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終黎 創愛 side
嘘みたいなエイプリルフール
しおりを挟む「アタシ、大きくなったらソージくんのおよめさんになるんだ!」
「えぇ?ズルいっ!リユがお兄ちゃんのおよめさんになるんだもんっ!」
「ダメだね。ヒマワリちゃんはソージくんの妹だろ。だからケッコンができないんだよ。あたしがおよめさんになることはやくそくされてるんだぜ」
──向日葵畑の中にいる子ども。
──何やら、"ソージ"というお友達のお嫁さんになるのはどっちかで揉めているようだ。
──お前は妹だからと言われていた"リユ"が両手で目を押さえて泣き始めた。
──そこへ二人を様子見に来た"ソージ"を見て、揉めていた内容を話した。
「ソージくん。アタシのだんなさんになってくれるよね?ソージくんのおよめさんになったら、いっぱいい~~っぱい!おいしいごはんつくるからね!」
「────■■メ。リユを███たな?」
──聴こえない。
ハ■■。
──だから、聞こえないって。
創■?
──もう少し...。
□■□■□■□■□
「創愛っ!!」
「ぬわああ!?」
名前を呼ばれて突っ伏していた机から起き上がって、椅子がザザっと音立てて床に転げ落ちた。
「次の講義。2階の講義室だよ?」
「ああ悪い悪い……。なぁ美花?小さい頃の幼馴染とかと……、今も遊んだりってするか?」
「なぁに急に?」
自分でも分からなかったが、寝起きの開口一番に出たのがそれだったからと話しをしながら、次の講義を受けるべく教室を出る。自分から質問していたというのに、欠伸とともに右から左に流していき、講義室の席に腰掛けて即座に猫のように背中を丸くして眠り落ちる。
「終黎?おい、終黎。まったく……、そんなんじゃ講義に出ていないのも同じだぞ?」
「あ~、先生。いや、教授と言うのが正しいんすかね?あたしお腹空いたから講義抜けます。次いでにその後お腹くだす予定なので早退します」
「おい!終黎!終黎 創愛ッ!!」
創愛は講師の呼び止めにも応じずに講義室を出て、有言実行してその日は早退した。そんなキャンパスライフを送り続けているのも、中学の時に結婚記念日の旅行で飛行機事故で亡くなった両親の遺した財産を、ハイエナのように取り合っていた親戚の一家に養子として拾われた。
どうせならいい学を積んで来いと無理矢理入れさせられたからだった。好きでもないからと、進級して新学期が始まる前に退学届けを叩き付けて、一度実家。というのが相応しいとも思わない親戚の家に帰ることにした。
四月一日、世間ではエイプリルフールがどうとかで、騒いでいる学生で賑わっている中、キャンパスを去る創愛に別れの言葉を伝えに美花が駆け寄って来た。
「本当に辞めちゃうの?」
「今更遅せぇよ。うん。なんか、親に顎で使われているような人生ってのもパッとしないっていうかさ。それに、本当の親じゃねぇし」
「そ、そうなんだ……。1年間だったけど、大学も一緒に居れて楽しかったよ」
「応。あたしも美花と入れて楽しかったぜ。これはエイプリルフールの中の本当の話ってな♪」
女の子らしからぬと言われると侵害だが、拳をお互いにぶつけて校門を境界線に別れることにした。どうしようもなく爽快な気分だった。何かを終わらせて新しい始まりを迎えようとする、この感覚が創愛は好きだった。
退学したことを直接会って伝えてやろうと思い、親戚の家がある街へ向かう列車に乗るべく駅へと向かう。すると、人集りが出来ていて警察が交通制限をしていた。
別に興味はないけど、事件なのか事故くらいは見てやろうと野次馬に紛れて、警察が立ち入りを制限している脇道を跳びながら覗き込む。そして、脇道から裏路地に繋がっている道の方で、影が高速で動いているのが視界に止まり、目を凝らしてよく見てみると人だ。それも二人。追い掛けられているのも人だろうか。
「あ?おいおい、刀持ってるぞ!?あの男っ!?」
思わず口に出した言葉に野次馬が創愛の方を見るが、既に創愛は野次馬の間を潜って警察が立っている場所へ躍り出て、制限テープの《keep out》を蹴破って中に入って、過ぎ去って行った影の後を追いかけた。
「お、おい君ぃ!?」
「こちらB班。大学生と思われる女性が一人、怪異討伐で閉鎖中のエリアに進入してしまいました。直ぐに追跡して捕らえます」
後ろからそう聞こえてきたと思えば、案の定追ってきた。しかし、警察の連中が拳銃ではなく刀を装備して戦うような相手が、犯人なのは意味がわからない。犯人側が刀を持っているとしてもだが、そもそも創愛の目には人ではない何かを刀を持った男が、追いかけているように見えていた。
「はっ、はっ、はっ……こっちか!?そぉれバケツッ!!」
「う、うわあ────っ!?」
「至急至急っ!!追跡中の女性が逃亡した先、怪異戦闘中のエリアです。ドールを向かわせてください」
通信で増援を呼んだらしいが、これではまるでこちらが逃走中の犯人みたいであった。気にせずに走り抜けた先には、先程目に止まった影が闇の中で、戦いを繰り広げていた。その余りにも非現実的な光景に、今日がエイプリルフールであった事を思い出して、創愛は夢なら覚めて欲しいものだと思いながら、近くのゴミ置き場のタンカーに身を潜めて様子を窺った。
人ならざるものと戦っているのは二人の人間。それも一人は先程見た刀を持った男で、もう一人はクローを両手に着けた女の子だった。
(おいおい。流石に特撮とかの子ども達にウケる作品の撮影にも負けねぇぞってくらい火花出ちゃってるよ……)
「くっ!────麗由、下がれっ!」
「はい!兄さん、後方からわたしがクナイで援護いたします。総司兄さん、どうか気を付けてっ!!」
「…………はっ?」
背筋が凍った。創愛は二人の人間が呼び合った名前に、覚えがあった。すると、前後で陣営を組んで麗由と呼ばれていた女の子が、高く飛躍してクナイを斜め横一列に投げて、被弾した人ならざるものに刀を男が突き立てて走って行き、中心に向かって突き刺した。
一瞬眩い光を放って、人ならざる者は消滅した。そして、無線を手に取ってどこかへ連絡を取り始めた。
「こちら、神木原班。無事、怪異を討伐した。…………何?一般人の女性がこちらに?分かった直ぐにここを退散する」
「怪異と戦闘しているところを見られていたのなら、殺処分はこちらで行います。……はい、分かっています。現状の報告は以上です」
無線で話している内容的に今の出来事を目撃した人間は、殺す決まりになっているようだったが、創愛にはそんなことは聞こえていなかった。そんなことよりも、今すぐ確認したいことがあった。
「総司……きゅん?それに……ヒマワリちゃん、だよな?」
「──っ!?見つかったか!?」
「待って兄さんっ!!今この人……わたしをヒマワリちゃんって……?もしかして────創愛さん?」
「っ!?創愛、だと?終黎 創愛?お前……」
やっぱりそうだと安心して、物陰から姿を現して二人の方へと、歩き始める創愛。今日の昼間に懐かしい夢を見た。それは、幼い頃によく遊んでいた友人との思い出。
神木原 総司と麗由、この二人とまさかこんなところで再開するとは思ってもみなかった創愛は、嬉しさのあまり足取りが早くなった。だが、現実は残酷なものであった。
「え?なんだよ?そんな……物騒なもん、向けちゃってさ?」
「────。」
「悪いな……。お前、見ていたんだろ?俺たちが怪異と戦っているところ」
「かいい?なんだよそれ?さっきのでっかい影のことか?」
純粋に思った疑問を口にした途端に、総司が向けていた刀を振って斬りかかってきた。運動神経が特別優れていた創愛は、それを急いで避ける。しかし、コートの肩部についた斬り口から出血していた。恐ろしい斬れ味の刀に驚くのと同時に、追い詰められた自分に迫って来る再会を果たせた、かつての友人に恐怖した。
このままでは殺される。そう思っている以上、逃げなきゃ行けないのに脚が動かない。それどころか、膝から下に徐々に力が入らなくなり、その場に尻もちを着いてしまった。そして────。
━━ジョロロロ......
失禁していた。全身が不規則に痙攣を起こしているせいで、満足に手を動かすことも出来ず、言い表しようのない感情に戸惑っていると、麗由が創愛と総司の間に立った。両手を広げて総司の方を向き言った。
「兄さんっ!!創愛さんは、わたし達の……」
「麗由……。それでも、これは任務だ……。俺たちを見たものを生かして返す訳には、いかないっ!!」
何がどうなっているのか分からなかった。創愛は、震えながらも壁に寄りかかりながら起き上がった。その間もお互いに自分の処遇をかけて口論を続けていた。するとそこへ、人形がギチギチと機械音を立ててこちらへ向かってきた。
(次から次に、なんなんだよ!?あたしはこのまま殺されるのかよ?唯、幼馴染に会っただけだってのに)
「そこにいる女性だな?警察の制限を無視して怪異の討伐エリアに入ったというのは?」
「は、はい!ですが……その……」
人形とともに眼鏡をかけた性格のキツそうな、いかにも漫画に居そうな上官らしき女が現れた。麗由が緊張を張り詰めらせて返答した辺り、かなりのお偉いさんなのだろうと、余裕が無いなりに察した創愛の前に立って顎を持ち上げる。
まるで、頭角を確認するように右に左に顔をスライドさせ睨むように見た。やがて、手を話すと連れて来た人形に来るように手招きをして口を開いた。
「合格だ」
「はぁ?」
「合格ってまさか!?」
その一言を聞いた総司が目を見開いて、上官に噛み付いた。しかし、その状況を確認しようとしっかり立ち上がろうとしたその瞬間、創愛は腹部に熱いものを感じた。同時に急に眠気が襲って来て意識が飛んでしまった。
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「よし、運べ。いいか?目を覚ましたら、直ぐに怪異検知にかけろ」
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「うっ……」
嫌味を言い返してアリスは、創愛をドールに担がせてその場から立ち去った。麗由はその場に泣き崩れ、総司もまた大人しく刀に反射して映る自分のことを哀れむように眺めていた。
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