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クロスオーバーな話〜意味ない × トライワイト篇〜
辰上 龍生 ╳ 『遠呂智』
しおりを挟む麗由からの奇妙な連絡が気になり、仕事がままならなかった辰上。事務所の戸締まりを住ませて帰路に着いていた。
徒歩で通うことが出来る道のりだというのに、足取りがいつも以上に重たく感じる。ふと、麗由と初めて出会った日のことを思い出す。噂観測課へ配属が決まった夜、彼女は辰上の家に現れた。
そういえば、あの日もちょうど薄暗い夕焼けをしていたと空を見上げる。とても静かな風だけが通りすがる道。その途中で燈火にであったのだったかと、当時を思い返しながら玄関前に到着する。
ドアノブに手を添えて、ポケットから鍵を取り出そうとしてピタリと動きが止まる。同時に、ドアノブを捻ってみる。すると、ドアが開いたことであの時の再現が起こった。
辰上は思わず固唾を飲んで、恐る恐るドアを開けて家の中へ入る。実は合鍵をこっそり作っていた麗由が居るのではないかと、淡い期待を抱きながら居間の電気が点いていることを確認して、部屋の中を覗き込んだ。
そこには、黒髪ロングの小さな女の子が正座をしながらお茶を嗜んでいた。辰上はドアをガチャっと開いて、その幼子に向かって声をかけた。子どもとはいえ、空き巣に入ったことに変わりはない。もしかしたら、怪異の可能性もあるとスマホを腰に忍ばせている。
「まぁ?父上?」
「えっ?父上って、僕が!?って、そんな手には乗らないよ。君何処のおうちの子?お母さんとお父さんが心配しているんじゃないかな?」
「フンッ!よりにもよって父上の生き写しのようなものが文字主だなんて……。いいえ、この際───文字主ですかね」
見た目とは裏腹に偉そうな声。加えて大人びた態度───、というよりも令嬢のように高慢ちきな風格を醸し出している。
そして、キョトンとしている辰上の前に飯台を置き更にその上に、蛇皮で作られた縁をしている絵馬を置いた。絵馬に刻まれた三文字を口にして自己紹介。
「お初にお目にかかります。我が名は『遠呂智』、文字主のような凡人がこのSランクの文字版たる妾と契約出来ること、光栄に思いなさい」
見た目にそぐわず、己の主人となる辰上に対して下に見た振る舞いを見せながら、云うべきことは伝えたといわんばかりにお茶を啜った。
自前のお茶の味を溺愛し、自前の茶碗に見とれている『遠呂智』を前に困り果てる辰上。飲み込みの悪さに目くじらを立てる『遠呂智』は、飯台を叩いて絵馬のシステムとWORDのルールを説明するのであった。
やがて、説明を終えて今日が本戦初日であることまで理解する辰上。目の前にいる偉そうな少女は、人間ではなく文字版と呼ばれているアンデッド。
そして、文字主に選ばれWORDへの参加者となった辰上は、これから自身の願い事を叶えるために他の参加者とデスマッチをしなくては行けないことを知る。
ただし今回のWORDでは、文字版が直接相手参加者を殺害することは禁じ手となっており、絵馬の破壊か従えている文字版を退去させることが勝利条件と知り、一先ず安心する辰上。
「ふんっ、これでは代理戦争の意味がありません。しかし文字主?何を深層意識に宿し、妾を呼ぶことに成功したのやら……」
「そ、それは……こっちが聞きたいくらいだったり……?というか、深層意識を具現化するのに最も近しい文字もしくは姿をした者が召喚されるって、まるで想像と違うっての!!」
「…………っ」
「な、なんだよ?」
「────────なんと、破廉恥な……っ」
不快感全開の表情を向け、『遠呂智』は辰上の胸元に自身の使い魔である大蛇を差し向けた。辰上の頭程度なら丸呑み出来てしまうほど、巨大な顎を持つ大蛇を七匹も連れている。そのうちの一匹が辰上の肩をキュッと締め付ける。
巻きついたことで圧迫され、浮き出た血管を蛇舌がペチペチと当たる恐怖。まさか、主人殺しをするのではないかと心臓が高鳴る辰上を見て『遠呂智』は腹を抱えて笑い出した。
「失敬♪余りにも、怯え上手でしたので堪えきれませんでした♪妾は文字主を護り、勝利へ導くという役目があります。当然、見殺しになんてしてあげません♪」
「んんっ……、なら解いて……」
「ッ?どうやら、まだ立場が分かっていないようですねッ!!」
文字版は、契約主に対して忠順であるものが大半である。だが、ランクの高い文字版はその限りではない。
時には、契約変更する方がメリットであると判断して文字主を裏切ることもある。『遠呂智』ほどのランクにもなれば、それをするかは辰上とともにいることにメリットがあるかにかかっている。
絵馬を持って命令することも出来るが、それを拒否することだって可能なほど手懐けるのは難しいのだ。
「解いて、ください……」
「ふむ♪いいでしょう♪妾をご主人様と呼ぶ事が出来れば尚良ですが、今は不問にして差し上げましょう」
するりと大蛇は辰上から離れ、『遠呂智』の腰元から床に吸い込まれるように姿を消した。
同時に飯台とお茶飲みセットも片付け、立ち上がると玄関の方へ歩みを進める『遠呂智』。辰上は振り返って行き先を尋ねると、壁にかけられていたコートを辰上に投げつけた。
「ここを出ますよ。妾と同じクラスの文字版の反応が一つ。それと交戦している文字版の反応……、小さいですがこれは進化するタイプのようですね。三つ巴の闘いとなれば、妾は文字主を護りながらの戦闘は不可能です」
なるべく、初戦は消耗を避けたい。『遠呂智』のその考えをすぐ汲み取った辰上は、家を出ることに賛成する。
闘う気になってくれたところで、まずは作戦の中心地を立てる必要がある。そのためには、『遠呂智』にとって立地条件のいい場所が最も戦略を練りやすい。
辿り着いた先で、辰上は口をあんぐり開けて戦慄していた。そこは辰上にとって無縁であった場所であり、麗由という彼女がいる以上来ることも決してない世界が広がっている場所であった。
「ここは素晴らしいですね♪ここならば、妾のトライワイトゲージもすくすく上昇することでしょう♪文字主?絵馬を貸しなさい」
放心状態の辰上はその呼びかけに応じなかった。
呆れた『遠呂智』は、絵馬をぶんどって決済が出来るもの。すなわちは電子決済が可能な端末を呼び出し、カウンターへ赴き店員に予約を申し出た。
なんと、貸し切り状態にするよう申し渡して決済額を店員に見せつけると、スタッフルームへ姿を消した。少しして、店のオーナーらしき人物とフロントへ戻ってきた『遠呂智』は、そのまま握手を交わした。
交渉は成立したのだ。これより、この場所は辰上と『遠呂智』のWORD開催期間中の作戦本部。基、『遠呂智』の工房と化した。拠点と手に入れたことに無邪気に喜び、高笑いをしながらエレベーターに乗ってVIP階層へ向かう。その隣で絶望の表情を浮かべている辰上の視界に、ここが何処なのかを伝えるのれんが映る。
そう、ここは遊郭を主体としたレジャーホテルなのである。《獄楽怪蝶》と書かれた、如何にもな名前をした施設を貸し切りにしたのである。もちろん、『遠呂智』が使用した電子マネーはすべて管理局というWORDの主催者負担である。
そのため、辰上が金額の心配をする必要はない。だが、辰上はこのような場所に来てしまっていることが、もし麗由に知られてしまったらという強迫観念に駆られていて、それどころではない精神状態であることに『遠呂智』は気づきもしなかった。
こうして、辰上はWORDの初戦日は幕を開けたのであった。
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