意味のないスピンオフな話

韋虹姫 響華

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メインストーリーな話

撤退

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 アンリードとの戦闘から、逃げ果せた燈火達はみんなと合流した。
 戦局は不利だった。そもそもにして、人怪調和監査局から抜け出してしまった怪異は、すべてアンリード達の手によって消滅させられていた。それも、いつでも出来るというのに、噂観測課を誘き出すために敢えて生かしておくほど、アンリードの実力は計り知れないものだった。

「んでも、ディフィートさんの必殺の一撃受けたっていう2体は、流石に────」
「いいや。アイツら本当に命持たずの存在らしい。あの感じだと、もう活動再開出来ていても不思議はねぇ」

 嘘でしょと、唖然とする茅野。すると、松葉杖をついた状態のみのるが、口を挟む。今回の件に、実はもちろんのこと。特別遊撃隊も参加することは出来ないというのだ。加えて、インフェクター達への警戒を厳かに出来ないと、肩を竦めて言う。
 万事休すとはこのことだと、誰しもが肩を落とす。そこへ、聞き覚えのある声が聴こえてきた。

「まぁまぁ、そんなしょげた顔しないでほしいし、先輩方♪」
「あ、空美あみさん!?ど、どうしてここに?……はい?」

 音雨瑠ねうる 空美あみ
 インフェクターの一人、アスモダイオスによって記憶喪失になってしまっていた彼女。その空美が、特別遊撃隊に加わっていることを知らされる燈火達。驚愕も束の間、空美は今回のアンリードを操る黒幕を探るために、特別遊撃隊は動くことを知らせる。
 最前線での協力が出来ないだけで、世界各地を回って対処に当たるべく、ラウ達は先に日本を発っていた。空美もその後を追うように、敵の拠点が判明し次第日本を飛び立つことになっている。

「にしても、後輩達が見たらビックリするでしょうね?……はい」
「だろうさ。あたしだって、トレードのやつに?」

 ディフィートの場合は、勝手にそう思い込んだだけではと燈火は渋々と睨んだ。
 この場に居ない面子はすでに、他の任務に当たっているためを知らない。せめて、教官であるトレードくらいには会っていったらどうだと、ディフィートは訊ねるが空美は首を横に振った。

「そうしたいのは山々なんですけど、あーし今回は燈火先輩の護衛ってことで、それが終わったら、日本出ちゃうし?」
「はぁ、アイドルとギャルは忙しいって昔から言いますからね……はい」
「ほ、本当に言うのかしら?」

 茅野のツッコミには、反応を示すことなく椅子から腰を上げて燈火は、夏蝶火ほたるびの前に立った。どうせ、立て続けに顎で使うに決まっていると、冷ややかな目を向ける。
 すると、夏蝶火は隣で揉み合いしている男女の方を見て、声をかける。男性をヘッドロックしていた女性が、こちらを向いた。拘束を解かれた男性は、噂観測課極地第1課のラットであった。

「いたたた……、おかんっ!ワシを殺す気かいな!?」
「アホ抜かせバカ息子ッ!!こんなんで死ぬたまやったら、ウチの子ではあらへんわ!!」
「へぇ~~、ラットの母ちゃんなのか?にしては若過ぎねぇか?」
「驚くんも無理はないわな。おっと、自己紹介がまだやったな?ウチはヒョウや♪いつも、バカ息子が世話になってます♪」
「ヒョウかて……。おかん、さっきチーター名乗っとたやろ?」
「それやと、ゲームで不正しとるみたいなんやろ?せやったら、ヒョウの方がええやん?」
「ほんなら、本名でええやろ!虎子じゃアカンのかいな!?」

 ラットの口答えにまたしても、ヘッドロックをかける。
 すると、隣で夏蝶火が虎狼ころうと呼んであげてくださいと、みんなに伝えた。虎狼は、夏蝶火の上司。つまりは、人怪調和監査局の局長である。いつもその名で通しているが、本人は小物っぽいからと名前を認めていない。
 ラットと同じく、本名で活動されてはどうかという夏蝶火の意見に折れ、コードネーム虎狼として行動していた。

「ほんでな、本題入ると。そもそも、あんのアンリビーバボーいう連中な?ウチらの拠点を複数狙っておってな?ほいで、気が付きゃ量産に成功しとる感じやろ?」
「アンリードですよ局長。それに、説明の大半が合っていないんだな……これ」

 夏蝶火の指摘を受け、なら最初から説明しとけとツッコミを入れた。
 漫才の空気感が漂うなか、夏蝶火は一つ一つを掻い摘んでこの場にいるメンバーに説明した。

 アンリード。まず、彼らの出現については虎狼から説明があったとおり、人怪調和監査局の研究機関が保管していた怪異、そのサンプルを持ち出されたことで造り出されたのである。
 その後も、各地では工作を行ない、四体のアンリードまで完成させることが出来た連中は、長年紛争の耐えなかった領土へ攻め入ったのだ。そう、言うなれば正規軍ですらない者達の一方的な武力介入。
 厄介なのは、アンリードの不死性にある。燈火達は、先の戦闘で怪異とは違う性質を身を持って味わい、強靭なまでの再生力を目の当たりにした。しかも、その製造の工程は凄まじいもので、行動停止している怪異と死後形を損なわずに亡骸へと成り果てた、人間の遺体を使って造り出されているというものであった。

「うっ!?わ、私……ぎもぢわるくなってきた……」

 茅野が催すなか、説明は続いた。
 怪異としても、人としても、のものを融合させて創り出す。だから、命持たずの存在と呼ばれるのであった。アンディレフリードの略称であるが、その紛争への介入から生還したことから、アンデッドグリードの略称と間違えられている。
 ディフィートの一撃に敗れることがなかったのも、怪異としての性質を引き継いでいないため、怪異の力の衝突によって撃破されることはなく、人としての生命活動の停止を意味する《死》を持たぬ以上、何度でも蘇る。

「それはつまり、打つ手なしっちゅうことかいな?」
「バカ息子。これやから、素人は黙っとれ言うんやで?ないわけやない。せやけど、かなり骨が折れるんは違いないやろな」

 恐ろしいまでの不死性を持つアンリードと言えど、完全に不死身という訳ではない。ベースとなった人と怪異の残骸によって生成されたコアを破壊すれば、再生することはなくなり、完全に消滅させることが出来る。
 それを聞いて、勝ち目がないわけではないことを知った燈火達は一安心する。がしかし、夏蝶火が次の瞬間に放った一言さえなければの話だった。

「その方法でアンリードは無力化できます。────は、ですけどね……これ」

 なんと、アンリードの中でも、燈火とディフィートの前に姿を現したフロンティアは、無力化出来ないのだと言った。何故、フロンティアだけが他とは違うのかと問うと、彼女は最後に造り出されたアンリードにして、アンリードが掲げる理想を体現した存在であると答えた。
 本来は、怪異を撲滅するためのプロジェクトで、人造怪異使いとともに闇へと葬り去られたテクノロジー。その理由は、製造工程に人の遺体を必要としていたからであり、怪異の休眠化技術が当時は確率化されていなかった。そのことが原因で、結果として実現出来なかったが、命を持たない尽きぬ軍勢で怪異を一網打尽にすることが出来れば、噂観測課という現代組織を施設する必要はなかったであろう。
 そうして禁じられた技術が、何者かの手によって復活させられただけでなく、完成系ともいえる存在まで作り上げることに成功したのである。

「まぁ、復活させたのも、凍結させたのも同一人物ですけどね、これ。後にも先にも、あんな非人道的なことを思いつく人は、彼しかいませんから……これ」

 お前が言うなと、キッと睨む燈火。

 アンデッドオーダー。アンリードを研究し、実用化に向けて推進していた組織。その管理責任者、都越江とこしえ 久遠くおん。彼は、アンリードの製造に人間と怪異それぞれの遺体が必要となることを知り、プロジェクトを凍結させた。
 しかし、それは表向きであっただけで、密かに研究を続けていた。そのことを政府から派遣されたスパイの告発によって、見つかってしまい抵抗した久遠はその場で射殺。そのはずだったが、久遠は生きていた。そして、自分の研究を認めなかった連中への見返しに、今回の大規模な暴動を起こしていると夏蝶火達は踏んでいるのだ。

「まぁ、考えてもしょうがないですね……はい。で?虎狼さん。次はどちらへ向かえば?」
「おっ!夏蝶火の妹はんはやる気に満ち溢れていてええなぁ!ほんじゃまぁ、夏蝶火と茅野はん、それからバカ息子は例のハッカーのアンリードを追うてくれ。ほんで、燈火はんと空美はんはあやかしせい?の森やな!」
「妖精の森なんだな……これ」
「おう、そうそう♪そこに向こうてくれ。現地に辰上っちゅうあんさんらの部署の子も居るはずやから、合流してやってくれな」

 次なる作戦の指示を出し終えた虎狼は、席を立つ。向かせた妖精の森と呼ばれている場所にも、アンリードが現れると読み先手を打つ。そこには、人的に無害な怪異が隠れ潜む場所。しかし、アンリードの目的が凍結される前と同様に、怪異撲滅であるとするならば、狙わないはずがないだろう。

 燈火と空美は車へと乗り込み、妖精の森へと向かうのであった。
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