異形の血を引く聖女は王国を追放される

雪月花

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「クローディア、お前は今すぐこの国を出るんだ。殿下がこのまま何もしないとは思えない。すぐに用意をしなさい」

「待ってください! お父様はどうなさるんですか? 教会のみんなは? 私がこの国を出てしまえば、もう水を浄化することは出来なくなります。そうすればこの国はもう……」

「あぁ分かっている。教会の者達には私から説明しよう。……私はこの国に残ることにする。歴代の聖女の墓所があるのだ、ここを離れる訳にはいかない。それに教会の者としてこの国の最後を見届ける」

「そんな……。嫌です! お父様、お願い…お父様が残るなら私も残ります」

「そんなことをすれば殺されてしまうぞ。クローディア、お前には苦労ばかりかけてしまった。本当にすまない。勝手を言うようだが、これからはどうか自分の幸せを考えて欲しい」

「ですが! 私にはお父様や教会のみんなが支えだったのです。みんなを置いてなど行けません!」

「頼むクローディア。父の最後の願いだ……これ以上聖女が苦しめられる姿を見たくない。アイシャのようになって欲しくないんだ」

 『アイシャ』
 それは先代の聖女であり私の母。

 私が子供の頃、聖女の務めに向かった母は貴族の男に襲われ殺された。貴族の男が語った殺害の動機は『化け物だから』それだけだった。

 私とお父様は嘆き悲しみ、正当な裁きを国に訴えたが相手の身分が高いことで大した罪にならなかった。

「クローディア頼む。分かってくれ……」

 お父様は涙を堪えるような顔で私を抱きしめる。
 その声は悲嘆に暮れていて私の心に突き刺さる。

 どうして……どうしてなの。
 私達は何も悪いことはしていない。
 何百年も国の為に人々の為に仕えてきたのに。
 悔しい…歯痒い…どうして…。
 
 自分の気持ちが言葉にならず涙ばかり零れてくる。私は涙を手で拭っていると、ふと心に声が響いてきた。

  『何処にいるんだ』

 あぁ、またあの声が聞こえる。

  『頼む。応えてくれ』

 十三歳の頃に初めて聞こえた声。

  『逢いたい。頼む……応えてくれ』

 切望する様に私を求める声。
 応えたかった。ずっと応えたかった。
 でも全てを捨てて縋ってしまいそうになり怖かった。

「クローディア、どうした?」
「お父様、またあの声が……」

  『逢いたい。俺を求めてくれ』

「また声が聞こえるのか? ……クローディア、東の遠国に獣と人が共存している国があると聞いたことがある。それに初代聖女も東の方から旅していたと言い伝えられている。……東の遠国に何か答えがあるのかもしれない」

「獣と人が共存? そんなことあり得るのでしょうか?」

「分からない。不確定だがこの国にいるより悪い話にはならないだろう。護衛の者をつけるからお前はこれから東に向かいなさい。話はこれで終わりだ。急いで用意しなさい」

「お父様、待って……」

 お父様は私を振り切るように部屋を出て行ってしまった。お父様が私の身の安全を第一に考えてくれていることは分かっている。


 それでも……あぁどうすればいいの…。


  『応えてくれ……君の助けになりたい』

 助けに…? 助けてくれるの?
 ではどうかお父様を…みんなを助けて。お願い。

  『俺には君が必要なんだ……』
 
 貴方は私を求めてくれるの? 私が異形の人間でも?

  『逢いたい。応えてくれ……頼む……俺の……』

 今まで応えなかったのに縋ってもいいのだろうか。
 そんなの身勝手すぎる…それでも…

  『応えてくれ…俺は君に……
   応えたい……私は貴方に……


   『『逢いたい』』 


 あぁ、これは……心が…私の魂が歓喜している。
 今、彼と繋がった・・・・・・
 失っていた半身を見つけたかの如く、全身に衝撃が走り歓喜の想いで震えが止まらない。

 彼は東にいる。何故か分からないが感じる。
 会えば何か状況を変えられるかもしれない。
 身勝手で何の根拠もないけど、彼の事を想うと希望の光が見える気がする。


 行こう。東へ。

 そして見つけだす。この国を救う方法を。

 
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