バー・アンバー 第一巻

多谷昇太

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第六章 桃畑

パラサイト・イヴの訪問

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ドア近くに立って居るので肩より上の姿しか写らないがそれが裸なのでノースリーブと判断したのだが、しかし今は10月下旬でしかもこの時間なら外はおそらく15、6度だろう。いくらなんでもノースリーブでは寒かろうに…と不審がったのと、さらには一瞬「え?ミキ…?」と錯覚するほどに女の醸す雰囲気がミキに似ている気がしたので些かでも亡失してしまい、ドアを開けるのを忘れて、俺はなおもドアスコープにかじりついてしまう。しかしよく見れば明らかにミキではない。年の頃25,6くらいの、ナチュラルショートヘアをした、何と云うか日本人とも外人ともつかない、いかにも魅惑的な女性である。どう魅惑的なのかはこのあと詳述するがとにかくその女がこちらがドアの内側で逡巡しているのを見透かしているような笑みを浮かべて今一度ノックした。ノック音が腹に…い、いやナニにやけに響く。俺は衝動的に「はい」と返事してドアを内側に大きく開けた。『こんな時間にいったい何ですか?誰ですか?あなたは』と詰問しようとしたのだが絶句するほかなかった。目の前に立つ女性はなんと、全裸だったのだ…!
 ニッとばかり俺に微笑んでから女は軽く目を閉じて合わせた両の手の平を右頬に当てて首を右側に傾け、同じ動作を左頬に当てて繰り返したあと、今度はその両手の平を胸の前に持ってきて俺に合掌し『起こしてごめんなさい、こんな時間にごめんなさい』とでも云うかのように軽く頭を下げて見せた。そんな動作をせずともその旨を口で云えばいいだろうに(それと全裸の分けも)何も云わない。しかし何と云うかそのゼスチャアがあたかも何かの魔法のようで、全裸というこれ以上はない相手に対する無防備で無警戒な姿とともに、一瞬の内に俺を、魔法のハグのうちに取り込むようだった。俺は呆気にとられながらも意味もなく「い、いや…」とつぶやいたあとで、とにもかくにも女を部屋に招じ入れようとする。こんな姿を住人に見られたら事だし、何よりも、〝魔法の力〟に進んで取り込まれようとしたからだろう。しかしそれにしてもよくこんな一糸まとわぬ姿でここまで来れたものだなどと危ぶみもするがとにかく女を中に入れたかった。
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