サマネイ

多谷昇太

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第五章 僧房

コーヒーとタバコは永遠の友達

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夕刻となり空腹を覚える。疾うに板に付いたバックサッカーたる俺のリュックには、すでにしてパンや缶詰類が抜かりなく詰め込まれていた。インスタントコーヒー、角砂糖にクリーム、マグカップまである。ずっと持ち歩いたフランス式のバーナーとカセットガスまでがあった。このコーヒーとタバコの2つだけは世界中どこにいようとも俺の変わらぬ友、必需品だ。部屋の中でバーナーに点火してはその上に水を入れた金属製のマグカップを置く。コーヒーの香りが隣室に伝わっても支障ないだろうが、さて豆やクジラの缶詰まで温めていいものかどうか判断に迷う。取り敢えずお湯が沸いてコーヒーを淹れたが室内の温度が上がって汗だくだ。度々云うがタイは暑い。上半身は疾うに裸だが扇風機を強にした(これは鏡師がどこからか調達してくれたもの)。続いてお気に入りのサムソン、手巻きの煙草を取り出しては慣れた手つきで紙に巻き、紫煙を扇風機で部屋中に拡散させた。何本か立て続けに吸ったあと(ということは、部屋は煙だらけ)さて食事はやはり温めないでいただこうと缶詰に手をかけたときドアにノック音がした。あわててバーナーと缶詰を仕舞い込み、煙草と灰皿もベッドの下に隠して、やおらなにくわぬ顔をしてドアを開ける。するとそこには頭半分ほど俺より背の高い、色の浅黒い僧侶が一人立っていた。大理石寺のソムスイと違ってこちらは至って顔の彫りが深い。おそらくタイ人ではあるまい。顔に張りついた柔和な笑みがとても印象的だ。それとは対照的にぎこちない笑顔を浮かべては俺は彼の言葉を待った。

【いとしのタバコ(サムソン)をこうやって手で巻くんです。フィルターなんて往時はありません。紙とタバコだけ、馴れたもんでした。コーヒーとタバコは私の永遠の友達。※写真はネット上から拝借】

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