満月祭

大畑徹周

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満月祭

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 やあ、こんばんわ。私はルディ。大学で伝説やおとぎ話を研究している教授です。
 今夜は満月ですね。まんまるの月を見ていたら、こんな話を思い出してしまいました。

 「ルガルーシティー」というオオカミ人間の街がありました。その街では毎年中秋の名月の夜に、街の広場で「満月祭」という大きな祭りがもよおされます。そしてその祭りで街の人々は皆、自分達は人間じゃないんだオオカミ人間なんだ、という喜びを心からかみしめるのです。
 さて、その祭りの夜のことです。
 街の広場は、十三歳半の少女の目玉のチャウダーと、十四歳半の少年のすね肉のソテーといったごちそうのにおい。陽気なバンドネオンの音と歌声。歓声と軽快なダンスのステップを踏むたくさんの靴音。たくさんの拍手と手拍子。それらのせいですごくにぎやかになっていました。
 広場の入り口には、よそ行きのドレスを着たオオカミ少女が白い箱を持って立っていました。その箱には「満月祭に参加する者は金貨一枚支払うべし 市長」と書かれていました。
 その少女から少し離れたところに、オオカミ男が一人街灯にもたれて立っていました。
 オオカミ男はガリガリにやせ細っていて、ボロボロの服を着ていました。
 彼は広場からただよって来るごちそうのにおいをかいで、ぐうっ、と腹をならしました。
 彼はオオカミ少女の白い箱を横目で見ると、ズボンのポケットに手をつっこみました。
 でもズボンのポケットからは金貨どころか、銅貨一枚すら出てきません。出てくるものはホコリだけです。
 それから彼は、着ていた服のすべてのポケットに手をつっこんでみましたが、それらもズボンのポケットと同じように、ホコリしか出てきませんでした。
 彼の頭の中に、高級なスーツを着てヒゲをたくわえた市長の姿が浮かんで消えました。
 オオカミ男は「フン、あの野郎」と市長への文句を短くつぶやくと夜空を見上げました。するとこの街で一番高い建物の、ルナティックラジオ局のアンテナ塔が見えました。
 満月はそのアンテナ塔のてっぺんにかかって来ていました。
 その満月を見たオオカミ男は不意に、昔読んだオオカミ女の詩人、「ガヲ青春詩集」の中の詩の一節、「満月は夜空にはりつけた金貨のようだ」というのを思い出しました。
 するとオオカミ男は、アンテナ塔に向かって走って行きました。はらぺことは思えないくらいものすごい速さで。
 やがて彼はアンテナ塔に着くと、アンテナ塔のはしごをのぽり始めました。オオカミなのに、サルのようにスルスルと身軽に。たぶんはらぺこで体が軽くなっているせいでしょう。
 オオカミ男はすばやく塔のてっぺんにたどり着くと、手を伸ばして夜空からベリベリと月をはぎ取りました。
 夜空からはぎ取られた月は、彼の手の中でキラキラ光って本物の金貨のようです。
 「詩人が言っていたことは本当だった」オオカミ男はそうつぶやいて、のぼって来た時と同じ速さではしごをおりて行きました。そして広場に向かって走って行きました。

 次の日からルガルーシティーは、ただの人間の街になりました。なにしろ夜空にあるはずの月がなくなってしまったんですから。
 そのため次の日の夜は日が沈んだ時から、街じゅうがハチの巣をつついたような大騒ぎになっていました。
 次の日は新月ではありません。それに月食も起こっていません。そのうえ次の日の夜の天気は雲一つない晴れでした。なのに月が夜空のどこにもないのです。
 街の市長は、街じゅうの天文学者と博士、そして警察と探偵に月をさがすように言いました。それから騒ぎをおさめようとルナティックラジオ局に出演して、「みなさん。夜空に月が見えないからといって、心配することはありません。私はさっき街じゅうの天文学者と博士、そして警察と探偵に月をさがすように言いました。ですから間もなく
月は見つかるでしょう」と言いました。すると騒ぎはおさまりました。
 だけど月は、天文学者と博士が天体望遠鏡で夜空を隅から隅までさがしても、警察と探偵が虫メガネを片手に街じゅうをさがし回っても見つかりませんでした。
 そしたら市長は、また騒ぎが起きるかもしれないと思い、またラジオに出演して、「申し訳ありません。月はまだ見つかっておりません。そこでどうか市民の皆様も、協力して月をさがしてくださいませんか。もし月を見つけた方には金貨百枚さしあげます」と言いました。
 すると街の人々はみんな血眼になって月をさがし始めました。市長も、もう人任せにしてはおれんと思ったのか、市長も月をさがし始めました。けれどもだれも月を見つけることはできませんでした。
 市長は街じゅうの人々から、「やいこら市長。月がみつからなかったぞ。どうしてくれるんだ! 市長なんかやめてしまえ!」と言われて、仕方なく市長をやめてしまいました。

 では、これで私の話はおしまい。えっ、なぜ月が見つからなかったのか、ですって。
 だってほら、よく言うじゃありませんか。「金は天下のまわりもの」ってね。      終わり

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