意味のないスピンオフな話

韋虹姫 響華

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ハズレな話

なんかい

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 怪異討伐終了。
 現場の痕跡処理作業に入った、燈火と辰上。

「あのな、毎回毎回。武器を出して弾切れになったら、その辺に捨てて。片付けするの大変だろ」
「ん?じゃあなんですか?弾切れになった銃を、一回一回丁寧にしまって戦えって言うんですか?はい?」
「そうじゃなくて、カートリッジも作らせて射出させればいいだろう?それとも、そういう細々としたものは詰まりの原因になるとかがあるのか?」

 そうと言えばそうなのだが、そう出ないと言えばそうでない。
 何ともな問いに、皺を寄せる燈火。出来ない訳ではないが、その場その場に合わせて武器を製造させているため、使い切りにしている。ましてや、燈火が使用している間は本物として機能しているが、使用権を放棄しているものはただの粘土細工となるため、仮に一般人が拾っても精巧に作られたレプリカにしか見えないのである。

 それを、これで目だと呆れた様子の辰上に、どうやって説明しようかと頭を悩ます。すんなり、事実だけを打ち明けても、日頃の態度から本気にして貰えないだろうと、容易に想像出来る。

「ま、こいつが瞬間で暗記出来るのは、限りがありまして。戦闘時には、柔軟な対応が要求されますから……はい。確かに、後輩の言うことも一理ありますね……はい。しかし、そういった不便性もカバーするために、私自らがその後も何らかの変装をして、回収に回ってるんです」

 嘘も含まれているが、大体は合っている回答を辰上に返した。
 案の定、半信半疑といった表情で見下ろしていた。もしラットがこの場にいれば、「そうなっ!」とノリ良く流してくれると、杞憂する燈火。
 回収班が撤収作業を開始するなか、花壇の隅に腰掛けてため息をついた。今回の怪異とは、追いかけっこすることが多かったために、息切れすることもあった。見た目こそ、子どもに見えるが年齢は既に三十五歳であり、体には負荷がかかる任務だった。

「そういえば、もう1件あるんだったよなお前?」
「え?ああ、はい。でも、そちらは応援で呼ばれているだけなので終わってるとは思いますけどね……はい。それに、対応者はあのトレードですから行かなくてもいいですよ。もう喧嘩したかも分かりませんし、こないだはで家族旅行行ったみたいなこと言ってましたね……はい。あのデケェおっぱいのせいで、溺れてしまえば────」

 心底行くのがめんどくさいと、態度に出してグチグチとトレードのスタイルについて、文句を言っていた。
 低身長症により、小人サイズと断定された燈火。その見た目は中学生かと思われるほど、子どもな体型をしている。対して、同い年のトレードはいうと、ただでさえ身長も高めなのに、巨乳症なんていう病を患っており、本人が困るほど肥大化しているそうだ。
 そんな相反するコンプレックスを抱える二人は、他の人間に言われても何とも思わないのに、お互いが言い合うことで喧嘩に発展する。その因縁が、噂観測課に入ってまで続くとは思わなかった燈火。今でも、同じ現場は互いにNGを出しているくらいだ。

 私情を挟んでも仕事は仕事と割り切り、やる気が出ないままスマホを開き終わったと報告が着ていないかを確認する。連絡は着ていない。

「そもそも、後輩以外は既に使われているはずのない電話番号使っている訳ですからね……。うぇ?────あああああああ!!!!!!」
「な、なんだよ!?いきなり大きな声出しやがって……?」

 立ち上がった燈火のスマホに映っていたのは、旦那の家小路いえのこおじとのメッセージルームだった。そこには、家小路からの通知で「に行ったら、おつかい忘れました」と送信されてきていた。
 これは一大事。何を隠そう、今日はしゃぶしゃぶ用のお肉が大特価の日。家小路の実家から届けられた、新鮮野菜を一気に消化するにも持ってこいと思い、おつかいを頼んでいたのだ。

「こりゃあ、やべぇです!!後輩ッ!後のことは任せたですよ……はいっ!!」
「あ、おい……ちょっ!!────ん?あれは……?」

 走り去る燈火を呼び止めようとした辰上が、向かいのマンションに人影を感じて視線を向けた。
 そこは廃墟のはずで、誰も住んでいない。だというのに、辰上が向けた視線の先には、ナイフを持った男がいた。男は辰上の視線を感じてか、辰上と目が合い指を指してきた。
 下から何かを数えるように、辰上の方へ上がっている数え方。辰上は、まだ怪異が残っていたことをそれで察した。【サイコパスの残像】が、辰上がいる階層まで登る必要があるのか、数えていたのだ。

 やがて、【サイコパスの残像】は辰上のいた階層に辿り着き、辰上に襲いかかった。


 □■□■□■□■□


 事後処理を辰上に任せ、トレードには応援に行けないと通知を送った燈火は、特売セールの戦場へと飛び込んでいた。大特価の商品に群がる専業主婦の波、背丈が主婦たちよりも低い燈火は、精一杯ジャンプしてその場に居ることを周囲に知らせる。
 しかし、現実は残酷なものでやっても、燈火に目を向けるものはいなかった。それだけで済めばいいものの、この見た目で損する瞬間がこの大特価では存在するのであった。

「…………はい」
「困るよお嬢ちゃん。お母さんに頼まれたのかもしれないけど、お子さまは並んじゃダメだからね」
「ああ!?離せです!私は、社会人なんですよ……はい!!」
「じゃあ身分証見せて」
「うっ……」

 燈火は身分証を出すことが出来ない。何故なら、噂観測課に属している人間は、怪異使いではない辰上を除いて、すでにこの世には存在していない扱いを受けている。
 死者特例法という、一部の人間に適応された特別措置を受けて生きているため、一般人のような身分証明をすることが困難なのである。そのため、こういった買い物は家小路が一緒に居る時にしかしないのであった。

 暗い夜道、一人家路に着く燈火。肩を落として、悲壮感を全開に纏って重々しい体を引きずるように、玄関の前で脚立を置いて二重ロックの鍵を開けた。

(家小路さんが悪いんじゃないです……。全部、この私がチビだったのがいけなかったんですよ…………はい)

 この世界と自分の非力さに絶望しながら、扉に手をかける燈火。すると、中から賑やかな声が聞こえてきた。恐る恐る玄関へと入ると、玄関のライトがついた。そして、燈火の体が宙に持ち上げられて鼓膜が破れそうになる、いつも聞いている声が飛んできた。

「おかえりだァァァ!!マァァイ、ハニィィィィィ!!!!随分と遅かったじゃ!ないっかッッ!!」
「ぎゃあああ♪うるせぇですぅぅぅ、はい♪って、家小路さんこの匂いは?」
「お食事の用意なら出来ておりますよ、燈火様」
「あれ?麗由さん……はい?」

 食卓へ向かうと、現場に置いてきたはずの辰上が座っていた。
 あの後、襲ってきた怪異を駆けつけた麗由が倒し、事なきを得たのであった。しかし、燈火が覗いていた家小路とのチャットを記憶していた辰上は、きっと買い物に向かったのだと予想。
 加えて、特売セール情報を見れば《お子さまは列に並ぶの禁止》と書かれていたため、買い物をしに行ったのなら買えないだろうと踏んで、麗由と一緒に列に並んでしゃぶしゃぶ用のお肉を買って、届けたのであった。

「そしたら、家小路さんが僕達も食べていってくれって言われたから、お言葉に甘えさせて貰おうとしていたんだ」
「これでッ!!全員揃った訳だッ!!味付けは、素敵なメイドさんのMrs麗由にしてもらぁぁぁぁぁ────ったッッ!!」

 燈火は家小路の隣に座り、箸を手に取って合掌した。みんなも揃って「いただきます」と言って、しゃぶしゃぶを堪能することにした。

 不意にスマホの通知が表示され、確認する燈火。


────────────────

来てくれなくてよかったぜ。
てめぇみてぇなチビなんかとコンビ組まされたら、
ストレスで死んじまうからな!

────────────────


 それは、トレードからの相変わらずな辛辣メッセージだった。既読だけつけて、画面を閉じソファーに投げる燈火。良くないこともあったけれども、い感じと気分を上げてしゃぶしゃぶパーティーを楽しんだのであった。
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