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【毒酒の女帝】 side
最終決戦に備えて
しおりを挟むセミラミスのもとへ、【夏の大三角形】が戻ってきた。あと一歩のところで、撃退に追い込まれたことに腹を立てているチーニは、近くにあったドラム缶を蹴り飛ばして叫び声を上げた。
「仕方がありませんよチーニ。相手は拙者達のお仕えする女帝様の毒血で力を得た者達なのですから」
「それでも、俺らが負かさられるってことが許せねぇ」
「解析……連携攻撃が有効」
「うるせぇなアクイラっ!んな事は分かってんだよ」
イライラを身内にぶつけているチーニであったが、突如三体を目掛けて蛇のように蠢く鎖が、容赦なく襲いかかった。避けられた鎖達は、すぐさま主のもとへスルスルと、音を立てて戻っていった。するとそこには、セミラミスと【胡蝶の夢】が立っていた。
側近の【蠱毒】に変わって、【胡蝶の夢】が横に立っていることを見て、セミラミスもまた部下を失ったことを察したリーラが、前に出て正座して向かい入れる。続いて、アクイラも膝まづいてこうべを垂れた。
「むざむざと逃げ帰って来て言い訳とは、良い身分だな貴様ら?」
「そういうあんたも部下を一人失ったそうだな?」
「────。」
「ぬっ……!?」
即座に口答えしたチーニの首筋に、刃が突き立てられていた。【胡蝶の夢】がいつの間にか、背後に回っていたのだ。黙ったことを確認して離れる【胡蝶の夢】に、舌打ちを返すチー二に睨みを効かせて、セミラミスは再度口を開いた。
「良いか?貴様らは妾をいいように使ったインフェクターどもの傀儡じゃ。しかしてその身を妾に預けるというのであれば、これより此処へ向かってくるであろう噂零課。その残党との決戦に加わってもらう」
セミラミスが鏡を天に放り投げると、鏡は宙で止まり独りでに回転しながら、ある光景を映し出した。暗い空間に、点滅する何か───。セミラミスはこれが、今回の作戦としていた人間を纏めて怪異に変える目的が破綻した時の、最終手段に用意していたものだと説明し始めた。
セミラミスの当初の目的は、自らの毒血に人を怪異に変える効能があることに気付き、これを用いて優秀な怪異を選別することにして、効率化を図るため、怪異に立ち向かおうとしている人間を利用するつもりであった。
「考えてみれば……そうであった」
独り言を漏らすのも、無理はない。
冷静になって考えてみれば、怪異が拡大していくなかでも現行の怪異ハンターで対処をしていた人間が、都合よく《次世代の怪異ハンター》を作り出す薬液などと知りもしない者から、引き取るなんてことがあるだろうか。
例えば、こちらがその薬液を通じて、怪異を使いこなせるようになったダミーを用意しているならまだしも、そんなものすら用意していなかったというのに、高額になろうとも購入してきたアリス・ルードがまともな人間のはずがないことくらい、読めて然るべきだった。
挙句の果てには、その実態は自身と同じくインフェクターである彼女であったことにより、インフェクターの手の内で踊らされていただけであった事実を知った。
「してこの装置───ムウムなのだが……」
「毒ガス散布型の要塞兵器、ですか……」
「我々の手で破壊するっ!!」
セミラミスの支離滅裂な言葉に、一同は戦慄した。
しばらくして、先に口を開いたのはリーラだった。
「破壊するとは、何故なのでしょうか?」
「あの装置もまた、利用されてしまっているからじゃ」
なんと、セミラミスが自身の作戦が失敗に終わった際に、用事していたこの最終兵器ムウムもまた、人の手の内に落ちたことが明らかになった。
もとより、噂零課を立ち上げる足掛けに協力する関係から、自身の最終兵器が眠る大地を根城にしてもらうことで、ムウム自体を自爆装置として利用するつもりが、ムウムの存在に気付いた者がアリス・ルード失踪を機に、掌握権を握ったのだ。
その者はムウムを使って、人類を怪異へと変えて自分達を正当化しようと企んでいることまで知っている。
「オーディン……。貴様はその人間の意志によってそうするつもりか?それとも、貴様自身がそれを望んでおるのか?」
「なるほどな。それで発電所を最終拠点にしたのか女帝様は……。それで、俺らはその破壊行為の準備完了まで防衛を張れと?」
「話が分かるなナイフ使い。貴様ら3体は正門内に入ってくる者をねじ伏せろ。【胡蝶の夢】、貴様は妾のいるこの部屋に向かってくる者を対処してもらう」
「御意に……」
指示を出し終え、部屋の奥へと姿を消すセミラミスを見送って、正門前に配置着く前に、発電所周りを散策するチーニ達。対して、【胡蝶の夢】は静かに自身愛用の持つ刃を眺めて、光弾く刃先を見詰めて小さく呟いていた。
「喜久汰 代伊伽……。貴女を今度こそ……夢の畔へ」
シャキッと刃を納める音だけを残し、暗黒へと黒い波動を放ちながら、姿を消した。
ようやく一人になれたセミラミスは、机に置かれた【蠱毒】の写し身であるサソリの標本を手に乗せ、生気を宿せない瞳で見つめる。次第に人で言う涙に相当する黒い液体が、目から零れ始める。頬を標本に当てて、許しを乞うように口を開いていた。
「すまぬな。妾が奴等から独立する目論見の為に、先立たせてしまって……。妾ももう時期其方に逝く。だが、その前に────」
自分がやろうとしてきたことで、起きてしまった不始末だけは片付けなくてはならないと、標本を握り潰して灰と消滅していく残骸を掌から零して、決意を新たに目を鋭くさせて、発電機に毒液を浴びせていく。
バチバチと液体に反応し、繋がれている住宅地への電力供給が途切れ、大規模停電が起きた。しかし、発電は毒液を浴びた発電所内では続いていた。膨大なエネルギーを集約し、自らが置いた最終兵器に向けて、中和毒を発射する準備を始めたのだ。
「あとは、濃く───我が毒を受け継ぎし者の血清とも呼べる血さえ手に入れば不始末の払拭は完了する。それで人間どもの言う責任という奴で妾が見せしめとなれば、此度の大事はすべて怪異の仕業であったということになるであろう。そうなれば、インフェクターとて肩身が狭くなるのは必定……ウフフ───、アーハッハッハッハッハッ!!!!」
最後まで、連中の思い通りになどなってやるものかと、高笑いするセミラミスのその声は、停電が広がっていくのと同じ勢いで、周辺に響き渡っていた。
セミラミスの笑い声を不快に思いながらも、周辺を探索している【夏の大三角形】。リーラが前を歩いていると、膝元に衝撃が加わった。
「あいたたた……。こりゃあ、すみませんね……はい。どうも最近手術明けなもので、目がよく見えないんですよ……はい」
「そうでしたか。時に少女よ?その手に持っているものはなんですか?」
ぶつかって来た、スポーツゴーグルのように大きな眼鏡をかけた少女が、手に持っているバスケットを指さして尋ねた。
すると、手術明けでも働かないと明日の生活もままならないから、訪問販売をしていると答えてバスケットの中身を見せてくれた。
「人間ってのは、こんなガキでも働かないと大変な世の中なのかい?」
「チーニ?」
(この子にとっては、拙者達も人間に見えているのですよ?)
「俺らは他所の国から来たから、この国のことは知らなくてよ」
(分かってるよ、んなこと。それより、どうせならなんか貰ってやろうぜ?勿論、代金は払わねぇけどな)
「えっと……、これなんてどうでしょう?」
「これは?」
渡してきたものは、ヨモギに包まれた桜餅だった。少女は桜餅を手渡して、すぐ隣にいるチー二に絆創膏を渡した。
「ん?何だこれ?俺のだけ食い物って感じしねぇんだけど?」
「あ~、それは怪我した箇所を空気に触れないように保護する手当て道具なんですよ……はい。こんな風に使います……はい」
もう一つをバスケットから取り出して、自身の鼻の上に貼ってニコっと笑いながら、さらにその隣に立っていたアクイラにも、バスケットのなかから取り出したものを渡した。
それはオイル。それも潤滑剤のオイルだった。しかし、アクイラは首を傾げて何に使うのだろうと、悩んでいると少女は使い方を説明した。
「それは機械の関節部分に塗り込んで滑りを良くしたり、錆付きにくくするものです、はい。お兄さん見たところ、お世話ロボットみたいなのでどうかな?と……はい。今回は特別にオイルをさしてあげましょう……はい」
アクイラの手から渡したオイルを取り、背中に回り込んで腰部の羽根をしまっている部分に、流し込んだ。すると、アクイラは翼の展開がスムーズになったことを感じ、その場から離れたところで、大きな翼を開いてみた。
オイルが全体に回ったことで、キラキラと輝かしさすら手に入れたことに感謝の言葉を少女に向けた。
「いえいえ。これくらいはサービスですから、はい。それで……その3点のお代なのですが……」
「んなもん、無料にしてくれよ?」
「え?タダって……こっちも生活がかかっておりますので……お?」
バスケットから顔を上げて、チーニの方を向く少女にダガーを差し向けていた。そして、少女を蹴り飛ばしてバスケットも投げ付けると、起き上がった少女は怯えながら、「は…………はぃぃぃ」と言って逃げていった。
その様子を見て、ケタケタと笑うチーニの隣で桜餅を食べるリーラ。頬を押さえながら、その美味さに感動していた。
「人間はこのような美味しいものを食べられているとは。ホウライ様ののもとへ戻ったら、人間同様に食事をとることを打診してみてもいいかもしれません」
「へーそうかい……。おっ?こんなところいつ怪我したんだろう?しかも、治らないっておかしな傷だ」
桜餅に酔いしれるリーラを横目に、怪異の持つ治癒能力では修復出来ない、小さな傷があることに気が付いたチーニは、少女から貰った───、というよりも奪った絆創膏を、その小さな傷口に貼った。
やがて、それぞれが奪ったものを堪能し終え、これから向かってくるであろう噂零課の残党を迎撃出来るように、セミラミスに言われた正門前で待機するのであった。
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