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【第1章】魔王城脱出編
2.OL、状況整理する
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父マティスと兄ヴァーノンが去っていった部屋で、私は思わず頭を抱えた。
テーブルの上に肘をつき頭を支えると、意味もなくお皿に残ったケーキを眺めた。
前世を思い出した瞬間に比べると、多少気持ち悪さもマシになった。
気持ちを落ち着かせようと、ゆっくりと目を閉じ、ふぅと息を吐いた。
私は、リゼット・マリー・サタン。
齢6歳。
魔王の娘にして、生まれながらに魔族から愛されるという特性を持っている。
その能力は絶大で、どんなに強い魔族であってもこの特性に逆らうことはできない。
魔族であれば、例外なく私を愛さずにはいられない。
前世を思い出した今、何とも言い難い特性だと思う。
この特性がなければ、誰からも好かれたりしないのではないか。
この特性のおかげでちやほやされることは、本当に幸せなことなのだろうか。
いや、正直そんなことはどうでもいい。
そんなメンヘラチックなことを考えるよりも、もっと重大な問題があるのだ。
私はこの世界を知っている。
それはもちろん、リゼットとして過ごしてきた6年のこともあるが、私はリゼットとして生まれる前からこの世界を知っているのだ。
前世で読んだ小説。
そう、間違いなく今私が生きているこの世界は、前世で私が読んでいた小説の世界だ。
少し変わったストーリーだったため、今でも覚えている。
リゼットとして今まで生きてきた6年間は、その特性を存分に活かし、我が儘放題に生きてきた。
しかし、このままでは……
「私は、殺される……」
「! 何だと!?」
「っ!?」
ポツリと呟いた私の一言に、部屋の入り口に控えていた従者が私の元へすっ飛んできた。
いつも私に対して敬語を使う従者だが、驚きのあまり言葉遣いが崩れている。
すっかり従者の存在を忘れていた私は、彼の大きな声に思わずビクリと肩を揺らし、側にきた従者を見上げた。
「あ!いや!違う違う!なんでもない!」
ぶんぶんと手を振りながら否定の言葉をのべるが、自分の口から出た何の説得力もない言葉に絶望した。
「何でもないなどと……リゼット様のお命に関わることが何でもないはずがございません。」
「や、違うの!本当に……。えーっと……そう!アルが守ってくれる限り、私は死なないでしょ?」
何の誤魔化しにもなっていないが、なんとか絞り出した私の言葉に、従者アルベール・シーヴァーは訝しげに眉を寄せた。
少しの間私を見つめると、アルベールが私の前に跪いた。
「もちろん、この命に変えてもお守りいたします。」
真っ直ぐに私を見つめるシルバーアッシュの瞳。
ごく自然な動きで行われたそれは、まるで物語に出てくる姫を守る騎士のようである。
あ、実際にそうなんだった。
彼が守る姫は魔王の娘ですが。
しかし、前世を思い出した今、ただのOLだった私にはなかなか刺激が強い。
だってイケメン何だもん・・・。
「えへへ」
「…………」
思わず照れたようにふにゃりと笑った私に、アルベールはまた眉を寄せた。
しょうがないじゃない!前世でこんな扱いされたことないのに!
確かにリゼットとして生きた6年の間は、こんなこと当たり前だったし、照れるどころか当然よ!とでも言いたげに鼻で笑っていたけども!
日本人として25年生きてきた記憶が戻ったからには、日本人独特の謙虚さも復活してしまうでしょ!
そんな言い訳を心の中で叫んでいる間に、アルベールは小首を傾げながら立ち上がり、私に一礼して扉の近くに戻っていった。
全く誤魔化せていないが、とりあえず問題発言を流すことに成功した私は、飲みかけだった紅茶を喉に流し込んだ。
さて、
私は今一度、前世で読んだ小説のことを頭の中で整理する。
この世界は人間と魔族。二つの種族が存在する。
私ーーリゼットは、魔族の頂点に君臨する魔王の娘だ。
魔族の中にはごく稀に、魔法とは別に、特殊な性質や能力を持った者が存在する。
私はその希少な存在の一人であり、「無条件で魔族に愛される」という特性を持って生まれた。
小説では、それをいいことに、自らを高めるようなことはせず、毎日をだらだらと我が儘放題に過ごしていた。
父である魔王マティス・グレート・サタンは、魔族を統べる王。人間からすると悪の根源である。
マティスは、齢800歳を超えるが、その見た目は人間で言う所の40歳くらいだ。前世の感覚でいうと、いわゆるイケオジという部類に入ると思う。
魔王マティスは、魔族の頂点にふさわしい絶大な力を持っており、その所業は残虐極まりない。
人間に対してはもちろんのこと、魔族相手でも容赦しない残虐非道の絵に描いたような魔王だ。
しかし、そんな彼もリゼットの特性の前では残虐さの欠けらもない。
魔族の誰よりも、リゼットをベタベタに甘やかした。
そうして、リゼットが15歳の誕生日を迎えた日に、マティスはついに魔王という地位をリゼットに譲ってしまう。
これが悲劇の始まりである。
リゼットは、何の努力もしてこなかった。
それは、魔王となった15歳の時も変わらない。
本来であれば、魔法も武器も扱えないような小娘を魔王になど誰も認めるはずもない。
しかし、再三述べたように、リゼットは無条件に魔族に愛される特性を持っている。
魔族は皆、愛する彼女が魔族の頂点である魔王になったことに歓喜した。
だが、たった一人リゼットを憎む魔族がいた。
ヴァーノン・サタン。
リゼットと30歳も年の離れた腹違いの兄だ。
前世の感覚でいうと親子ほども年が離れているが、魔族であれば兄弟として何ら珍しい年の差ではない。
彼はリゼットと違い、父の背中を追い、魔王になるべく血の滲むようような努力を重ねていた。
それなのに父であるマティスは、ヴァーノンではなくリゼットに魔王という地位を簡単に譲ってしまった。
ヴァーノンはリゼットを殺したいほど憎んだ。
しかし、リゼットの特性により、嫌でも愛さずにはいられない。
何度もこの手にかけようと試みたヴァーノンだったが、ついに自らがリゼットを手にかけることはできなかった。
リゼットが魔王となり5年の時が流れた時、ヴァーノンが大きな賭けにでた。
マティスが城を離れている間に、勇者を城へ手引きしたのだ。
レオン・ラルフ・デビンス。聖剣に選ばれたこの世界の勇者だ。
ヴァーノンの手引きにより、勇者は簡単にリゼットのいる魔王の間にたどり着く。
勇者レオンがたどり着いた魔王の間には、リゼットと従者であるアルベール・シーヴァーのたった二人だけであった。
リゼットを守るため、レオンに対峙したアルベールは見事な剣技で勇者レオンを追い詰める。
アルベールの活躍によりことなきを得るかと思われたが、魔王の間にヴァーノンが現れる。
まさか兄であるヴァーノンが裏切っていようとは、リゼットもアルベールさえも考えが及ばなかった。
騒ぎを聞きつけ、駆けつけてくれたのだろうと油断していたアルベールはヴァーノンに切りつけられ、瀕死のままヴァーノンに捩伏せられる。
ついにリゼットを守ってくれる者はいなくなった。
そして、勇者レオンは聖剣を振り上げ、
「わたしは、」
あっけなく殺された。
魔王を倒すべく鍛え上げた勇者と、能力に甘えた名目だけの魔王だ。
瞬殺されて当たり前だった。
聖剣が私を貫いた瞬間、魔王の間にアルベールの声にならない叫び声が響く。
生きているのが不思議なくらい重症を負っていたアルベールだが、目の前でリゼットを殺された怒りでヴァーノンを押しのけると、リゼットの元に駆けつけその亡骸を抱え、絶望に打ちひしがれる。
守るべき存在も無くし、精神的にも肉体的にも、戦う力を無くしたアルベールに、ヴァーノンが非情にもトドメを差した。
自らが計画し、見事憎きリゼットを討つことに成功したヴァーノンだったが、その頬には涙が伝っていた。
そして城に戻ったマティスは、愛するリゼットの亡骸を見て激怒する。
リゼットを殺した勇者を。勇者を手引きしたヴァーノンを。リゼットを守り切れなかった魔族どもを、自分を、人間を。全てに激怒した。
マティスはリゼットと違い、名実ともに魔王だった。リゼットを失った世界を全力で憎み、力の限り暴れ狂い、そして、世界を滅ぼすのだ。
思わず私は身震いした。
そう。こんな話だった。
勇者が魔王を倒してハッピーエンドとなる話はたくさんあるが、勇者が魔王を倒して世界が滅びるなんて話が珍しくてよく覚えていた。
まさかそんな世界に生まれ変わるとは思っても見なかったけど。
このまま、今までのような生活を送っていては、きっとこの小説通りになってしまうだろう。
私の人生……いや、魔族生?もまた前世に続き短命で終えてしまうだけではなく、この世界すらも滅んでしまう。
「じゃあどうするか……」
ブツブツと呟きながら考え事をする私に、アルベールはもはや反応を返さなくなった。
アルベール・シーヴァー。
小説の中では、自分の命よりも大事なリゼットを目の前で殺されてしまう、なんてかわいそうな役回りか……。
彼の悲しみは計り知れないものがある。
入り口近くに控えていた彼を、思わず慰めるように眺める。
……全ての悲劇はリゼットが魔王になってしまい、ヴァーノンに恨まれるのが始まりだ。
なら、私がとるべき行動は、
「ぜっっっっっっっったいに魔王にならない!」
「!?」
バンッとテーブルを叩きながら立ち上がり宣言した。
控えていたアルベールが何事かと思わず腰に差した剣に手を添えている。
私は構わず残っていたケーキに勢いよくフォークを突き刺すと、大きな口を開けてケーキを放り込んだ。
この城にいる限り、私が強かろうと弱かろうといずれ魔王になってしまうだろう。
もぐもぐと口を動かしながら考える。
なら、この城を出て行く他に手はない。
しかし、そんなことをこの城の者たちが許すはずもない。
ではどうするか、、、
誰にも止められないくらい強くなるしかない!
もしかしたらもっといい方法があるかもしれないが、とにかく今はそれを目標にして自分の力を高めよう!
万が一この城から脱出できなかったとしても、勇者に負けないくらい強ければ世界が滅ぶことはない。
リゼットである私は、腐ってもあの最強魔王マティスの娘なのだから、強くなれるはずだ。
努力したって無駄になることはないだろう。
よーーーーし!強くなるぞ!
「ごちそうさまでした!」
思考がまとまってスッキリした私は、勢いよく手を合わせて、日本人として染み付いた言葉を口にした。
そんな私を、アルベールが首を傾げながら見ていた。
テーブルの上に肘をつき頭を支えると、意味もなくお皿に残ったケーキを眺めた。
前世を思い出した瞬間に比べると、多少気持ち悪さもマシになった。
気持ちを落ち着かせようと、ゆっくりと目を閉じ、ふぅと息を吐いた。
私は、リゼット・マリー・サタン。
齢6歳。
魔王の娘にして、生まれながらに魔族から愛されるという特性を持っている。
その能力は絶大で、どんなに強い魔族であってもこの特性に逆らうことはできない。
魔族であれば、例外なく私を愛さずにはいられない。
前世を思い出した今、何とも言い難い特性だと思う。
この特性がなければ、誰からも好かれたりしないのではないか。
この特性のおかげでちやほやされることは、本当に幸せなことなのだろうか。
いや、正直そんなことはどうでもいい。
そんなメンヘラチックなことを考えるよりも、もっと重大な問題があるのだ。
私はこの世界を知っている。
それはもちろん、リゼットとして過ごしてきた6年のこともあるが、私はリゼットとして生まれる前からこの世界を知っているのだ。
前世で読んだ小説。
そう、間違いなく今私が生きているこの世界は、前世で私が読んでいた小説の世界だ。
少し変わったストーリーだったため、今でも覚えている。
リゼットとして今まで生きてきた6年間は、その特性を存分に活かし、我が儘放題に生きてきた。
しかし、このままでは……
「私は、殺される……」
「! 何だと!?」
「っ!?」
ポツリと呟いた私の一言に、部屋の入り口に控えていた従者が私の元へすっ飛んできた。
いつも私に対して敬語を使う従者だが、驚きのあまり言葉遣いが崩れている。
すっかり従者の存在を忘れていた私は、彼の大きな声に思わずビクリと肩を揺らし、側にきた従者を見上げた。
「あ!いや!違う違う!なんでもない!」
ぶんぶんと手を振りながら否定の言葉をのべるが、自分の口から出た何の説得力もない言葉に絶望した。
「何でもないなどと……リゼット様のお命に関わることが何でもないはずがございません。」
「や、違うの!本当に……。えーっと……そう!アルが守ってくれる限り、私は死なないでしょ?」
何の誤魔化しにもなっていないが、なんとか絞り出した私の言葉に、従者アルベール・シーヴァーは訝しげに眉を寄せた。
少しの間私を見つめると、アルベールが私の前に跪いた。
「もちろん、この命に変えてもお守りいたします。」
真っ直ぐに私を見つめるシルバーアッシュの瞳。
ごく自然な動きで行われたそれは、まるで物語に出てくる姫を守る騎士のようである。
あ、実際にそうなんだった。
彼が守る姫は魔王の娘ですが。
しかし、前世を思い出した今、ただのOLだった私にはなかなか刺激が強い。
だってイケメン何だもん・・・。
「えへへ」
「…………」
思わず照れたようにふにゃりと笑った私に、アルベールはまた眉を寄せた。
しょうがないじゃない!前世でこんな扱いされたことないのに!
確かにリゼットとして生きた6年の間は、こんなこと当たり前だったし、照れるどころか当然よ!とでも言いたげに鼻で笑っていたけども!
日本人として25年生きてきた記憶が戻ったからには、日本人独特の謙虚さも復活してしまうでしょ!
そんな言い訳を心の中で叫んでいる間に、アルベールは小首を傾げながら立ち上がり、私に一礼して扉の近くに戻っていった。
全く誤魔化せていないが、とりあえず問題発言を流すことに成功した私は、飲みかけだった紅茶を喉に流し込んだ。
さて、
私は今一度、前世で読んだ小説のことを頭の中で整理する。
この世界は人間と魔族。二つの種族が存在する。
私ーーリゼットは、魔族の頂点に君臨する魔王の娘だ。
魔族の中にはごく稀に、魔法とは別に、特殊な性質や能力を持った者が存在する。
私はその希少な存在の一人であり、「無条件で魔族に愛される」という特性を持って生まれた。
小説では、それをいいことに、自らを高めるようなことはせず、毎日をだらだらと我が儘放題に過ごしていた。
父である魔王マティス・グレート・サタンは、魔族を統べる王。人間からすると悪の根源である。
マティスは、齢800歳を超えるが、その見た目は人間で言う所の40歳くらいだ。前世の感覚でいうと、いわゆるイケオジという部類に入ると思う。
魔王マティスは、魔族の頂点にふさわしい絶大な力を持っており、その所業は残虐極まりない。
人間に対してはもちろんのこと、魔族相手でも容赦しない残虐非道の絵に描いたような魔王だ。
しかし、そんな彼もリゼットの特性の前では残虐さの欠けらもない。
魔族の誰よりも、リゼットをベタベタに甘やかした。
そうして、リゼットが15歳の誕生日を迎えた日に、マティスはついに魔王という地位をリゼットに譲ってしまう。
これが悲劇の始まりである。
リゼットは、何の努力もしてこなかった。
それは、魔王となった15歳の時も変わらない。
本来であれば、魔法も武器も扱えないような小娘を魔王になど誰も認めるはずもない。
しかし、再三述べたように、リゼットは無条件に魔族に愛される特性を持っている。
魔族は皆、愛する彼女が魔族の頂点である魔王になったことに歓喜した。
だが、たった一人リゼットを憎む魔族がいた。
ヴァーノン・サタン。
リゼットと30歳も年の離れた腹違いの兄だ。
前世の感覚でいうと親子ほども年が離れているが、魔族であれば兄弟として何ら珍しい年の差ではない。
彼はリゼットと違い、父の背中を追い、魔王になるべく血の滲むようような努力を重ねていた。
それなのに父であるマティスは、ヴァーノンではなくリゼットに魔王という地位を簡単に譲ってしまった。
ヴァーノンはリゼットを殺したいほど憎んだ。
しかし、リゼットの特性により、嫌でも愛さずにはいられない。
何度もこの手にかけようと試みたヴァーノンだったが、ついに自らがリゼットを手にかけることはできなかった。
リゼットが魔王となり5年の時が流れた時、ヴァーノンが大きな賭けにでた。
マティスが城を離れている間に、勇者を城へ手引きしたのだ。
レオン・ラルフ・デビンス。聖剣に選ばれたこの世界の勇者だ。
ヴァーノンの手引きにより、勇者は簡単にリゼットのいる魔王の間にたどり着く。
勇者レオンがたどり着いた魔王の間には、リゼットと従者であるアルベール・シーヴァーのたった二人だけであった。
リゼットを守るため、レオンに対峙したアルベールは見事な剣技で勇者レオンを追い詰める。
アルベールの活躍によりことなきを得るかと思われたが、魔王の間にヴァーノンが現れる。
まさか兄であるヴァーノンが裏切っていようとは、リゼットもアルベールさえも考えが及ばなかった。
騒ぎを聞きつけ、駆けつけてくれたのだろうと油断していたアルベールはヴァーノンに切りつけられ、瀕死のままヴァーノンに捩伏せられる。
ついにリゼットを守ってくれる者はいなくなった。
そして、勇者レオンは聖剣を振り上げ、
「わたしは、」
あっけなく殺された。
魔王を倒すべく鍛え上げた勇者と、能力に甘えた名目だけの魔王だ。
瞬殺されて当たり前だった。
聖剣が私を貫いた瞬間、魔王の間にアルベールの声にならない叫び声が響く。
生きているのが不思議なくらい重症を負っていたアルベールだが、目の前でリゼットを殺された怒りでヴァーノンを押しのけると、リゼットの元に駆けつけその亡骸を抱え、絶望に打ちひしがれる。
守るべき存在も無くし、精神的にも肉体的にも、戦う力を無くしたアルベールに、ヴァーノンが非情にもトドメを差した。
自らが計画し、見事憎きリゼットを討つことに成功したヴァーノンだったが、その頬には涙が伝っていた。
そして城に戻ったマティスは、愛するリゼットの亡骸を見て激怒する。
リゼットを殺した勇者を。勇者を手引きしたヴァーノンを。リゼットを守り切れなかった魔族どもを、自分を、人間を。全てに激怒した。
マティスはリゼットと違い、名実ともに魔王だった。リゼットを失った世界を全力で憎み、力の限り暴れ狂い、そして、世界を滅ぼすのだ。
思わず私は身震いした。
そう。こんな話だった。
勇者が魔王を倒してハッピーエンドとなる話はたくさんあるが、勇者が魔王を倒して世界が滅びるなんて話が珍しくてよく覚えていた。
まさかそんな世界に生まれ変わるとは思っても見なかったけど。
このまま、今までのような生活を送っていては、きっとこの小説通りになってしまうだろう。
私の人生……いや、魔族生?もまた前世に続き短命で終えてしまうだけではなく、この世界すらも滅んでしまう。
「じゃあどうするか……」
ブツブツと呟きながら考え事をする私に、アルベールはもはや反応を返さなくなった。
アルベール・シーヴァー。
小説の中では、自分の命よりも大事なリゼットを目の前で殺されてしまう、なんてかわいそうな役回りか……。
彼の悲しみは計り知れないものがある。
入り口近くに控えていた彼を、思わず慰めるように眺める。
……全ての悲劇はリゼットが魔王になってしまい、ヴァーノンに恨まれるのが始まりだ。
なら、私がとるべき行動は、
「ぜっっっっっっっったいに魔王にならない!」
「!?」
バンッとテーブルを叩きながら立ち上がり宣言した。
控えていたアルベールが何事かと思わず腰に差した剣に手を添えている。
私は構わず残っていたケーキに勢いよくフォークを突き刺すと、大きな口を開けてケーキを放り込んだ。
この城にいる限り、私が強かろうと弱かろうといずれ魔王になってしまうだろう。
もぐもぐと口を動かしながら考える。
なら、この城を出て行く他に手はない。
しかし、そんなことをこの城の者たちが許すはずもない。
ではどうするか、、、
誰にも止められないくらい強くなるしかない!
もしかしたらもっといい方法があるかもしれないが、とにかく今はそれを目標にして自分の力を高めよう!
万が一この城から脱出できなかったとしても、勇者に負けないくらい強ければ世界が滅ぶことはない。
リゼットである私は、腐ってもあの最強魔王マティスの娘なのだから、強くなれるはずだ。
努力したって無駄になることはないだろう。
よーーーーし!強くなるぞ!
「ごちそうさまでした!」
思考がまとまってスッキリした私は、勢いよく手を合わせて、日本人として染み付いた言葉を口にした。
そんな私を、アルベールが首を傾げながら見ていた。
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