12 / 21
【第1章】魔王城脱出編
12.OL、中級魔法を使いたい
しおりを挟むあの日出会った第五魔王軍の大将だというヴェントは、陣風のヴェントと呼ばれる天才らしかった。
彼も言っていたように、異例の若さで大将という大きな地位に立った彼には、称賛の声と同時に彼を妬む非難の声も多いようだ。
そんな彼の苦しみも考えずに、私が安直に彼にかけた言葉は、やっぱり生意気だったなあと反省した。
しかし、あの日から数日間は魔王城に滞在している噂を耳にして、私は彼にちゃっかり風の守護魔法を教わった。
彼が私にかけてくれた魔法は風属性の中級魔法らしく、今の私には難しいものだった。
闇属性に関しては、初級魔法なら安定して発動できるようになったが、5属性に関しては初級魔法ですらいまだに失敗することがある。
なので、私がヴェントから教わったのは、風属性の初級魔法である風の守護という魔法だ。
それは自分自身に一時的に風の防壁を発動させるというものだった。
そして、ヴェントが魔王城を去って、数日。
私は少し焦っていた。
「お兄ちゃん!」
そんな私は、兄ヴァーノンの部屋の扉を乱暴に開け、彼の部屋に飛び込んだ。
扉を開け放つ前から私の気配に気づいていたのか、机に向かっていたヴァーノンは特に驚くことなく、ゆっくりと視線を上げ私を見据えた。
「どうしたリゼット。珍しいな。」
ヴァーノンは持っていたペンを置くと、優しい表情で私に言った。
そんなヴァーノンに、私はドスドスと足音が立つような勢いで詰め寄る。
「中級魔法を教えて!」
前世の記憶が戻ってから、あと数ヶ月後にはもう1年が経とうとしているというのに、なかなか思うように成長できない自分に私は焦っていた。
そして今日、私は居ても立ってもいられなくなり、ついにヴァーノンの部屋に乗り込んだのである。
私は、ヴァーノンが向かっていた机にバンッと両手をつきながら訴えた。
そんな私に、彼は困ったように笑う。
「お前の望みは何でも叶えてやりたいが、まだ早いだろう。」
やはり困ったようにそう言った彼に、私は頬を膨らませる。
そんな私に、ヴァーノンは変わらず困った笑みを浮かべる。
「初級魔法だって、まだろくに扱い切れていないだろ?」
「闇属性なら問題ないもん!」
ヴァーノンのいう通り、私はいまだに初級魔法の発動にすら失敗することがある。
でもそれは、5属性に限った話だ。
得意としている闇属性なら失敗することはなくなった。
「そんなに焦らなくても、お前の成長は群を抜いて早い。」
そう言ったヴァーノンに、私はぐっと歯を食いしばる。
確かに、魔族の長い寿命から考えると私の成長スピードは焦るようなものではなく、むしろ早いのかもしれない。
しかし、私にはそんな悠長なことを言っている時間はないのである。
私がこのまま弱いままでは、今目の前にいる優しい兄を数年後に歪ませてしまう事になる。
「お願い、お兄ちゃん……」
私は泣きそうになりながら、ヴァーノンに懇願する。
そんな私に、ヴァーノンがゴクリと唾を飲み込んだ気がした。
「……わかった。」
諦めたように返事をしたヴァーノンの顔は、なんとなく赤く染まっているように感じた。
ヴァーノンの泣き落としに成功した私は、彼の執務を放棄させそのまま修練場に向かう。
相変わらず私の行く先々で城の者から愛の告白にも近い言葉が投げかけられるが、私はいつも通りテキトーに返事を返しながら歩いた。
「中級魔法と言っても、その種類は果てしないほど多い。自作の魔法など入れると無限だ。」
修練場につき、私に向き合ったヴァーノンが口を開いた。
「そうだな……まずは形成維持の基本を覚えるか。—————闇黒剣」
そう言って、魔法を発動させたヴァーノンの手に闇が渦を巻くように現れたかと思うと、すぐにそれは真っ黒で禍々しい光を放つ剣に変わった。
ヴァーノンは、その剣の頭身を眺めると、試すように一振りした。
な、何もないところから剣を……!
単純な魔法としては地味ではあるけど、とにかくかっこいい!
「今まで教えてきた魔法は、基本的に敵にぶつけて終わりというものがほとんどで、それ自身が完璧な物質という訳ではない。だが、こいつは物質としての強度を持っている。
魔力を使って完璧な物質を生成するという訳だ。最低限必要とする魔力の量も今までよりも多い。
今までの魔法の発動とは少し毛色が違うから難しいかもしれないな。」
そこまでいうとヴァーノンは私にちらりと視線を向け、「できるか?」と続けた。
「やってみる!」
「いい返事だ。別に剣である必要はないんだが、普段剣の練習もしているようだから最初はイメージしやすい身近なものがいいだろう。
こうやって魔法で生成した武器には追加効果がつく。今回の闇属性なら、攻撃した相手の魔力を奪う効果だ。」
そう言うと、ヴァーノンは握っていた剣を手放した。
重力に従って地面に落ちるかと思ったが、それは私の予想に反してスッと消えてしまった。
武器を持っていなかった時に便利かなと思っていたが、どうやらこの魔法の利点はそれだけではなく、通常の武器にはない効果が付与されているらしい。
なるほど。相変わらずファンタジーだ。
「よーし!————闇黒剣!」
しっかりと魔力を練り上げ、剣をイメージし、魔法を発動させた。
しかし、ボフンという腹立たしい音を立てながら私の魔力は弾け散ってしまう。
もちろん、私の右手に剣が現れることはない。
「根本的に魔力の量が足りてない。」
不満そうな私に、ヴァーノンがアドバイスをくれる。
「最低でも、今までより3倍の量は必要だ。」
「3倍……」
「決して無理はするなよ。」
予想以上の魔力の量を指定され驚く私に、ヴァーノンが心配そうに言った。
練り上げる魔力が多いということは、その分扱いも難しくなるということだ。
思ったより苦戦しそうだと思いつつ、私はまた魔力を練り上げた。
「はぁ、……はっ……」
ひたすら魔法の発動を試み続けた私だが、期待するものがこの右手に現れることはなく、これまでよりも大量の魔力、精神力を使い続けていた私は、すっかり息も上がりその額には汗が滲んでいた。
「リゼット様、今日はもう」
「まだ!」
そんな私を心配したアルベールが、ヴァーノンよりも先に制止をかけてきた。
だが、思ったような成果が得られないイラつきと、ここ最近の焦りで、私にはまだやめる気は無かった。
「お前は口出しをするな。」
ヴァーノンが眉間に深い皺を寄せてアルベールに言った。
流石のアルベールも、今回は不満そうにヴァーノンを睨むように見た。
一触即発な雰囲気の二人をよそに、私は懲りずにまた魔力を練り上げる。
「っ、闇黒剣!」
ボフン。
聞き飽きた音が私の耳に届く。
思わず舌打ちしそうになるのを必死で我慢する。
くそう。
悔しい。
何がダメなのかもわからない。
私は早く強くならないといけないのに。
今日一番にヴァーノンにもらったアドバイスを思い出す。
もしかしたら、まだ練り上げる魔力が足りないのかもしれない。
それなら、
私は上がってしまった息を整えるように、大きく息を吸い込む。
そうして肺に溜まった空気を一気に吐き出すと、私は今日一番の魔力を体内で練り上げ始める。
足りない。
まだ足りない。
これじゃダメだ。
もっと。
もっと。
もっと。
もっと。
「ダメです!リゼット様!」
焦ったようなアルベールの声が手練場に響いたが、魔法の構築に集中していた私にその声は届かない。
もっと。
もっと。
もっと————!
「闇—————っ、」
ぷつん。
私の中で、そんな音が聞こえた瞬間。
ぐらりと体が傾くのを感じる。
「リゼット様!」
「リゼット!」
アルベールと、ヴァーノンの悲鳴のような声を聞いた気がする。
私が覚えているのはそこまでだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる