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EXTRA FILM 3rd ※三章の幕間
見つけ出してみせる
しおりを挟むバグウィルスから生み出した怪異が消滅した。相手は噂観測課、特別遊撃隊と呼ばれるライセンスチームに所属することとなった、拳法を扱う女怪異使い。
「────。」
「壊されてしまったか。ハスター、お前の探している神体は見つかったか?」
「いいや。見つける前に倒されてしまったから、振り出しかな」
ぶかぶかのパーカーを羽織った少年が、フードを取って声をかけてきたスーツコートの男性を見る。
「そういう君は、ファンを撒くのに苦労したんだね。ラウって人、何でそこまで君に固執するんだい?サンダルフォンなんて名前は最近ついた名前だろ?」
ハスターの疑問にサンダルフォンは答えた。
人造怪異を造る施設に、身寄りのない子ども達が連れてこられた。その大半は、怪異と遭遇して親を亡くしている子で、サンダルフォンもその一人であった。表向きは、人間が一切関与していない怪異使いを謳っておきながら、モルモットのように扱われる。
使えなくなった子ども達は死体となった後、テスト用に捕獲した怪異の餌にしていた。人由来ではない、人が想像した捕食者を具現化させたような人喰いの怪異に、何人もの実験体は捕食された。
そんななか、過度な怪異因子投与に耐え、怪異の力を覚醒させた少年がいた。少年は人喰い怪異を圧倒し、初の人造怪異使いとなった。しかし、時を同じくして間諜として送り込まれた政府の人間により、違法研究がバレて閉鎖を要求された。
「その時に、研究施設にいた全員を殺したんだね。でも、どうしてだい?政府の犬や君をゴミ同然に扱った研究員はともかく、同じ実験に苦しめられた同胞まで皆殺しにしたんだい?」
「それは前にも言ったはずだ。こんな世界に生きていたって希望などない。どうせ、破壊する世界に。わざわざ苦しみを延命する必要などないだろ」
「ふーん。それもそっか。おっ?きたきた」
サンダルフォンの昔話に一段落が着いた頃、二体の怪異の前に静かに少女が近づいてきた。来幸は、共に行動している水砂刻達のことを聞かれた範囲で話した。
ハスター達との計画に、彼らは関係がないこと。連中の中に一人、正確には一体。インフェクターが生み出した怪異がおり、そろそろ自覚をしてしまいそうだということ。怪異であることを自覚すれば、もとより人間ではない以上は、見境なしに攻撃を行なう危険性がある。来幸はその監視をしているため、手を結んでいると答えた。
「そうなんだ。ルンペイルさんの怪異ね……。そいつの対処が終われば、その子達とはお別れかい?」
「…………もちろん。彼らが……貴方達の敵となるの……私としても、よくない……。でも……、貴方達とも……体を取り戻すまでの間……」
それだけを告げて、踵を返す来幸。ハスターは、そんな来幸の背中を見て死相が見えると言って、このままいけば確実に消滅するのは来幸。いや、スレンダーマンであると告げる。
すると、クルッと首だけハスターの方を見て「そう……」と、覇気のない声で返事をして立ち去った。しかし、その死相はサンダルフォンにも見えていた。まるで、来幸の方から死相を晒しているようにはっきりと、目で見えるほどに黒い霧状の相が来幸の頭上にあったのだ。
「何を企んでいるかは存じ上げないが、どうせお前の祈願が達成されれば旧き世界は滅ぶ。だから見えている死相なのかもしれないな」
「そうなのかな?さっき彼女。ハスターのこと、見ているようで見ていなかった。既に、現実を見失っているのかもね?」
「────ッ!?」
その時、サンダルフォンは一瞬目を見開いた。
どうしたのかと、ハスターに問われて「いや、なんでもない」と、答えてその場から立ち去ろうとする。しかし、不自然な振る舞いに違和感を覚えたハスターは、その向かう先に立ち塞がって顔を覗き込んだ。
しばらく、ハスターの顔と睨み合っていた。すると、ハスターがため息混じり「まさか君まで別の思惑を抱いたのかい?」と詰め寄った。それに否定するように、手を横に振ってサンダルフォンは重々しい口を開いた。
「その逆だ。お前の考えに、賛同しているわけではないとはいえ、スレンダーマンに対してあの冷酷振りに、俺の方が愛想をつかされてしまうのではと少し不安になっただけだ」
「なんだそんなこと?君はハスターの優秀な右腕だよ。斬り捨てるなんてこと、出来ないよ……」
(今は────、ね)
笑顔の裏に忍ばせる本心。そんなハスターの作り笑いに、視線を向けることのないサンダルフォンは今度こそ、その場から立ち去るのであった。
誰もいなくなった後、独りになったハスターは寂しく置かれているデスクの前にある、リクライニングチェアに座り引き出しから紙を取り出す。
紙には白黒の画像とテキストが記されていた。雷が突然鳴り出し、倉庫の天井を叩く豪雨の音だけが響く空間で、ハスターは紙を持ち上げる。雷がビカァッと光った瞬間に文字の部分が黒く輝いた。
────────────────
人造怪異の寿命。
成功ケース未だなし。
仮に成功しても、怪異能力を酷使すれば早くて半年程度で絶命するだろう。
────────────────
※中略※
────────────────
邪神降臨神話に基いた怪異について
星を侵蝕する風。
生ける永劫豪火の心臓手に入れしとき、
世界を創り上げる災禍を巻き起こすだろう。
汝の名はハスター。
離れし対なるクトゥグアを求めて、
この旧き星に漂流せし災厄なり────。
クトゥグアを持つ少女、怪異に立ち向かう組織にあり。
その者の名は───────
────────────────
「霧谷 来幸。フフフフ……、クックックックッ…………、クフフフ、ハーーッハッハッハッハッ!!!!!!」
ハスターは堪え切れない笑い声を上げていた。
彼は、ずっと各地を転々としていた。その理由は、完全なる存在となりこの世界を消すためで、真相を知っているのが噂観測課であると睨んだ彼は、遂に手掛かりを見つけていたのだ。
この計画を成功させるために、同じ場所に保管されていた資料から、サンダルフォンを仲間につけることに成功したハスター。おまけに、最終目的としている霧谷 来幸の体を探しているインフェクターにまで、出逢うことが出来た。
すべては今、ハスターの思惑どおりに動いている。今回のバグウィルスで、クトゥグアへと通じる鍵を持つ神体を見つけられなかったが、スレンダーマンが先に来幸の体を手に入れてしまえば、クトゥグアは手に入り神体の居場所が分かる。
「どの道、ハスターの勝ちさ。ホウライ先生、貴方がハスターを見つけるよりも先に、この世界は終わりますよ。いや違うね。終わらせてあげますよ♪フッハッハッハッ♪」
引き出しに入っているもう一つの紙には、人造怪異のことが書かれていた。それには目を通さないハスター。以前、読んでいて製造目的は怪異との戦いに、人間の怪異使いを不要にするためと記されてはいるが、本当の目的は別にあったというものだ。
しかし、それは一枚目に記されている人造怪異の寿命から計算すれば、サンダルフォンは残り数ヶ月の生命でしかないため、脅威とは思っていない。なにより、味方として行動をともにしていることで、その危険性は度外視している。
やがて、雷が去ったあと。倉庫には、ハスターの姿もなく静まり返った廃墟と化していた。
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