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【毒酒の女帝】 side
最期の願い
しおりを挟む発電所地下発電機。火花散るその空間で、奇跡を見届けたセミラミス。
この利用されるだけの存在から脱却するべく、もがいてみたが───、結局怪異で在ることからは逃れることも出来ず、怪異としての役割を課せられ続けてきたこれまでだったと、物憂げに空を見上げていた。
「終黎 創愛、か……。ふっ……、其方……名がそのままではないか…………」
一人彼女が去った後、暗い一室でそう呟き瞳を閉ざした。
□■□■□■□■□
━ 決着後 ━
倒れたセミラミスの頭を、優しく抱き抱える創愛の頬に手を当て、人が流す涙というもので視界を歪ませながら、徐ろに口を開いた。
「其方の幼馴染……とやら、は……妾の毒を……克服、した……ぞ。───、ふふ……我が子に嘘など……つかぬ、さ……」
神木原 麗由が、アリスに託していた毒の注射を挿し、副反応を起こして倒れた。創愛は、その毒の効果がセミラミスを倒すことで、解毒させられることを知って、討伐しにきていた。だが、結果的にその情報には、一部相違があった。
それは、セミラミスの手から離れた毒は、その限りではないということ。セミラミスはそのことを創愛に教えると、創愛の手に握られている剣に手をかけて言った。
「その【最後の審判】こそが……、其方にしか知り得ない彼奴らの誤算じゃ………。それを、使っ……て……奴の……、凡浦 須羽侶の……野望を、阻止…しろ……」
「凡浦 須羽侶?って、確か列車作戦の時の……今局長代理の?」
「そうじゃ……。奴は元情報統制局の局長……、実質的に噂零課を統治している局長……。アリスは……妾の……インフェクター、の……」
「ああ、分かった。つまり、須羽呂ってやつとそのインフェクターってのが繋がっていて。そいつらが今回のこの大掛かりなことを起こしたんだろ?でも、何の為に?」
「全ては……、怪異と人間のバランスを戻すため……。それが、我らインフェクターの…狙い……だ……じゃが────」
須羽呂の狙いは違った。
はなから彼は、怪異側の都合など関係なく行動しており、世間的に怪異の存在を認めさせることで、表立って怪異を粛清出来る世界を創ろうとしていた。もちろん、怪異に取り憑かれていることを理由に、不当な処刑も公認させるという、強引な手法をまかり通すためであると。
そのためには、両者がひた隠しにしようとしている、噂の正体を隠しきれないものとすればいい。そこで目をつけたのが、【毒酒の女帝】が持つ庭園だった。あれは、単に空中を移動出来る空飛ぶ庭園などではなく、その存在意義は怪異を収容することにあった。
「となれば、妾は庭園に怪異しか……居座れないように、毒を……散布した。須羽呂の狙いは、主のコントロールを……外れた…その庭園を────ムウムを使って……地上に浮上させた後に……爆破。……そうなれば────」
「あの施設……いや、この国にいる人間全体に毒が蔓延する……?」
「ああ……。そんなことにでもなれば……、其方のように……妾の、──毒の耐性や……免疫のない、ものは……皆───怪異へと変貌を……遂げて、しまう……。それだけは、何としても……防がね、ば───ぶほぉ!?ゴホッ!?」
既に、創愛の【最後の審判】の一撃を受けた身体では、満足に術一つ発動することも出来ない。
須羽呂の計画が上手くいき、世界中がパニックを起こして見境なく、心の弱い者をいぶりだして狩りとる。そのために終焉の名を持つ存在を探していたインフェクター。アリスの体を使っていたそいつと手を組んだのだと、創愛に伝える。
言葉を発するなか、出血が止まらなくなり遂には、話すこともままならなくなってしまった。
「須羽呂の狙いは分かった。そして、あんた達インフェクターの考え方ってのも…………、ん?」
「最後に……、これ、だけ…は……言わせて、くれ……」
「なんだ?あたしに聞いてやれることなら聞くぜ?」
「妾は……そんな、怪異の在り方というものが…………大、……嫌い………だった…………。だからッ!!…………其方…は────、もう……誰にも……負けることは…………許されぬ………ぞ……。どんな、怪異にも…………どんな、……人間の目論みにも……負けず…………打ち勝ってみせ…………るの………じゃぞ…………?」
その呪いにも近い願いを聞き入れて、「当たり前だろ……」と静かに返答し、床に寝かせた創愛は、その場を後にしてセミラミスの不始末を代わりに────いや、自身の未来を勝ち取るために向かったのであった。
□■□■□■□■□
━ 消滅直前 ━
「はぁ……。人間とは……死の間際に走馬灯を見ると云う…………。これがそうか……」
閉ざした瞳を開かずに、目の前に浮かび上がるセミラミス自身が、怪異であることの運命から抜け出したいと思うようになった、きっかけとなる日のことを見ていた。
『ねぇ。お姉さんは、どうしてそんな辛い顔をしているんですか?』
──そうだな...。仕事...というやつに疲れた。そんなところじゃ...
『そうなんですね。でも僕、お姉さんに話し聞いてもらえて気が楽になりました。これまでは決められた道だったかもしれないけれど、これからは自分で決めた道を行く。それが人間なんだって改めて分かりました』
──そうか。其方の気が晴れてくれて妾も嬉しいよ。
『はい。だから、お姉さんもやりたいことやなりたいものがあるのなら、それに向かって頑張ってみてもいいんじゃないですか?───なんて、まだ高校生の僕が言うのは偉そうな気がしますけど。お姉さんなら、きっと叶えられますよ』
──果たしてどうかのぉ?そうだ...名を聞かせてくれぬか?
そこで映像が途切れるように、ホワイトアウトしていく。
古い映像なのか砂嵐すら生じさせて、壊れたモニターにでもなったが如く、視界に何も映らなくなった。薄れゆく意識のなか、天に向けて手を伸ばし、今を生きる人間のように自由に生きてみたかったという願いと、怪異としての道を踏み外した自分の不始末を引き継いでくれた、創愛へと託した望みをその胸に抱きながら、我儘に付き合わせてしまった者たちへの懺悔を口にした。
「すまなかったな……【蠱毒】よ……、妾の、願望に……付き合わせて…………しまって…………。生まれ変わる……ことがある……、のなら…………。今度は────人間として…………出会おう……では、ないか…………」
漆黒の闇は、何も答えてはくれない。
セミラミスもまた、懺悔への返答を待たずして、今回の計画に己を駆り立てた会話を交わした。若干の口惜しさを含ませながら、少年の名を口にして現世にその姿を留めることなく、静かに塵となって吹き抜けた隙間風に乗って夜空へと、消滅していった。
「結局、意味などなかったよ…………。じゃが…………これから意味を見出してくれる人間に……出逢えたよ…………ありがとう…………」
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎━━ 辰上 龍生... ━━
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