怪談夜話

四条 京太郎

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隣の部屋の音

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​社会人二年目の夏。
仕事にも慣れ、お金にも余裕が出てきたため、俺は一人暮らしをすることにした。

駅近で防音性の高いアパートに引っ越をすることにした。
 壁は厚く、隣人の生活音は一切聞こえないし、趣味のギターを弾ける、楽器可のアパートだ。
静かで快適な一人暮らしが始まった。

​しかし、引っ越しから一ヶ月が経った夜、その完璧な静寂が破られた。
​深夜1時。
ベッドでスマホを見ていた時。

「ドスン」

低く重い音が、隣の部屋から響いた。
​耳を澄ませた。
続けて「ゴトッ、ゴトッ」と、何かを引きずるような音がする。
​「壁が厚いのに、こんなに聞こえるなんて…何してるんだ?」
​気味が悪くなり、壁を叩いて注意しようかとも思ったが、引っ越したばかりで揉めるのは嫌だと躊躇した。

​次の夜も、また深夜1時ちょうどに音がした。
「ドスン!」
そして「ガリガリガリ…」と、鋭いもので床を引っ掻くような音。

​その後も1週間ほど続き、さすがに我慢できず、アパートの管理会社に電話を入れた。

​「101号室の四ノ宮ですが、隣の部屋の騒音について、苦情を入れたいのですが」
「ああ、お隣の102号室ですね。ええと…そちらは現在、空室となっておりますが…」

​背筋が凍りついた。

「空室?いや、そんなはずはありません。毎晩1時に音がしてるんですよ。ドスンとか、何か引きずってるような音とかが…」
「申し訳ありませんが、102号室は前の住人が引っ越しされてから、清掃と点検を終えており、完全に誰も住んでいない状態です。四ノ宮さんの聞き間違いではございませんか?」
​管理会社は取り合ってくれなかった。

​その夜から、恐怖はピークに達した。
誰もいないはずの隣室から音がしているのだ。
ベッドに潜り込み、耳を塞いで夜を明かした。





​深夜1時。

「ドン!…ドスン」

「ズズ…ズズ…ズ…ッ」

何かを叩くような音や、湿ったものが床を這うような嫌な音が聞こえる。

​意を決して、隣との境の壁に思い切り耳を押し付けた。
完璧な防音だと思っていた壁が、今はスピーカーのように音を増幅させている。

​「ドスン!ドスン!ドスン!」

その音は、まるで重い肉の塊が床に落ちるような、何かを叩きつけるような音に変わっていた。
​そして、その音と音の間隔が空いたとき、微かにではあるが、何かをしゃぶるような、水っぽい音を聞いた。

「ジュ…ジュル…」



​翌朝、すぐに引っ越しを決意した。
もはや一秒たりとも、この部屋にはいられない。
​荷物をまとめ、鍵を管理会社に返すため、部屋を出ようとしたその時、自分の部屋のドアノブに、張り紙が貼られているのを見つけた。

昨日まではなかったものだ。
誰かが夜中に貼ったのだろうか。
手書きで、妙に見覚えのある字で書かれていたその張り紙を恐る恐る剥がして読んだ。
​そこには、簡潔な一文だけが書かれていた。

​「お隣、うるさくてゴメンね。次は静かにするから安心して」



あることに​気づき、体が固まる。
この字は誰が書いたのか、この張り紙は誰が貼り付けたのか。



















俺だ。





紛れもなく俺の字だ。





張り紙の裏面に何かが貼ってあることに気づき、震える手で確認すると、一枚の写真がテープで止められていた。
暗い部屋で、誰かが上を見て笑っているような写真だった。
パッと見だと、よく分からなかったが、目を凝らして見ると、自分の部屋だと分かる。

それ以上は見るのをやめた。



抜け殻になったような俺は部屋に戻り、夜がくるのを、ただただ待つことにした。


















写真に写ってたのは俺なのか…
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