16 / 101
第一章
灰となって消えても ─ 後編 ─ ★☆☆
しおりを挟む「なんで……、ワシがこんなことせなあかんのかねぇ……」
不満の吐息を漏らしつつ、ラットはやってきた屋敷の門の鍵をピッキングし始めた。いやいややりながらも、元怪盗である腕は錆びておらず難なく門を解錠して頭を掻きながら屋敷の中へと進入した。玄関口の縦掛けには神木原の名が刻まれていた────。
「おぉ、あったあった。ワシ……こないな事して総司はんに殺されたりせぇへんよな?」
ラットは大きなアタッシュケースを持ち出して直ぐに外へと引き返した。門の外には連絡にあった時間どおりに車が到着していた。ラットはその車にアタッシュケースを積み、運転手を交代すると言って自分が運転席に乗車して車を走らせた。
「ほんなら、何も聞かされとらんのねぇ。ええで、ワシが懇切丁寧に説明したるわ……。そこのケースの中に入っとるもんが何かを、な」
そう言って楽しげな表情を運転を交代して後部座席に乗せた人間に見せて、説明を始めるのであった。
□■□■□■□■□
━ 辰上の死亡が確認されてから一時間後 ━
「────。」
「おい。どこ行く気だ?まだあいつの解剖結果が出てねぇぜ?」
「龍生さまは、死んでなんていません……」
「お前、まだそんなこと────?」
未だに辰上のしを受け入れられずにいた麗由に現実と向き合う言い返そうとしたトレードは、口を噤んだ。立ち去ろうとする麗由の前にディフィートが立っていたからだった。俯いたまま横切ろうとする麗由に振り向くことなく、ディフィートは質問を投げかけた。
「何処に行くんだ?」
「……決まって、います。【ヘンゼルとグレーテル】を探しに……」
「そうかよ……。なら、行けばいいさ」
「な、ディフィート?お前────」
「その代わり……1つだけ忠告しといてやる。今のお前にお前の中の怪異は力を貸すことはねぇ」
「────────そうですか……」
その忠告を会釈で返して足速に病院を抜け出す麗由は、先程の戦いでは持っていかなった武器。かつての師である沙羅から託された薙刀────【陽炎纏いし一閃】を手に持って夜道を駆け出した。
「いいのかよディフィート?」
「ああ。そんなことよりも、他は全員……揃ってるよな?」
復讐に燃える麗由を気遣う様子を見せないディフィートは、霊安室前に居る噂観測課第2課のメンバーを見る。麗由の兄である総司は海外の応援に出ている以上、この場に居ないのは当然だから数には入れずに休暇明けの茅野に燈火、課長の実も居ることを確認してから口を開いた。
「そ、その────。ッッ!!すまんっっ!!!!」
『────ッッ!!??』
「オトシゴちゃんが死んでたっての、あたしのせいだっっ!!!!」
いきなりの土下座。からのとんでもないカミングアウトに同席していた空美すらも驚愕の表情を浮かべていた。あれれとみんなの方を見るディフィートの首根っこを掴んで、トレードが呆れたようにディフィートのカミングアウトにツッコミを入れるように聞き返した。
「おい……。まだ解剖結果出てねぇんだっての……。それなのに、お前が辰上って新人の死に関わってるってのはどういう了見だぁ?」
「え?あ、あぁ……。違うの?ねぇ?みんな違う?」
一人だけ予想が違ったのかと、キョロキョロしているとそこへトレードの夫である喜久汰 憐都が白衣姿で解剖結果カルテを手に持って現れた。
憐都は医師免許も持っているため、表向きでは死亡者扱いとなっている噂観測課の匿名医として兼業もしていたのであった。硬直している一同の間を歩いて通り抜けてベンチへと腰掛ける様を燈火は凝視していた。
「……?」
「あ、いや。その……うちの旦那にそっくりだなと、つい見とれてしまって……はい。ささ、続けてくださいドクターさん……はい」
トレードが自分の旦那に色目を使っている相手にするような眼で燈火を睨みつけていたが、憐都は説明をはじめた。
解剖の結果、辰上の体内は臓器を中心に酷く灰化していてどうみてもかなり前から死んでいるとしか言えない状態だったというのだ。通常なら死後腐敗していく体がまるで燃え尽きた後のように灰になっていて、死体としては有り得ない状態で肉体を保っているとのことだった。
「なかでも、ここだ。血管中に血液が無くなっていたのは今から約2ヶ月……。するとつまり、彼は死んでから2ヶ月もの間は血中濃度が0の状態で生きていたということになる。これは────」
「ああ!!そ、その辺にしといてやれぇ!!す、すまねぇな!こ、こいつ……こういうとこ、あっからよ?あ、あたいらはちょっと、席……外すわ!!」
別のスイッチが入ってしまった憐都を顔を赤らめながら、取り押さえて退出トレードに空美もついて行き、室内にはディフィートと第2課のメンバーだけになった。すると、やっぱりそうだと表情を見せみんなの方を見て再度頭を下げた。そして、するっと頭を上げて言った。
「オトシゴちゃんだけどな?────███…………」
ディフィートの口から聞かされた一言に全員が驚愕していた。
それから半日が経過したところで、第2課のメンバーは【ヘンゼルとグレーテル】を探しに向かった麗由のもとへと向かうのであった。
「あ、もしもし?あたしだけど?一つ頼まれてくれっか?」
病院を出て向かっていく一同を見送ったディフィートはどこかへ通話をかけた。スマホをしまって、バイクに乗ってディフィートも病院を後にしたのであった。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
昼間の時間帯になり、日差しが照る晴天の空。そんな快晴にも関わらず倉庫の中に子どもの影があった。
「姉さん、傷は癒えたかい?ボクの方は逃げている途中で元どおりだったよ」
「ええ。やっぱり……日陰はいいものね♪すっかり元気になったわ」
黒いタール液のような湧き水の中から小さな乳房が屋根から少しだけ指してくる陽の光に薄桃色がかった裸体を晒して起き上がるヘンゼルは、目を瞑って首を回すと靡いた髪が通り抜けた部分からゴシックの衣装身を包んで服を着た状態へと姿を変えた。
「そうだわグレーテル。これから彼等に相手にいかない?ディフィート……。予想以上に強い怪異の使い手が居るなんてことあの子は教えてくれなかったわ」
「確かに、そうだね。あの歌姫……前に戦ったことあるって言ってたのに、それ以上の強さだったよ」
無表情で抑揚のない声で喋っているのに、その言葉に怒りが込められていたらしく軽く投げたトマホークが鉄細工の扉に深く突き刺さっていた。そんなグレーテルを宥めるように抱き寄せて頭を撫でるヘンゼルもまた、その怒りに便乗するように愚痴を零した。
「私のことを笑っていた不完全な子も許せないわ。こうなる事が見えていたのよ。【スレンダーマン】だって、陰湿な彼等が嫌で単独行動を取っていたのだわ、きっと」
「なのかな?────さて、それよりも姉さん?」
「ええ……」
外傷が完治している【ヘンゼルとグレーテル】は心の傷を舐め合い二人だけの世界に入ろうとしていた意識を外へと向け始めた。そして、起き上がり武器を手に構えた。
「嬉しいな♪そっちの方から来てくれるなんてさ♪今度は、完璧壊してこっちに堕とすからねぇ♪」
「うふふ♪そうね♪彼等への手土産に、あなたとの因縁も終わりにしてあげる♪」
スポーツを楽しむ少年少女のように無邪気な笑みを向けた先には、瞳孔が開ききった麗由が倒すべき怨敵を見つけたと薙刀を構えて向かってきた。
「へぇ?武器を変えてきたって感じかい?でも、ボクは負けないけどねぇ~♪」
「────殺すっ」
「あら?そんな服装とは似つかわしくない言葉遣いをするだなんて、恐い人……♪」
数的優位を駆使した【ヘンゼルとグレーテル】はサイドアタックをかけて翻弄する。しかし、理性を働かせる気のない麗由は真っ先に辰上の心臓を射抜いたヘンゼルへと向かっていった。
激しい火花が散るほどの切迫した圧力をかけて一気に押し切ろうとする麗由の横脇から、両手で握り絞めたトマホークをフルスイングするグレーテル。見事にタイミングを合わせて上体を逸らしたヘンゼルの胸上をスレスレで打ち込み、薙刀で受け止めた麗由を壁際まで吹き飛ばした。
打ち付けられバウンドした反動を活かして、直ぐにグレーテルの目の前に飛び移り薙刀を横に薙ぎ払ってグレーテルを突き飛ばし、ヘンゼルと向かい合う。ガントレットで刀先を受け流して、笑いながら跳び裏拳を頬に当てて立て直そうとしている所をみぞおちに二発ジョブを打ち込んで右ストレートを胸部に打ち付けた。
「がはっ……、くっ……」
「動きが単調よ?それとも、本当はあなた自身が堕ちたいのかしら?怪異に♪」
「黙りなさい!!────殺すっ!殺すっ!殺すっっっ!!!!」
起き上がって再び薙刀を刺し向ける麗由の攻撃をダブルダッチをするように避けるという、敢えてスタミナを無駄に消費するやり方で回避を続けた。その様子でより怒りに身を任せる麗由を見て楽しんでいた。
唸り声を上げて薙刀の振る速度を上げていく麗由を背後から両手拳で後頭部を殴りつけようと迫るグレーテル。すると、地面に薙刀を突き刺してその一撃を避けて空振りしたグレーテルをヘンゼルの方へと蹴り飛ばした。ヘンゼルの胸にグレーテルが飛び込む状況となり、隙が出来たところへ渾身の力を込めた一閃でグレーテル毎中心を刺し貫いた。
「────ッ!?何故?何故、冥刻を告げる音が聴こえないの……?……はっ!?」
ぐしゃりと串刺しになっている【ヘンゼルとグレーテル】の方を見て、手応えのないことに焦りと不安を浮かべていた麗由は何故【ヘンゼルとグレーテル】には、他の怪異と違って冥界へと送る為の知らせが聞こえてこないのか理解していなかった。
しかし、今復讐が果たせたと思った瞬間にディフィートに言われた言葉が脳裏で再生される。
──今のお前にお前の中の怪異は力を貸すことはねぇ。
「わた、くしの怪異が……?」
「なぁ~んだ。ひょっとして、これがボクらを倒す方法だった、なんて言わないよね?なら、拍子抜けだな……」
「そうね。だって、痛くも何ともないもの♪」
「ひ───っ!!??」
思わず漏れた声を聴いた【ヘンゼルとグレーテル】はこれ以上の打つ手はないのだと察して、麗由を押し飛ばした。そして、体を深く刺し貫いた薙刀を引き抜いてそのまま地面に落として起き上がろうとしている麗由に襲いかかった。
トマホークをわざと直撃しないようにして、メイド服に切り傷を作っていきヘンゼルのガントレットでじわじわと体力を削っていった。必死に抵抗をして薙刀を取りに行こうとするが、行く手を阻むようにグレーテルが立ち回りヘンゼルが殴りかかってくるのを防戦するので手がいっぱいだった。
「ほぉら♪殺られちゃうわよこのままじゃ♪そこっ♪」
「────っ!?」
「うがっ?」
「あら?ごめんなさいグレーテル♪」
大きく振りかぶった一撃を避けて同士打ちをさせた隙に薙刀を取り戻した麗由は祈りを込めていく。以前、【アルミラージ】を封じた術を使って相討ちを試みようとしていた。しかし───、
「これも駄目なのですか?わたくしの中に居る怪異よ!わたくしはまだ、あなたの真名も知りません。ですが、この者達を打つためにそのお力を貸していただきたいっ!!どうか……」
麗由の必死の呼びかけにも応じない。
「そ、そんな……」
「もういいかしら?あなたはこの世界にもその身に宿した怪異にも見捨てられたのよ♪」
━━ガキンッ...バァ──ン...
ヘンゼルの仕込弾が麗由のメイド服を半壊させて鉄柱に磔にさせるように吹き飛ばした。薙刀は宙を舞って、離れた場所に刀先の方から地面に突き刺さった。
力無く落ちていく身体を顎を押さえる形で留まらせるヘンゼルは舌なめずりをしてからキラキラした目で言った。
「あら?あなた……メイド服の下はちゃんと乙女なのね♪そんな高そうな下着なんか着けちゃってぇ♡」
「うっ、────ぅぅ……」
もう生きる気力を失いかけている麗由。幾度も自分から大切なものを奪ってきた怪異を目の前に、自身の中に飼っていた怪異にも見限られたことで復讐も果たせずに終わったのだと自分の無力さに打ちひしがれている。
そんななか、認めたくはないのに下着から露わにされた乳房を力づくで握り締めてくるヘンゼルの手つきに反応してしまっていることに涙が出てきた。
「うふふっ♡結構マゾっ気の強い子なのかしら?私は好きよ♡」
「ぅ……く、────い、や……」
「あ────……」
「ん?どうかしたの?グレーテル?」
抵抗する気力も出せず、されるがままに胸を虐められる麗由を見つめるグレーテルにヘンゼルがそう尋ねた。朧気な眼差しを向けてゆっくりと近付いてくるグレーテルは姿勢を低くして麗由に顔を近づけて言った。
「お姉ちゃん。凄く、綺麗だね?怪異であるはずのボクがこんなになるの……初めてなんだよ……?」
「な、にを────。…………は、はっ!!??」
「あらあら♡グレーテルったらぁ♡人間の女の子相手に初めて自ら勃起しちゃったの?」
麗由の頬にズボン越しでも分かる程に反り返ったグレーテルのソレがグイグイと当たった。男性との性経験をした事のない麗由にも、それがなんなのかを理解は出来た。そして、立ち上がりズボンの中のソレを取り出そうと脱ぎ始めようとした。
その時、麗由の目に生気が戻り全身に出鱈目に力が加わって抜け出そうと抵抗を始めた。しかし、ヘンゼルがそれを良しとする訳はなくがっしりと両肩を押さえて壁際に押さえつけた。
「いやっ!!それだけは、お前たちには奪われたくないっ!!それくらいなら、死を選びますっ!!」
「うふふっ♪その死すら選択できないあなた……見てて感動しちゃう♪」
「────っ!?姉さん……また、来た」
ズボンにかけていた手を止めて、遠くに突き刺したままになっていたトマホークを吸い寄せるように手元に取り中に入ってきた車に向けて一本投げる。車に命中するかと思いきや横から割り込んできた黒い影がトマホークを大きな口を開いて食べてしまった。
そして、車の中から燈火が二丁拳銃で発砲しながら出てきて背後から茅野が分析を開始するべくノートパソコンを開いていた。燈火の放った弾は麗由とヘンゼルを狙わずにグレーテルの牽制としてのもので、近付いてグレーテルに殴りかかって麗由から引き離した。
「大丈夫ですか麗由さん?何やら、酷いことされる寸前だったみたいですが……はい」
「────燈火さん。わたくし……怪異の力が使えなく……なりました」
「えっ?どうしてまた、そんなことに?えぇいっ!!煩い連中ですねっ!とりあえず出血大サービスです。───はいっ!!」
二丁拳銃の弾を撃ち尽くした燈火は、スタングレネードを放り投げて全員に伏せるように言った。一瞬にして閃光を放たられた。動きを一瞬止めた【ヘンゼルとグレーテル】であったが、怪異が失明するかはその怪異によって異なり効き目は光を放った一瞬だけだったようだ。
直ぐに攻撃を再開した【ヘンゼルとグレーテル】に燈火達は立ち向かって行った。グレーテルのトマホークをリロードした二丁拳銃で上手く攻めどころを作らせないように中距離を保って戦っていく一方、ガントレットぶつけ合わせて仕込弾を茅野のいる方に火力を上げて放った。
「きゃっ!!こ、この怪異……ホントに激ヤバな怪異ちゃんなんですけど……。てか、脚……捻った!?」
「フフフ♪軟弱過ぎる怪異使いは直ぐに消えてもらうわ♪」
「そうか、なら俺と遊ばないか?」
「────あらぁ!?」
既に手負いの茅野にトドメを刺そうと殴りかかったヘンゼルの頭上に、先程グレーテルの投げたトマホークを食べていた黒い影が現れた。
「頼みますよ!先生?そいつ……あんたの喰いたがってた上級怪異なんですから?」
「ふん、偉そうに言うものだ」
すると、あれだけ攻めの手を緩めなかったヘンゼルが回避を優先した立ち回りで戦闘に入っていた。実 真の持つ怪異【イヴィロム】は、怪異を喰らう怪異。それも下級上級と階級を問わずに喰らうことが出来るもので、ヘンゼルもそれには知識を持ち合わせていたのか警戒を強めて戦っていた。ただ、そんななかでも狂気の笑みを崩すことはなかった。
【イヴィロム】は自らの頁を開いて人型のポリゴンを呼び出して、黒いローブを着た魔導師に化けて襲いかかった。対人戦ならとガントレットで応戦を始めるヘンゼルは魔導師の地面を突き出す魔法をロッククライミングでも嗜むように手脚で登りきり、自由落下の勢いで殴りつけて反撃した。直撃を受けたはずの魔導師であったが、攻撃を受けた瞬間に複数の紙を撒き散らして姿を消した。
「俺の出番は終わった!!」
「うふっ♪いいわ♡退屈しないこの感じ、好きよ♡」
「────はぁ、はぁ、はぁ……」
ヘンゼルはアトラクションを楽しむように、【イヴィロム】との戦闘を続けているが【イヴィロム】側には限度があった。それは、実自身がどこまでパスを繋ぐことが出来るかであった。既に、【イヴィロム】の怪異としての力を保っているだけのパフォーマンスが出来なくなり始めていた。
一方で燈火の方も、弾切れの都度入れ替えでケースから武器を射出して貰っていることを把握したグレーテルによってケースが倒されてしまったことで手詰まりを迎えようとしていた。
「チビのお姉ちゃん♪なかなか面白いねぇ♪ボク、あのメイドのお姉ちゃん以外でも、興奮出来そうなんだけど♪」
「おや?そうですか。残念ですけど私……浮気はしない主義なので……はい。それと、麗由さんはお前にはあげられないですね……はい」
「そう言っていると、隙ありぃ♪」
「しまっ────!?」
懐に一瞬で潜り込んだグレーテルはゴルフショットで燈火を打ち出してケース側に叩き付けた。そのまま地面に倒れ附した燈火のことは見向きもせずに、崩れ落ちたまま逃げずにいた麗由にトマホークを振り下ろしに走った。
「もういいや♪お姉ちゃん、死にたがってるからさぁ♪ボクがその介錯ってやつ?やってあげるよぉ~~っ♪」
「麗由ちゃんっ!!──痛ッ!?に、逃げてぇ!!」
「まずい……」
「あら♪よそ見するだなんて♪」
「ぐはっ!?」
麗由が狙われていることに気を取られた隙を突かれた実るまでも決着が着いてしまった。周囲の声が麗由には届いていない。麗由は今この瞬間も絶望の淵に立たされている心中に居た。
──わたくしには、何もないのですか?
──両親を失い、怪異を鎮める以外で生きていけないこの世界にわたくしの居場所は、なかったのでしょうか?
──復讐心では、怪異を鎮られないなんてことは知っていたのに。
──それなら...。
麗由は、これまでの人生を。生きていこうと決めて、どんな険しい道になろうとも。例え、怪異に触れた人間同様に存在を消されたとしても生きていくために続けてきたこの行いに意味があったのかを問いかける自分の責任にしきれずに、心の中でまだ残ってしまっている彼に当たってしまった。
──わたくしとの約束...果たしてください...龍生様...。
帰ってくるはずもないその問いを胸に死を覚悟した。襲い来るグレーテルの攻撃を避けようともせず、見向きもせず痛みで声は出ないようにと歯を食いしばり目を固く閉ざした。
「さ・よ・う・な・らっ!!」
「────────ッ!!!???」
━━━キキィィィィィ────、ドォォォ───────ンッ!!!!
突如そこへ、一台のワゴン車が法定速度なんてお構いなしのスピードで突っ込んで来てグレーテルを跳ね飛ばした。そして、後部座席のドアが開き麗由のもとへ一人の人間が駆け寄って来た。
麗由は自身の目を疑った。意識が飛びそうな感覚にゆらゆらと頭を地面に着けそうになるが、その落下を抱き止められた。直後、それは現実のものだと分かる声が麗由の耳には入ってきた。
「大丈夫ですか麗由さん?お待たせ……しました」
「りゅ、龍生──様?」
そう。そこには確かに居た。
顔色も以前までと違って健康的で、初めて出逢った時と変わらない優しい感じを持っていた辰上 龍生の姿が───。
「いったいなぁ~、なんだよ?死んでたんじゃなかったっけお前?」
「なんでもいいわ。グレーテル、また奪ってあげればいいじゃない♪それで、あの子をこちら側に堕としてあげましょう♪」
「もう……殺した方が早いよ姉さん。ま、いっか♪」
前傾姿勢で素早く駆け寄って麗由を抱きかけて居る辰上に襲いかかる【ヘンゼルとグレーテル】であったが、次の瞬間二人揃って倉庫の外へ吹き飛ばされた。吹き飛ばすエネルギーが生じた発生源はワゴン車のほうだった。満身創痍の一同がワゴン車の方に注目すると心底不満があると言った顔でラットが運転席から出てきた。
そして、辰上に手を挙げて会釈代わりとして外へ放り出した【ヘンゼルとグレーテル】の時間稼ぎを引き受けて倉庫から姿を消した。頭を降ってイライラを募らせている【ヘンゼルとグレーテル】と向き合ってラットもまた開口一番にグレーテルに指さしてイライラを吐き捨てた。
「あんさん……、こないだはよくもワシの顔に傷付けてくれはってくれたな?今ここで10倍返しにしたるから、覚悟せぇよ?」
「あら?1課のお人は、1on2がお好きなのかしら?」
「アホ抜かせ!こちとら、同期に使いっぱにされて腹立っとるだけやでっ!!」
大量のサイコロを投げつけて、ラットと【ヘンゼルとグレーテル】の戦いが始まった。そんななか、生きていてくれたことを受け入れられない麗由に辰上はアタッシュケースを渡した。
「麗由さん。まずはこれを……着てください。どのみち、その格好だと僕が困りますから……」
「そうですね……。ん?これは────っ!?」
そう言って麗由はアタッシュケースの中にあった服を取り出して、ワゴン車内で着替えを始めた。どうして、辰上が無事であったのかは後で聞こうと意識を【ヘンゼルとグレーテル】討伐に集中させながら着替えを済ませた麗由が車内から出てきた。
黒いドレスに身を包んだ麗由に薙刀を渡す辰上。そして、思い詰めた表情をする麗由に辰上が声をかけた。
「行きましょう麗由さん。かつての貴女の師、沙羅さんが拵えたそのドレスとこの────【陽炎纏いし一閃】。僕達であいつらを鎮めましょう!!」
「…………っ!!────はいっ!!」
その問いかけに応えると同時に力強く薙刀を手に取り、【ヘンゼルとグレーテル】の居る場所へと歩みを始める麗由と辰上であった。
□■□■□■□■□
━ 病院での会話 ━
「つまりだな……。あたしのドゥームズデイで、1回オトシゴちゃんは死んじまって。っでそこから、あたしのドゥームズデイを2回目に喰らって中途半端に人体蘇生さちまってだな?」
必死に辰上 龍生 の死亡経路について説明するディフィートであったが、全員が頭に《?》を浮かべていた。それもそのはずで、ディフィートは辰上を殺したのは【ヘンゼルとグレーテル】ではなく自分であると言っているのだから。
「えっと……話をまとめると、怪異耐性のない後輩が怪異が強過ぎるディフィートのドゥームズデイで殺されて、蘇生されたけど生き返らなかったと……はい?」
「そういうことか。顔色が悪かったのは、オレの業務任せ過ぎではなかったってことだな。あ~、安心安心♪だとして、身体の表面が灰化しなかったのはなんでだい?」
小ボケを入れつつも、確かに疑問であったことを口にする実。すると、ディフィートは次のように説明した。
初めて同行した。というよりさせた怪異調査の時に、ドゥームズデイに纏わせた風は【ガスターの砂塵壁】と言われる怪異の持つ触れれば石化させてしまう竜巻の力を限定的に再現したものであり、風に触れた者の動きを拘束させるものとして利用していたが、怪異を体に宿していない辰上は怪異の瘴気に触れていた事で倒すべき怪異に認定されてしまい、巻き込まれて気絶している間に風を空気同然に吸ったことで内部だけ破壊されてしまった。
次にドゥームズデイが辰上を襲ったのは、麗由達とリゾートホテルで【八束脛】を倒す時に放った炎。あれは、悪しきものだけを焼き払う【転生の炎】。つまりフェニックスの力を限定的再現した技であったが、これによって辰上の体内を蝕んでいた石化能力を焼き払う対象と認識してしまい、辰上に吸い寄せられるように炎が集中し、体内に入り込んでしまった。
「ああなるほど!それでフェニックスの力とその石化の力が反発し合って、灰のまま留まっちゃってたことね。ん?でも……だとしたら、辰上くんなんで死なずに普通に生きてられたのかしら?」
「芳佳さん。そんなの簡単な話ですよ、はい。恋は盲目てことですね……はい」
「まぁ、実際無理して働き詰めにしてなければもっと進行は遅かったろうし。でも、遅かれ早かれ死んではいるんだよなぁ?オトシゴちゃんのヒマワリちゃんラブには、流石の怪異もお手上げだったのかねぇ?」
そうして一通りの経緯を話し終えたディフィートは、辰上が生きていることを伝え衝撃の一言を添えたのであった。
「オトシゴちゃんだけどな?生きてるぜ。だから、今から火葬しようぜ」
「はっ?」
「ひ?」
「ふ?」
「へほ?じゃなくて、焼くんだよ死体を……?」
言いながら既に辰上の遺体を抱えているディフィートを一同は止めに入った。しかし、ディフィートは怪異の威圧で全員を吹き飛ばして霊安室から辰上を連れ出した。
すると、いつの間に用意したのか分からないキャンプファイヤーの中に辰上を丸焼きにする魚のように放り投げた。ニコニコしながら燃え上がる火を眺めているディフィートの頭を燈火がスリッパを持ってジャンピングツッコミで殴りつけた。
「な、何やってるですかっ!?まだ、親族にも連絡してないんですよ?はい?」
「いいんだってっ!!連絡したって死んでねぇんだからっ!!」
「で、でも勝手に火葬しちゃって大丈夫なわけ?わたし嫌よ?後輩がこのまま丸焼きになって骨だけなんてなったら……」
「いや。案外、大丈夫そうよ?」
ディフィートに掴みかかる女性陣に遅れてやってきた実は、燃え盛る火柱を見てそう言った。その直後、炎が一直線に並んで火元へと集結していき花火を打ち上げるように天高く舞い上がり巨大な不死鳥の形の火花が発生して消えた。
「ぬあぁぁ!?はぁ、はぁ、はぁ、竈門に入れられるピザの夢……?」
「ほら♪目覚ましただろ?よぉ!オトシゴちゃん♪気分がどうだ?」
「あ、ディフィートさん。というか寒いんですけどここ?」
「そりゃあ、まぁお前……裸だしな……」
「え?────あ“あ”っ!!??」
急に目が覚めてディフィートの指摘どおりに裸であることに気が付き、身体を隠そうとする辰上に服を投げ付けて着替えるように言った。
服を着替え終えた辰上に、これまでの経緯を説明すると辰上が急に慌て出したようにディフィートの眼前に鼻息を荒くして尋ねてきた。
「そうですよ!麗由さんですっ!!僕、それでいくと麗由さんの前で【ヘンゼルとグレーテル】に殺されたんですよね?こうしてはいられないです」
「ま、待ってって!!あたしがオトシゴちゃんのことを優先したのは他にも理由があるからなんだよ」
逸る気持ちを抑えると、これから向かってほしいところがあると言って行き先をスマホに転送した。そこは、麗由と総司が幼少期に住んでいた御屋敷の住所であった。ディフィートはそこに【ヘンゼルとグレーテル】を浄化する鍵があると伝えて車に乗せた。
そして、辰上を蘇生する前にラットに盗みに入ってほしいと連絡を入れてあるため、合流後に詳細を聞くように言って送り出し第2課のみんなには麗由の援護に向かうように言って麗由の服に着けた発信機の情報を提供した。
「あー、あたしは今回の無許可の討伐してくっから、手は貸せねぇからな?んじゃ、頑張って来い噂観測課極地第2課のみんなっ!!」
ディフィートはその後直ぐにバイクに乗って、本局に掛け合いに向かったのであった。
辰上は神木原の屋敷から出来ていたラットと運転を代わり、麗由のもとへと向かう移動中に渡されたアタッシュケースの中身を見て言った。
「黒い……ドレス?それも、名前が書いてある……沙羅って麗由さんの師匠だったていう?」
「ああ、せや。ほんで、これも説明されてへんやろうけど……」
そう言ってラットは今、辰上に沙羅の死亡した真の経緯を説明した。
当時から、怪異の強さが増してきていた。それに対抗すべく政府としても怪異討伐のスペシャリストが欲しいと、集めて結成した新組織。それが噂観測課極地と呼ばれるものであった。
しかし、それでも強さを増す怪異に立ち向かうには別の対策を練る必要があった。そこで、自身の能力に限界を感じ引退を考えていた沙羅はこれからも戦い続ける愛弟子のために何か出来ないかと模索していた。
「それが、【陽炎纏いし一閃】。沙羅はん自身が使うてた怪異を継承するってもんやった。しかしな……そないなこと普通は出来へんのよ?」
「確か、沙羅さんの怪異はヴァン・ゴッホの絵画の怪異。向日葵……、太陽を冠した花……」
「おお!流石辰上はん♪分かったか!そのドレスにはな。沙羅はんの霊力が込められているんや」
つまりは、主の匂いを番犬に覚えさせる要領で【陽炎纏いし一閃】に主人を麗由であるとさせることで、麗由がより多くの怪異を扱えるようにすることが狙いだった。問題は、怪異の継承が普通であればできないのに、麗由には継承できると沙羅が確信していたのは何故か。
「まぁ、問題として。神木原の妹さんが立ち直れるかもかかってるがね。そこは辰上はん、あんさんの腕にかかってるわ」
そう言ってラットは青信号になった途端にアクセルをベタ踏みで、法定速度ガン無視で車をぶっ飛ばして【ヘンゼルとグレーテル】の居る倉庫へと向かった。
□■□■□■□■□
そして、辰上達は麗由達の前に現れた現在に至る。
「わたくしに……沙羅師匠が……」
「はい。そのドレスと薙刀。合わせてはじめて、麗由さんはその怪異を継承出来るんです」
「ですが、龍生様……。肝心のわたくしの怪異が、わたくしに力を貸していただけません」
自信を喪失した麗由の手をそっと拾い上げて胸の前で握って、自信に満ちた目で麗由を見て言った。
「大丈夫です。真名は分かってますから、その名を呼んで今1度────怪異を鎮めるために力を借りましょう!!」
そう言って真名を告げてから倉庫で倒れている仲間達のもとへ辰上は向かい、反対に麗由は一人【ヘンゼルとグレーテル】の方へと向かった。
ラットは二対一の状況でも、サイドアタックを見事に躱し流石は一度は会敵しているといった立ち回りで戦闘を繰り広げていた。そんななか、真打ちの登場を確認してニッコリ笑って煙幕を叩き付けた。
「ほい来たでぇ♪あんさんらを眠りに誘う……お姫様が、な♪」
「っ!?なぁ~んだ?結局、お姉ちゃんじゃん……」
「いや。でも、ドレスアップしてるわね?」
麗由は静かに薙刀の刀先を上に掲げた。すると、夕陽となった太陽の灯りが刀先から反射して【ヘンゼルとグレーテル】を目掛けて照らし始めた。それを如何にも不愉快であるという表情で手で顔を覆う【ヘンゼルとグレーテル】は、まずはグレーテルが目障りな光を払うようにトマホークで斬りかかった。
その一撃に目を向けることなく、麗由は踊りの予行練習を始めるかの如く踊り避けた。そして、振り返り様に薙刀を自然に振り回した。
「は?」
「あら?さっきまでとは違うわ────?」
「視えます。そして、聴こえます……冥刻があなた方に下りました……」
「ふざけんじゃねぇぞ!女ァ“ァ“ァ”ァ”────ッ!!!!」
腰部に負わされた切傷が再生しないことに腹を立てたのか、グレーテルは口調が激昂した時のものになっていた。大振りでも隙のないその攻撃を予めそこに来ると分かっているのか、見事に全て避けた。そして、隙がないと見えるのはあくまでも武器を直視していればであると、冷静な判断が出来る今の麗由には対処法が分かっていた。
その様子を見て、グレーテルが危ないことを察知したヘンゼルがガントレットから弾丸を打ち出して乱入する。お互いの隙を埋め合うように繰り出す連携攻撃に、流石に汗を浮かべる麗由であった。次の瞬間、ヘンゼルが何かに足を取られたように波長が乱れた。
「────そこですっ!!」
「やらせるかっ!……何っ!?」
一気に攻勢に出ようと踏み切った麗由の前に立ちはだかったグレーテルは、振り上げた腕が引っ張られたので、違和感を感じた方を見た。そこには、辰上が両手にワイヤーギミックの付いた拳銃を両手に持っていた。ワイヤーはそれぞれヘンゼルの踝とグレーテルの肘を貫いて巻き付いていて、辰上に気を取られた一瞬でワイヤーの付いた箇所を斬り落とすように薙刀を振り回していき切断していった。
「痛いっ!!痛いわぁ!?」
「なんで……なんで直らないんだよォォ!!??」
「直らないさ。お前たちは絵によって生かされた存在だろ?」
『────ッ!?』
辰上の言葉に恐怖を感じたような表情をする【ヘンゼルとグレーテル】。怪異にはそれぞれタイプが存在しており、上級怪異となるとその弱点はより限られたものとなる。麗由が使っている怪異の能力は描く事に関する力を秘めたものであるため、絵を描かれたことでモデルを持った【ヘンゼルとグレーテル】にとって、有効の能力なのであった。
ここに来て、直るのが当たり前だった身体の再生が出来ないことをはじめて味わい恐怖を知った【ヘンゼルとグレーテル】は半狂乱になって暴れだした。ヘンゼルは片脚を失いながらも逃げ延びてやろうと地を這って逃げようとしていた。グレーテルは片手でトマホークを持って再度、辰上の息の根だけでも止めてやると走り出す。
「逃がすわけないやろ……」
直後、バァーンと破裂音を出して両脚が吹き飛んだグレーテルは手からトマホークが離れて辰上の方へクルクル回って飛んでいたが、それすらも走り込んで割って入った麗由によって阻止されてしまった。
ラットとの戦闘中に、仕込まれた爆発物が爆破しただけだからと再生を急がせるグレーテルに対して、麗由の追撃が飛んで来てヘンゼルのいる方へと投げ飛ばされた。
薙刀【陽炎纏いし一閃】に祈りを込め始める麗由の手に自身の手を重ねる辰上に、少しドキッとしつつも僕達で浄化すると約束したことを思い出し、静かに頷いて刀先を天高く掲げて麗由の胎内に宿る怪異。その真名を呼んで薙刀を振り降ろした。
「我が魂は冥界の門を護るために在り」
「今こそ、冥土へと彼の者の魂を導きたまえ」
━━━ 冥刻よ!アヌビス神の権能を借りて、悪しき魂を冥土へと葬送せよ!汝の名は【金烏】ッ!!━━━
放たれた一閃は、巨大な金色の烏となり右翼に太陽の黒点を。左翼に金狼の化身を宿し【ヘンゼルとグレーテル】を包んだ。金色の光柱となり夕陽のそれへと消えるなか金の羽が、【ヘンゼルとグレーテル】の頭上に振りが注ぐ。
「おっかない怪異やね……。こりゃあ沙羅はんも、ビックリやったろうな……」
攻撃に消滅ではなく浄化に消滅をさせる麗由の怪異の真価によって、【ヘンゼルとグレーテル】の身体が薄くなっていっていた。斬り落とされた身体も元に戻りはしたが、姿を保って居られなくなる前に起き上がった二人は麗由達を指さして笑った。
「はーっはっはっは♪これで2体目ってかぁ?いいさ……ここでボクらが消えれば彼等も動くだろうから」
「うふふふ♪そうねぇ♪あなた達にいいこと教えてあげる。私達上級怪異とされている存在は、人から生み出されたことは他の怪異達と一緒よ♪」
「だけど、普通の怪異は人間を怪異の側に引き込むことは出来ても怪異には出来ない。だから、ボクらみたいなやつのことをこう呼んでいるのさ」
『逸話影響源────、文字どおり噂は感染するのさ♪』
二人で声を揃えてそう言い残して、【ヘンゼルとグレーテル】は浄化による消滅を迎えた。最後に残した言葉が正しければ、上級怪異には他の怪異と異なる何かがある事になる。でも今は────。
「はっ///り、麗由さんっ!?」
「龍生様……。もう、離しませんっ」
「あちゃー……、こりゃあワシらは退散やね?燈火はん、今晩は飲みでも行くかいな?」
「おっ♪いいですねぇ♪芳佳さんも行きましょうよ♪はい?」
「あー、わたしはパスで。脚やっちゃってるから」
「オレも。おじさんにはこの仕事向いてないかな?1回吹き飛ばされただけで骨やっちゃって……」
「ほんなら、ご老体と茅野はんを病院に送って飲みに行くとしますかねぇ~」
「ああ……ちょっとっ!?」
抱きつかれて動けない辰上の声をガン無視して、ワゴンに全員乗ってその場から姿を消してしまい、麗由と二人きりなった。尚も強く抱き締めてくる麗由は辰上の胸に耳を当て始めた。
「良かった……、ちゃんと動いている」
「あはは……。生きてますから、離してくださいよ麗由さん」
「えへっ///────嫌です///」
「そ、それなら移動しましょうよ…?ここだと、回収しに後処理班が来ますから」
「でしたら、事務所へ向かいましょう♪わたくしの────いえ、わたしの自信作の紅茶があります。龍生様に、何方よりも先に飲んでいただきたいと……今そう思いましたので///」
心做しか、憑き物が取れたように辰上に対しての口調が親しみのあるものになった麗由は涙を人差し指で拭き取って笑窪を作って笑った。その彼女の背景を彩るように夕映えした陽が輝いていた。
そして、二人は出逢った当初では考えられないことかもしれないが道中お互いの手を繋ぎあったまま歩いて事務所まで歩いて帰社し、到着するやいなや麗由の自信作を嗜む二人だけの時間を満喫したのであった。
10
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる