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私小説
四条大五郎
しおりを挟むそして私は居間に通されて、夏生の父である四条大五郎に会うのであった。彼は、いわばこの地方の名士であった。髪の毛は刈り上げられて、精悍な顔つきをしている。目は少し腫れぼったく、唇は、少し分厚い。それでいて、声はとても渋く、ガウンを身に纏って、ソファーに座っていた。
「君が静馬君というのかね」
「はい、そうです」
「そうか。娘から色々話を聞いているよ」
というと埴輪のような無表情な顔つきになる。他にも、夏生の母の四条朱子や、叔母の四条文江、お手伝いのハツなどがいた。彼女たちは遠巻きに私を観察しているようであった。私は、出されたショートケーキを食べる。一口で高級品ということがわかった。
「全く、ウクライナはどうなることかね」
と大五郎は私に言葉を投げかけてくる。これはとても奥深い質問であった。私は少し答えるのを逡巡するが、一旦喋り出すと、ダラダラと一気呵成に解説した。
「今、ウクライナは民主主義の砦になっておりますね。プーチン大統領が何故、ウクライナを攻めたのかというと、民主主義の風がロシア国内に吹き荒れるのを防ぐためです。そのために、彼は暗殺や妨害工作などを含めていろいろなことをやりました」
「なるほど」
「これが英雄の宿命というものです」
「え?プーチンは英雄なのかい」
「はい、紛れもなくプーチンは英雄ですが、英雄というのは、限界があるのです。『プルターク英雄伝』や、史記にも描かれておりますが、
狡兎死して走狗煮らる
という言葉があります。すばしっこい兎を捕まえていた犬が、兎がいなくなると煮られてしまうというたとえです。
昔、ロシアは崩壊状態にありました。その混迷をリーダーシップで乗り越えたのが、ウラジミール・プーチンだったのです。彼は、救国の英雄でした。もちろん、その手法は半分、マフィアみたいな強引なものでしたが……しかし、彼がいなかったらロシアは今でも赤貧に喘いでいたでしょう。彼が強引に、闇上がりの成金たちを成敗したからこそ、今の彼の栄光があるのです!」
「君はプーチンを肯定するのかね!」
強い口調で大五郎は詰問してきた。私は腹に力を込めてこう答える。
「はい。しかし、彼はあくまで英雄だったのです。名君ではないのです。英雄とは、国が危機になった時に活躍しますが、国が上向いた時、不要になります。すでに、ロシアにおいてプーチンは賞味期限が切れておりました……だから、あんな無茶苦茶な英雄的行為をしたのです」
「なるほど」
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