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メインストーリーな話
アンリード
しおりを挟むレッドヒールが踵を鳴らす。カウントダウンにして、三拍子を合図にフロンティアが槍を構え、燈火の急所を突く。地面を蹴って、胸三寸のところで槍先を通過させ、銃口を向ける。
「ふっ」
「喰らえです!───はいっ!」
一撃を避けられても、依然として不敵な笑みを浮かべるフロンティア。その脳天に弾丸が突き刺さった。ように見えた次の瞬間、宙に浮く燈火の腰を叩きつける。
地面に叩き伏せられた燈火の目に飛び込んできたのは、もう一体のフロンティアだった。首だけを動かして、脳天を撃ち抜かれて倒れているフロンティアの方を見る。しかし、レッドヒールの時同様、普通に起き上がり後頭部を自分で叩いて、体内に入った弾丸を外に出した。
「無駄ですよ。それに、もうチェックメイトです」
「何っ!?全部で────、4体!?」
燈火の首に突きつけられる双槍は、罪人を公開処刑にするようにクロスして地面に突き刺さる。燈火を叩きつけたフロンティアがその後ろに立ち、槍を両手で握りしめて振りかぶっていた。
「あ~あ、ヒールの出番なし。つまんないの~~♪」
「さようなら、噂観測課の人よ……」
最早これまで。そう思い、燈火は目に力を込めてその場で食いしばった。槍先が風を斬る音が急接近し、炸裂音を奏でる。
ザクシュ...ストン......
辺りは静寂に包まれた。
チャリンッと金属が地面と触れる音だけが、寂しく音を立たせていた。
「なら、遊んでくれよ。もちろん、テメェら総出でいいからさっ!!」
『────ッッ!!??』
すると、三つの閃光がフロンティア達を狙う。
散開して攻撃を退けた、三体のフロンティアであったが、遅れて燈火にトドメを刺そうとしていたフロンティアとレッドヒールが転がってきた。間髪入れず、燈火の背後からエンジン音を爆音で鳴らすバイクが、フロンティア達に突っ込んでいく。槍で両断されたバイクは二手に分かれて、爆散する。
「なぁになぁに?新手?新手だよねぇ♪」
「そのようですね……。噂観測課の第1課────、コードネーム:ディフィート」
「ディフィート、さん……」
ファー付きのコートを、これでもかとだらしなく肩出しスタイルで着こなす、薄紫色のロングヘア。それは、以前の迷宮怪異で体調を崩したディフィートであった。
「大丈夫かよファイヤーボール?あたしゃ病み上がりだっつーの。あんま心配かけさせんな」
「これはこれは、どうもすみませんね……はい。ところで私、連れがいたんですけど……はい」
連れとは、夏蝶火のことである。
それなら心配入らないと、ディフィートは答えた。そちらにはすでに、他の第1課のメンバーと、人怪調和監査局の局長が向かい無事に撤退していた。つまりは、あとは燈火を連れて撤退すれば、とりあえずは立て直しができる状況になるわけだ。
しかし、アンリードは燈火達を逃がさない。何を隠そう怪異は囮に過ぎず、いつでも始末出来るにも関わらず、燈火達の前で倒していたのだ。
「つまり、連中の狙いは私達ってことですか……はいはい」
「そういうことです。と言っても、燈火。アナタは私には敵いませんでした」
「そんじゃ、選手交代と行こうぜ♪」
「ッ!?」
金属同士のぶつかり合いとともに、火花が散る。いつの間にか、フロンティア達の背後を取っていたディフィートの一撃に、四体は後退るほどの衝撃受ける。しかし、瞬きすら許さないスピードで反撃へ転じるフロンティア。フォーメーションを組んでの連携攻撃で、ディフィートを防戦一方にさせて消耗させることが目的。
その様子をニコニコ笑いながら、ステップを踏むレッドヒール。肩をトントンされて振り返ると、二連装の銃口が向けられていた。上体を有り得ないほどに逸らして、ショットガンを躱し地面に両手をつき、カポエラで燈火にカウンターキックをお見舞いするレッドヒール。
「甘いよ、オバさん。そんなんじゃ、ヒールのハートは撃ち抜けないよ♪」
「カッチーーンッッ!!オバさんなんて、生まれてこの方言われたことねぇですよ!!このピチピチ肌の何処が、オバさんなんですか、はいっ!?」
「そういう怒りっぽいところぉ♪」
地面をスケートリンクに見立てたように、華麗に滑りながら燈火に回し蹴りを繰り出す。頭を下げて避けると同時にリロード、もう一度銃口を向けるが首を曲げて避ける体勢を、レッドヒールが見せる。それを待っていたと、ニヤリと口角を上げてゴルフショットのフォームで、思い切りフルスウィング。しかし、スカッと外れ、力が入りすぎて体が浮き上がってしまう。
これを逃すまいと、再びオーバーヘッドキックの体勢を取った瞬間、くるくる回転する燈火は引き金を引く。顔面にフルバーストを受けた、レッドヒールの身体が吹き飛ぶ。瓦礫の下敷きになったが、これで倒せるわけもないことは分かっている燈火は、キャリーケースに新しい武器の設計図をスマホから転送する。
レッドヒールが飛んで行った瓦礫の後ろでは、五つの影が攻防を繰り広げていた。
「驚きですね。まさか、これほどとは……」
「のわりには、リアクション薄いじゃねぇかよ。命も感情も持ち合わせねぇってのは、本当らしいな」
「ええ、そうですね。感情など、怪異を駆逐するのに必要ありませんから」
「それと、ここまでよく頑張りました」
ふと、辺りを見てみれば一体足りない。そのことにディフィートが気付くのは、フロンティアの分身の一体がそう告げた後だった。
空を見上げる。金色の螺旋を纏う槍が、ディフィートを襲う。
───朽ちなさい!闘争の果て、導く勝利の栄光ッッ!!!!
紺碧の雷が降り注ぎ、衝撃が怪電波となって円状に広がっていく。突風で目を開けていることも出来ない燈火は、キャリーケースのローラーからスパイクを地面に突き刺し、キャリーケースにしがみついて吹き飛ばされないように堪えた。
轟音が止み、廃車置き場は見る影もなくなるほどの大爆発を引き起こして、更地へと変貌を遂げていた。小さなクレーターの中心に独り、佇んで突き刺した槍を引き抜くフロンティア。放った一撃によって、消し飛んだ瓦礫の中からレッドヒールが姿を出す。
「あ……ぁ……。そんな…………」
燈火は目の前の光景に唖然とすることしか出来なかった。
ただの一撃で、廃車置き場が爆破事故を起こした規模での破壊力。それはつまり、ディフィートの言っていたとおり、端から抜け出した怪異達を始末することなど、施設を強襲して壊滅させられるだけの力を持っていたことを現していた。
「これは、カバーストーリーを作るのが大変な事をしてしまいました」
「新手のお姉ちゃん、死んじゃった?お話してみたかったなぁヒール♪」
「そうですか。なら、ご安心なさいレッドヒール。私が先程の弱音を吐いたのは、その彼女が生きているから────、出たものですから」
空を見上げて、槍を構えるフロンティア。すると、遠くの空から禍々しい雷撃が光を放ちながら、フロンティアを目掛けて飛来した。砂埃を巻き上げたと同時に、レッドヒールの腹部が深紅の閃光に穿かれ、クレーターの端側に叩きつけられた。
降り立ったディフィートが、手に持つガンブレードの切っ先から、空砲を連続で撃ってフロンティアの一撃を凌いだ痕跡の蒸気が空に昇っていた。
「本当に危ねぇとこだったぜ。あたしに本気出させようってのは、大した兵器だぜアンリード……ッ!!」
「怪異を2体飼っているというのは、どうやら本当だったようですね」
「ああ。どうでもいいけど────」
「?」
「動いたらどうなんだ?」
正面に立っているはずのディフィートの声が、背後から聴こえ振り向こうとするフロンティア。視点が下に沈んでいく。何が起きたのか、同時にすべての分身が理解する。
地面に上半身が落下するより先に、下半身が崩れ落ちる。しかし、直ぐに磁石のように引き合い、再生を始めるフロンティア。それを見逃すディフィートではない。ブラスターで引き合う体を遠ざけるように、撃ち飛ばしレッドヒールを磔にしている場所に集める。
「うっ、ぐぁはぁ♪」
「さぁて。ファイヤーボール!!そいつの用意は出来てんだろうな?」
クレーターの円周部から覗き込んでいる、燈火の方を見てディフィートが確認する。「もちろんです、はい」と、サムズアップで答える燈火。
(てか、あれだけの一撃を咄嗟の回避で無傷とか、ムテキアイテムでも持っているんですかね……はい)
その内心では、戦慄からのどんでん返しで度肝を抜かされていたのであった。
燈火の心情を知らないディフィートによる、大業返しが始まろうとしていた。レッドヒールから、強引に引き抜かれた愛剣がディフィートの手元に飛んでくる。愛剣から滲み出る、深紅の雷切が最大まで高まる。
「こんだけ派手にぶっ壊してくれたんだ!!ガソリンに火がついて大爆発したって、無理なフェイクニュース流すしかねぇだろうけどよ!!どうせなら、景気よくいっとこうぜっっっ!!!!」
フロンティアは分身を解かずに、槍を組み合わせて盾の布陣を敷いて耐える準備をする。再生が間に合っていないレッドヒールの前に立ち、真っ向からディフィートの一撃を受けるつもりだ。
──古き逸話を越えて、新たな伝説を刻むために、唸れッ!!|ドゥームズデイ・真ッッッッ!!!!
地を這う雷切がフロンティアの布陣を貫通し、レッドヒール諸共に深紅の輝きの中に葬った。最頂点に達したドゥームズデイ・真の一撃は、クレーターに対しドーム状の電磁波を発しながら、静かに消えていった。
その光景に顎を外して関心している燈火の隣に、ディフィートが降り立ち今のうちに撤退する。燈火がキャリーケースに作らせたのは、カイトだった。しかし、問題点が一つあった。
「お前これ……、一人分じゃねぇか!?しかも、あたしサイズ……」
「だから私を抱っこして飛んでくださいよ……はい」
四の五の言わずに、今は一時退却することが先決である以上、背に腹はかえられない。ディフィートは直ぐに装着して、燈火を抱き上げて飛行準備に助走をつける。キャリーケースを怪異能力の格納で、霊体化させる。ディフィートも同じく持っていた愛剣達を手放し、自由解散させて身軽にしたところで、思いっきり地面を蹴り上げて飛翔した。
煙がまだ立ち込んでいる廃車置き場から、少しずつ遠ざかる二人。近くが港であったために、潮風を利用して飛行を安定化させる。他のメンバーは、第1課の事務所で落ち合うことになっているため、燈火とディフィートもそこへ向かう。それなら、このまま港を経由して向かった方が近道になると、燈火は危機を脱したことを確信して「うんうん」と頷いた。
かと思いきや、いきなりピタリと止まってディフィートの方を見て尋ねた。
「本当にどこも怪我してないんですか?はい?」
「してねぇぜ。風邪治ったあとのリハビリには、ちとキツかったけどな。それと……」
「?……なんですか?」
「正直、体調はあんま良くなくてだな?といっても、しょうがないヤツって言うか?さっきの戦闘でさ────」
続きを聞いた燈火は、クンクンと鼻を動かして匂いを嗅いだ。
すると、ディフィートに確認する。
「ひょっとしてですけど、ディフィートさんって結構ヒドい方ですか?……はい?」
「バッ、バカッ!!恥ずかしいだろッ!!いくら、誰も聞いていないだろう海上とは言え、あたしがアレが凄いなんてこと知られたら、怪異使いナンバーワンとか言われている人……って笑われちまうだろうがよっ!!」
「いやまぁ生理現象なので、誰も笑わないかと……はい」
この場にいるのが、女同士でよかったと思うディフィートであった。燈火もまた、ディフィートのはぐらかしを受けつつも、潮風に負けないくらいに匂いで分かる程度には、状態が酷くなることを聞いてアドバイスをしてみた。
「低用量くらいは常備して置いたらいいですよ……はい」
「お、お前……。あっ────」
「どうしました?」
「取れた────。落ちちゃった…………」
情けない声を出すディフィート。燈火は下を見ると、海に沈むソレを見てしまった。慌てても意味はないと、「事務所まで、静かに移動しましょうね、はい」とだけ言って、それ以上は何も言わないのであった。
□■□■□■□■□
燈火とディフィートが飛び立った後、廃車置き場に出来たクレーター。土砂に埋もれていたフロンティアとレッドヒールに、手を差し伸べているボニー。
「作戦、失敗だね。人怪調和監査局が、噂観測課と接触した」
「我らの襲撃も観測課の妨害で、逃がしてしまった」
ボニーの隣に立つ青年。
手を掴んで起き上がったレッドヒールが、「ありがとう、プロメテウス」と青年に感謝を述べた。フロンティアもレッドヒールも、ディフィートのドゥームズデイ・真をまともに受けたはずなのに、傷痕は見受けられないまでに再生していた。
そして、ボニーがまたしても「お母様」と呼称する司令塔の期待に応えられないと、感情のこもっていない声で呟いた。すると、フロンティアが燈火と相対した時と同様の不敵な笑みを浮かべると、人差し指を立てて全員に向かって言った。
「いいえ。我々の作戦は、まだ始まったばかりです。その証拠に、此処にはあと1人来ておりませんよ?」
「ルーティンのこと?彼は戦闘には向いていない。だから此処にいないだけ」
「それは違うよ、ボニー♪ルーティンはねぇ?ココが凄いんだよ♪ヒールなんかじゃ、思いつかないもの♪」
顳かみをツンツンと叩きながら、もう一体のアンリード。ルーティンと呼ばれた存在が、既に別の作戦を実行していることを伝える。
フロンティアは、人怪調和監査局の施設から逃げ出した怪異を全滅させている。その時点で、ここでの作戦は成功しているため、噂観測課との戦闘はおまけに過ぎなかった。
しかし、いずれは打倒するべき相手であると、ボニーは次こそ倒す意識をフロンティアとレッドヒールにも持ってもらうように呼びかけた。すると、プロメテウスが口を開いた。
「命も感情も持たぬ我らが、意識を持てとは。これまた不可解なことよ」
「そうですね。ですが、ボニーの意見も一理あります。まずは、ルーティンの作戦がどうなるか次第ですね」
無感情故に、冷静に聞こえる声色のままフロンティアは答え、廃車置き場であったクレーターから、姿を消すのであった。
やがて、アンリード達が姿が消えた後、観測課の回収班による隠蔽工作と、政府の情報操作によって『廃車置き場に隕石が落ちた』という、フェイクニュースで公には報じられるのであった。
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