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クロスオーバーな話〜意味ない × トライワイト篇〜
ブレイヴでブレーメンなやつら
しおりを挟む疾走する風に乗って、着物からスルリと地に落ちる小さな蛇達が影に溶け一箇所に集まる。
「おゆきなさい、鮫伊吹!その小さき平民とその文字版を蹂躙しなさい」
「ほぉ?あたし達は化身で十分だとさ!」
(そろそろタイムオーバーになるぞ。この『遠呂智』ってやつはそれを分かってて仕掛けてきてんのか?)
威勢よく声を上げながらも、意識を他に向けている『天邪鬼』は武器を構えるのが遅れる。
思いの外、素早く動く鮫伊吹と名付けられた『遠呂智』の使い魔。というよりは大蛇にして、『遠呂智』のメインウェポンである。その強さは並の文字版とも互角に渡り歩けるほどで、『天邪鬼』ほどのランクA帯が相手でも倒すのは一苦労であろう。
その所以の一つが燈火と『天邪鬼』に牙を剥く。噛みつき攻撃を二手に分かれて避け、リロードした弾丸のありったけをぶつける。しかし、強固な鱗は弾丸を通すことはない。
重ねて刀を振り下ろして、斬りかかるがそれさえも引き受けず尻尾のカウンターで『天邪鬼』は吹き飛ばされた。
「ッ痛ゥゥ……、コイツ……強ぇ……」
「私達の攻撃が単純に通じていない?あの『未確認』って文字版みたく耐性を付けている訳でもないのに…………はい?」
蛇龍ともいうべきクリーチャーの毒牙が燈火を捕らえた。
キャリーケースをダッシュボードに変形させ、距離を取ることに専念する。差が縮まることがない以上は、考える猶予はあるがダメージを負わせられないのであれば意味がない。
肩を押さえながら起き上がる『天邪鬼』は、なるべく節約しておきたかったトライワイトを解放する。いくら自分が安全に逃げることが出来ても、契約している文字主を失えばそのまま退去することになる。
背に腹はかえられぬ思いで、左眼に力を込める。必死にガトリングガンで応戦している燈火が、ダッシュボードから地団駄を受けて地面に倒れる。
「太極式ー死屍累々ー」
「もうダメですぅぅ!!!!喰われるゥゥゥ───、はいぃぃ!!!!」
左眼から血涙に近い、蛋白質な液体を飛沫させて開眼した邪眼。
エネルギー消耗の激しいスキルによる特殊モード。電光石火の速さで燈火の前に立ち、肩を噛ませる形で鮫伊吹の攻撃を受け止める。牙の根元には万物を腐らせる毒が備わっており、即効で噛み付いた肉に流し込まれる。
今度は毒に対して、言霊による反転を使用していない『天邪鬼』は毒のダメージを受ける。溶解している煙を立たせながら、握り拳を力いっぱいに作る。
「ちょっと痛てぇのは……、お互い様……だぜッ!!」
顎に力を入れている鮫伊吹。
蛇である生物の機構上、人でも同じことだが捕食の際に最も弱点となる場所───。すなわち、急所は剥き出しになる。そこへコークスクリューをお見舞いする『天邪鬼』。
これはただの一撃ではない。螺旋を描いで吹き飛んだ鮫伊吹は、地面をのたうち回り苦しみ出した。血管が一気に浮き出し、明らかに打撃以外のダメージを受けていた。
「だ、大丈夫ですか?はい?」
「そう思うんなら、絵馬にしまいやがれ……。言っとくが、同じ芸当は今はもう出来ねぇぞ……」
身代わりの盾になって噛まれて流し込まれた毒に、自分のトライワイトゲージを上乗せした鮫伊吹にとっての有害物質として、コークスクリューで与えた『天邪鬼』。
太極式邪眼の発動によって、可能となったカウンター戦術だが燃費の悪さが欠点であった。その場に膝をついて息切れするほど、文字版の身体であっても負担がかかる技なのである。
幸い『遠呂智』はまだこちらに気付いていない。逃げるのであれば今のうち。だが、ここに来て脚が震えて動けない燈火は『天邪鬼』を絵馬に入れることすら出来ずにいた。
蛇が狩りをする時、獲物に確実に逃げられないようにする技がある。そう、蛇睨みである。鮫伊吹は確実に燈火を捕らえ、両脚を腐敗させてその場に留まらせるつもりで狙っていたのだ。
当然、睨みつけて行動不能にすることで狙いを外さないようにするだろう。頭を庇おうとして突き出した両脚に噛みつく算段が、『天邪鬼』が割り込んだことで肩に噛み付いた結果を招いただけだった。
召喚系のクリーチャーであるのなら、直りもそう長くはかからないだろう。となれば、『天邪鬼』の先を見越した起点も無駄に終わってしまう。
□■□■□■□■□
一方。『遠呂智』が走り向かった先で、夏蝶火と『未確認』も苦戦を強いられていた。
まず、夏蝶火の毒作戦は『遠呂智』にも通じなかった。蛇の持つ強毒に変換するトライワイトは、毒性のあるものである方が溜まりやすく寧ろ敵に塩を送る事になってしまっていた。
「有難いですね♪では、この力を使って……妾の友にして最強の下僕を召喚いたしましょう」
「不味いんだな……これ」
「来なさい───清姫」
地を這う蛇で布陣を作り、召喚したのは清姫と名付けられた人型のクリーチャー。
見た目は人に限りなく近いが、開いた眼は爬虫類特有の眼孔をしている。舌も自身の顔を舐め回すことも容易いであろう長さを誇る蛇舌。
「どちらのお相手をすればよろくして?『遠呂智』様」
「そうですね……、貴女に髪の色が似ている人間の方をお任せします。妾はそちらの文字版をっ!!」
分断する戦法を即座に決める『遠呂智』。
判断力も去ることながら、単騎での戦闘能力も計り知れないものがあった。その証拠に『未確認』は《バリアチェンジ》と夏蝶火のチューンナップによって、毒と指定した攻撃の耐性を持つことが出来るため、ダメージこそ受けない。
それでも反撃することは適わず、一方的に打ちのめされていた。攻撃する機会がなければ、いくら無敵状態になっても効力はないに等しい。
「ほら、どうしました?腑抜けなうえに言語まで未熟とは……」
「ギュ ギュ……、リリョ ヴェ ギャ……?」
足蹴にされて手も足も出ない『未確認』は、夏蝶火の方に手を伸ばす。
毒手で防ぐことは出来ても毒で倒すことは出来ないとなれば、夏蝶火にとってこれほど相手したくない敵は居ないであろう。
人体強化に毒素のリソースすべてを注ぎ、清姫に挑むも決定打をお互いに出すことが出来ない。
「人間のクセに毒術をここまで巧みに操るとは、やりますわね。ですが……」
「ッ!?」
「嘘つきは嫌いです。そんなものは───、この愛の焔で焼き尽くして差し上げますわ♪」
清姫の言う嘘とは、夏蝶火の自己暗示能力に近い怪異の特徴のことだ。
本来人間が生身で扱えるはずもない毒物を容易く使役、体内調合が出来るなんて最早人智を超えている。
他者から見た、人間への偏見であるが清姫の怒りに触れたことに変わりはない。髪の毛先が蛇の顔から龍の顔へ変わった途端、毒色の髪が紅蓮に燃え盛り更に強火の蒼炎色へ変わる。
清姫はその灼熱でもって、夏蝶火の毒による身体強化をすべて焼き払う。加えて精神波攻撃を持つその火に抱かれた夏蝶火は、メガネが割れたと同時に絶叫する。
これは『遠呂智』による指示を受けたことによる手心であった。精神を破壊されたとしても、絶命してさえいなければWORDのルールには反していない。
例え文字主が廃人となろうとも、生きてさえいればプレイヤーを殺したことにはならない。それこそが、『遠呂智』のいうWORDの戦い方なのである。
「ちょっと待て!やり過ぎた!!それじゃあ、夏蝶火さんが精神崩壊を起こしてしまう!!」
「あら?文字主が一丁前に妾に説教ですか?いいですか?これは命のやり取りはなくなっていようとも、《願い事》を巡る争奪戦なのですよ。貴公に叶える願いがないのであれば、あの者の精神を復活させれば宜しいのでは?」
走り寄ってきた辰上に腕組みをして、反論を述べる『遠呂智』。
残酷なものでWORDとは、人間の欲望を賭けた闘いなのである。そして、文字版は選ばれた以上、どんな手を使ってでも契約者を勝利へ導かねばならない。
この場では、『遠呂智』のやっていることは正しいことであった。誰かが脱落しなければ、WORDは終わることはない。負けて終わることを選ばない以上、最後の勝者枠まで勝ち残らなければならない。
「いい加減にしろっっ!!」
怒鳴り声とともに『遠呂智』の脳内に星が瞬いた。
パチンという音とともに、清姫の精神波攻撃の手も止んだ。夏蝶火は黒焦げになって、その場に倒れ込んだ。すぐに『未確認』は脱力した『遠呂智』の踏みつけから逃れ、夏蝶火の元へ駆け寄った。
頭部の水槽から液体を掬い、夏蝶火にかけてあげると全身の火傷が瞬時に回復した。『未確認』の《バリアチェンジ》には、ポーションの役割も備わっていたことで夏蝶火は九死に一生を得たのだ。
精神崩壊も免れたが、戦闘続行は厳しい身体を『未確認』に肩を組んで貰って立ち上がる。目の前には、意識が途切れたことで召喚が解けた清姫が消滅した跡と、頬を押さえている『遠呂智』の姿があった。
□■□■□■□■□
「妾に……手をあげたのですね……、文字主の分際……で…………」
向き直って罵倒してやろうと睨みかけた。だが、言葉に詰まった。
目の前にいた辰上は怒りに震えながら涙を流していた。自分に対する怒りと『遠呂智』にそこまでさせないと、WORDでの勝算はない現実を知った悔しさや無力感。
そんな感情が一気に絵馬を介して、『遠呂智』の中に流れ込んできた。口では強く言っているが、『遠呂智』だって辰上を勝利させるために最善を尽くそうとしていただけであった。
「もういい……。君がそうしないと勝てないというのなら、僕はこの戦いを降りるよ……」
「────ッ!?そ、それは…………」
我に返って辰上の心の声を一切聞いていなかったことに気付き、言葉に詰まっていた。
バトルタイム終了のアラームはとっくに鳴り終えていた。鮫伊吹と清姫の召喚を解いた空間に、静寂が流れ始めていたところにスポットライトが燈火達に向けられた。
そして、スキャニングフィールドのエリアがローディングされ、砂利置場からイベントホールのようなステージに変わった。
当然始まるギター演奏。ベースとギターが並び立つ背後の床がオープンし、ドラムが現れスティックを回して叩き出す。
「うわ……、始まりやがった……」
「はい?何が始まるんですか……はい?」
傷の修復が済んだ『天邪鬼』に向かって、蛇睨みの拘束から解放された燈火が問いかける。
そんな二人の頭上を飛び越えて、演奏集団に加わる水色をベースにしたロングヘアーの女型文字版。滑り込みで入った配置にキーボードが現れ、演奏に合わせる。
「全員揃ったですね、はい。ギターッ!『着火材』ッッ!!!!」
「ドラム……、『天才肌』……zzZ」
「えーっと、ベースって言うのか?『騎士道』ッッ!!!!」
「キーボード兼ボーカル───、『季節風』」
「「「「全員揃って、【音に魂を重ねし同胞たち】ッッッ!!!!」」」」
尚、名付け親である『爆音波』は不在です。代わりに『騎士道』に出てもらっていますと、白髪まじりの文字版。ギター担当『着火材』が弾き語りをした。
演奏を続ける四体を見ながら、「なぁ、似てるだろ?」と聴き入ってる燈火に話しかける『天邪鬼』。一体これから何が始まるんだとワクワクしている様子の『未確認』と、テンションについていけてない夏蝶火。
辰上と『遠呂智』も、感情の行き場を失ってただ観ていることしか出来なくなっていた。
するとそこへ、茅野、家小路、実が姿を見せペンライトを振って『着火材』達に声援を送っていた。
実の声援にウィンクで応える『着火材』、家小路の「寝ながらドラムを叩くなっ!!」という叫びに手を振って返事する『天才肌』、茅野に向かって照れ気味で、カッコよく演奏出来ているところ見せようとする『騎士道』。
その他にもホログラムでオーディエンスが出現して、『季節風』も声援に応えるように手を振りながら歌い続けていた。
やがて、演奏がクライマックスを迎え終了すると紙吹とクラッカーが飛び出し、豪華に終わりを飾るとスタンドマイクを奪って『着火材』が燈火達を指差して言った。
「というわけでお前達───、バトルタイム外になっても決投を継続しているので……全員、ひっ捕らえてやりますよ、はいっ♪」
驚愕の一言とともにスキャニングフィールドが解除され、イベントホールは消滅した。残念そうな顔をする茅野と実。寝ている『天才肌』の胸ぐらを掴んで譲っている家小路。
全員が管理局側の立場で文字主をしていることを察した燈火と『天邪鬼』は、顔を見合わせて数秒で頷き逃げ出した。
それに釣られるようにして、辰上と『遠呂智』、夏蝶火と『未確認』も蜘蛛の子を散らすよう逃げ出すのであった。
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