意味のないスピンオフな話

韋虹姫 響華

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クロスオーバーな話〜意味ない × Beymind篇〜

Beyondなやつらは突然に 〜その1〜

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 淫魔の怪異が出没すると、まことしやかに噂される街灯少ない夜道。その名は言わずと知れた【インキュバス】。女性の性欲を掻き立てる能力を持つ、厄介な怪異である。

 そんな夜道に、明らかな場違いといった格好をした女性のブーツの地面を叩く音が響いていた。まるで絵本やファンタジーの世界でしか、正装とは受け入れ難いウィッチーズファッション。赤茶色のカーディガンに見える羽織は、リフレクターと呼ばれる特殊な縫合を受けている。

「さてと……どこに行ったのよ?あのバカ鼠」

 人通りは少ないとはいえ、いや少ないからこそ目立つ服装であることお構えなしに探しているのは鼠。

 非常に偉そうな態度で道を歩く女性に、くだんの怪異【インキュバス】が接触する。肩がぶつかり、よろけそうになる体を抱きとめ甘い誘惑をかける。

「おっと、失礼。麗しいレディでしたので、つい見とれてしまいました」
「え?あぁ、……はぁ?」
(てか、アタシ態勢崩してすらいなかったんですけど?)

 妖しく蠢く瞳に覗かれる女性。
 すると、瞳孔の生気が徐々になくなり【インキュバス】の術にかかっていく。周囲には青年の容姿だけでなく、幼少な見た目や初老の男性まで居る。なんと、今回の【インキュバス】は集団で群れて行動する習性を持ち合わせていたのだ。

 術中にハマったのか、女性は静かに男性の言葉を復唱する。そのまま手を引かれ、ホテル街に繋がる裏路地に連れていかれる。如何にも、魑魅魍魎な連中が使いそうなルートを通らされて開けたとおりに出る。
 そこで幼少の【インキュバス】が、その場に地団駄をして声を上げる。

「あ~もう、我慢出来ない!!ここでお姉さんやっちゃおうよ!」
「ダメだ。まったくお前は、堪え性のないやつだな」
「────。」

 虚ろな目をしている女性は立ち止まりはするが、反応を示さない。それもそのはず、古来より逸話として現れるインキュバスの催眠は一度かかれば、術者の意のままになってしまうのだから。
 子どもをなだめ終え、改めて目的地へ歩みを再開する【インキュバス】。とそこへ、一筋の閃光が横切る。電子工学的で近未来さを感じさせるそれに、【インキュバス】達は警戒する。

「見つけましたよ~ッ、主……RG~♪」
「な、何だコイツ!?」
「メ、メイドさん……?」

 何故か疑問形の返し。

 これまた、場違い過ぎる機械的な声をしたメイドのような格好をしたツインテール。初老の【インキュバス】が、大人の余裕を醸し出す絡み方でツインテールに近付き催眠をかける。しかし、違和感は速攻で訪れた。

「コイツ……!?」
「はい♪私は人間ではありません♪そちらに居られます、自称天才錬金術師のフィオ・レム・ハーレ様のアシスタントユニット。平たく言えばアンドロイドです♪」
「ッ!?ぎやぁあぁああぁぁぁ!!!!」

 初老の叫び声が路地裏に反響する。
 肩に触れてきた手首をレーザーソードで焼き切ったのだ。狼狽えている青年の後頭部に、強い衝撃が走る。それは、ブーツの厚底が頭蓋に振動を与えるものであった。

「はぁ……、来るの遅過ぎよイーファ!!」
「あれま?催眠にかかっておられなかったのですか?RG?」
「当然でしょ。なんでアタシが、こんな雑魚幻想種以下の低級魔族の術にかかってあげなきゃいけないのよ?」

 フィオの目は確かに生気を失っていた。後頭部を押さえながら、術をかけた張本人がそれを口にして指さした。
 それに対して、人探しをしなきゃ行けないことに先行き不安になっていただけと、身も蓋もない反論を突き返した。同時に背後に立っている幼少の【インキュバス】を狙って、踵を天高く突き上げた。瞬間、首に膝裏が落とされ地面に叩きつけられる。
 くいっと顔を覗かせて、ショタ顔を覗き込むフィオ。全面を見回して、ふんっと鼻で笑って肩を竦めた。

「アタシ、ショタは趣味じゃないのよね?というか、こんなガキ相手に真剣になっていいことでもあるわけ?」
「ひっ……、あがっ!?」

 挟み込まれた脹脛から覗かせる、ショタの額にデコピンをお見舞いする。
 白目を向いて、力を失う幼少の体をそのまま地面に置き去りに走り出すフィオ。起き上がった青年の顎を蹴り飛ばし、反り返って倒せる体の太腿を踏み台に初老の【インキュバス】を目掛け、飛び込みパンチを繰り出した。
 滑るようにイーファの隣に立ち、掌を上にしてイーファの胸前に差し出すとイーファは会釈して、全身を眩い閃光が包み込んだ。

『ウェポンフェイズへ移行します。セレクト───』
「ウェポンαよ」
『承知致しました。擬似形成された人格の連動と同時に武器形態トランスを完了───』

 ツインダガーピストル、それがフィオとイーファの基本形態。
 イーファはアシスタントユニットというだけのことはあり、フィオの戦闘をアシストする機能を備えているのだ。
 体制を整えた【インキュバス】連中。フィオが催眠の効かない特殊体質に見えたことにより、怪異使いだと思い連携攻撃を仕掛ける。巧みに躱すフィオ。その脚部にバーニア付きのキャストが着いている。
 ロボット顔負けのドリフトを人型で見せるフィオ。これには【インキュバス】達も驚きの反応を隠しきれない。

「怪異使いって何かしらねイーファ?」
『分かりません、さっぱり。とはいえ、主様。この程度の相手……』
「『ウェポンアシストを使うまでもなかったわねですね』」

 まだ、戦闘は終わっちゃいない。それなのに、声を揃えて武装を解除する。踵を返すフィオの隣に、元のメイド姿になったイーファが現れ立ち去ろうとした。
 待てよと追いかける三体。すると、三体の中心に熱量が発生し爆発して弾け飛んだ。シャッターの降ろされた扉や壁にぶつかって、黒い塵をなって見事に爆散する【インキュバス】達。
 その背景がとんでもないことになっているなか、いつの間にか取り出していたフラスコを持ち上げ、空のフラスコに溜め息を浴びせて壁に投げ捨てる。バリンッ、割れる音とともに床に散らばったガラスは程なくして、自然発火を起こして燃えカスになった。

 こうして、噂観測課が出動する前に密かに怪異が討伐された。
 当人は喧嘩を売られたから買ってに過ぎないのか、遅れて駆けつけたのが警察組織だと思い特に関心を持つこともなかった。

「さて、イーファ?とりあえずは、しておきましょう」
「合点テンの承知です、主RG♪」
「はいはい。いいから、さっさとバイクになって貰える?」

 人使い。いや、ロボ使いが悪いとフィオへ文句を投げながらもビークルモードへ変形するイーファ。
 フィオが搭乗すると、デジタルスキャンが行われる。すぐに、空間転送でヘルメットが装着される。備え付けになっている端末を操作し、回線が通じることを確認するとバイクを走らせるのであった。

 時にインキュバスの催眠は、術者本人が消滅したあとも効果が持続するものがある。
 例えば、発情期を常時引き起こさせる術。これは、繁殖本能を覚醒されたことにより、本人の意思とは関係なく発情してしまう。つまりは体温が上昇して、興奮状態がすっと続くことが後遺症のように残ってしまうというものだ。

「んんっ……、ん~~……」
「主───、…………」

 寝る場所を適当に見付けたフィオ。寝苦しいのか、魘されたように眠りについている。それを悲しそうに見守っているイーファ。
 魘され声が唸り声に変わり、前掛けに使っていたタオルをガバッと剥がして起き上がるフィオ。なんと、フィオは全裸だった。しかも、寝泊まりしている場所は宿屋建物ではなく、雨宿り出来る程度についている屋根と煉瓦を積み合わせて作った、簡易的な小屋で寝ている。つまりは外で野宿である。

「主~、せめて下着くらいは着ておくべきかと……?」
「うっさいわね……。別にいいでしょ?この空間の設定温度、何度にしてると思ってるの?」

 フィオは裸で寝るのが日課であった。
 つまりこれは、インキュバスの瘴気に触れたせいでもなんでもなく、フィオの就寝時のデフォルトなのである。全裸で就寝できるよう適切な温度に調節された空間、外気温を指定した範囲にドーム状で展開して野宿をしていたのだ。
 しかし、黙って納得できないのはこの世界だけの常識ではない。アシスタントユニットが、その気持ちを代弁して創造主であるフィオに忠告する。

「いや~、万が一にでも人が来たら、警察呼ばれちゃいますよ?」
「あのね?アタシがカモフラージュなしに野宿なんてしますかっての……。ちゃんと透明化の錬金術を敷いてあるわよ」

 その辺に捨て置かれたマットや布ゴミから錬金で作り出した、高級ベッドの上で胡座をかいて腕組みするフィオ。

 外からではただの平地にしか見えない場所。そんな空間に、立ち入ってくるものが入ればセンサーが感知して伝えてくれるようにしている。それなら、宿に止まってもいいのではないのかと言いたくなる、過剰な錬金術の行使にもイーファは頭を抱えていた。
 そんなセキュリティには自信ありと、目を閉じてドヤ顔で首を縦に振るフィオ。その隣に金髪、アクア色、灰色の奇抜なグラデーションヘアーが感心したように、同じく体勢で首を振っていた。

「主……?」
「は?何よ?」
「とっても素敵なラボなんスねぇ♪ギャハハハハッッ♪」

 不快音な笑い声を響かせる女性。
 フィオは全裸のまま、その女性を見つめて数回ほど瞬きを繰り返した。

 やがて、センサーにも反応なく突如現れた鳴堕なた 暁咲あきさに大きな声を上げるのであった。
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