14 / 30
終黎 創愛 side
爆打
しおりを挟む【星座の因果結ぶ天の川】の猛攻は続く。
「我ガ攻撃ヲ避ケルダケノ汝。滑稽ニシテ他愛ナキ」
「抜かしとれっ!!ワシ、すばしっこいことが取り柄なんじゃ」
(どないなっとんねんな?どうにもこれやと───)
「モラッタ────ッッッ!!!!」
巨剣を力強く地面に叩きつける。蘇鉄は紙一重のところで回避するも、額には冷や汗を浮かべていた。
その理由は今の一撃が危うかったからではないのか、指の間に挟めているビー玉を投げ付けて爆風を起こしながら後退していった。
しかし、蘇鉄のいる場所は【星座の因果結ぶ天の川】によって作り出された結界の中。どれほど距離をとっても、結界を張った主を倒さない限りは抜け出すことの出来ない空間。牽制ではなく、攻撃として投げ付けている機雷を諸共せずに真っ直ぐ突っ込んで来る【星座の因果結ぶ天の川】を飛び込みで回避すると、即座にレッグローラーを駆使し高機動ロボットのような立ち回りで旋回して巨剣を巨槍へと変移させ素早い突き攻撃を繰り出した。
「フッ……ヤルナ。ダガソノ程度ノ小細工────既ニ見切ッタ!!」
「なんやて?」
素早い動きを読まれた蘇鉄が身構えて防御の姿勢を取るが、自身の倍はある体躯が振り翳す巨槍を凌ぎきれるはずもなく怪異の能力で盾に見立てたアタッシュケースは、意図も容易く貫通し横薙ぎをまともに身体に受けた蘇鉄は両脚を地上から離れて野球ボールのように吹き飛んだ。
たったの一撃の被弾。それが致命傷となるのは端からわかっていたことだった。受け身を取ろうにも地に身体のどの部分も接触していない蘇鉄を容赦なく追撃が迫る。
「ぐ、ぉはぁっっ!?!?」
「ドウシタ?スバシッコサガ取リ柄デハナカッタノカ……?我ハ、ウォーミングアップニモナッテオラヌ────」
肘で地面へ打ちつけて弾む蘇鉄の頭を掴んで、巨槍を地面に突き刺して空いた手で拳を作り蘇鉄を殴りつけた。最初の一発目で右腕の骨を砕き、二発目で左。防ぐすべの無くなったところへパンチを繰り出した。
その身にかかる衝撃を黙って受けるしか出来ない蘇鉄の方向に地面を盛り上げらせて壁を作り、衝突させることでようやく地に身体がついた蘇鉄であったが既に両腕は使いものにならずにボトッと床に垂れるように落ち、首もだらんとして動かなくなっていた。
「ハッハッハッ!他愛ナキッ!」
完全に勝利を確信した【星座の因果結ぶ天の川】は、とても機械的な声が出せるとは思えない無邪気な声色で高笑いをしていた。そして、その身を眩しく発光させると【夏の大三角形】へと分離して姿を変えた。
「はぁ~あ、時間切れかぁ」
「ですが、あの様子ではもう息はしていないでしょう」
「生体反応────微弱……」
「そうかい。もうくたばっちまうのか?最後にリベンジマッチといこうと思ったのによぉ」
「────。」
肩を鳴らしながらチーニがアサシンダガーを両手に握り、ゆっくりと虫の息の蘇鉄に向かって歩いていく。
蘇鉄は閉じることの出来ない瞳で自分のダメージを受けた身体を見ていた。だが、それはあくまでも視界はぼやけたままで本当に見えているものは別であった。
□■□■□■□■□
───蘇鉄...まだ、やれる。
『無理や。身体動かれへん……、出来へんよ……』
心の中に聞こえてきた声。暗闇広がる空間に天井からスポットライトを浴びせられる蘇鉄が座り込んでいるところから数m先────、声の主が立っていた。
もう自分が戦うどころか、生き残ることも叶いそうにないことを告げると首を横に振って会話を続けてきた。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎──来幸...知ってる...
『…………?────何をや?』
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎──代伊伽と創愛、貴方が...必要。
屈託のない笑顔を向けてそう言った。
共に過した間に見たこともない眩しい笑顔は、自分が勝手に取ってつけた妄想の延長なのだろうと感じた。だとするのなら、言いたかったことを言えば聞いてもらえるだろう────。
『そんなん…………、────せやったら……』
蘇鉄は来幸も一緒に居られた未来を探す手伝いをしたかった。来幸の能力の真意を知った時、動き出せば間に合ったかもしれない可能性を捨てて創愛が帰って来れる場所を確保することに意識を向けていた。
あの時、来幸の想いを汲んでその選択を取った。しかし、それでよかったのかは蘇鉄にも分からなかった。だからこそ、この幻の中だけも本心を伝えておきたかった。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎──それは...ダメ...
崩れ落ちている蘇鉄の肩に手を置き、改めて来幸は自らの意思で蘇鉄達に未来を託したのだとニコッと笑って言った。来幸が生きる未来に終黎 創愛という人間は存在せず、創愛を生かせば代伊伽と蘇鉄が存在しない未来しか待っていない。
であるのなら。みんなと一緒に居られる未来が自身が死ぬ未来であってもそうしたかった。だから、創愛達がこれからも生きる未来を選んだうえで、蘇鉄もその未来を生き続けてほしいとメッセージを伝えて霧のように姿を消した。
『ほんま……、あんさんは……』
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎━━仲間想いの馬鹿やで……。━━
□■□■□■□■□
「さて、せめて俺が楽にしてやるよ。お前との賭け事?って言うのか?あれ、決着つけたかったよッ!!!!」
「────────。」
「な……にぃ……!?」
ピクリとも動かなった蘇鉄にトドメのダガーをクロスして突き刺す腕。その腕の進行を妨げる脚。蘇鉄は片脚立ちで蹴り出した脚で振り降ろそうとしているチーニの肘を脚で蹴り抑えていた。
「────ほんに……、なんでワシが……あの2人の保護者をせな、いけへんのやぁ……」
「こ、こいつッ!?」
目から涙を大量に流しながら脚力でチーニの攻撃を弾き返し、粉砕されたアタッシュケースから床に転げ落ちたレッドポーションを目掛けて走った。
それを見逃す訳もなく、アクイラは鋼の翼を打ち出し進行を阻もうとするが、蘇鉄は飛んで来た最初の翼に乗り襲い来る後続の翼を飛び移って突き進んだ。翼の弾幕を越えた先にリーラのボウガン────ベガによる同時連射の装填がされていた。
「武器はなっ?最後まで隠し持っとくもんやッ!───ぷッッッ!!!!!!」
「ハッ!?これは……ガ、ム?」
発射口に目掛けて吐き捨てたガムを【異端曲芸師】の力でトリモチに変えてボウガンを暴発させ煙幕を作った。
混乱の隙にレッドポーションを目掛けてスライディングし踵で引きずり弾くと同時に封を開け、宙に舞い上がったボトルを飲み口目掛けて飛び込んで咥えて地に落ちる前にレッドポーションを飲み干した。
胸から地面に落下して倒れる蘇鉄。その音を聞いて視界が塞ぐ煙幕を切り分けて駆けるチーニは今度こそ息の根を止めでやるとダガーを構えた。しかし、その追い討ちをリーラは止めようと叫んでいた。同時にアクイラも蘇鉄の生体反応が急激に上昇したことに困惑していた。
「これで、終わりぃ────ッッ!!」
「…………ワシかてな────。」
「ッ!?」
「あんさんの観た未来が────、こんなとこで終わるもんやなんてな…………思うとらんわぁ!!!!」
自らを叱咤激励するようにレッドポーションで瞬間修復された腕でチーニのダガーをひらりと流しそのまま背中を掴んだ。膝に力を込めてみぞおちに叩き込んで上体を引き起こしてチーニの胸部に飛び蹴りをお見舞いした。
蹴られて飛ばされた衝撃で煙が晴れ、蘇鉄を囲うように三方向に展開する【夏の大三角形】。唇を手の甲で拭って起き上がるチーニ、琴を奏でながら矢を構えるリーラ、腰部に飛ばした翼を集結させ万全の状態とするアクイラ。蘇鉄はそんな三体に向かって言った。
「あんさんら、さっきの合体はどないしはったんや?」
「拙者達の秘技……、そう容易く連発出来るものではないのです」
「しかし、我らの優勢は覆ず────」
「あんた1人潰すのに、わざわざ合体するまでもねぇってことだッ!!リーラッ!!」
「そうかい……」
ナイフさばきを見せつけるように身体の周辺で振り回して、逆手持ちに構えて斜角を描いて走るとリーラが琴を両面開きにして矢を放とうとした。すると、蘇鉄はニヤリと口角を上げてコイントスをその場で始めた。
「あんさんらは、駆け引きってやったことあるかいな?……って、怪異が賭け事なんざ好き好んでするわけないわな……。そういう由縁の怪異ならまだしも」
「?何が言いたいのです?」
「まぁ、さっきの合体が出来へんっちゅうならあんさんらの負けや」
「この期に及んででけぇ口叩くとはなぁ?」
ジグザグに走り寄ったチーニが飛びかかり、避ける先に矢を放つ準備でリーラが矢を引いた時に蘇鉄は小さく言葉を紡いだ。
爆打。
蘇鉄へと斬りかかったチーニの身体がぐしゃりと音を立てて軌道を逸らし、蘇鉄を通り過ぎて倒れリーラはまるで背後から撃たれたかのように黒い血飛沫を上げてその場に倒れた。
そして、同時に三段構えで待機していたアクイラも飛行して上に逃れることも出来ないようにしていたが、翼が爆散して墜落する。
「な……、何が……起きた……?」
「────。」
「損傷────甚大、甚大。機能……停、止……」
【夏の大三角形】は蘇鉄を中心に大三角形を結ぶように黒い血が伸びて転がっていた。すると、蘇鉄は腹の底から笑い始めてまだ息のあるチーニの方を見て言った。
「これがほんまの Triangolo estivoってな♪あんさんら、ワシらと出逢う前に何か食ったり塗ったりしたやろ?」
「…………っ!?まさ……かっ…………?」
下半身が消し飛び上半身だけになったチーニは心当たりがあった。
それは蘇鉄立ちに会う前の変な格好の少女からものを奪い取ったことだ。あの時チーニが使った絆創膏は腹部に貼っていたため、そこを中心に爆破されたことで破裂して吹き飛んだのだ。リーラは桜餅を食べ、食道に留まっていてところを爆破されたことで内側から完全に破壊され黒い塵を散らせながら消滅しかけており、アクイラも同様に開閉・展開の激しい腰部にさされたオイルが全身に行き渡り問答無用で消滅していた。
「あれが……お前の……?」
「ああそうや♪まさかほんまに買うてくれて、しかも使うてくれはるとは思わへんかったけどな♪せやけど、さっきはほんまに焦ったんやで?イカついロボに合体変形されたら、こっちで爆破出来へんくてのぉ♪正直言って賭けやったね……うん、肝が冷えたわぁ♪」
なんと、決戦前のそれらは蘇鉄の怪異の力によってそう錯覚させていた爆弾物だ。そのため、結界に閉じ込められても勝算はあると思いきや合体して【星座の因果結ぶ天の川】になった途端に爆破対象がなくなってしまい仕込みが台無しになっていたのだ。しかし、それが再び三体に分離してくれたおかげで発動可能となり、蘇鉄はその勝機を掴み取ったのだ。
種明かしをしたところで結界が解けていく。チーニは消滅直前のリーラと残骸と成り果てたアクイラが居る方へと上半身を進まる。蘇鉄はそれを黙って見ている────はずもなく、地面に手をついて再び「爆打」と口にすると、地面がまるで地雷を一斉に爆破させて連鎖爆発を起こすように波を起こしながら【夏の大三角形】を結界の方へと押しやった。
「結界の中で3人仲良く、暮らせはるんやから文句はなしで頼むで?」
「き、貴様ァ────ッッ!!」
「貴様やない。湯内 蘇鉄っちゅう立派な名前があるわい」
「蘇鉄ぅぅぅ!!!!!!」
渇いた感情を剥き出しにしたおぞましい声で蘇鉄の名を呼びながら、閉ざされゆく結界の中に盛り上げられた結界の地面が作った波で押し込まれて消滅した。
劇的な逆転劇を決めた蘇鉄だったが、突然全身の力が抜けて腰を落とし折れていた腕を修復させていたとはいえ、痛みまでは完治しないことに泣き言を放ってのたうち回った。
「痛いで痛いでッ!!ほんに、来幸はんの大馬鹿野郎めっ!!ここまでやっても、死なれへん言うんわある種の呪いやで……もう……」
そうは言いつつも心の中にいる来幸に一言────。
︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎ ︎━━来幸はん……ありがとさん……。━━
するとその時、発電所内が激しく揺れた。そして、頭上を二つの光が通過した。一つは地上を貫き地中を目指し、もう一つは発電所の外れ。廃棄物置き場の方へと向かったのであった。
「なんやなんや?とんでもないもんであることは違いないが、何でやろか持ち主のもとへと向かってる気がするでぇ……」
蘇鉄は、地中の方に向かった光ではなく廃棄物置き場の方へと伸びた光の跡を追うことにした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる