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第四章 六道の蛇
現れた六道の蛇
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見れば確かに西方の上空の一点、まばゆいばかりの光があらわれ、そこからはえも云われぬ芳香と、おだやかで絶妙なる楽の音が、七色の虹となって響きわたってくるのだった。なんとも云えぬ懐旧と故郷へ帰るがごとき思慕が璋子の胸をおそいくる。文字どおり引き寄せられるがごとく西行とともに身が浮き上がったと思われた刹那、しかし…「あじなきや(なさけないことだ)、子らを見捨てて行く人かな」という決めつけるような男の太い声が璋子の耳をついた。続いて足下の六つの業火より「おたあ様」「はは君様」という幼子から成人にいたるわが子と思しきそれぞれの声がつたわって来た。稚児のままに逝かせた二宮はじめ皇子皇女らが業火の主と知れるや「通仁!君仁!」と、たちまち半狂乱のさまで足下の闇に、地にもどる璋子であった。是非もなし西行も降り来たっては璋子の耳もとで「惑わされてはいけません。これはあやかし(妖怪)のわざです。そもそも稚児のままでみまかられた、無垢なる二宮が業火に堕ちるでしょうか。また斎院(いっき:平安時代、京都の賀茂神社に奉仕した未婚の内親王または女王のこと。ここでは鳥羽・璋子の長女で甚だ若くして逝った禧子を指す)のままにみまかられた禧子(わいこ)内親王様はすでに御昇天なされ、崇徳様はじめ宮様方はなお現(うつ)しにおわします。み心をもののけに煩わされてはいけません」と力強く告げてその狂乱をしずめるのだった。他方もののけに対しては「皇子皇女(みこひめみこ)様らの声音を使い、このように宮をたばかるとはなにごとか!汝、魔性のもの、疾く去れ!」と大音声で云い渡す。するといかなるあやかしのわざか、六つの業火が横に走ってそれぞれがつながり、ついで西行と璋子のまわりをゆっくりと廻り始めた。その一か所から強く炎が立ったと見るや火の輪全体が異形のものへと変わって行く。すなわち炎の輪がとぐろとなり、立った炎がかまくびとなって、挙句胴回り三尺はあろうかという大蛇へと変じた。その口から瘴気を放ちつつ「うぬこそ讒言(ざんげん:たばかり、嘘)を吐くな。痴れ者が。このわしを魔性と云うか。わしこそはナーガ。古(いにしえ)より神にして三界の王であり、また三界そのものでもある。だからわしから離れては誰も、どこへも行くことは出来ぬのじゃ。汝中宮璋子よ、このようないやしき者に従い行くは笑止なり。汝が睦み馴れたる白河、鳥羽も、また汝が皇子らも、すべてわが内にこそ存在しているのじゃ。なぜなら生き死にの輪廻さえ、わがうちにあるからである」などとたくみに人語をあやつっては璋子をたぶらかそうとする。
【六道の炎…イメージ】
【六道の炎…イメージ】
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