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【毒酒の女帝】 side
視察列車、囮作戦③ ─セミラミス視点─
しおりを挟む噂零課の戦闘部隊を乗せた列車が、撤退を意味する汽笛を上げて走り出す。その様を追いもせずに見届けるセミラミスのもとへ、見事に敗戦を期し片腕を失ったルンペイルと、その部下である【胡蝶の夢】が現れた。
「ほっ♪無様なものだな歌姫?貴様の実力を持ってしても隠しダネは、仕留めらぬとのぉ?」
「言ってくれるね♪きみがあのオーディンと闘えば、同じ結末であったと思うけど?」
片腕が直せないとアピールをして、岩場に座り込むルンペイルは耳寄りな情報があると、セミラミスに微笑みかけて喋った。その顔は、いつもの美麗で魅惑的な表情をしていただけに、不快感を感じながら聞き耳だけは立てた。
「さっき彼女を見たよ」
「彼女?────ッ!?ま、まさか……彼奴のことか?」
その顔が見たかったと、ルンペイルはニコッと微笑みかけて頷いた。
そして、立ち上がりセミラミスが考えている彼女が、当たっていることを確認してから質問される前に答えた。
「彼女、新しい宿主を見つけたって喜んでいたよ。ぼくもここへ来る途中で入れ替わるところを見せてもらったしね♪」
「ということは、彼奴は噂零課に居るのか?誰じゃ?誰の中に今まで────」
態度を変えて、問い質してくるセミラミスに顔も合わせないで【胡蝶の夢】の方を見ながら、その質問の回答をして上げた。すると、絶句して衝撃に耐えられずゆっくりと後退りをするように、後ろへとよろける。セミラミスにとってその情報は、もっと前から知りたかったのだ。
「アリス・ルード……。あの局長さんに寄生していたんだって彼女。あ~、それと局長を名乗っているけど、あのアリスって子。とっくに死んでるよ?」
「ぁ、ぁ…………。なん、だとっ!?」
「あれれ~?もしかして、本当に人間が怪異に立ち向かえる方法に、怪異の上位種であるぼく達インフェクターと接触するなんて解を……、導き出したとでも思っていた?違う違う♪きみはあくまでもインフェクター同士のおままごとをやっていたに過ぎないんだよ♪」
ルンペイルは嘲るように睨んで、高笑いをした。なんと、セミラミスが怪異を作る能力をほとんど、活かしてこなかったことに業を煮やしていたのだ。そこで、ルンペイルとホウライは、セミラミスの狙いを探るために監視を始め、人との接触を試みていることに気が付き、それを利用しようと考えていた。
ルンペイル達は自分達の他にもう一体、つまりは彼女に協力してもらっていたのだ。彼女の力は人間に寄生して、人格や記憶に直接干渉し意のままに操れるものであった。
「ただし、条件として本体が生きていない状態であることが必要なんだけどね……」
「もしや、妾が狙っておった終黎 創愛に入ったのではないな?あの小娘は今や、人として死んだも同然の状態にしてやった。そこまで妾のことを愚弄するのか貴様らはぁ!?」
「落ち着いてよ?彼女がぼく達に協力するのは、これきりさ。ぼく達との縁切りを条件に協力してくれたんだから。まったく、きみいいあの迷い子達といい。非協力的な子達ばかりだと、骨が折れるよ……」
インフェクター内でも、考え方が分裂していることへの不満を垂れ流しながら、壊されたお気に入りの帽子だけは、再生させる事に成功したルンペイルは帽子を深く被って、セミラミスの方を見た。
協力的な態度を見せておきながら、これまでの計画は全て筒抜けだったと気付かされて、憤りに駆られているセミラミスは鎖の布陣を張り【胡蝶の夢】毎、縛り上げて怒号した。
「では、アリス。ルードは今どうなっておるのだ?奴が消えたとなれば噂零課は潰れる。それは兼ねてより、妾も目論んでいたこと。理にかなっておるから不問とするが……。新たな宿主を見つけた彼奴はともかく、どうなっておるのじゃ?」
「さぁね♪そもそもがあの局長さん……怪異で作った機械人形らしいからね?指図め【造られた指導者】なんてどうかな?」
ふざけた回答しかしないルンペイルに対して、締め付ける鎖の巻き付けを強くしていく。メキメキと音がしているなかでも、美麗を崩さない。呆れて拘束を解くと踵を返して、その場から立ち去ろうとした。すると、ルンペイルが声のトーンを下げて、呼び止めて言った。
「結局、きみの考えは分からないままだった。ぼくもこんな状態。直るのに2年はかかりそう。そして、今し方ホウライくんは決着をつけて来たみたいだ。ぼく達の方も作戦は失敗さ。インフェクターを2人失って新たに2人迎え入れるじゃあ、割に合ってないだろ?だから、きみのやりたいことがどうなるか……。見てみたいから【胡蝶の夢】を連れて行きなよ」
「…………。有り難く使わせてもらうとしよう。時に歌姫?貴様にあと1つだけ聞きたい」
すっかり絶望し、信頼の心を完全に閉ざしたセミラミスのその質問に、首を傾げてリアクションしたルンペイルに尋ねた。
「あの記憶消去装置なるものも、貴様らの差し金か?」
「あ~、あれは記憶を消しているものじゃない。単に幻と誤認させているだけだよ。そして鋭いね♪アレはホウライくんの予防線だよ♪」
「…………チッ────、そうか……。世話になったな【偽りの歌姫】。【不死の蜃気楼】にも伝えておいてくれ、『貴様らには失望した』とな……」
そう言い残し、【胡蝶の夢】を引き連れて毒霧となり、その場から姿を消した。
冷めた目で見送るルンペイルも、その場から立ち去ろうと黒い瘴気から音符や楽譜を放ち、姿を消す前にセミラミスがいた方向を見つめて言った。
「残念だよ……、きみという同胞を失うのは。その生命を使って───きみは何を見つけようとしているんだい?」
その寂しげな問いに、答えるものは居ない。やがて、音符を大量に振り撒いて姿を消し、誰も作戦跡地に残るものは居なくなった。
□■□■□■□■□
「ワタシ、ハ……ダレ?オカア……サン?────ドコ?」
しばらくして、機械的な声が聞こえてきた。
ウィンウィンと機械音を立てるソレは、何かを探すように周囲をキョロキョロして、今にも泣き出しそうな震え声で独り言を呟いていた。
「ワタシハ、サガシテ…イル。チガウ、サガシテイタ……ホメテ、オトウ…サン……オカアサン……イナイ。ワタシ、ノ……セイ。オトウサン……ワルクナイ……」
━━ ミツケタ...ラグナ...ロッカー...ドコニ、イッタノ...?
不規則に動く、機械仕掛けの多脚で動き回り、地面をブルドーザーのように抉りながら進むソレは、創愛のことを探して列車の線路に沿って動き出そうとしていたのであった。
やがて、本当に誰もいなくなった戦場跡地は、濃霧に覆われしばらくの間、霧が晴れることはなかった。そのせいもあって、死亡者と生存者確認が遅れたことを知るものは、現地に赴いた者以外に居ないのであった。
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