PSY・サティスファクト

韋虹姫 響華

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超能力犯罪

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    ある時から、医学の分野でベンチャー企業にまで発展した栄養食品提供会社のセキュリティゲート前に一台の車が止まった。

「社長お疲れ様です。この後のご予定ですが……」
「ああ、分かっている。我が社で新発表する新薬の記者会見に出席だね」
「はい。お時間にして40分程でご出発予定となります」

    窓口の受付嬢からスケジュールを聞いて、カードキーを通してエスカレーターを上がっていく社長。その社長の通る渡り廊下の窓を拭く業者の男が社長が向かって行く方向を目で追っていた。

『当たりだぜバディ。やっぱり会議室の方へ向かった』
『君はもう少し慎重になりたまえ。そんなにガン見していたら向こうに勘づかれていてもおかしくないだろ。大体にして、はっきり見えなくとも君がその辺に居てくれているだけで社内の構造は解読出来ているし、社長の動向もわたしの方で追えているから大丈夫だ』
『さすがバディだ。相変わらずの1投げたら100返ってくるところも、おれは好きだぜ?』

    窓拭き業者の男の名はリーゴ。そして念話テレパシーで話していた男性骨芽こつめ 安寺あんじ、二人とも【PSYCode】と呼ばれる超能力者で警察組織が超能力犯罪横行を食い止めるべく発足された超能力対策課に所属する者たちであった。

    【PSYCode】────。そもそも、超能力者となり超能力犯罪を起こす者を【PSYパッケージ】と呼びパッケージはメモリーを体内に埋め込む事で人工的に超能、即ちその人間が持つ潜在能力を断片的に覚醒させることで超能力者となったものを指すのだ。しかし、【PSYCode】はそれとは別で先天性の超能力という部分で相違点があり、それだけに留まらずパッケージは一つの超能力が扱えるようになるのに対して【PSYCode】は複数の超能力を扱うまたは併用して新たな能力を限定的に創り出すことが出来る違いがあるのだ。

「ええ、計画は順調です。この新薬で得た資金で次の計画に進められるかと」
「ぜぇ~んぶ筒抜けだぜ……多分な」

    会議室内に入った社長が誰かと話している会話を外から窓に耳を当てて聞こうとしているリーゴだが、勿論何を話しているかは聞こえていない。リーゴには透視能力や念聴能力はないのだ。

『もういいです。怪しまれる前に戻ってきてください。あ、それと合流する前に何処でもいいから珈琲とカップケーキを買って来てくれませんか。出来ればパンプキンシュガーティアーで頼みますね』
「へいへい。流石バディだぜ、おれの身体をルーター代わりに完全遠隔透視リモートビューイング出来るんだからよ」

    カートが地上に到着したところで、更衣室で着替えを済ませ清掃服はクリーニングボックスに入れて日給制の申請書を書いて給料を受け取るリーゴはその場に居た勤務している人達に笑顔を向けて会話した。

「んじゃあお世話になりました!あっそうだ!今日って皆さんアルバイトの面接日で新しく人が入ってくる日でしたよね?もう準備とか大丈夫なんすか?確か名前は……、あっそうそう新川君ですね!んじゃっ頑張ってくださいっ!!」

    ガチャンとドアを閉めてランニングしながら給料の明細をその場に投げ、人差し指で車道を挟んだ向かいに備え付けられている燃やせるゴミ箱の方へ行くように念じると、明細は一人でに風が吹いている訳でもないのに方へ向かって行った。ゴミ箱に入る直前の明細には【新川 真】と名前が書かれていた。

「ふんふふふぅーん♪ってバディのやつ、たしかカップケーキがどうとかって言ってたけど、ナプキン何とかって確かバディがいつもケーキ買ってるとこだよな?ってことは結局、珈琲もそこで買えって言ってるようなもんじゃねぇかよ」

   なんか馬鹿にされている雰囲気を含めたパシリであるのに、「まいっか」と特に気にすることもなく頼まれた物を買ってから、骨芽のいる場所へと向かうのであった。

    紙袋を持って向かったビルのフリースペースのボックス席にノートパソコンと睨めっこしている眼鏡をかけた男性、彼こそが骨芽でリーゴは「お待たせバディ」とスマイルを添えてケーキと珈琲を差し出した。

「ああご苦労さまです。そこに置いておいてください。もう少しで記者会見が始まるみたいですから、痕跡を残すことなく観られるように細工しているのが完成したら頂きます」
「おっ!!ってことはバディも動いてたのか?この監視カメラ画面のはなんか背渡したりとかしたんだろ?」
「いいえ。何故わざわざ捕まえる相手に素顔を晒すなんて事しないといけないのですか。ただでさえ既にリーゴ、君が相手方には顔を知られているのですよ?もしもの時に備えてを考えても────」

    ブラインドタッチをしながらリーゴの方を見て、ひたすら任務の失敗を考慮して立てている作戦手順を説明されるが、当のリーゴは「すげぇすげぇ」と関心しながら聞いていた。しかし、内容の八割は入っていないらしく「今のどういう意味だ?」と聞き返す事で記者会見が開始される直前まで骨芽のマシンガントークは続いたのだった。

   記者会見の内容を見終えた二人は、まずパソコンの操作で映像を消すと残った珈琲を全て飲み干して立ち上がった。

「うっしゃ、そんじゃ突撃だなバディ?んでもよ?盗み見した件は大丈夫なのかよ?」
「先程も説明したでしょう……。マスコミ陣が用意したカメラのレンズに映った内容をパソコンに繋いだだけですから、痕跡としてノイズ等が入らないように細工をしていたんです」
「おうそっか。わりぃわりぃ、バディみたくおれ頭良くねぇからよ。その辺の事は何度説明されても分かんねぇわ」

   頭を抱えながらため息をつきつつ、車へと乗り込み街外れの廃工場へと移動する二人。正直なところ、リーゴが食品会社へ潜入した時点で取り押さえても充分なだけ情報は骨芽の遠隔透視で聞き出せていたのだが、いくら超能力を扱える【PSYパッケージ】が会社の内部が居るとてその後ろ盾している組織との繋がりはないのかを様子見るためにあえて泳げていたのだ。

「だが結果的にここもハズレですね。連中もただ、パッケージになった事で単にビジネスの幅が広がっただけで、先の通信相手も海外への輸出ルートの話でしたから」
「いや、密輸系でも充分犯罪だろ?」
「それはわたし達の管轄ではないから、既に税関の方に情報共有しておきました」
「さっすがバディだぜ!そんじゃおれ達は今から行くとこのパッケージをとっちめて、あとは税関に任せれば言い訳だな?」
「そういうことです。戦闘に関しては頼りにしてますよリーゴ。君の超能力は剛力や自己暗示に振り切っている部分がありますから」
「そうなんだよな!能子あたこの姐さんも含めてみんな心読んだり機械をいじったりとか出来んのによぉ。おれってば、自己暗示を自分にかけるか他人にかけるかくらいしかそういう精神面での超能力一切使えねぇからな」

    何故誇って言うんだと渋々なリアクションを返す骨芽であったが、程なくして目的地に着いてエンジンを止めて下車すると【PSYパッケージ】の数を透視し始めて、数の多さに驚いた。
   食品会社で聞いていた会話ではパッケージは社長を含め三人の筈だったのに対して、検知した反応は六人と二倍もの数いたのだ。すると、車目掛けて廃コンテナが飛んで来たため両者車から離れるように回避して散り散りとなってしまった。それを待っていたと言わんばかりにぞろぞろと黒スーツのガードが二人を囲んだ。

「見事に罠にかかってくれたな【PSYCode】。我々の狙いは端から貴方達なのだよ。やっちゃってください皆さん♪」
「へぇ~、どうするバディ?ご指名は金儲けじゃなくておれ達だってよ」
「舐められたものだ……。リーゴ、情け容赦は無用です!ここにいる者たちは経った今より超能力対策課わたし達の管轄とする罪状であることが解りましたから」
「オーライ♪そんじゃ、準備運動に付き合ってもらうぜ?」

    骨芽の言葉を聞いたリーゴは垂れ下がっている前髪を託しあげてオールバック状態をヘアバンドで維持して、両手に指抜きグローブを着けてフットワークを良くするために身体を左右に足踏みしながら「かかって来な」と手で挑発した。
   挑発に乗って殴りかかって来た拳を軽々と避けると、突き出してきた拳の懐に肩を入れて背負い投げして次に向かって来た相手には両手拳を受け止めて、頭突きをしてきたのを待ち構えてぶつかった衝撃で相手が気絶するように衝突する皮膚を鋼鉄のように硬くして迎え打った。

「隙ありッ!!」
「なっ!?」
「へっへっへっ────、おいらのスタンガンロットは超電導エレキボルトで強化されているから、超能力者とて耐えられるもんじゃ────ってえぇ!!??」
「効かねぇ、効かねぇ……、んなもんは────唯の電気マッサージだァァァァァ!!!!」
「ひ、ひっ!!??」

    超電導のスタンガンロットは電圧は50v程ではあるが、電圧で肉体にダメージを与えるのではなく精神を感電させる超能力であるため【PSYCode】も【PSYパッケージ】関係なく、尋常ではない精神力を持っていない限りはそう容易く耐えられるものではないのだ。唯────相手が悪かったのは間違いないだろう。

「残念ですが、うちの筋肉馬鹿枠に精神攻撃はかなり無意味ですよ」
「そういう貴方は、さっきから何もせず逃げ惑ってばかりだな?」

    超電導使いのパッケージを大振りの拳で殴り飛ばして向かい来る別のパッケージと戦いを繰り広げるリーゴとは対照的に、指摘されるとおりに一切攻撃をしない骨芽であったが、想定以上にパッケージが居たのであれば自分も戦闘しないといけないかとため息をつきながら眼鏡を放り投げて眼を全開に開いて口ずさむ。

━━ Brain___Hazard___Overflow...クリアリングリーボーン

「面倒だ。3人で行くぞ?貴方達は左右から、私は正面から行きます」
「回避、右を1にして正面2……左の3を対処する前に右に反撃────」
「がはぁ!?な、なにぃ?」
「どうでもいいが……社長さん。あなたはどうやら傭兵時代に受けた銃弾の傷のせいで右上腕部の骨が脆くなっているぞ」
「ん?────ッ!!??」

   水色に光る両眼で見つめながら、社長の身体をレントゲンで見たかのようにアドバイスをした矢先に何処なのかを教えてあげるかのように指をその傷跡の部分を突いたことで、痛みに悶絶していたのだ。反撃を受けた能力者ともう一体の攻撃もまるで当たる様子はなく、予め来る攻撃を知っているようにゆらゆらと必要最低限度の動作で躱していき距離を置くために後ろへ飛び込むと拳を挙げ肘の部分を逆の手の甲で叩いて眩いフラッシュを生じさせながら、ネオンライトの明るさを放つ骨を身体から変化投影複製トレースタンシエイトで創り出して手に持つと刀のように長さ・形を変えた。

「戦闘は不得手と言ったろ?つまり、加減出来る保証はないと言うことだ。そう避けるつもりなら、こう動くっ!!」
「ぐああああ────ッ!!」
「か、身体がぁぁぁぁ、斬られ……」

    二人の能力者を斬り穿いたように見えたが、骨芽の持つ骨の刀にはパッケージの体内に入っていたチップがくっ付いており、その場に気を失って【PSYパッケージ】が倒れたことを確認してチップを粉砕した。よろよろと立ち上がった社長の頭を掴み目線を合わせて刀を首にかける。

「言え。誰の依頼でわたし達を狙った?」
「し、知らない……。いや、本当だ超能力を得られるチップを体に埋め込んだ時にアンケートを取らされたのだが、そこに貴方達のことが書かれて居たから《OK》にサインを付けただけだ」
「────、嘘は言っていない。だが、記憶を消されているか……。分かった、もう寝てていい」

   掴んでいた頭を離すと同時に回転斬りで社長の中に入っていたパッケージのチップを粉砕した。その後倒れた能力者を一箇所に纏めて寝かせ終え放り投げた眼鏡をレンズに付いた埃を拭き取って、かけてからリーゴの方に目を向けていた。心做しか口調も眼鏡をかけている時と外したときで異なっており「後は頼みましたよ」ともとの優しい口調で小さく呟いていた。

「そ、そんな……い、依頼主がやられちまったんなら俺らは……」
「余所見は厳禁だぜっ!!い~~~っやっはぁぁぁ!!!!」
「────クッ!?こうなれば逃げるが勝ちだ。これでもくらえっ!!」
「あん?へっ♪力技でおれに勝負とはぁ、いい度胸じゃねぇかよっ!」

    胸ぐらを掴んでいたパッケージのチップを握り潰したリーゴの頭上にはコンテナが複数投擲されてこちらに向かってきていた。しかし、逃げる事もせず寧ろその場で迎え打とうと前傾姿勢を崩さずに拳に力を込め頭部の血管を浮き立出せて叫んだ。

━━ Brain___Hazard___Overflow...スクランブロール

    突き出した拳は空を裂き向かい来るコンテナを全て風圧で跳ね返し、リーゴは拳を突き出した勢いのままタイヤのように転がって怪力の超能力者目掛けて一直線に突撃して行った。そのとてつもない速さと自分の全力で投げたコンテナが反対方向へ飛ばされていく圧倒的な力を前に足がすくんでしまった能力者はリーゴに跳ね飛ばされて駒のように大回転しながら上空に跳ね飛んだ。落下してきた能力者を受け止めて後に続いて落ちてきたパッケージのチップを地面に落ちたと同時に踏み躙って粉砕した。

    やがて、駆け付けた警察に犯人の身柄を渡して報告を済ませて見送り終えてその場に腰を落として空を見上げたリーゴは骨芽に問いかけた。

「なぁバディ?今回も単に【PSYパッケージ】になって、ビジネスに使ってた小者だったってことか?」
「ええそういう事になりますね。新薬の会見内容も、毎日飲み続ければ誰でも超能力者になれるが謳い文句でしたが、こんな唯のビタミン剤を飲んでもなれる訳ありませんから」
「薬の製造データか?バディ、そんなもんまで盗み出していたのか?」

    広げたノートパソコンの画面には今回の事件に関しての調査データが映し出されていた。よく見るとバッテリーのメーターは《0%》と表示されているそのパソコンは骨芽の超能力によって映し出された念写画面ソートグラフだったのだ。

「さて日本に帰りましょうか。達美君達のところに着くのは日本時間だと朝4時頃になりそうです」
「あのなバディ?つまり何時間くらいは移動時間になるんだよ?」
「君が瞬間移動テレポーテーション出来ない故、ざっと8時間くらいですね。もう一仕事しているのと変わらないだけ暇になります。【PSYCode】といえ絶対ではないということを組織も分かって人選を組んで頂きたいものです」
「それって、おれとコンビ組むの嫌だったってことか?」

    純粋な気持ちで言っていると隠す様子もない澄んだ目でリーゴがした質問に「そうではなく、遠征に送るなら適役を見極めろと────」とまたしても長々不満をオタク口調でマシンガントークが始まってしまった。その熱弁は日本に到着するまで続いていたのだが当然リーゴは話を大半を寝たりして聞いていないのであった。

────────────

    能子あたこ達が任務を終えて、帰宅することを確認してリビングに戻ると背丈の小さな女の子がキッチンに置かれている鍋の蓋を取ろうと背伸びしていた。

「ンンっ!ンンっ!!わらわでは届かぬぞぉ?」
「いいよアギレヴ、僕がやるから」
「そんな、いけない。達美は童のお嫁さんになるのだ。こんなことは童が一人で出来なくちゃ恥ずかしいのだ」
「────。アギレヴ、いつもそれ言っているけど僕は成人しているけどアギレヴはまだ6歳なんだから、料理は出来なくてもいいんだよ?」

    まるで親子か親戚と子どもという程に背丈も歳の差もある二人がキッチンで料理をするしない問題を話しているなか、リビングでテレビと睨めっこしている小さな男の子がリモコンを手に取りながら達美に声をかけた。

「達兄ぃ、能子姉さんそろそろ帰ってくるよ?その前にパネロとプレソーアが来そうだけど」
「えっ?本当かい?玄関の鍵開けておかないと。ありがとうコハク」
「別に礼なんて言わなくていいわよ、この引きこもりになんて」
「うわああっ!!??」

    鍵を開けに行こうと廊下へと続くドアを開けたら、開けた先にパネロが立っていたので腰が抜けてしまいその場に達美は尻もちを着いてしまった。それを見るなり「ダッサ」と口に出しつつも驚かしてしまった自分も悪いと手を差し伸べるパネロであったが、すぐ横に居たアギレヴが手を払いのけ間に入りパネロを見上げて睨みつけた。

「な、何よ?」
「達美、童のお嫁さんなのだ。達美の身に何かあったら童が許さないのだ」
「はぁ……はいはい、あんたと能子で今日も仲良く達美の取り合いでもしてなさい。悪いけど私、先にお風呂いただくから……」
「ねぇ真狩さんは?お話聞きたいから、ボク地下にいるね」

    パネロは風呂場に向かい、コハクは地下室に真狩刑事を連れていきリビングは静かになったかと思ったら玄関のドアが開く音がした。玄関には能子とプレソーアが居たので、達美は駆け寄ると「ただいま」「おかえり」のやり取りを細い目で睨むアギレヴの姿を見た能子は、しゃがみ込み頭を撫でた。

「今日も達美のこと、見守っていてくれてありがとう。能子はお陰で今日も仕事に集中出来たぞ」
「さ、触るなっ!!童と能子、ライバルなのだ。達美の隣、譲らないのだ」
「つまんない……。達美……僕、コンビニで買ったやつ……地下で食べるから……ご飯いらない」
「あ、うん分かったよプレソーア君。ゆっくり休んでね」

    懐いていない犬のように能子を睨むアギレヴをなだめつつリビングへと向かう達美達であった。
   パネロがお風呂から上がったところで全員が食卓に着くと、席が一席だけ空いていることで達美は昂夜あやが居ないことに気がついた。

「昂夜なら、焼き肉を食べているぞ。付き合わされてるのは、宮内という刑事だ」
「ああ、あの対策課に配属されてきた後輩の……。どうせ昂夜のことよ?回す手は早いから狙ってるのかも」
「昂夜はハレンチなのだ。童は達美一筋だから安心するのだ」
「まだそうと決まった訳じゃないと思うけど……?それに────能子さん、ちょっと恐いよ?」
「何がだ?能子は別に不機嫌になどなっていない。この筑前煮だって美味しい。それと昂夜はどうやら宮内の恋路を応援するつもりらしい」

    能子の回答を聞いてしょんぼりするパネロとアギレヴ。【PSYCode】は複数超能力を同時に扱うことが出来るが、同じ【PSYCode】同士の心を読むことは出来ない。しかし、能子の場合は例外で能子は【PSYCode】の中でも飛び抜けて能力が高く、世界の記憶へとアクセス出来る力星詠接続アースリンクを使用出来るただ一人の超能力者でもある。
    そんな彼女にとって、仲間の心の中を覗き見ることなど食事や睡眠同様の日常的に行動する一環として出来る造作の無いことであった。

「そこまで凄い力を持っていながらも読めぬ心があるのだ。それが達美の心なのだ」
「た、確かに……そうだな。能子もきっとまだ修行が足りないのだろう」
「それ以上強くなられたら、私らの必要性がいよいよなくなるわよ。────ごちそうさま、達美。私もう寝るから、皿洗っておいてね」
「うんパネロさん、おやすみなさい」

    手を軽く振りながら階段を上がり二階の寝室へと姿を消すパネロであったが、その様子を脇で同じ目付きで見つめる二人に対し「な、何かな?」と達美が聞き返した。

「達美、童と今日は寝るのだ!他の人におやすみなさいはずるいのだ」
「いやダメだアギレヴ。達美は今日も疲れている。能子が治癒能力ヒーリングを与えてやらねばならない」
「いや、僕1人で寝ますよ。それにここはみんなのお家なんだから、おやすみなさいは能子さんにもアギレヴにもちゃんと言うよ?さ、食べましょうよ残り」
「そうだな。能子、いっぱい食べて明日からも頑張るぞ」
「童だって沢山食べて、早く達美の顔近くまで背を伸ばすのだ」

    こうして超能力者の食い意地を張った戦いが始まり、達美が他に作り置していたリーゴ達の分まで二人は平らげてしまうのであった。

「ごちそうさまなのだ。達美、童も皿洗い手伝うのだ」
「いいや大丈夫。能子さんと一緒にお風呂入ってきでいいよ?」
「達美はいいのか最後で?では、遠慮なく能子達が先に使わせてもらうぞ」

    アギレヴを連れて風呂場へと向かう能子達と入れ替わりで真狩刑事が帰るのを見送り終えたコハクが戻ってきた。コハクはテレフォンショッピングくらいしかやっていない時間になるにも関わらずテレビのリモコンを手に取り、チャンネルを操作してソファに三角座りをして視聴を始めた。

「ねぇ達兄ぃ?」
「ん?何かなコハク君」
「明日なんだけどさ、遊園地行きたいんだけど?達兄ぃとアギレヴも一緒で────、ダメかな?」
「いいけど?珍しいねコハク君が外に出たいなんて」
「まぁね。あと、多分だけどプレソーアも着いてくると思う」

    何やら目的があるようだが、超能力者でもない達美はコハクの要望に応えることを約束し、就寝準備を始めるのであった。コハクは小さく「ありがと」とだけ言ってテレビを消して地下室に戻って眠りに就いた。
    やがて、能子とアギレヴもそれぞれの床に就き消灯して明日に備えて眠りに就くのであった。

────────────

━ ホテルの一室 ━

「ちょっと何顔を赤くしてるのかしらー?」
「だ、だって……いくら夜遅くなったとはいえ。あ、昂夜さんと同じ部屋に泊まらなくてもいいじゃないですか」
「別に部屋が此処しか空いてなかったから、寝泊まりして朝一に出ていくだけなんだし気にしなくていいわよ♪勿論、あの子には黙っておくから」
「だ、だから築山先輩は────ッ!?」
「あららー?どうして築ちゃんなのかしらー?あたしはとしか言ってないわよー?」

    テーブル前の椅子に腰掛けて緊張している宮内刑事の開いた口を人差し指で抑えて揶揄う昂夜はクスクスと笑いながら、宮内の緊張感なんてお構い無しに隣に腰掛けて耳元に唇を寄せて甘く囁いた。

「宮内クン。シャワーから上がったら、シて貰ってもいいかしらー?」
「して貰うって、何をですか?」
「んふふっ♡」

    魔性の笑みを向けてシャワールームへと消えていく昂夜を見て、まさかこれから飛び込みで入ったシティホテルで同じ職場の人間である昂夜の要望に応えなくてはならないのかと気持ちが落ち着かないでいた。最近配属された課で築山という女性に好意を持っていることを昂夜に知られてしまい度々困ってはいたが、それを今日一線を越えた関係を持たされるのではと思うと心臓が脈打つ鼓動を加速させた。

「おまたせー♪さぁてと、宮内クンもササッと済ませて来なよー♪」
「は、はい……」

    一体どうすればこの状況を切り抜けられるのだろうかとナーバスになりながら、シャワールームへと向かう宮内を「うふふ♪」と微笑みを浮かべて視線を送る昂夜。言われたとおり直ぐにシャワーを終えた宮内は即座に昂夜の足元で跪いて口を開いた。

「お、お願いですっ!!あ、昂夜さんが手解きしてくれるのは大変有難いのですが……やっぱり初めては心を許し合った人としたいと思っているので……」
「────、ごめん……何の話?」
「え?だってこれから昂夜さんと……」
「あたしと?────あぁ、そういうこと?」

    宮内の決死の土下座にキョトンとしていた昂夜は、完全にオフモード担っていた読心術を少しだけ使うと宮内が自分と肉体関係を持たされると勘違いしているのを観て笑ってしまった。しかし、その気にさせてしまったのに冷めさせるのも愉しくないと思った昂夜はベッドにうつ伏せに倒れ込み宮内を更に揶揄う事にした。

「んもう宮内クンって、気が早いのねー?そんな欲望剥き出しだと築ちゃんもきっとドン引きだよ?」
「いや、でも本当にするんですか?」
「うーん……どうしてもシたくないのならー?マッサージ、してくれない?宮内クン、前職はマッサージ師だったんでしょう?」
「え?何でそれを?」
「あたし【PSYCode】よ?そんくらいのこと読み取れなくてこの仕事が務まりますかって話しよー。ほら」

    本当は始めからマッサージをして貰うことが狙いだった昂夜は、今も本当にマッサージで見逃してくれるのかとビクビクしながら跨ってくる宮内を視て内心嘲笑っていた。しかし、マッサージのお手前は流石のもので凝っている部分を的確に揉みほぐしていく宮内は次第に緊張の糸が途切れて集中するようになった。

「あぁん♡ダメぇ♡は、激しっ♡」
「ちょっ!?ちょっと、昂夜さんっ!?そんな大きい声出したら隣に聞こえてしまいますって」
「アッ♡でもぉ、気持ちイイ────ッ♡♡」

     声を黙らせたいが、下手に手が出せないとおどおどしている宮内をもう少し堪能する昂夜であった。そして、本人も芝居さながら大声を出しながらも外に音が一切漏れないように遮音空間にしていた昂夜も息切れを起こして二人してベッドに横たわっている状況になった。

「はぁ、はぁ、はぁ……ゴメンね宮内クン。ちょっと、意地悪しすぎちゃったねー♪」
「はぁ、はぁ……これ、本当に……他の部屋に、聴こえて……ないんですよね?」
「うん。勿論よ……はぁ、はぁ、はぁ……」

    唯マッサージをしていただけとは思えない程にお互い汗までかいているなか、宮内が「何か飲みます?」と来る途中で買っていた飲み物を手に持って聞いてくる様子を見て、顔を紅潮させていた昂夜は「あ、ありがとう」と差し出してきた飲み物の好きな方を自分で手に取った。

「────。」
「意外と、ポイント高いんじゃない……」
「え?今なんて?」
「ん?なんでもないわー。それよりさっきの質問の続きなんだけどー?どうしてマッサージ師なんてやっていたのに警察になったかは、再試験で合格するまでの間に勤めていたというのは分かったんだけどー。女性の体にだって触れるでしょ?」
「それはそうですけど……。その頃は特に意識もしていなかったというか……」
「ふーん♪本当に天然記念物なのね、宮内クンは♪こんなピュアな子に想われているなんて、築ちゃんも羨ましいなー♪」

    既に常套句になったそれを「だから違いますって」とお決まりの返しをした後、宮内もマッサージの間に聞いたことを確認するように質問した。それは【PSYCode】を持つ超能力者は八体しか居ないということについてだった。

    能子、パネロ、スキン、昂夜、プレソーア、リーゴ、骨芽、アギレヴ、コハク───。超能力対策課に配属された【PSYCode】は全部で九人。昂夜は声を荒げて宮内を困惑させようと悪戯した際につい口を滑らせてしまった。

───は【PSYCode】ではない。───

「本当なんですか?昂夜さん……。じゃあ、彼女は一体何者なんですか?」
「そ、それは───、ゴメンね……宮内、クン────」
「え?────ッ!?」

     次の瞬間、宮内はその場に脱力して深い眠りに就いた。そして、昂夜は宮内の顔を仰向けにして額の近くに掌をかざすと念動精神介入サイコスキャニングを発動し、記憶に封印をかけた。記憶を封じる前に眠っている宮内の深層意識に向かって告げるように耳元で囁いた。

「能子はね────○$×△¥&#!、なの。思い出すことがないように、この記憶……しっかり封印するねー」

    記憶に封印をかける能力である以上は、封印を解く導線を動作として造らないといけない欠点があり、昂夜は封印を解くための導線を宮内に施した。

━ 翌朝 ━

「ほらー、早く起きてよ宮内クン」
「ん……んっ!?昂夜、さん?此処は……?」
「覚えていないのねー。昨日一緒に焼き肉行った後。2軒目でお酒飲んじゃって、宮内クン酔っちゃったから宿に泊まったのよ」
「えぇ?く、車は?」
「さっき、あたしが駐車場に運んでおいたわよー。駐車場料金は取られるところじゃなかったから良かったわね」

    飛び起きた宮内は昂夜の言葉を聞いて一安心するも、時計の時刻を見て次の捜査会議がこの後ある事を思い出して慌ててチェックアウトして警察署に向かう準備をした。

「ごめん昂夜さん。家まで送ってあげられなくて」
「いいよー。あたしは今日はオフだから♪それと────?」
「ん?」
「昨日の宮内クン……すっごい大胆だったわー♪宮内クンの記憶にないのはちょっと寂しいけどー」

    昨日何かあったことを匂わせる昂夜であったが、そんなことを気にしている場合ではなかった宮内は急いで車を走らせるのであった。その去り際を小悪魔めいた笑顔で送り届けたあと、暗い表情で少しだけ下に俯いて昂夜は心の中で念じた。

───宮内クン、ゴメンね。

    黙祷のように捧げた心の念を終えると、笑顔になって「さてと、まずは達美ん家に行こ♪」といつもの陽気な独り言を零してスキップしながら、帰路へと向かうのであった。
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