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終黎 創愛 side
噂観測課
しおりを挟む情報統制局と噂零課の解体。
それは、噂零課局長アリス・ルードが怪異であったこと。凡浦 須羽呂が怪異と取引をして、政府の後ろ盾を得ようとしていたことが知らせた。
「以上のことから、我々怪異使いを利用した大規模な不祥事は全て情報統制局が単独で発足して行ったものとなります。我々を旧型とし、逸話感染源……それに該当する怪異────インフェクターと自分達で名乗っている彼らの仲間であったとされる《Mrs.POISON》を名乗っていた【毒酒の女帝】の生き血を注入された怪異使いを新世代型として、彼らのやりたかったこと────」
インフェクターとアリス・ルードの目的は同一のものであった。しかし、【毒酒の女帝】がその意向に組みしていたかは、不明であるとした。
そして、今回の一件で怪異使いとされてしまった者たちを、新世代型という位置づけではなく、従来どおりの怪異使いとする旨を演説に参列した審議会に告げた。すると、当然の如く質問が飛んできた。
「君達、怪異ハンターを受け入れることは出来ないのだが。それについてはどうするつもりかね?私達としては、このまま怪異などという存在も眉唾物だったと目を伏せて今回の不祥事共々に君達の存在も消してしまいたいと思っている最も……、死人に口なしの状況でこのような戯れ言を聞く機会を設けられていること自体が異様だがね」
「ご存じないようですね。蘇鉄くん、例のやつ映して」
演説する背景のモニターに、映し出される計画書。そこには、《噂観測課の施設》と書かれたタイトルが書かれており、怪異ハンターや特別死者扱い法といった噂零課が申請して、作った既存観念を撤廃し、新たに発足する組織───。噂観測課を施策する計画が、進められていることを説明した。
「既存の怪異を扱う者は何れも死人であるとされてきました。しかし、噂観測課はまったくもって異質なものとなります。我々は死人ではなく死人の名を借りて生きる存在。言うなれば、このオレ実 真は既に死人となった実 真となって怪異を人知れず討伐します。そして────」
その他、従来とは異なり警察組織との連携は怪異による犯行であると、見受けられるかそうでないか時点の捜査までとし、怪異と接触した者は例外なく殺処分とすることで表立って誰も噂に触れていない状態を維持するため、組織したものであると提唱した。
これは、インフェクターの目的が怪異を増やすことであり、当のインフェクター達は見かけが、人間と大差のない容姿をしていることから、民間人に扮している可能性を示唆しての意見提示だった。
反対意見が飛び交うなか、須羽呂が目的としていた怪異を日常化させる計画は結果的に成功しなくても、世間がそうなりつつあることに変わりがないことは周知の事実であると、審議会も頭を悩ませていた。
「怪異には怪異でしか立ち向かえない。そう考えることは出来ませんか?今回の1件を踏まえれば、兼ねてより怪異……不思議な霊力を持つ人間達から始まった異能的な力は……今も絶えず残り続けている。我々はそれらを解明することに尽力しながらも、人々を陰ながら脅威や失意のどん底に引き込もうとするこの現象とも言い得る状況に蓋をするだけで解決となるのでしょうか?」
人間の手で起きた不始末は、人間の手で払拭する必要がある。怪異の正体が、もとは人の噂から始まったことは遥も昔から判明していることであった。しかし、此度の暴動はその怪異を使うことの出来る人間の仕業によるものでもあることに、不安を拭えない人も居た。
政府としては、組織化をすることが懸念であるという重い腰を持ち上げようとはしなかった。それもまた、日本という国だけが特別毛嫌いを起こしているものであると、指を鳴らして変更したモニターの映像のグラフと実際の映像を流して説明を続けた。
他の国でもトップシークレットとして、一般には情報公開していない出来事を怪異の仕業によるものを専属とした組織があり、その組織こそが噂観測課であると実は説いた。
「それから、先程も申したように我々は特別な死者です。他の国々の政策を取り入れ、我々も死者特例法に順次し日常生活に溶け込むこと許可するものとします。これによる怪異の早期発見が出来れば、被害を最小限に留めることが出来るからになります。さて、我々を受け入れるか────。他の国に開け渡すか────」
実の要求は、無謀と呼べるものでしかなかった。しかし、日本がこの要求を飲まなかったとて、怪異使いにデメリットはなかった。
他の国に雇われれば、これまでどおりの暮らし。つまりは、怪異使いとなる前からあった日常を手にすることが出来るのだから。
日本政府は、怪異に対応する為の新たな対策室を設ける時間などなかった。審議会は、実の要求を飲むことにした。これにより、噂零課の解体と同時に新組織、噂観測課が施設されたのであった。
演説を終えた実と、その隣にずっと立っていた藤梅 透は肩の力を落として、控え室の椅子に座り込んだ。
「蘇鉄くん、ありがとう。透くんもお疲れさま」
「いいえ。私は特に……何も……」
「しっかし、これでワシらもようやっとまともな生活が出来るっちゅう訳やなぁ。せやけど……」
蘇鉄は、その細い目で窓の外を見つめて苦笑いを浮かべていた。
□■□■□■□■□
━ 2週間後 ━
「いってきます、ママッ!」
「うっし♪気を付けてなっ!」
代伊伽は、娘の寄凪の登校を見送りするべく、助手席の窓から手を振っていた。娘を見送ると、肩を人差し指でツンツンとされて、肩にグッと力を入れながらゆっくりと振り返った。
「で…?仕事は…、僕にも…内緒?」
「あ、ああ……そ、そんなだよ?」
「名前も…、代伊伽じゃ……なくなった……んだろ?」
「ん?ま、まぁな…?」
夫婦だというのに、ぎこちのない返答をする代伊伽。
車を走らせるなか、モジモジと手遊びをしてチラチラと夫である憐都の方を見て、これからの自分の新しい名前を口にして言った。
「あたい……、これからはトレードってコード……ネームで?職場で働くことに……なったんだ。その……事情は────うひっ!?」
「────。」
赤信号で止まったところで、グイっと顔を近づかせて代伊伽の目を覗き込む憐都は、しばらく見つめ続けると青信号になった事を確認して、視線を元に戻してアクセルを踏んだ。
そして、緊張で声を詰まらせている代伊伽の理由説明になっていない語彙力から、深く言えない事情があることを汲んだ憐都は、静かに「分かった…よ」とだけ答えて運転に集中するのであった。
□■□■□■□■□
審議会からの公認を得て、実達は屋敷にやって来ていた。ここが新しい事務所になるのかと、渋々掃除をしていた。
「あ~~、裸眼で視える世界……はい。素敵ですね……はい」
「ほら、感動している場合じゃないだろカヤ子ちゃん。此処が明日からの職場になるんだから、埃だけでも今日はゼロにしておきたいんだけど?」
「う~ん……埃っぽくても私はいいですけどね?……はい」
人選が決まり次第、この事務所にも人が来るって言うのにポリポリと頭を掻いて、その場に胡座をかいていた。するとそこへ、蘇鉄が顔を覗かせてサボり気味の燈火に声をかけた。
「ほれ、そんな不衛生的やと彼氏も出来へんよ?燈火はん」
「おや蘇鉄さん。いえ……、今はラットでしたかな?そういえばそうでしたね?私がICL手術で休暇貰っていたのに、怪異にもの売り付けてくれってお願いした埋め合わせ……していただけるんですよね?はい?」
「勿論やで♪んで、お相手は漫画家さんなんやけど────」
合コンを取り付けたと、蘇鉄は燈火に冷ややかな目を向ける実は、その後も一人黙々と掃除を進めるのであった。
そして、燈火が一通りの与太話を終えた後に首を傾げながら、どうして蘇鉄はコードネームで呼び合うようになったのかを今更感を漂わせつつ、単純な疑問として質問した。
発電所で、創愛と代伊伽と三人で会話した時のこと───。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
『全て片付けた後さ……。あたしらの名前ってあっても意味ないような気がするんだよ』
『せやったら、どうないする?コードネームでも付けるかいな?』
『そうだな♪んじゃあ、代伊伽はトレードだ』
『な、何でだよっ!?』
代伊伽の怪異【死の商人】は、地獄へ行くかの判定にそれに見合う対価を差し出すように要求する。その等価交換のような様から、創愛はトレードと名付けた。
蘇鉄はというと、アドマウスというネズミをモチーフにした、ロゴを使ったグッズを集めていることから、ラットと命名されたのであった。しかし、蘇鉄自身も不服ではなかったので、そのコードネームを容認した。
『それから、あの影の薄いおっさんはインビジブル。気持ち悪いけど、このレッドポーションを作るために血を採られたアイツは……アブノーマルで良いだろう』
などと、テキトーに名前を付けた創愛。頬杖をついて、冷めた目で見つめていた代伊伽は、肝心の創愛自身はなんてコードネームにするのかを聞いていた。
その問いかけに対して、「それはな───」と得意気な顔で自分のコードネームを名乗るところで、視界が白く光った。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
「ん?どうしたんですかラットさん……はい?」
「あ、いや~……」
ボーっとしていた蘇鉄が、ふと我に返ったように反応を示すが、直ぐに雲一つない空を窓から覗いて、「創愛はん……」と呟いた。
同時に、代伊伽も移動している車内から空を見上げて、同じことを空へ向けて想っていた。
━━━何処で...何をしてんだよ...。
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