わたってワット・パクナムに着いた。2012年に国王の金婚式を祝って造られた大仏舎利のおかげで、今でこそ観光客の間で有名なのだが、当時はそんなことはなかった。バンコク中心部からはずれていて、観光名所というよりは地元の庶民の信仰対象であったと思う。大理石寺よりはるかに僧侶の数が多く、特色としては何よりも禅寺であるということで、これはすでに山本師の口から聞いていた。
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