【完】意味が分かったとしても意味のない話 外伝〜噂零課の忘却ログ〜

韋虹姫 響華

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終黎 創愛 side

噂零課

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 訓練施設に来てから、三週間の時が経った。
 座学の前の実践訓練で相手を探す創愛はじめは、怪異の力を使うことができるようになった、代伊伽たいかの自主トレを眺める。
 代伊伽の怪異【死の商人】デッドマイスターは、秤の振り子を支える棒が武器となって使えるようにロッドとなった。形を持って、代伊伽の意思を聞き入れさせる訓練をしていた。
 手を使わずに座禅を組みロッドを浮かせて、自分の手に握れるように念で動かすべく、瞑想に集中するも、あと一歩のところで、地面に落ちてしまい集中が切れた代伊伽は、項垂れながら仰向けになる。

「だぁぁ……。あたい、旦那と子どもにまだ連絡も入れてねぇんだぞ!もう、気になって気になってしょうがねぇ!!」
「へぇー、お前結婚してたのかよ?しかも子持ち?」
「あん?なんだ創愛か……今日も組手相手居ないのか?」
「まぁ、そんなとこ。それより大丈夫なのかよ?旦那さん、心配してんじゃねぇのか?」

 お互いの家族構成とかも知らない人間同士で、怪異を操ることが出来るようにと訓練施設で、訓練を受けさせられている創愛達も、最初はほとんどが親や同居人に連絡をしたいと嘆いていた。
 しかし、施設に到着した訓練生に向けて、政府に発足を許可された噂零課の局長アリス・ルードは、衝撃の一言を告げた。

「安心したまえ。君たちは既に世間では死んだものとされている。それぞれの親族には我々の方で説明させていただく」

 その一方的で意味不明な言葉にその場では、大声を上げる一同であったが後に見たテレビや情報発信で、本当に死亡者に認定されたこと。交通事故や殺人事件に巻き込まれて死んだと、報道されているのを見てアリスが嘘をついていないと知った。
 その事実に耐え切れずに、自決する者や抜け出そうとするものも居たが、いずれも取り押さえられて拘束され鎮静剤を打たれるか、その場で殺されるかの末路しか辿らなかった。
 組手を終えて、更衣室でシャワーを浴びながら、お互いに逃走も反抗もせずにこうして、怪異を扱うことに真剣に取り組んでいた。

「しっかし、あたいが成績2位でおめぇが1位なんだから、笑っちまうぜ」
「そういえば、蘇鉄そてつのやつは情報部に入るために知識工学めっちゃ頑張っているんだっけ?」
「ああ。あいつ頭の良さはピカイチだから、多分なれるだろうさ」

 同じ窮地を乗り越えたもの同士のことは、よく話すようになっていた。創愛はシャワーを止めて、会話を切り上げようとしていたが、聞こえてくる角部屋のシャワー室の方を見て、渋々とした表情で代伊伽に向かって「あれ……なんなんだ?」と問いかけるも、同じ表情で分からないと意思表示する。

「あっ///教官様ッ♡いけませんわぁ///嗚呼……♡そこはっ……」
「なに馬鹿なこと言ってんのよ?貴女が早く出ないから、注意しに来ただけじゃない」
「嗚呼♡チューだなんて///接吻と……言ってください♡ハァァン///ソワカソワカァ、ああぁあぁぁ!!!!」

 女子更衣室にいつも鳴り響く、卑猥な声を上げる女性。
 それは、創愛が注射を打たれた他の人が異変を起こした中で、別の拠点で用意された十名の中で、ところをモニターに映されて見ていた女性であった。
 無事に怪異を自身のものにしたらしいが、何がきっかけか男女問わずにいきなり発情し出しては、鼻血を出したり悶絶し始めたりする。極めつけは、シャワーの利用時間が長いことであった。
 こうして、組手の女教官に注意されるまで出て来ないため、人数が少ないとはいえ一つシャワー室を専有されていることに、迷惑していた。

「まぁ、行こうぜ座学……」
「そうだな……」
「あんっ///教官様ッ。今、拙僧のお尻を鷲掴みに……嗚呼♡なられましたわぁぁぁ///」

 何故か女性が愛で声を上げる度に、更衣室内に桃の香りが濃く立ち込める。創愛はその匂いに頭痛を起こしてしまうため、そそくさと避難するのであった。

 今日で訓練施設での生活は終わり、噂零課のそれぞれ配属先が発表するための座学がおこなわれる、研修室に到着するとすぐに席に着いた。アリスから、もう何度も聴いた話を、おさらいにと説明される。

「いいか諸君?君たちは私たちによって選ばれた。怪異をその身に克服し、人間社会を脅かす都市伝説や噂の具現化たる怪異を倒すことが出来る存在となった。しかし、代償は大きい。我々の目的は。つまりは、怪異に染まった人間は勿論のこと。君たちもまた……怪異に染まっている人同様に、この世界に訳だ」

 だから、怪異に関わる者の全てをこの世には居ないものととして、処理したであったことを世間に残すことで、噂の隠蔽を図るというのが噂零課の意義であると、洗脳教育のように言い聞かさられた。
 冷静に考えて、世間一般に怪物が実在していることを公表すれば、集団パニックだって起こしかねない。政府はどうあっても、混乱を避けたいがためにここまで大掛かりな事を施策したものだと、創愛は欠伸をしながら内心思っていた。

「だけどよぉ?なんだってあたいらに決定権はねぇんだよ?あたいには家族が居るんだぜ?死亡したって報告されたとか言ってやがってたけど、あたいはもう家族に会ったらダメだってのかよ?」
「無論だ。死人に口なしと言うからな。それに、君たちに決定権がないのは我々にも時間がなかったのだよ」

 その話も何度も聞かされていることだ。よくある話と言えばそこまでだが、政界内でも派閥というものはあり怪異には、怪異でしか太刀打ち出来ないことをお偉いさんは受け入れたくなかった。怪異を操れる人間というのは、未知数な部分が多く、自分達の安息値脅かす恐れがあったからであった。

 アリスは、怪異を扱える人間を証明することで、怪異討伐を正当なものと認めさせるために、強行手段に出た。それでも怪異の種類や、強力な怪異を持つ人間を見つける必要があった。
 しかし、そこに時間をかけることも出来ずに、怪異を宿している人間を手当り次第に、かき集めたのだと説明した。

「すまないことをしたとは、思っているわ。でも、そうでもしないと怪異の増殖を抑えることは出来なかった。勿論、君たちのように強引に怪異を引き出すことなく怪異ハンターとなることを志願したものも居る」

 創愛はその言葉に引っかかっていた。確かに、自分達は薬液を刺されて怪異の力を引き出させられたが、総司と麗由はそんなことはした事がないと言っていたことから、この話は嘘ではないのかもしれない。しかし、総司達は果たしてで怪異ハンターとなったのだろうか。
 そんなことを考えているうちに、最後の座学は終わったので蘇鉄と代伊伽のもとへ向かい、これからの移動先が蘇鉄だけ違うことを知り、別れの挨拶をしていた。

「なんも、一生会われへん訳やないのに大袈裟やね?あんさんらは。まぁ、でも創愛はんと代伊伽はんは揃って同じ部隊に入るんやろ?仲良くしろな?」
「お前に言われなくたってあたしらは最強コンビ間違いなしだぜ♪なっ────、ん?」
「…………」
「家族のことか?」
「あ……ああ。ちょっとな……」

 そう言って、考え込んでしまうのも無理もないことだ。
 創愛と蘇鉄は同棲している人間もいないが、代伊伽には娘と旦那がいる。それなのに、政府の勝手な派閥争いに巻き込まれて、家族には死んだと報告されていると知って、絶望感を感じていたのであった。
 涙は見せないものの、まったく元気がない様子を見て、蘇鉄が両手を頭の後ろに組んで独り言のように大きな声で言った。

「あ~あ。こんなら、表向き死人扱いの。家庭環境には全く支障出ないっちゅう制度やったら、良かったのになぁ」
「蘇鉄……おめぇ?」
「なんや?ワシ、情報部に行くんやで?そこはなぁ、政策検討にもひとかみ出来るねんでぇ?」
「お前……、やっぱ良い奴だな」
「期待はせぇへんでくれや?せやけど、ワシもこのままなのややし……。給料ないねんて……死んどるから。アホ抜かせよな?ワシら飯食わんとほんまに死ぬってのなぁ~~」

 細目を吊り目のままニコニコして、代伊伽の背中をポンと叩き踵を返して、研修室から姿を消した。

「まずは、あたしらの命を繋ぐこと考えねぇとだな。代伊伽そう決まれば特訓しよっか!!」
「そうだな!ここでウジウジ考えてたってしょうがねぇ。あたいは生きて家族に再会するために、怪異って野郎をぶっ倒すぜ!!」

 お互いに腕を前に突き出してタッチして、訓練場に向かった。打ち合いの組み手を始めながら、怪異の種類について振り返りをするように、会話のキャッチボール材料に口に出した。

「人間が自ら噂に触れて変異した元は人間のタイプ。変異型ッ!」
「人の噂が言霊となり、姿を得る概念型ッ!あたいがもつ怪異もこのタイプの怪異が得意分野だぜッ!」

 その他にも、直接的なところで行くと神話型。文字どおり神話性の生物や神の由来した怪異のことで、概念型同様に人から怪異になることは少ない。伝染型や電脳型といったインターネット内に潜伏する怪異や、祟り型、怨念型のように人間の感情が独りでに、怪異となるケースもある。
 それらを音読していい汗をかいたところで、組み手の手を止める。そして、自販機で飲料を購入して、一気飲みする創愛は代伊伽と肩を組んだ。しかし、明日からの配属先での勤務を、ともに頑張ろうなんてかっこのいいものではなかった。

「ところでさ……?幼馴染とかに久しぶりに会った時に、デートに誘う方法って知らね?」
「はぁ?なんであたいに聞くんだよ?」
「いや、だってお前。結婚してんだろ?」
「あたいらは幼馴染とかじゃねぇんだぞ?あ~ん、そうだな……普通に久々に食事なんてどうだってストレートに行けばよくねぇか?」

 正直に言って代伊伽も多くの恋愛経験を経て、旦那と娘の居る家族を得たわけではなかったので、難しい質問であった。そんな苦し紛れなアドバイスに対して、目をキラキラさせていた創愛。
 まるで、天啓を得たかのように代伊伽を褒め讃え、自販機の好きな飲み物を奢ってやると言って、お礼のジュースを買ってあげたのであった。

 果たして創愛は、幼馴染である総司とデートに行くことが出来るのだろうか。それは、一人で勝手に舞い上がっている創愛を見ていた代伊伽も、思っていたことだった。
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