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終黎 創愛 side
胡蝶の誘い
しおりを挟む発電所の最上階へと到着した創愛と代伊伽を待っていたのは【胡蝶の夢】であった。【胡蝶の夢】は容赦なくナイフを投げつけ創愛がそれを弾き前へと飛び出し斬りかかり鍔迫り合いが生じた。
「あいつは何処だ?」
「貴女方には教えません。それよりも……」
鍔迫り合いの手を緩めることなく首を直角になるほどに曲げて創愛の後ろにいる代伊伽の方を見て言った。
「負の感情を抱いていたはずの貴女が、終黎 創愛とともに居るとは意外でしたね。それとも、今此処で彼女を亡き者にしますか?」
「────ッ!?」
唆すようにそう言っている【胡蝶の夢】の言葉に何らかの力があることを察した創愛は鍔迫り合いを弾き、持ち直して再び斬りかかった。その間も加勢して来ない代伊伽を気にしつつも攻撃を続けた。
ナイフというリーチの短い武器を使いながら、創愛の剣撃を意図も容易く斥け足払いで膝を打ち体勢の有利を取ってマウントを取った。両手に持つナイフでラグナロッカーを押し込めていき、創愛は抵抗することにも苦戦を強いられていた。
しかし、次の瞬間にラグナロッカーをブラスターに変えて自身の鼻スレスレに空砲を放ち股抜きしてその場を脱した。ガラスを突き破りそのまま外へと飛び出した創愛を見送ると、追跡せずに身体をグネリと捻じ曲げて代伊伽の方を見つめ始めた。
「手を貸せば私を倒せたものを……、貸さずに立ち尽くすとは。私に倒される彼女を見たかったのですか?」
「いや……別に……」
俯いたままそう答える代伊伽。すると、【胡蝶の夢】は代伊伽の顎を持ち上げて自分と目と目が逢う位置に持ってきて代伊伽の瞳を覗いた。その瞳孔から光の抜け切った様子を見てニヤリと笑い手を離した。
「酷い女ですね、貴女も。まさか、ここに来て裏切るのですから」
「うるせぇ……。こうすれば、お前はあたいの真の力を解放してくれるんだろ?どうにも、掴みかけはしたんだけどよ……あたい1人じゃ限界があるみたいでな」
「ふっふっふっ。先程、我が方のアクイラを圧倒したあの力。あれこそが貴女を更なる高みへと連れていく存在なのですよ」
得意気にそう囁くと代伊伽の背後に引っ付くように回り込んで、お腹に手を回して手の甲で背筋を撫でながら甘く吐息混じりの言葉をかける。その時に感じた感覚、快感にも近いソレにみをゆだねてみせるようにと狡く、されど魅力的に囁いた。
「その方法を……知りたい。だから……、セミラミスさんに……あの怪異に合わせてくれないか?あたいもアンタらの側につくからさ」
「そうですか。ですが、地下発電部にいる我が女帝のもとへは行かせられません。ですので、こちらで私が貴女の力を解放するその手解きを────」
その時、ラグナロッカーのブラスターを蒸して飛行していた創愛が舞い戻ってきた。創愛が【胡蝶の夢】へと斬りかかると、ぐるりと躍り出た代伊伽がそれを防いだ。
「なっ!?何の真似だ!?」
「────。」
「ッ!?」
すると攻撃を弾かれた創愛はそのままロッドの薙ぎ払いを防ぐも、再び窓から下へと落下していった。【胡蝶の夢】は完全にコチラの側に堕ちた代伊伽に称賛の拍手を向けて近付いた。
拍手の音が近付いてきたその時────、
━━ブンッ!!
「おやっ……?何のおつもりですか?」
「何のつもりも、あたいはお前とサシで勝負がしたかっただけだぜ?」
向かってきた【胡蝶の夢】の鼻先目掛けてロッドを突き立て振り返った代伊伽の顔は、戦意に満ち溢れていた。何が何だか分からないと混乱している【胡蝶の夢】に襲いかかり床を壊して一つ下の階へとおちていく。着地して早々にナイフを指の間に構えて投げ放ち、弾き反撃に距離を詰める代伊伽。
攻防を繰り広げながらも【胡蝶の夢】は理解した。敢えて、味方につくフリをしてセミラミスの居場所を聞き出し、創愛に本当の居場所を教えて薙ぎ払い飛ばしたのだと。しかし、いずれにしても手に取るように分かる動きをして来ている代伊伽など、取るに足らない相手であることに変わりはなくその証拠に既に押され始めている代伊伽の姿があった。
「ここへ来る途中に怪我でもしましたか?動きが前よりもわかりやすくて単調だッ!!」
「ぐはっ!?何のォ!!」
「ふふんッ!!いいカラダをしていることに変わりはない。どうしてもその怪異とともにコチラに来ないというのであれば、新たなる怪異を生み出す苗床にでもして差し上げましょう♪」
「ぐふっ、───痛ッ!?だ、誰が……てめぇらなんかのぉ!!!!」
防戦すらままならなくなりつつある代伊伽の身体を痛めつけていく手を止めない。しかし、負わせる傷はすべて関節部分だけに集中させ宣言どおり苗床として使える母胎部分には必要最低限の攻撃しか加えていかない【胡蝶の夢】。
視界がボヤけるなか、それでも尚抵抗を辞めない代伊伽はロッドを握る手に力を込めオーラを身に纏い始め、反撃に出た。オーラの放つ覇気で投げたナイフの攻撃を弾き飛ばしてロッドを振り回して、直撃を狙うも踊り避けしながら直接ナイフによる反撃でダメージを与えていく。
「所詮は付け焼き刃。私に貴女の動きが見えている以上は、貴女は私に指1本触れることも敵いませんよ?」
「そうかい。なら───、これならどうさっ!!」
「────むッ!?」
そう言った代伊伽はナイフ攻撃を敢えて胸部で受けるように、関節を狙う一撃を受けた。そして、ロッドを【胡蝶の夢】の背中に回して自分の方へと抱き寄せてオーラを全開にした。
心做しか地鳴りがしているのかというくらいに辺りが強く揺れていることを感じた【胡蝶の夢】は代伊伽が自爆技を使おうとしていることに気がつくが、しっかりと身体を密着させて離さないこの状況では身動きすらまともに取れない。
「あたいがお前に勝つには、これくらいしかなさそうだって考えてたさ。蘇鉄のやつが命張って繋いでくれたこのチャンス。あたいは存分に使わせてもらうぜ」
「────────。」
そう言って全身に力を込めて集めたオーラを一気に放出し、爆発力を発揮させた。代伊伽の使うオーラは霊力や妖力のようなもので、周囲の構築物には強風が吹き荒れるだけで直接的な被害は与えない。しかし、怪異はそうではない。
怪異に対しては絶大な破壊力を持つ爆発となり、それは使用者である代伊伽自身も怪異お同居している身体である以上対象に含まれてしまっているため、この方法を使う場合は自爆することと同義であった。
強風が発電所の外へと吹き出し、水色の光がオーブを大量に空中に撒き散らしていた。
代伊伽は爆風で吹き飛ばされて激突した壁とともに外へと転がり落ちていった。幸い吹き飛んだ先が茂みであったおかげで衝突による更なる致命傷は受けずに済んだ。残された力で起きあがり爆発を起こした発電所の方を見上げた。
「はぁ、はぁ、はぁ……どうだ?」
手応えを感じた代伊伽はまともに爆心地で攻撃を受けて消し飛んだ【胡蝶の夢】に目掛けて投げかけた。
──ええ。とても素晴らしかったですよ。これなら、とても優秀な苗床になりそうだとより期待を持てるくらいには。
「ッ!?」
聞こえてくるはずもない声に周辺を見渡した。ロッドは弾けた拍子に手元にはなく、拳を構える代伊伽にまたしてもその声は聴こえてきた。
──怖いですか?なら、私の真名を思い浮かべてください。
その問いを聞いて今相手している怪異の名前を思い出す。すると、その瞬間代伊伽の腹部の内側から手が飛び出した。吐血した血は真っ赤だが手が飛び出した腹部はドス黒い血でいっぱいだった。声にならない悲鳴を上げる代伊伽のお腹から【胡蝶の夢】は這い出てきた。
崩れゆく代伊伽の胸ぐらを掴んで持ち上げ、近くの廃棄置き場に投げ飛ばした。叩きつけられた代伊伽は痛みで満足に動かない身体で、腹部を確認した。そこには全くといっていいほど外傷はなく、ドス黒い血は一滴も出ていなかった。
「そうです。私は【胡蝶の夢】。即ちは貴女の見る夢なのです。夢を壊すことなんて、人間である貴女に出来ますか?」
「こふっ!!────じゃ、じゃあ……てめぇは倒せねぇってことか?」
起き上がろうとする代伊伽の前に瞬間移動して、胸部を踏み付けて肺呼吸が出来なくなるまで踏み込んで満面の笑みで答えた。
「そういうことになります♪貴女が夢を捨てることが出来れば話は別でしょうが、こと貴女に限ってそれは無理な話でしょう。護るものがある今の貴女では、ね」
「うぐ……ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」
心も体も見透かされたように踏み躙られる代伊伽は絶望の音を上げていた。踏み付けた脚を上げて蹴り飛ばす【胡蝶の夢】は、ボロ雑巾のように倒れる代伊伽を持ち上げてさらに追い詰めていく言葉を吹きかけた。
「まぁ、苗床にするとは言いましたが。ここまで無駄の多い貴女に利用価値はありません。このまま野垂れ死にしてもらい、貴女の家族も直ぐに後を追わせて差し上げます。よかったですね、夢の終わりに家族と再会を果たし平穏に過ごせますよ?」
これこそ代伊伽の力を求めた理由。その抱いた夢は死とともに完成されると【胡蝶の夢】は告げて、その場を離れようと踵を返して歩き出す。すると、歩く足取りに重さを感じて振り返る。そこには、どうやって体を動かしているのかすら不思議なくらいにダメージを負った代伊伽がしがみついていた。
生命の灯火もあと僅かな代伊伽の心を夢として覗くのは、容易いことであったため頭を鷲掴みにして瞳を覗き込んだ。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎───家族だけは、渡せねぇ
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎──死んでも...それだけは絶対に
「じゃあ、死んでください。そうすればそんな苦しい悪夢を見る必要もなくなりますので───」
そう告げた【胡蝶の夢】は、あれだけ気遣って狙わなかった母胎であるみぞおちに思い切り拳をぶつけて代伊伽の心臓を止めた。
遂に事切れた代伊伽は両腕をぶらんと重力に逆らうことを辞めていた。耳障りな心の声が静かになったことを確認し、“代伊伽”の亡き骸を再び廃棄置き場の方を目掛けて今度は優先回収BOXの方に投げ捨てた。瞳孔が開ききった代伊伽の眼には完全に光は消え失せていた。
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