贄の巫女 禍津の蛇 

凪崎凪

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閑話の章 空の音

壱の音 

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 翌日、秋華あきかは何時もの時間に起き、顔を洗うために洗面所へ向かう。
その途中、居間を通りかかり、そこで寝こけている空音そらねを見つける。

「空ちゃん! もーまた変な所で寝てぇ。 ほら起きて、おーきーてー!」

「うーん、秋華ぁあと500時間したらおこして……」

そう言いながらゴロリと寝返りを打ち、本格的に寝直そうとする空音を見て秋華は何時もの日常が返ってきたような気がして、クスリと笑いそして容赦なく空音を叩き起こすのだった。

「ふわぁ~、おふぁよう秋華……」

「おはよう空ちゃん」

秋華はしばらくぶりに作った朝食を空音の前に並べると向かいの椅子に座る。
居間にある小さなテーブルの上にはご飯に目玉焼き、後インスタントであるが味噌汁もあるシンプルな朝食が並べられていた。 一人分・・・の朝食が。

空音はニコニコと自分を見て嬉しそうにする秋華を見る。
まともに料理の出来ない自分の代わりに(卵すらまともに割れない)、秋華が料理をするようになって何年経っただろうか?
食事の出来ない秋華に見られながら食事をするのに慣れたのは何時からだったろうか?
空音は秋華に気付かれないようにそっとため息を吐くと、勢いよくご飯をかきこんだ。
そうして流しに茶碗を浸し、もちろん洗うのは空音の仕事である。 壁に掛かっている時計を見るといい時間である。

「秋華、そろそろ学校じゃないか?」

「あ! 本当だ。 空ちゃんはどうするの?」

秋華の問いに空音はそうだなぁと少し考えた後。

「今日はちと用事があるから合流は明後日になるかな」

そう言われた秋華は不安そうな表情を見せ問いかける。

「お家、帰ってくるよね?」

その不安げな秋華を笑い飛ばすように空音は笑う。

「あほ、午前中で終わるような用事だ。 帰って来るっての!」

そう言われやっと表情を緩めた秋華を、早く行けと追い出すようにして空音は見送った。
その後、少し残っていたアルコールを流すようにシャワーをたっぷり浴びたのち、空音は出かける用意を手早く済ませる。
そのまま玄関から…… ではなく、台所にある床下収納の戸を開け下へ降りる。
床下は、空音が屈んでやっと入れるくらいのスペースであったが、ほとんど物がなく使用されていない状態でやけに広々としている。
その収納スペースの中を空音は屈んだまま進み、やがて壁に行きつく。
その壁に空音は手を掛けグッと横にスライドさせると、壁が動きそこには階段が現れた。
その階段を迷う事なく降りていくと、2mほどの高さの通路になっていた。
通路をしばらく進んでいくとまた階段が現れる。 その階段を上がっていくと行き止まりになっており、今度は上の天井部分を押し開けると、真っ暗な小部屋になっていた。
空音はその小部屋の壁に張り付き、耳を当てると外の様子をうかがう。
しばらくそうやっていたが、十分と感じたのかまた壁に手をやり引き開けた。
するとそこは七霧ななきり家の近くにある公園の、その一角にある長らく使用されていない倉庫だった。
スルリと、その倉庫から抜け出した空音は、腰の後ろに挿していた帽子を目深にかぶると、何でもないような態度で公園から出ると、駅に向かった。

スルリスルリと、人の目に留まらない独特な歩法で進む空音。
そのまま駅まで行くと見えたが、フイとその姿が消える。
その突然消えた場所へ慌てて駆け寄るのは3人の男性。
映画や漫画のように黒服というわけでもなく、ごく普通の恰好をした男性はしかし見る人が見れば訓練されたおおよそカタギの者でないことが分かる。
そんな3人は空音が消えた辺りを忙しなく見渡す。 が、どこにもいない事を確認するとリーダーらしき男が、懐から携帯を取り出しどこかへ連絡する。

コール3回で相手が出る。 と同時にその形態が男の手から離れる。

「なっ!?」

その携帯は、いつのまにか男達の背後に現れた空音が持っており、さらにその男以外の2人はいつの間にか地面にうずくまって気絶していた。 
驚愕に顔を歪めるリーダー格の男。 空音はその男を気にする事なく奪った携帯をその耳に当てる。

「もしもし? どうした、なにがあった?」

「もしもし? 私、空音ちゃん今ストーカーの後ろにいるの……なんてな。 久しぶりだね黒沢くろさわさん」

電話越しの相手、空音が言う所の黒沢は慌てる。

「なっ! 七霧かっ!?」

黒沢の驚く声に、空音はニヤリと人の悪い笑みを浮かべると”警告”を発した。

「黒沢さん、これが最初で最後の警告だ。 私に関わるな。 じゃないと……」

最後に何を言ったのかリーダー格の男には聞こえなかったが、当然黒沢には聞こえたのであろう。
空音から放り投げられた携帯、それを空音が顎で指し示すままにその耳に当てると、ボスである黒沢の撤収しろとの声の後に通話が切れた。

「じゃあな。 二度とお目に掛からない事を祈ってるよ?」

そう言って空音は立ち去る。
その後ろ姿をボンヤリと眺めたあと、仲間が気絶状態である事を思い出し慌てて介抱するのだった。








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