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凍てついた森と奈落の底
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フラムのトーチは、黒い獣を遠ざけるだけでなく、冷たい空気さえも押し返すかのような力強い熱を持っていた。
イリーナは、それまでのフラムの印象を思い出す。
彼女はフラムは高潔で、しかし同族意識が高く喧嘩早い印象があった。
同族とやり合うかもしれないこの旅に、フラムが釘を刺すだけなのだろうか‥。
しかも、目的地まで自分を送り出すように‥この凍てつく森でトーチなしだと凍えていたかもしれなかった。
フラムは、案外言われているほど悪い人じゃないのかもしれない。
彼女の言う通り、魔女とも人とも争わない道を目指そう、とその思いを、ギュッと心にしまい込んだ。
案内を終えたのか、フラムのトーチはシュッと音を立てて煙となって消えてしまった。
イリーナは凍りついた森の奥、絶望的なほど暗く、寂しげな集落にたどりついた。
人々の顔には生気がなく、飢えと寒さ、そして正体不明の病によって蝕まれている。
イリーナが急いで麻袋から「星明かり」を取り出し、種と共に分け与えようとすると、不気味な慟哭が木霊した。
「グルルルル…」
集落の入り口近くで、わずかに残った番犬が甲高い警戒の吠えをあげる。
木々の闇の中から、数十の黒い獣が一斉に姿を現す。
彼らは闇そのものが形を成したような姿をしており、目は赤色という不気味な色を帯びていた。
獣たちは、集落にいる病人や子どもたちを真っ直ぐに見据えていた。
彼らが村人を襲う前にイリーナは咄嗟に持っていた星明かりを投げつけた。
「キャイン」
一匹の獣が声を上げた。
すぐさに明かりに気がついて、村の入り口の方に引き返していく。
他の獣も星明かりを嫌い、そばから離れてこちらを窺っているようだ。
先の行動によって標的をイリーナに変えたみたいで、全ての赤い瞳がイリーナの方を向き、取り囲むように回りこんだ。
イリーナはその場に立ち尽くし、祈るように両手を合わせる。
「私は、あなたたちを殺すために来たのではありません。
あなたがたの命を、人々の糧にしない世界を作るために、来たのです。」
「星明かり」の光は、獣たちにとっては瘴気のように感じられたのだろう。
獣たちは光を警戒し、集落に近づくことはなかったが、その視線は憎しみと飢えに満ちていた。
集落の年老いた男が、震える声で言った。
「あれは、混沌の魔女の獣だ…。光を憎んでいる…。
この村はもう終わりかもしれないな。
いつまでも、あれが持ってはくれねぇぞ…。」
獣たちは集落を囲んだまま、辛抱強く光が消えるのを待っているようでした。
私の明かりは消えることのない魔法の灯りだけれど‥。
でも、このままだとずっと膠着状態だろう。
男に星明かりを渡し、イリーナは黒い獣に近づきます。
「あなたの主人に話があるの。私を連れて行きなさい」
獣たちは顔を見合わせた。
しかし、話しかけてくるのは自分たちの主人と同じ魔女であることを認めたようで、踵を返すと一体、二体と続けて崖の下へ降りていく。
(獣たちにも、知能か、心か、言葉があるんだわ)
イリーナも星明かりのランタンをしまい獣たちを追い崖を降りていった。
イリーナは、それまでのフラムの印象を思い出す。
彼女はフラムは高潔で、しかし同族意識が高く喧嘩早い印象があった。
同族とやり合うかもしれないこの旅に、フラムが釘を刺すだけなのだろうか‥。
しかも、目的地まで自分を送り出すように‥この凍てつく森でトーチなしだと凍えていたかもしれなかった。
フラムは、案外言われているほど悪い人じゃないのかもしれない。
彼女の言う通り、魔女とも人とも争わない道を目指そう、とその思いを、ギュッと心にしまい込んだ。
案内を終えたのか、フラムのトーチはシュッと音を立てて煙となって消えてしまった。
イリーナは凍りついた森の奥、絶望的なほど暗く、寂しげな集落にたどりついた。
人々の顔には生気がなく、飢えと寒さ、そして正体不明の病によって蝕まれている。
イリーナが急いで麻袋から「星明かり」を取り出し、種と共に分け与えようとすると、不気味な慟哭が木霊した。
「グルルルル…」
集落の入り口近くで、わずかに残った番犬が甲高い警戒の吠えをあげる。
木々の闇の中から、数十の黒い獣が一斉に姿を現す。
彼らは闇そのものが形を成したような姿をしており、目は赤色という不気味な色を帯びていた。
獣たちは、集落にいる病人や子どもたちを真っ直ぐに見据えていた。
彼らが村人を襲う前にイリーナは咄嗟に持っていた星明かりを投げつけた。
「キャイン」
一匹の獣が声を上げた。
すぐさに明かりに気がついて、村の入り口の方に引き返していく。
他の獣も星明かりを嫌い、そばから離れてこちらを窺っているようだ。
先の行動によって標的をイリーナに変えたみたいで、全ての赤い瞳がイリーナの方を向き、取り囲むように回りこんだ。
イリーナはその場に立ち尽くし、祈るように両手を合わせる。
「私は、あなたたちを殺すために来たのではありません。
あなたがたの命を、人々の糧にしない世界を作るために、来たのです。」
「星明かり」の光は、獣たちにとっては瘴気のように感じられたのだろう。
獣たちは光を警戒し、集落に近づくことはなかったが、その視線は憎しみと飢えに満ちていた。
集落の年老いた男が、震える声で言った。
「あれは、混沌の魔女の獣だ…。光を憎んでいる…。
この村はもう終わりかもしれないな。
いつまでも、あれが持ってはくれねぇぞ…。」
獣たちは集落を囲んだまま、辛抱強く光が消えるのを待っているようでした。
私の明かりは消えることのない魔法の灯りだけれど‥。
でも、このままだとずっと膠着状態だろう。
男に星明かりを渡し、イリーナは黒い獣に近づきます。
「あなたの主人に話があるの。私を連れて行きなさい」
獣たちは顔を見合わせた。
しかし、話しかけてくるのは自分たちの主人と同じ魔女であることを認めたようで、踵を返すと一体、二体と続けて崖の下へ降りていく。
(獣たちにも、知能か、心か、言葉があるんだわ)
イリーナも星明かりのランタンをしまい獣たちを追い崖を降りていった。
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