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第1章
凍えるほどに冷たい男 4
しおりを挟む嫁神は連続して変死体が発見される事件で、いずれも岩田の倒産した会社の取引先であった食品会社の役員が狙われていると、依頼人の岩田 麻美子から言われ生存している役員の警護に来ていた。
「あの……、本当に一連の事件が怪物によるものなのですか?」
「はい。にわかに信じ難いとは思いますが、亡くなられた役員の方々はいずれも人間の力では不可能に等しい方法で、変死となっています」
「警察の方も言ってました。世間には落下死で報道しているけど、体内が……血液が凍っている状態で見つかったと」
不安がっている女性。彼女の名は鳩部 ミサキ。食品会社の役員で唯一の女役員だ。現在も常務に上席している。
警察が身柄保護のために警護隊を送ってくるのも、時間の問題であることから嫁神がこうして、邪魔がなく対面で話せるのもこれが最後の機会かもしれない。
飲み物を飲み、ひと息ついているミサキに早速聴きたいこと聴き出す嫁神。
「単刀直入に聞かせていただきます。岩田 俳麿という人物をご存知ですよね?」
カップに付けていた唇の動きが、ピタリと止まる。表情も明らかに何かを知っているといった様子を見せる。
「え、ええ。前に取引されておりましたから……」
「そうですか。どのような人物だったのか、お聞かせ願います」
「え?そうですねぇ……。口数は少ない方でしたが、とても優しい方でしたよ」
「ほぉ?優しい方、ですか……」
答える途中の仕草を嫁神は見逃さない。
自分と同じくらいに長い髪に指を通し、視線はミサキから見て左方向。なるほどと、胸中で自身を納得させ話を続ける。
「直近でお会いになられていますか?」
「?い、いえ……。すみません、先月……」
今度は目線が右に左に移りながら、明らかに緊張している素振りを見せるミサキ。すぐに嘘を吐いていたことを認めたように、会っていたことを答える。
「その時はどちらで?」
「映画館です。映画を観に行った帰りに会いました。あの、もしかしてですけど……俳麿さんがこの事件の犯人だとでも言うんですか?」
「まぁ、あくまでもまだその可能性があるとしか言えませんが。第一、私は依頼人からの依頼でその俳麿さんを探しているだけです。今回の事件と関連があるものなのかは、調査の対象外です」
そう聞いて、安心したように背もたれに寄りかかるミサキ。
ちょうどのタイミングで、警察が派遣した警護隊の車がやって来た音がした。嫁神は立ち上がると、聴き込みに対応ありがとうとお辞儀をして玄関へ向かう。
靴を履いてドアノブに手をかけた直後、首をミサキの方へ向け言った。
「くれぐれも警察を目を盗んで、俳麿さんに会いに行こうなんてしないでください。彼が犯人だとすれば、貴女が連絡をしなくとも貴女の命を狙いに来るでしょう。もっとも…………」
「?」
嫁神の最後に言っていた言葉が聞き取れず、耳を傾けるミサキであったが「では」と言って、ドアを開けて嫁神は去っていってしまった。
入れ替わるように、警護の警官がやって来てミサキの身の安全を確保する。強盗でも来るのかというくらいに、大袈裟な人選配置。
相手が変死体を作る人外であることを、警察も信じているとでも言うのだろうか。
ミサキはそんな仰々しい状況に、不安を感じて胸に手を合わせて俯いていた。
その日の夜。ミサキは近くのコンビニへの買い物を申し出る。
外出こそ、犯人がミサキを誘拐する危険性があるとして、刑事が2名同行することを条件に許可する。
街灯が少ない道を通って行くのが近道だからと、集合住宅に設置されている公園の通りを歩くことになった。
「────へ?」
「ど、どうかなさいましたか?」
「今……黒い服を着た男がこっちを見ていました……」
ミサキは暗闇の方を指差して、引き攣った表情で口元を押さえて恐怖する。
刑事の1人が拳銃の入った内ポケットに手を入れ、ミサキの前に出て忍び足で暗闇に向かって歩いて行く。
懐中電灯で前を照らしつつ、進んで行くと確かに茂みが揺れている音が聞こえる。
ハッと振り向くと、カエルが茂みから飛び出してきた。なんだと、肩の力を落とした刑事。すると、ミサキと一緒に居た刑事の声が上がる。
「た、大変だ!警護対象に、逃げられてしまいました!!」
「なんだって!?」
黒い服を着た男は、ミサキがでっち上げた嘘だったのだ。
刑事の1人を向かわせて、警備が手薄になったことを確認したミサキは残った刑事の背後から、股を蹴ったのだ。
不意を突かれては、警官であろうとも痛いものは痛い。悶絶している間に、ミサキは全力疾走でその場を逃げ出した。
やがて、警察は警護対象が逃げ出したことを班全体に伝え、車を走らせて捜索に当たるのであった。
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