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私小説 3

マンリキ修行

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「うんしょ。うんしょ。うんしょ」

   って今日はミルクを運んでいません。期待していた皆さん、ごめんなさい。今日は、栄町の片隅、スーパーフロンティア栄というアパートの前で立っています。ここに、静馬さんが絶賛していた、マンリキの達人がいるからです。私は、自分の命がたとえ燃焼しようとも、マンリキを覚えることにしました。そうしないと、私の生きている意味がないからです。

「ほほう。おねえちゃん。なるほど、歴はある程度、積んでいるようだね」

 白髪で 枯れ木のような身体をしたシーちゃんは、あたしの身体を眺めて言いました。プロの人は体つきを見るだけで本職の人かわかるみたいです。まあ、風呂に入っている回数が異常ですから、見抜こうと思えば直ぐに見抜けますがね……。とにかく、シーちゃんは私を居間に招いてくれたのです。そこは、お世辞にも綺麗とは言えない、粗末な飾らない部屋でした。

「だが、マンリキの技を極めてどうしようと言うのかね」
「あたしの愛する人のために、マンリキを使いたいのです」
「バカモン!もし、その男が死んだらどうするのかね」
「ええ?」
「究極のマンリキを習得したら、恋人はそのマンリキに夢中になって、死ぬまで「やってくれ。やってくれ」と言ってくるだろう。それほど、あの技は恐ろしいものなんだよ。相手を殺してしまうかも知れないほどの気持ち良さなんだよ!」
「そんなオーバーな話、信じられますか!」

  とあたしは、立ち上がってアパートを出ようとしたら、シーちゃんは、

「これを見ろ!」

  というと、襖を開けた。寝室には、十人もの人間の遺影が壁にかかっているではないですか。ある者は痩身、ある者は四角い顔、ある者はおにぎりみたいな顔をしておりますが、全員に共通しているのは皆、幸福そうな死に顔をしている遺影でした、ピースサインをしている人もいます。

「あたしの代々の旦那様は、みんな死んだよ。あたしのマンリキに夢中になってな。おかげで、遺産を貰い放題だったよ」
「でも、何で、こんな粗末なアパートに住んでいるんですか」
「人を殺したお金さ……あたしは、慈善団体に寄付したんだよ。浄財ってやつさ」
「陰徳を積まれているんですね。なるほど、それは良いことです。でも、あたし、習いたい。もし、静馬さんが腹上死するんなら、あいつはそこまでの男です」
「何?」
「恋ってそう言うものじゃないですか?」
「え?」
「お互いの最上のものを空中でぶつけ合う。それが恋ってものでしょう!」
「ふっ。ならば、教えてあげるよ。死ぬほどの苦しみだぞ」
「はい。お師匠!」
  読者よ。このマンリキ修行の光景を私は描写したいのですが、こいうことを拡散すると真似する人が現れ、終いには、日本政府に悪いような気がするのでやめておきます。

 なお、このマンリキという技は、江戸時代から「須磨」という言葉で、引き継がれている伝統的な技である、ということだけは断っておきます。決して、筆者の空想の産物ではないのです。
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