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メインストーリーな話
そして、意味のない日常は続いていく
しおりを挟む落ちていく燈火の体。
ドリームファイターのアーマーが大破したことで、重力に引かれるまま落ちていくことを止めることが出来ない。
(身体中が痛いです……はい。だいたいね……私は工作員がメインなんですよ……はい)
本来はこんなに最前線に出て、戦う立場に居ないと心の中で愚痴を零す。
散々、怪異だのインフェクターだのを相手しておいて、今更な感じはしているがアンリードとの戦いは、流石に応えるものがあった。
都越江 久遠とネヴェル・トコシエ、アンリード達によるアンデッドオーダーはこれにて、完全に鎮静化されたことになる。
しかし、燈火は失ったものもあるとポケットの中から一枚の写真を取り出し、逆さの状態のまま見つめていた。家小路とのツーショット写真。思えば、この笑顔をもう長いこと見ていなかった。
(【夢の提供者】として、私の怪異を視覚化した武装に変えた時に、すでに家小路さんとの夢を代償にしてましたからね……はい)
家小路が激情的で、芸術的だったのは元からではあった。それが、燈火との出会いによって隠すことなく、遺憾無く発揮されて天才漫画家として活躍することとなった。ただ一つ、燈火へ向ける無邪気な笑顔を引き換えにして得たものであることは、燈火しか知らない。
それが、進化して【夢幻に咲く戦士】になった。それはつまり、より大きなものを代償に投げ打ったということになる。
燈火は、家小路と過ごした夢のような日々。記憶を代償として、その進化をトレードに頼んでいた。もちろん、トレードが何でも反対したのは当然のことであった。それでも、自分のわがままを通して手に入れた力のおかげで、【へカーティア・オケアノデス】に勝利することが出来た。
(家小路さんが幸せそうなら、それでいいって……本気で思ってたんですけどね…………はい)
「────あ、…………っ」
手に持っていた写真がパラパラと崩れ、風に乗って連れ去られてしまった。
まるで、これで本当に家小路との繋がりがすべて絶たれてしまったかのように、呆気なく写真は灰となって消え失せてしまった。しかし、燈火にそれを頑張って掻き集めようとする気力もない。指一本動かすのだって、かなり厳しいのだから。
涙を流そうにも、体内に十分な水分はないのかまるで目に溜まりはしない。同時に激しい眠気に襲われる。燈火はそっと目を閉じて、せめて最後くらい家小路との夢でも見て生涯を遂げようと、めいいっぱいの妄想を浮かべる。
(夢でまたお会いしましょう……家小路さん。大丈夫です、現実の家小路さんが私のことをめっきり忘れていても、私の夢に出てくる家小路さんは今も幸せそうな顔で……私の────)
「────────ィィィィ!!!!」
(ん?夢にしては、ちょっと私を呼ぶ声がうるさ過ぎますかね?)
「────ッッ!!、───ニィィィ!!!!」
(夢なのに、音量調節も満足に出来ないみたいですね……私…………、はい)
「マァァァァイッッッ!!ハァァァァァァァッッッ、ニィィィィィィィィッッッッ!!!!わたしはっ、ここっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うえっ!?」
目を閉じながら、この声が真下の方から聴こえていることに気が付く燈火。
それは明確に自分のことを「マイハニー」と、読んでいるに違いない声。しかし、有り得ない。きっとはこれは幻聴だと、目を開けずに眠りに落ちることに集中する。
「マァァイ、ハァァァニィィィィッッ!!わたしが受け止めてみせるっっぞおォォォォォ───────ォア!?ガフッッッ、ゥゥゥ────────ッッ!!??」
地面に落下した燈火。その影響で土煙が立ち込める。
その様子を【へカーティア・オケアノデス】の消滅によって、アンリード達が消えて戦闘を終えて駆け付けた仲間達も見ていた。煙が止む前に、燈火がどうなったのかを確認しようとする一同。
辰上が声を上げようとした瞬間、ディフィートがそれを静して笑顔を浮かべる。すると、バカでかい声が聞こえ出した。
「しっかりするんだ!!マイハニーッ!!何をどうしたら、こんな実験に失敗した科学者のような姿になるの、だっ!?」
「う、ぅぅ………いえの……こお、じ……さん?」
「そうだ、わたしだっっ!!」
薄らを瞼を開いて、二三瞬きをする。
目の前には家小路がいる。それも、とても心配そうな顔でこちらを見ている。燈火は、起こしてもらっている上体を左右に振って辺りを見渡した。
「ここが天国ですか?思っていたよりも、汚くて何もねぇですね?それに、家小路さんまでここに居るってことは、死んでしまったんですか?はい?」
「なぁぁにをバカなことを言ってるんだッ!?ここは……よく分からん無人島、のようだ……。しか~しぃぃ!!??空で大きな爆発があったかと思って見ていたら、マイハニーが空から降ってきたではないかっ!?」
「あはは……、うるせぇですよ……はい。────────って、えぇぇ!!??家小路さん…………」
「む?何だ?」
「私のこと、覚えてるんですか?」
その素っ頓狂な質問に、家小路も思わずキョトンとした顔をみせる。
すると、額を合わせて熱を確認し脈を測ってみたりして燈火の安否確認する。そして、大きな声で目を覚ませと怒鳴る家小路。動かせなかった手も思わず、耳を押さえてしまうほどのいつも聞く、日常的爆音。
しかし、信じ難い燈火は家小路が本当に本物なのか疑い出し、一つ質問を切り出した。
「家小路さん。じゃあ、来週に控えている私達の重大なイベント、覚えているですか?」
「ふんっ勿論だ。それは、結婚ッッ記念ッッ日、だッッ!!」
「────。」
「む?」
「ニセモノです……はい」
真顔で燈火がそう言うと、家小路は反論する。
毎年恒例の一大イベントを忘れたことなど、一度もないと言って燈火を抱き起こした。燈火は、去年も一昨年も、そのまた前の年も。家小路が記念日を祝ったことなど一度もないと、指さして激怒してみせた。
「家小路さんは、なんだったら去年の私の誕生日。海外出展のために飛行機に乗って、視察しに行くことを優先にするような人なんですよっ!!それが結婚記念日なんて大事な日、覚えているわけねぇんですよっ!!えぇい、このっこのっ!!」
「ぬあぁ!?よせ、マイハニーッ!?それはだな、マネージャーがどうしても外すことが出来ないと言って来たからだったんだぁぁぁ!!!!それに、後日ちゃんと埋め合わせしたじゃない、かァァァ!!??」
主人に逆らう猫のように、家小路の頭部に飛びかかって猫パンチで、頭をポコポコ叩く燈火。
少しして、その手を止め家小路に肩車させるように足を両肩に引っかけた。そのまま家小路の耳元に口を近付けて、震えた声で囁くように言った。
「知ってますよ……はい。本物の家小路さんでふぅ……」
「マイハニー?」
「うわぁぁぁぁんっっっ!!!!家小路ひゃぁぁぁぁんっっっ!!!!!!」
「ぬわぁぁ!!!!????マイハニー、どうしたのだ!?突然、泣き出して!?どこかやっぱり痛いのかっっ??」
痛いのは心の奥ですと、告げて家小路に抱きついて号泣する燈火。
何が何だかさっぱりの家小路であったが、とりあえず嫁が泣き止むまでそっと寄り添ったままで居ようと、騒がずに抱きしめ返して一緒に涙を流し始める。
『『『うわああああぁぁぁぁぁぁぁんっっっっっっっっ!!!!!!』』』
夫婦揃って、抱きしめ合いながら感動して泣き出す始末。
そんな夫婦の光景に、やれやれとみんながなり始める。一方で、ラットが不思議そうな顔をしながら、そっとトレードに近付いて耳打ちで尋ねる。
ラットも燈火の怪異の力を実体化させることで、夢や記憶を代償とする仕組みを知っていた。それなのに、今の夫婦からは最初の怪異武装化の時よりも、円満な感じが伝わって来ていた。
「ドリームエンターの強化に、何つこうたんや?一体、何を犠牲にしたんや?」
「そう鬼の剣幕すんなよ。別の記憶、夢……というよりは思い出?それを担保に変更しただけだよ」
「なんやて?」
「そうしないと、ドリームファイターってやつを解放してドッキングモードになった時、あいつの1番大事なもんの人格が宿ること出来ねぇからよ」
衝撃の事実。
ドリームファイターを起動すること自体は出来ても、ドッキングモードになった時に燈火は、自分にとって大事なものをその身に宿す。つまりは、家小路の特徴が現れるという仕組みがあったのだ。
その影響で、戦闘中の口調への入り方が家小路のように煩く騒ぎ立てるようになったり、発想力が天才漫画家ならではの頭脳に変わっていたのだ。ボニーの前にあった女神像を攻撃した時、ポータルを展開するレーザーポイントをドリームファイターに、想像させたのもこの現象があっての閃き。
普段の燈火では、とても思い付かないものであったことは誰も知らない。当の本人である燈火でさえも、そのことを自覚することはないだろう。
「夫婦一体となって戦える、とんでも兵器っちゅうのは分かった。それを使用している間だけ、家小路はんも記憶失くしたみたく真人間になるってんなら、ちと考えもんやで……やなくてっ!!」
一人ボケツッコミをしている場合じゃないと、その場から一足先に立ち去ろうとするトレードを呼び止めて、何に変更したのかを問い詰めた。
すると、トレードは煙草に火をつけて吸った煙を吐いた後に、ラットの方に片目だけ向ける程度に首を傾けて口を開いた。
「あたいとの、まともに仲良くしてた思い出さ……。今じゃ、あいつとあたいは昔からただ喧嘩しかしなかった間柄だろうさ……」
踵を返して、手を挙げてグッバイサインを送るトレード。
やがて、泣き止んだ燈火、家小路夫婦を連れて船まで向かう一行。後日、隠蔽工作が大変だと喚きながら今回の騒動は幕を下ろしたのであった。
□■□■□■□■□
━ 数週間後 ━
夕映えする港で胡座をかいて、釣り糸を垂らす燈火。
「なぁ?そろそろ行かないか?これ、どう見てもサボりだろ?また、ホームレスの格好して」
「じゃかあしいですよ、後輩。今、その怪異調査に重要なものを釣っている最中なんですから…………おっ?来たですよぉぉ、はいっ!!」
糸を高速で巻き上げて、釣り上げたものは長靴。
今どき、漫画くらいでしか長靴を綺麗に釣っているところは見れないのではないかと、辰上はいつものように呆れたように長靴を拾い上げた。
「よっと。それ……、もらった依頼で行方不明になった人の中の誰かが履いていた靴ですよ」
「マジか!?お前、まさか……ここで行方不明になった人が居たって目撃情報を?」
「はい。ホームレスに扮して、収集して来ましたよ。工作員ですからね……はい」
その場で一回転して、早着替えをみせる燈火。
いつもどおりのスカート格好へと戻り、キャリーケースに変装グッズをしまう。では、いよいよ怪異特定に向かいましょうかと意気込んだその時、燈火のスマホに着信が届いた。
出た途端に、不機嫌な顔になる燈火。相手は姉の夏蝶火であった。人怪調和監査局で、確保対象にしていた怪異が取り逃しただけでなく、市街地方面に向けて逃走してしまった。その加勢に来て欲しいと、個人都合で着信してきた。拒否権を行使するまでもなく、切話されてしまう燈火。
「まったく、噂観測課はなんでも屋じゃねぇんですよ!!はいっ!!んっ、後輩ッッ!!」
プンスカと怒りのオーラ全開で、調査資料を辰上に叩きつけて続きは引き継いで解決してくれと言って、タクシーを呼び止める燈火。
タクシーに乗って、合流してほしいと言われた場所へ向かうよう告げて、電話をかける。辰上の方へ、ピンチヒッターを頼むべく連絡した相手は、
『なんだよ?あたい今日は休みなんだけど?』
「おめぇには貸しがあったですよね?あ、私じゃなくて後輩のですよ?それで、頼まれて欲しいんですけど────」
トレードにピンチヒッターで辰上に手を貸すよう、依頼する燈火は窓から夕陽を見つめた。
こうして、アンリードという歴史に名を刻むこともなく消えた、恐るべき人造兵器。それでも、怪異は世間に潜んでいる。今日も、そしてこれからも、こうやって人知れず噂や神話の昇華された存在である、怪異を観測する意味のない日常が戻ってきたのだと、燈火はしみじみと感じていた。
これは、噂観測課にいる工作員。燈火という女性のもとに起きた、夢をかけた世紀の闘い。誰に称えられることもないまま終わったその闘いによって、世界は救われた。
それでも噂は伝染し───、神話は輪郭を持ち───、彼女達の戦いは終わらない。
意味がないとされたこの記録に、意味が与えられるその日を信じて、噂観測課は今日もどこかで怪異に立ち向かうのであった。
━━ THE END ━━
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