【完】意味が分かったとしても意味のない話 外伝〜噂零課の忘却ログ〜

韋虹姫 響華

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終黎 創愛 side

目覚めろ!終焉の秒針

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──夢...?


「総司きゅん」
「?……なんだ?」
「高校からは違うところになっちゃうけど、アタシ総司きゅんのこと忘れないから。だから、これ……」
「ん?…………ミサンガか?」
「うん♪家庭科の授業暇過ぎて、余った布で自作したんだ♪あとこれも♪」
「布で作った首飾り……?こんなの着けて学校になんて行けないだろ」


──そうだ。


──お揃いの首飾りを卒業祝いであげたんだっけ?


「お揃いなんだから、着けてよ。ヒマワリちゃんの分は……ないんだからさ?」
「なら、麗由にあげることにする」
「えぇ?それはヤダ!!アタシと総司きゅんのペアルックなんだからっ!!」


──この後だっけ?


──総司きゅん達のご両親が...死んじゃったの...。


 視界に刺すような、強い照明の熱を感じて目を開く。手足が縛られていることに引いたり回したりして、身体が自由にならないか試してみるが、それは叶わぬ願いであることを思い知った。
 そんななか、眩しくなっている目線の先に強化ガラスで出来ているであろう窓の向こうにある部屋から、スピーカーを通じてこちらに向けて声をかけてくる。
 その声の主は、アリスであることがすぐに分かった。

「気分はどうかな?終黎おわり 創愛はじめ。君は
「気分については返答する権利はなしなのか?はっきり言って最悪だよ。それに総司きゅんに何したんだ?ヒマワリちゃんも、あたしを覚えていた。なんなんだよこれ?出せよっ!!」
「まぁ、そう慌てるな。言ったはずだ、君は選ばれたと」

 言っている意味が分からなった。ここへ来る前に再会した、幼馴染の神木原 総司に刀を向けられて殺されかけたところに、現れた人形に気を失わされて、こんな訳の分からない場所へ連れてこられたことが、何よりも疑問になっていた。
 すると、拘束されている台座が垂直に起こされると同時に、複数の人間がモニター会議を広げるように、創愛の周辺にデジタルモニターで現れた。

「皆さま、お集まりいただけましたね?これより、我らを発足していただく為のデモンストレーションを開催いたします。出資者並びに、担当審議会の皆さまに今から10の人間を実験体にした怪異の発現をお目に入れます。これにより、兼ねてより都市伝説と恐れられていたものの存在が何なのかが判明すると同時に、それを我々が使させられることを証明いたします」

 状況を理解することが出来ない創愛は、自身が必要最低限の部分を隠して、他全てが肌を露出させた格好にさせられていることに気が付いた。そして、閉鎖された密閉空間に入ってきたガスマスク付きのスーツを来た研究員が、手に持っているものを見る。
 その手には、紫色の液体が入った瓶を装填された注射機が握られていた。シュコォォとガスマスク越しに息をしている音が近付いて来ると、口元に布を押し当ててきた。それは麻酔液を含んだ布が、鼻で吸い込んだ少量だけで全身から力が抜けてしまい、抵抗することも出来ない状態になったところに、注射機を打たれた。

「今注射しているのが、その人間の体内に潜伏している都市伝説や神話の噂が形となった存在。怪異を表に出させる薬です」

 グワングワンに頭が回ったような感覚の中、アリスの説明に対して「まるで魔女狩りみたいだ」や「その薬の効能が本当のものかも怪しい」等と、賛否両論が飛び交っていた。
 そして、注射を終えてからものの数分で創愛の他に連れてこられたという人間達が、苦しみ出している様子が創愛のいるところにもモニタリングされた。あるものは肩甲骨辺りから、翼を生やし暴れ回る。そして、またあるものは体から出てきた黒いローブの人型と、向き合ってテーブルゲームをさせられていた。

「なんなんだ……これ?あいつはみたいなやつに抱きつかれているっ!!あっちは、本物を当てる格付けをさせられているのか?何がどうなってんだよ!?」
「おや?終黎 創愛の怪異が反応していない……」

 アリスがそう言うのを聴いて、初めて気付いた。変な注射を打たれたのに他の連中と違って、創愛にはなんの変調も起きていなかった。すると、アリスは注射の追加を命じると同時に楽しげに言った。

「皆さま。我々が遂に探し求めていた逸材を見つけました。彼女こそ、この狂った都市伝説抗争に存在になるでしょう」
「っ!?また打つのか?────ウプッ!?」

 後ろから手を回されて、布で口を塞がれると今度は両サイドから、紫色の液体を注射機で複数打ち込んでいった。今他の部屋で苦しんでいる奴は、たったの一発で変調が現れていたにも関わらず、創愛には何発も注射していった。
 しかし、その結果は変化なしと審議会の人間が薬の効果を疑っていた自分を称えるように、「やはり嘘じゃないか」と鼻で笑った。創愛自身も不快な思いはしていても、痛みや苦しみは一切なかった。

「現在、4名が死亡し1名が暴走して逃亡しました。アリス局長!!やはりこんなやり方では駄目だったんですよ」
「無事に怪異を取り込めた人間は4人。これくらい想定内です。それよりも、終黎 創愛です。どうやら彼女は体内にではなくに怪異を宿しているようですので、子宮に薬液を注入しなさい」

 周囲の反対を振り切り、創愛を拘束している台座を横に倒して、研究員が注射機を針をカテーテルに替えて、下半身が頭より上になった状態の創愛に、容赦なく挿し込んでいく。

「おい!ふざけんなっ!!元カレとホテル行った時だって、こんな恥ずかしい格好した事ねぇぞ!!!!てか、まだ───っ」

 高校時代の恋愛歴を大声で叫びながら、唯生命を育む場所に目掛けて注射されるのを受け入れるしかない創愛は、恥ずかしさに勝る熱い何かをに感じた。


━━カチッ...カッチッ...カッチッ...。


 それは心臓よりも内側で、時計の針が動く音を奏でていた。心臓の音が時計の秒針が動く音に変わった感覚に、瞳孔が引ききったまま放心する創愛を観てアリスは、盛大に喜び声を上げていた。

「見てください!過半数が怪異に打ち勝つことが出来ました。しかし、残念です。今のデモンストレーションで我々が用意した怪異を発現させられる薬液はそこを尽きました」
『巫山戯るな!!彼らは最早だろう?それをどう処理させろというのだ?』
「簡単なことです……。既に私を含めた怪異を身体に宿して使役する者はおります。それらは全ての処置が施されています。つまり、生きている人間によっての干渉はなく事象を解決する。それが噂零課の存在意義です」
『それは、をさせるというのか?それに死人には税金を課せられないだろう?』
「これだから、旧政治体制に囚われたものは嫌なのです。死人特別法の同設も打診案に書いておいたはずですよ?」

 実験に使われた人間の事は誰も気にかけずに、いきなり政治の話を始める参加者達。これからの国の動きをどうするかの揉め事が大きくなる一方で、館内にアラートコールが鳴り響いた。


━━緊急事態、緊急事態。逃走した被験体の怪異化が深刻化を急速で進めていき、現存の怪異ハンターでは対処困難。増援を手配出来ない場合は、至急撤退をいただきますようお願いします。━━


「どうしますか局長?とりあえずは、怪異を取り込めた4名は収容しております。例の5人目の被験体は────って居ませんよ?まさか、脱走?」
「いいえ。向かったのですよ。に……」

 アリスは、通信が切れてデモンストレーションが終了したことで、張り上げていた声のトーンから地声に戻って部下にそう告げると、戦果見届けると一言告げてモニター室を後にした。

 施設内は電気系統が破壊されて点滅しているライトや、火花を散らせている電線がぶら下がっていた。防衛に配備されていた兵が倒れているのを見て、無線を抜き取って傍聴する創愛は、やはり思っていたとおりの状況であることを知った。
 訳の分からない実験に、付き合わされてさっきモニターで見えていた全身が変色した人間が怪異になって、暴れ回っているところに総司と麗由が居る。そして、苦戦を強いられているということは二人が危ないということになると、焦燥した思いで道も分からない通路を歩いた。

「お?あたしの服だ……。にしても、身体が熱かったのはもう治まってる?だいたい、こんなとこに注射打つなんていい趣味してやがるせあの変態女」

 通り過ぎて開きっぱなしにされている部屋の中に、ここへ連れてかれる前に着ていた服と鞄が置かれているのを確認した創愛は、このままの格好で外に出るのは嫌だったので、即座に着替えることにした。
 下腹部を指すって実験で着させられた下着を脱ぎ捨てて、自分の服を着る。気を失う前に汚したはずのパンツが、綺麗になっていること。着心地調整で仰いだ際に出る柔軟剤の匂いが、自分のじゃないことを確認して洗濯されていることが分かった。
 こうしてはいられないと、足早に外を目指して廊下を走った。外は夜のままあることを見て、どうやら一日以上は経過しているのだろうと思っていると、近くで戦闘音が聞こえた。その音の出処に向かって走った。

「ぐぉぉ!!死ね、死ね、ジィネェェ!!??」
「うっ!?く、ぅぅ!?う、はぁ!!」

 そこには、怪異と闘っている麗由の姿があった。闘っている怪異は麗由に対して、明確に殺意を持って攻撃していた。そのすぐ近くで、もう一体の怪異と総司が対峙する。こちらは、拮抗した戦いを繰り広げていた。
 しかし、怪異を呼び起こす薬投与で暴走したのは、一人のはずだった。となると、最初からここを狙って来た怪異が居たのだろうか。

「殺したく、ないっ!!死にたくも……ないんだっ!!」
「…………。こいつは、?麗由っ!!お前の方がだっ!!??」
「く、ぅぅぅぅ!!」

 総司の一言を聞いても既に、地面に背を着けている麗由では、怪異の押し込みに耐えるのが精一杯であった。創愛は、二人に命の危険がないか心配してきたことに変わりはないと、麗由に覆いかぶさっている方の怪異に向かって、蹴りをお見舞いした。
 近くに置かれていたダンボールの山に向かって、吹き飛んでいく怪異を見向きもせずに、麗由の肩を掴んで抱き起こした。

「大丈夫かヒマワリちゃん?」
「は、創愛さん。やっぱり此処に……。グッ!?逃げてくだ……さい」
「馬鹿野郎ぉ!!お前、怪我してるじゃんか?あたしはお前を置いてなんて行けない!総司きゅんのことだってそう。何がなんだが分かってないけど、こんな危ないことに2人が関わってるんならあたしも!」

 まだ、信じられないことでいっぱいだけど、再会出来た幼馴染が傷付くところなんて見たくない。
 創愛がその思いを口にした直後、蹴り飛ばされた怪異が創愛を狙って突っ込んできた。前に出る麗由が防御を取ると、総司が間から刀を入れて怪異の攻撃を引き受けてその場から離れた場所に打ち合いをしながら移動した。
 その後を麗由が追いかけたので、創愛も直ぐに着いて行こうと歩み始めた時に、横から衝撃が生じた。なんと、今度は総司と闘っていた怪異が、創愛に襲いかかったのだ。

「ぐはっ!?こん、のぉ……力、強っ」
「頼むっ!僕は殺したくない。死にたくないだけなんだ!」
「ぐ───、だったら……首、締めん…な」

 泣き言いながらも、人間離れした握力の掛け方で首を絞め持ち上げてくる怪異に、必死に脚を振り回して身体を蹴りつけるが、その手が緩むことはない。不意に秒針の音が、また鳴り響いていることに意識が向いた。

「はっ!?兄さん大変、【ジキルとハイド】の片割れが創愛さんをっ!?」
「…………、だが、こいつを抜けて向かうには……間に合わない」

 心配してくれている二人の声も、聞こえなくなってくる一方で、時計の針の音は一層、大きくなってくる。体に力が入らなくなりだらんと、腕を地に向けて降ろした。
 朧気になった虚ろな目を向けた先には、アリスの姿があった。そして、アリスの口が動いているのを見て、何を言っているのか聞き取ったその時────。


さあ、目覚めてみせろ【終焉の秒針】ラグナロッカー


 途端に地中から、地面に風穴を空けて【ジキルとハイド】のジキルを吹き飛ばした。

「カハッ!!ハッ、ハッ、ハッ……ンン……。これ……あたしの?」

 膝を着いて息を整える創愛の目の前に、窮地を助けてくれたが宙に浮遊して、持ち手を創愛に向けていた。首元の縺れ。まるで、ネクタイを整えるように触った手でソイツを握ると、心臓の鼓動代わりになっていた、秒針の音が消えた。
 同時に、手に持った瞬間にそれが何のかが頭に流れ込んできた。

「お前……ずっとあたしを探してたのか?そっかぁ♪んじゃあ、よろしくなラグナロッカー♪」

 起き上がって向かってくるジキルを横斬りで、応戦してそのまま刺し違える。頬にジキルが持っていたナイフによる切り傷を負うも、ジキルの方は斬られた腹部を中心に光を放って砕け散った。

「ヤバッ……!?あたし、今の時点でになったか?」

 勢いでラグナロッカーを振るって、ジキルを撃破した。しかし、それはさっき一緒に実験体にされた、人間であることに変わりはなかった。
 そんなふうに動揺している創愛に、アリスが声をかけて来た。

「安心しろ。既に死亡者認定手続きは済んでいる。最も、ついさっきだがね?」
「お前……。あのな?」
「護りたいのだろう?幼馴染のあの兄妹を?こんなところで私と無駄口を叩いている暇があるのか?」

 創愛の神経を逆撫でするように言うが、その言葉のとおりであった。自分が総司と麗由を助けるために、此処へ来たことを忘れかけていた創愛は、手に持っているラグナロッカーを使って一先ずは、ハイドの方も討伐することにした。

 ハイドと闘う二人の元へ着くと、二対一の状況にも関わらず優勢を取っていた。それどころか分かれていた、反則面が抑止力になっていたことで力を制御されていたが、創愛が倒したことで全力を出せるようになっていた。

「ぐはっ!!」
「うわぁ───あうっ……」
「麗由っ!?くっ、こいつ……」

 力任せに振り回したナイフから放たれた瘴気で、二人を吹き飛ばし壁に頭を打ち付けた。その拍子に麗由が気を失ってしまった。総司は刀を地面に突き刺して、辛うじて起き上がれる状態に────、勝敗は決していた。
 今、ここで闘えるのは自分だけ。幼馴染の二人を助けられるのも自分だけ───。しかし、ここから走っても、間に合わない距離にハイドは居る。


──空でも飛べれば別なんだけどな...


 そう心中で呟いて、長剣のラグナロッカーの切っ先が斜めに地に着くように、持ち手を腰元に落としたその時、ラグナロッカーの形状が変化した。

「あ……?うぉ!?ウォォ────ォォォ!!??」

 切っ先から地面に向けて光弾が放たれて、爆風で一気にハイド目掛けて飛躍する創愛。しかし、その速度を自身で調整出来ず────。

「バカッ!?ぶっかるぅぅ────っ!!」

 その言葉が総司の耳に入る頃には、両膝がハイドの側頭部を直撃していた。そして、そのまま仲良く地面を転がって総司から、距離を置いた場所まで回転した。
 身体を労わるように起き上がりながら、ラグナロッカーがどう変わったのか見ると、先程までの形状が時計の針のような形をしていたのに対して、今度は時針と分針が重なりかけているような形となり、刀身の中央部には砲台が設けられたブラスターブレイドに変わっていた。

「というか、これほぼ銃じゃん!?うわっと!!」
「殺してやる♪ジネ♪ジネっ♪ゴロズゥゥ────ッッ!!」
「へへっ悪いな♪あたしまだ【終焉の秒針】コイツと出逢って間もないだよ。簡単にっ!!」
「ハハッ────アッ……!?」

 ナイフで斬りつけてくるハイドが、ガバッと腕を頭上に上げてナイフを突き刺そうとして来たところを、股下に潜り胸部に砲台部分を突き刺して、発砲する引き金を引いた。すると、放たれた光弾に頭部を焼かれて黒い霧となって、ハイドが音なく崩れ去りながら消滅して行った。

「ハッ、はっ、はっ……。ふぅ~~~、終わ……った?」

 まるで吐く寸前まで友達と飲み行って、家に帰ってきた若者のように力を抜いて大の字に寝そべって緊張の糸を解いた。

 総司はあっけに取られつつも、吹き飛ばされた麗由を起こして創愛のもとへ走り寄った。
 しかし、その時の兄妹の表情はあまりいいものではなかった。幼馴染である創愛が今手にしているのは、自分達と同じ怪異の力。怪異の力を使って怪異と闘うということは、になるということ。つまりは、生きながらに死人となったことを意味していた。
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