【完】意味が分かったとしても意味のない話 外伝〜噂零課の忘却ログ〜

韋虹姫 響華

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【毒酒の女帝】 side

視察列車、囮作戦① ─セミラミス視点─

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    アリスの部隊は動き出した。【蠱毒】は、左翼に展開しようとしている部隊の攻撃を命じ、それを見送るとため息をついて横を睨んだ。

「やだなぁ♪ぼくは今回の襲撃に協力してあげるだけだよ♪それとも、ホウライくんのお節介にお怒りなのかい?」
「その両方じゃ。あんな奴ら妾だけで事足りるというのに、余程信用されていないらしいな?」

    セミラミスは、ルンペイルとその後ろに控えている【夏の大三角形】ドリアン エスティーヴォを睨みながらそう言うと、遠くの山岳を指さした。その先には、メガホンを持つホウライの姿があった。
    しかし、そのホウライは【不死の蜃気楼】ホウライ本体ではなく、立ち去る前に仕込んでいた怪異があり、自分の分身を怪異で作り出して、予め両者話し合っていたこの戦地に仕込んでいた。それを呼び出すためだけに配備された、所謂アラームの役割として存在していた。

「まぁ、我が主の粋な計らいは、受けておいて損はないと思うけどなぁ……。リーラ、アクイラ。俺らはあの列車……やればいいんでしょう?」
「そうですね。では女帝殿?拙者達はこれにて、御免……」

    一方的な言い方で姿を消す三体に対して、口笛を吹いてその場から動こうとしないルンペイル。流石に業を煮やしたセミラミスは、鎖を差し向けて脅すように問いただした。

「まさか……?貴様、歌姫らしく後方支援……等とは抜かすまいな?」
「勿論さ♪好きにこき使ってくれていいよ♪」
「ふぅむ。では、貴様には中央を陣取っているリストに出してこなかった怪異ハンターの相手を頼むとしよう。なぁに、妾の毒を受けて覚醒した怪異使いではない故、妾も目的を果たしたら直ぐにそちらへ合流してやろう」
「お易い御用ってやつだね♪その人倒せたら、他のハンター達も殺っちゃっていいんだよね?」

    意気揚々としている様が癪に障る。
    しかし、今回の作戦でセミラミスの目的は果たるのであれば、後続のなり損ないの怪異使いなんて、どうでもいいことだった。
    セミラミスは《Mrs.POISON》として、アリス達に接触していたのはあくまでも自分達と同じ、インフェクターを見つけ出すための策略であった。そして今、セミラミスは感じ取っていた────、自身の毒に人間の気配を。

「最前線に来るか……。では、妾がそこへ向かうとしよう。しかし────」
「どうかしたのかい?何やら、きみの予想は外れたって顔をしてるみたいだけど?ま、いいや♪ぼくはその中央陣営に襲撃をかけるとするよ。じゃあね~~♪」

    何処までも自分勝手なやつだと、不愉快極まりない表情でルンペイルが消えるのを見送った。誰もいない空間になって一人、空を見上げて考えた。
    血毒によって、怪異を無理矢理引き出された者たちには共通して発生しているが、起きている気配がないのだ。それどころか、今も血毒によってその怪異は可能性を秘めていた。

「だが、どうあれコチラ側に堕としてしまえば結果は変わらぬ。幸い、毒の量が多くて妾の毒は効かずとも、彼奴の心は毒伝いに手に取るように分かる。本心を解き放ってしまえば、ヒトの精神では怪異は克服出来まいさ……2も怪異を身体に飼っているのでは、尚のこと無理な話よ」

    セミラミスの血毒の実験には、既に怪異の力を使っていた人間も何体か交えたようだが、それは成功は見られなかったようだ。
    その他は、既成している怪異との反発反応や抑え込めていた怪異が暴走して、絶命したと報告を聞いている。
    アリスの狙いが何であれ、所詮はごっこ遊びの延長としか考えていないセミラミスにとって、今回の作戦のリークこそ大掃除の予約を取り付けたに過ぎなかった。

    見事、作戦どおりにお目当ての人間と接触を果たせたセミラミスの前に、思わぬ邪魔が入った。もちろん、意識がこの一箇所に集中していれば、当たりもしない不意打ちであった。
    しかし、セミラミスは同時に【蠱毒】とルンペイルの様子を遠視して、リアルタイムで確認していた。その集中力の分散が災いして、横からの攻撃で首が吹き飛んだ。

「貴様ァ!?唯では済まさぬッ!!」
「…………っ」

    手元が狂って、狙いが定まらない。それは激昂しているからではなく、他の戦況が想定外のものとなっていたからだ。左翼に向かわせた【蠱毒】の反応が消え、中央に居た秘匿された怪異ハンターの実力は、油断していたとはいえルンペイルを追い込んでいたのだ。

「ぬぐぉぉ!!」
「う…っ。つ…強い、やっぱり」
「当然じゃ!!あの小娘を引き込み損なったことの責任は、その生命で取ってもらうぞなり損ないがァ!!」

    毒霧を撒き散らした。セミラミスのその毒霧を大量に吸った相手の怪異ハンターは、吐血し膝を着いた。血毒を接種されているとは、たかが一回打った程度では、セミラミスの毒の耐性や抗体は付けられるものではない。
    斬り落とされたて、地面に落ちた首が毒液と消え、首の切り口から毒液が溢れ出るようにして、吹き飛んだ首を再生させる。そして、脱力していくハンターに向けて、鎖を鞭のように扱い殴り倒していき、後頭部を踏み付けて下に溜まった毒ガスの海に沈めた。

「くたばるがいい。所詮、貴様の使う霧隠れなぞは、妾のこの毒霧の模造術にしか過ぎぬぞ?」
「かはっ────。」

    その間にも、遠視で覗く戦況は惨敗と言っても等しいものであった。


□■□■□■□■□


━ 数分前 中央陣営 ━


「どうも~♪怪異ハンターの皆さん?遠路はるばるご苦労様ですが、死んでもらうよ♪ラァ~~~♪アァァ~~~~~♪」

    ルンペイルの歌を耳にした、調査隊や救護班の人間がお互いに殴り合いを始める。それを二人の怪異ハンターが止める様子を、指揮者の真似事をしながら笑って見ていると、セミラミスの言っていた秘匿されたハンターが現れた。

「お前が怪異の大将格の1体らしいな?」
「だとしたらどうするのかな?あの人たちを取り押さえているハンターのお二人さんは苦しいそうだけど、アリスって人ときみは全然平気みたいだね?右翼にいるのは1人だけみたいだけど、ぼくの用意した特別ゲストに苦しめられてるっぽいから、いいよ?」
「────っ」
「遊んで────」

    遊んであげると言いかけたその時、ルンペイルの被っていた帽子が吹き飛ぶ。


━━【全能王下す裁き】オーディンッッ!!!!


    宙に舞い上がった帽子が、細切れになった。しかし、紙一重で音速を越えて抜刀された一撃を避けたルンペイルは、ステップを踏んで距離を置くと触れた地面から音符が現れて、ハンターを襲った。
    すると、剣で弾くのではなく突進の勢いで、それらを弾きながら距離を詰めていった。
    スピアへと変化した武器を突き刺すも、グサリと音を立てて目の前のルンペイルは、楽譜を撒き散らして崩れた。式神が巻き起こした紙で、狭まった視界の死角から鋼鉄のリコーダーを手に持って、反撃に出たルンペイル。
    金属同士がぶつかり合う音を複数奏でて、ペースアップさせていく打ち合いは、ルンペイルが優勢に出ていた。

「ごめんね?お気に入りの帽子、壊してくれたからさ?その御礼参りってやつだよっ!!」
「ふっ……」

    美麗な表情は消え去り、殺気のみを宿したその瞳でもう片方の手に銅鑼を呼び出して、バックラーとして使う。攻防の体勢が、切り替えられる状態にして、攻めの手をさらに強くしていく。
   どうせ、秘匿されていたとはいえ怪異ハンターでは、インフェクターとは張り合えない。例え懐柔させた怪異が、【全能王下す裁き】オーディンであろうともそれは覆らない。ルンペイルは、そう確信していた。

「────ッ!!斬ッ!!」
「うぐッ!?な、にぃ……!?」

    生まれた隙など、ほんの一瞬であった。バックラーで、顎を狙い剣で弾いたところに、リコーダーの鋭利になった先端を突き刺そうと前に出た。その伸ばした腕を回転避けしたと同時に、剣へと変形させた武器で肩下から斬り跳ねた。

「ギヤァァアァァアァ───────ッッ!!!???ウゥ───ッぐぅ……」
「怪異でも、痛みはあるのか?…………楽になれ」
「ウゥゥッ!?あまく……見るなよッッ!!!!」

     追い討ちをして来るハンター、その腹部を蹴り付けて阻止して、バックラーを投げ付けて指笛を吹いた。すると、操られた【湧き上がるゾンビ集団】を全て盾にして、斬り落とされた腕をくっつけようとした。しかし、切口の繋ぎが合わないせいで修復は出来ず、今ある腕を消滅させて自力で治すしかなかった。

「有り難い。アリス局長の手間が省けるよ……。行くぞオーディンッ!」
「ひっ!?」

    神々しい輝きが、ハンターの持つスピアに集約していき、力強く前に放った。


━━ 斬鉄・残光────ッ!!!!


    まるで積み木を倒すかのように、意図も容易く【湧き上がるゾンビ集団】を全滅させた。腕を光の中へ投げ捨てて、ギリギリ回避出来たルンペイルを残し、敵陣は壊滅した。
    一つ一つが眩しく、輝きを放つ粉雪が舞い落ちるなか、ゆっくりと槍を構えて向かってくるハンターを見て笑った。

「ハーッハッハッハッ♪……これは、ぼくたちもグズグズしていられないね?きみのような怪異を倒せちゃうような奴が、人間側に居るとなっては明日をも知れぬ身になってしまうよ」
「戯言だな。お前は此処で消える」
「というか、もう消えてるけど♪」
「ッ!?」

    片腕を失ったルンペイルがそう言うと、全身から楽譜のメロディーが空を舞うようにして、みるみるうちに姿が消えた。
    逃げられたことを確認し、剣を納めるハンターはそのまま混乱している隊員達の先導へと、戻っていくのであった。


□■□■□■□■□


━ 現在 ━


「チッ、使えぬ。いや、あの凡浦ぼんうら 須羽侶すばろとかいう怪異ハンターが危険なのか……?しかし奴も妙な男だ」

    腕は立つが、どうも須羽侶という男はアリスの言いなりで、動いているという気配がなかった。
    そんな油断をしていると、足元から白い霧が溢れ出し、踏み付けていたハンターに逃げられた。といっても、直ぐ数m先に倒れていることに変わりはなく、今度こそ息の根を止めるべく、静かに近付く。
    すると、遠くで目を見開いてこちらを見ている影、逃げようとしていたターゲットの終黎 創愛に向かって、大きな声を上げて叫んだ。

「お願いッ!振り向かないで…。来幸は…これでいいッ!!これで…………ッ!」
「何を下らぬことを────、ッ!?」


━━グシャッ!!ザグシュ───ッ、ブシュゥゥゥ...


    突如、持てる力の限りを持って自分の心臓を抉った来幸。それにより、解き放たれた内包していた怪異が、【未来を待つ霧幻龍】ミストドラゴンへと姿を変えセミラミスを襲った。

「ば、馬鹿な!?怪異が死んだ持ち主のなぞ──っ!?」

    明確に、さっきまで感じていた殺気を帯びた幻龍は、セミラミスに牙を向いていた。しかし、毒霧の中ではその怪異の命もまた、そう長くは持ちこたえられない。だと言うのに、闘志を絶やさず食い下がり続ける【未来を待つ霧幻龍】ミストドラゴンの激震をただただ、その身に喰らうしかできなかった。

    やがて、毒霧とともに白い霧も晴れて、セミラミスを止める者は居なくなったが、追跡をすることはなかった。
    虚無を胸に抱いたまま、【蠱毒】が敗れ去った場所へと、静かに歩みを始めるのであった。
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