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閑話の章 空の音
弐の音
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空音はユラリユラリとした動きで駅前のビル街へ潜り込む。
そのうちの一つ。 特に目立った所もない普通のオフィスビルへと気まぐれで入り込んだかのような動きで空音は入って行った。
そしてビルのエレベーターに入り込むと、懐からカード、なにかのメンバーズカードらしき物をエレベーターのパネルの隙間へ差し込む。
すると、エレベーターは階層ボタンを押していないのにも関わらず突然下降しだした。
地下などないのにも関わらずだ。
エレベーターはその後、2、3階層分ほど降りた後停止しそのドアを開ける。
空音がエレベーターから降りるとそこは、狭い通路に左右8つのドアがある場所だった。
そのうち奥にあるドアまで歩いて行き、右側のドアに再びさっきのカードを差し込むとカチリという音と共にロックが解除される。
ためらう事なく空音はそのドアを開けくぐり、眉を顰めた。
その空音の視線の先には雑多な機材、なにかの実験器具らしきものや検査機らしきものがごちゃごちゃと並べられている。
しかし視線はそこではなく、その手前ソファーとローテーブル。 そしてそこにだらしなく座って寝ているであろう男へ向けられていた。
男はよれた白衣を着て、無精ひげを伸ばし放題のヒゲをそればまあまあ見れた顔である30を少し過ぎたその男は、ローテーブルに足を乗せてソファーに崩れるような姿勢で呑気に寝ていた。
空音は無言でその男に近づくと、いきなりげんこつをその男、椋木 辰之助の脳天めがけ躊躇なく振り下ろした。
「ふがっ!?」
椋木は突然の暴力に慌てて起き上る。 そして空音を見てホッとした表情になり、先ほど振るわれた暴力に遺憾の意を表明するべく声を上げた。
「いきなりなにするんだね空音君!?」
「アポ取ったのに寝ているほうが悪いだろハカセ」
冷めた声色と咎める視線に、椋木はいやそれは……などといった声をモゴモゴと上げたが空音は無視することにした。
椋木はその後ソファーに座りなおし、申し訳程度にボサボサの髪を手櫛で整え空音を見る。
それに対して空音は立ったまま、といっても椅子などはここにないのだが、椋木に話しかける。
「秋華が選ばれた」
端的なたったそれだけの言葉。 だが椋木はその言葉だけですべてを理解した。
これから起きる事や秋華の苦難、そして空音の……
いやよそう。 椋木はその考えを振り払うように首を振る。
「そうか、準備は出来ているよ。 隣の部屋にあるから持っていきなさい」
「サンキュ、恩に着るよハカセ」
そう言うと、もう用はないとばかりにクルリと踵を返し部屋から出ていった。
椋木はその姿を見ながら、空音には届かないであろう言葉を掛ける。
「君はそれでいいのかい?」
かつて幼い空音を引き取って育ててくれた燕子花家で教わったのは簡単な術ぐらいだった。
その後、その家に双子が生まれた時出ていったが。
その後養子に入った七霧家ではそr以外のこのユラリユラリといった独特の歩法や暗殺術めいたものなどおおよそ不穏な物ばかりだった。
義母はそういった事は教えなかったが、養父は才能があると喜んで空音に教え、よく義母に睨まれていた。
厳しくも優しい義父母に囲まれ幸せだった。
弥津守高等学校に入学し秋華、秋と出会ってしばらくは……
”アレ”に秋が選ばれ、自分が封縛の巫女に選ばれた。 いやどっちが先だったのか。
駅前の人込みの中、ユラリユラリと躱しながら空音は考える。
”アレ”を封印ではなく消滅させる。
それこそが秋に報いる事だ。 たとえそれが秋華を、彼女の娘である少女を地獄へいざなう事になったとしても。
「秋、私は……」
空音の零した最後の言葉は人込みの中へ溶けて消えていった。
続
そのうちの一つ。 特に目立った所もない普通のオフィスビルへと気まぐれで入り込んだかのような動きで空音は入って行った。
そしてビルのエレベーターに入り込むと、懐からカード、なにかのメンバーズカードらしき物をエレベーターのパネルの隙間へ差し込む。
すると、エレベーターは階層ボタンを押していないのにも関わらず突然下降しだした。
地下などないのにも関わらずだ。
エレベーターはその後、2、3階層分ほど降りた後停止しそのドアを開ける。
空音がエレベーターから降りるとそこは、狭い通路に左右8つのドアがある場所だった。
そのうち奥にあるドアまで歩いて行き、右側のドアに再びさっきのカードを差し込むとカチリという音と共にロックが解除される。
ためらう事なく空音はそのドアを開けくぐり、眉を顰めた。
その空音の視線の先には雑多な機材、なにかの実験器具らしきものや検査機らしきものがごちゃごちゃと並べられている。
しかし視線はそこではなく、その手前ソファーとローテーブル。 そしてそこにだらしなく座って寝ているであろう男へ向けられていた。
男はよれた白衣を着て、無精ひげを伸ばし放題のヒゲをそればまあまあ見れた顔である30を少し過ぎたその男は、ローテーブルに足を乗せてソファーに崩れるような姿勢で呑気に寝ていた。
空音は無言でその男に近づくと、いきなりげんこつをその男、椋木 辰之助の脳天めがけ躊躇なく振り下ろした。
「ふがっ!?」
椋木は突然の暴力に慌てて起き上る。 そして空音を見てホッとした表情になり、先ほど振るわれた暴力に遺憾の意を表明するべく声を上げた。
「いきなりなにするんだね空音君!?」
「アポ取ったのに寝ているほうが悪いだろハカセ」
冷めた声色と咎める視線に、椋木はいやそれは……などといった声をモゴモゴと上げたが空音は無視することにした。
椋木はその後ソファーに座りなおし、申し訳程度にボサボサの髪を手櫛で整え空音を見る。
それに対して空音は立ったまま、といっても椅子などはここにないのだが、椋木に話しかける。
「秋華が選ばれた」
端的なたったそれだけの言葉。 だが椋木はその言葉だけですべてを理解した。
これから起きる事や秋華の苦難、そして空音の……
いやよそう。 椋木はその考えを振り払うように首を振る。
「そうか、準備は出来ているよ。 隣の部屋にあるから持っていきなさい」
「サンキュ、恩に着るよハカセ」
そう言うと、もう用はないとばかりにクルリと踵を返し部屋から出ていった。
椋木はその姿を見ながら、空音には届かないであろう言葉を掛ける。
「君はそれでいいのかい?」
かつて幼い空音を引き取って育ててくれた燕子花家で教わったのは簡単な術ぐらいだった。
その後、その家に双子が生まれた時出ていったが。
その後養子に入った七霧家ではそr以外のこのユラリユラリといった独特の歩法や暗殺術めいたものなどおおよそ不穏な物ばかりだった。
義母はそういった事は教えなかったが、養父は才能があると喜んで空音に教え、よく義母に睨まれていた。
厳しくも優しい義父母に囲まれ幸せだった。
弥津守高等学校に入学し秋華、秋と出会ってしばらくは……
”アレ”に秋が選ばれ、自分が封縛の巫女に選ばれた。 いやどっちが先だったのか。
駅前の人込みの中、ユラリユラリと躱しながら空音は考える。
”アレ”を封印ではなく消滅させる。
それこそが秋に報いる事だ。 たとえそれが秋華を、彼女の娘である少女を地獄へいざなう事になったとしても。
「秋、私は……」
空音の零した最後の言葉は人込みの中へ溶けて消えていった。
続
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