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第三章
愛で満たして、eyeで隠して ─前編─
しおりを挟むしばらく意識を失っていた辰上は、目を覚ましてから一週間ほどで退院し職場に復帰していた。
第2課へ配属された特別遊撃隊は、リャンハンとラウともに入院でもう少しだけ動けない。そんななか、神木原 麗由と合流することが出来たと、編成予定であったゴーマより辰上のもとへ知らせが届いた。
「ゴーマさんのもとへ麗由さんはいる。ということは……」
「そうみたいだな。職務放棄による罰は、刑罰で済みそうだな。ったくよぉ、ヒマワリちゃんってばオトシゴちゃんをそんなに困らせるかね、普通」
運転席で欠伸をしながら、一時はどうなることかと心配していたディフィート。二人は、観測課へ降りてきた怪異調査に向かうべく、車を走らせていた。
道中、合流する予定となっている場所まで早朝から向かっていた。ディフィートは、事ある毎に「バイクの方が性に合ってる」と小言を零して運転を続けていた。
そして、合流場所に着くなり舌打ちをして車を降りた。
辰上には、運転を代わってもらうからこの場で待機していろと告げ、高層ビルのゲートを抜けて建物内に姿を消した。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
ディフィート達が合流地点に到着する、数分前。
街コンに参加した男性二人が、同じ女性に目をつけたことで揉めていた。女性は困った表情は見せるものの、内心では他の参加女性とは違ってチヤホヤされていることを見せつけられると、ほくそ笑んでいた。
「ねぇ、やめてよ2人とも。みんなが見ているでしょ?」
「メイレちゃんはそこで待ってて。おいっ!メイレちゃんは、オレに気があんだよ!てめぇみたいに、年老いたおっさんなんかお呼びじゃないんだよ!!」
「んだとぉ!?お前みたいなガキが、ろくに女も抱いたことねぇだろうに満足させられるのかよ!?」
若さをアドにしようとする一方で、夜のテクに自信を持っているとマウントとる男性のいがみ合い。
そんな低レベルな張り合いしか出来ない男達を前に、甲乙つけ難いと品定めする女性。周りもざわつき出すほどにまで、言い合いは発展。遂には、若者の方の胸ぐらを掴み上げ殴り合いに発展しようとしていた。
「お止めなさいっ!!嗚呼……、あなた方のその傍若無人ぶり♡さぞ、他者からの《愛》が足りなかったとお見受けいたします……っ♡」
「だ、誰だあんたっ!?」
「こ、こんな格好の女。参加者には居なかったぞ?」
周囲のざわつきが、突如現れた一人の尼僧に向けられた。
この街コンは、一角のテナントを貸切で利用した事前予約制のため、部外者が入ってくることなど有り得ないことだ。それが、目の前に先ほどまで居なかった人の姿がある。こんな一同が、ドレスやスーツに身を装う中で修道院服とも法衣とも取れる格好をした。
それも教えに反していると、象徴する股関節まで覗かせるスリットの入った法衣を着て、注目の中心部に堂々と喧嘩の仲裁に入ってきたのだ。
「まぁ、今はそのようなことはどうでもいいのです。そちらの殿方?そこに居らせられます、お嬢さまを取り合って決めかねているというではありませんか?」
「そうだぜ。こんな若僧には持て余すって言ってんだ」
「んだと?てめぇもどうせ体力が持たないだろうがよ」
「お止めなさいっ!!どうしても、喧嘩をなさると言うのでしたら……拙僧がまとめて愛して差し上げましょう♡」
身を捩らせながら、男達の間に割って入る尼僧。
その拍子に薄桃色の粉塵、あるいは鱗粉が香水のように散布される。それを浴びた男性二人は、瞬く間に冷静さを取り戻し喧嘩しそうな手を止め、お互いに距離を置いた。
すると、最初に若い男性の方が尼僧に見とれ始める。じっと見つめられる視線を浴びて、頬を紅潮させて照れ隠しする尼僧。次いで、中年男性の方も同じように尼僧に見とれていた。それどころか、尼僧の目の前に足を進めあと一歩で密着するのではないか、そのくらいまで近付いていた。
「んふっ♡……いい子ですねぇ♡さぁ、拙僧と愛し合いましょう。いいえ、3人仲良く溶け合いましょう♡♡♡」
「────。」
「────。」
艶美な声で、男性に吐息を合わせる。
まるで糸で操られたように、尼僧に体をくっつける二人の男性。これには、さっきまで自分のために取り合いをしていたはずが、奪われたと女性も驚嘆する。すると、尼僧は死んだ魚の目と言い表す以外にない瞳を女性に浴びせながら、口角を艶めかしく上げて囁いた。
「対等にして平等に愛せないのなら、男を弄ぶ資格はありませんよ……ソワカソワカ……………っ」
両手に花の尼僧は、そのまま街コン会場を後にして隣のホテルへと向かうのであった。
エレベーターに乗り、両脇の男が自身の放つフェロモンによって雄へと豹変しきった。その証拠に、部屋に着く前だと言うのにもう我慢出来ないと脈打つ怒張。
尼僧の舌舐りとともに、エレベーターのカチーンという音が鳴る。部屋に入った後のことは、想像にかたくない。尼僧───、【八百比丘尼】の力を持つ彼女のお楽しみの時間が始まるのだ。
「も、もう勘弁してくれ…………」
「やぁん♡ダメですっ♡拙僧はまだ、火照り足りないのですからぁ♡♡」
「オ、オレ……っ、もっと……頑張るっ!!!!」
「嗚呼♡嗚呼ッッ♡お若い精の迸り──ッ♡もっとぉぉぉ♡♡♡」
目の下にクマが出来ながら、ひたすらに精を搾り取られる男性二人。
遂には、気絶したあとも尼僧は自身に宛い行為を続けた。そこへ、鍵のかかった扉を蹴破る音が反響した。
「つゥゥメェェェッッ!!!!何してやがんだァァァァァ!!!!!!」
「まぁ!?ディフィート様ぁ!!??嗚呼♡嗚呼~~~ッ♡そ、そこはぁ……っ♡♡ひゃんっ♡♡♡」
「うっせぇ!!これから仕事だっつってんのに、何ぶっこいてんだオラァァァ!!!!!!」
干物寸前の男を飛び越え、掴みかかったディフィート。
そのお仕置きは、尼僧アブノーマルにとってディフィートからしか味わえない快楽なのであった。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
現在。
身体中に包帯を巻いた状態で、後部座席に乗せられたアブノーマルを連れて依頼のあった調査現場へと向かう一行。
むくれているアブノーマルの耳を掴み、車から引きずり下ろすディフィート。痛い痛いと声には出すが、顔は満更でもない光景に辰上は冷や汗を浮かべつつもバッジを見せて、警察の捜査戦の中へと入って行く。
相変わらずの超常犯罪という訳でもないのに、刑事は頭を悩ませている。そこへ、ニコッと頬を赤らめながらアブノーマルは擦り寄って胸に刑事の手を押し当てさせた。
「は……ッ///落ち着く……っ♡」
「何やってんだッ!!」
ハリセンでアブノーマルをしばき、刑事に話を聴くディフィート。
変死体が見つかった家は、使用人を持っていた。まずは犯人の目撃情報を持っていないか、事情聴取をしている最中であった。
辰上とディフィートは、聴き込みされている使用人達がいるリビングへと赴いた。女中が二人、小間使いに男一人。女中のうち一人は、死亡していた主人を見つけた時のショックでまともに話せる様子じゃなかった。
「こりゃあ、久々に事件絡みの怪異ってとこかもなオトシゴちゃん」
「ええ。ちょっと、すみません」
辰上は、たった今聴取が終わった小間使いに声をかける。
警察にも聴かれたことだと、質問に答えていく小間使いに対し、辰上は不振を持つことなく質問を続ける。
「聴いたところによると、ご主人は病を患っていたとか?」
「あ、ええ。とても聡明なお方でしたから、恨まれて殺されるなんてことはないと思っていました……」
「?おい、ちょと待て。殺されたって、凶器は出てないんだろ?なんで、殺されたこと分かんだよ?」
「先ほど、刑事さんからそうお聴きしただけです……それでは」
小間使いは会釈をして、部屋を出ていった。
続いて、使用人の長を務めている女性にも聴き込みをする。殺された主人とは、お金の融資をしてもらう条件で体の関係だったと話す女中の長。しかしそれも、妻にバレて離婚になるまでの間のこと。
それでも、主人をよく思っておらず答える毎に悪態をつく有り様であった。自分の両肩を抱き寄せて、忌々しい記憶に吐き気を催した顔をさせながらディフィートの質問に答える。その女中の長に、自分の目の前から逃げ出した麗由が重なる辰上。
「1、2週間前辺りから、もう部屋に篭もりっぱなしで誰に食事を運ばせに行っても、受け取らなかったそうよ。私としては、今まで散々他人の体を弄んでいたツケが来たんだって思ってるわ。奥様に私との不倫がバレた後も、新しい使用人が辞めるまで執拗に手を出していたみたいだし」
「そうかい。愚痴も合わせて情報提供あんがとさん。オトシゴちゃん、そろそろ引き上げようぜ?」
「あ、はいっ」
女癖の悪い人が殺されたということで、ディフィートも自業自得を否めないと顎に手を当てながら、階段を降りていった。
玄関広間に向かう二人、その目の前には桃色の気配がプンプン。いや、悶々の状態になったアブノーマルが、刑事さんに肌をスリスリさせながら誘惑していた。
「嗚呼♡刑事さん♡ここのところ、怪事件の捜査にばかり駆り出されてさぞ……お溜まりでしょう?拙僧でよろしければ、その調査……ご負担とならぬように……ソワカソワカ────ッ、一肌脱いじゃいますよぉぉぉ♡♡」
そう言うと、いきなり法衣の端に腕を交差して伸ばし、捲り上げる素振りを見せる。
その場に居合わせた警察官が、固唾を飲んで目をまん丸に瞬きさせてアブノーマルに視線を集める。桃、菊、蓮の匂いがもわぁ~っと広がる。全身を艶美にくねらせて、発情しきった己を解放しようと艶やかな笑みを見てくれている皆に見せ、舌舐りしてガバッと法衣を引っペがす────、
「ダァァァッッ!!!!本当に脱ぐなッッ!!このド変態がッッ!!」
「嗚呼♡ディフィート様ッッ!?あぁ~~ん、ズルいですぅぅぅ♡ご自分だけ、そんな出るとこ出した格好しておいて拙僧にお色気の一つもさせずに生殺しだなんて……///」
襟元に手を突っ込んで、全裸になるのを阻止したディフィート。
そのまま捜査現場から引きずって連れ出し、避難訓練の煙を吸わないようにするみたくハンカチで鼻と口を押さえて、車の中にアブノーマルをぶち込んだ。
しょぼんっとアブノーマルが涙を流して、落ち込んだことで匂いの散布するのをやめたところで、車に乗り込んで現場を後にする辰上達であった。
情報は手に入れたが、今回怪異が関わっているような気がしないと、辰上が言うとディフィートも首を縦に振った。個人的な怨恨であって、後は犯行手口を探して警察に提出して解決。そう結論付けて、車を走らせていると「あの~」とアブノーマルが、渋々手を挙げた。
そして、アブノーマルの口から聴き込みで聴いた情報を貰うと同時に、車が急ブレーキがかかる。
「なっ!?」
「おっと♪とまぁ、そのような情報を聞き付けましたので……、今回は怪異絡みの事件のようで────」
「分かってる……。今───、目の前にお出ましだよ」
声のトーンが変わるディフィート。その見つめる先には、忍者の格好をした男女が立っていた。
それだけではない。その隣で、野良猫のように地面に向かって両手を着いて欠伸をする少年。ベルフェゴールの姿があった。車を降りて、肩を並べるディフィートとアブノーマル。
「オトシゴちゃん、忍者の方の怪異。逃げ出したら、追跡頼むぜ」
「えっ?」
聞き返す前に、辰上はディフィートの意図を察知する。
この場で忍者の怪異、【伊賀ノ正心】はアブノーマルの聴き込みが正しければ、今回の事件に関係している。となれば、元はあの家の関係者である可能性がある。
事件を解決する意味でも、ここで倒す訳にはいかない。一言でそこまでを理解した辰上は車に隠れたまま、待機することにした。
「ん~~っ♪んで?ぼくの相手はどっち~~?」
「お前がいけよ。ショタも得意分野だろ?」
「え、えぇ……そうあのですが……」
すっかり戦闘態勢ばっちりのディフィート、ベルフェゴールに【伊賀ノ正心】。そのなかで、先ほどまでとは明らかに様子がおかしいアブノーマル。ソワソワと辺りを見渡して、何やら人を探している。
構うもんかと、ディフィートは高速移動で【伊賀ノ正心】である忍者とくノ一を相手に、深い霧の中へと消えていった。
「ねぇ?殺るの?殺らないのぉぉ?」
「あ、あの……」
「ん?なぁに?」
「あのホウライは、いらっしゃらないのですか?」
「誰~?」
肉球盾を展開しながら、首を傾げるベルフェゴール。
アブノーマルは、インフェクターと対峙したのならホウライにも逢えるのではないかと、期待していたようで酷く落ち込んでしまいその場に膝をついて泣き出してしまった。
ベルフェゴールも、以前【八百比丘尼】の不死性を焼き尽くして重症を負わせた怪異使いが居ると、聞かされていたためアブノーマルがその怪異使いであることを知っていた。しかし、自分が殺される可能性のあるホウライを探しているアブノーマルを見て、性癖が理解出来ないと不快な表情を見せる。
「どうでもいいから、死んじゃえ~~っ♪」
「あっ!?アブノーマルさんっっ!!!!」
ディフィートを追いかけていた辰上の視界に、無抵抗なアブノーマルに襲いかかるベルフェゴールの姿が映る。
しかし、次の瞬間物凄い衝撃波が生じる。片腕で、ベルフェゴールの剛爪を掴み止め、起き上がるアブノーマル。
「そうですか……、あのお方はこの場に居ないのですね。でしたら────」
「ッ!?この気は……?」
「遠慮なく乱れ咲いても、構いませんよねぇ♡♡嗚呼……、命漲る愛を満たしてくださいまし~~~っ♡♡ソワカ───、ソワカァァァァァ♡♡」
脳天に発勁を命中させ、ベルフェゴールを突き飛ばす。
全身から溢れる、【八百比丘尼】の闘気と【女王の蟻塚】が散布する戦闘フェロモン。それに当てられたベルフェゴールは、冥境暗黒亜空域を展開して、アブノーマルを自分の暗黒領域へ引き込んだ。
互いの肩を掴みながら、闇の世界へと姿を消すアブノーマルとベルフェゴール。辰上は、ディフィートの後を追いかけることに専念するのであった。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
無線でやり取りを終え、忍者の前に回り込んだディフィート。
クナイを構え、ディフィートを迎え討つ忍者。地面を蹴って宙へ浮きあがり、忍者の肩を掴んで後ろを取り足を引っ掛け投げる。背中を打ち付けるも、直ぐにバク転で後ろへと距離を取り投げクナイで、反撃に出る忍者。
上体を左右に振って、すべて避けると姿勢を落として走り出す。そして、愛剣の名を声高らかに叫んで指を鳴らした。
「来い、ドゥームズデイ・真ッッ!!」
「く、ぐぁぁあ!?」
挟み撃ちを狙っていたくノ一を牽制しつつ、主の元へ駆けつける愛剣。受け止めた拍子に生じる雷切が、忍者の肌にひりつく。手首で遊ばせてから、切っ先を向けるディフィート。
先に足音を立たせた方が、忍びに非ず。常にカウンターの構えを崩さない忍者に、ディフィートは口角を少しチラつかせてダッシュで木を駆け上がる。頃合いを見て、木の枝を蹴って遠心力を生じさせた回転斬りで忍者を狙う。
飛び避け、露わになっている無防備なディフィートの背中。普段からだらしなく着ているファー付きコートから、狙ってくれと言わんばかりに剥き出しになった素肌。
「隙ありっ!!────なっ!?」
「その隙が誘いってこともあんだぜ?中忍くらいの斥候さんッ!!」
「どあっ!?」
遠心力が死に切ったタイミングを狙う。
忍者の狙いは完璧だった。しかし、最強の怪異使いにはその常識の範囲内の戦術が通じなかった。ディフィートは遠心力の逃す場所を頭上に変え、晒した弱点が逆になるよう。つまりは、胸の方が無謀になるように背面に剣を向かわせることで、忍者のカウンターを退けクロスカウンターのキックをお見舞いしたのだ。
すると、今度はくノ一が遅れて戦線へ復帰しディフィートに襲いかかる。
三つ放った手裏剣と並走しながら、二刀流小太刀で回転コンボを繰り出す。ディフィートもこれには、どこから捌くか一瞬迷いが生じた。ただ、その気の迷いに漬け込んで一気に命を奪う暗殺術お得意の初歩、ディフィートは雷切で手裏剣を蹴散らし、剣を真下に突き刺してくノ一を飛び越えた。
「その動き、戦闘は不慣れだな?あ~らっよっと!」
「ぬわっ!?」
「チィ……」
足払いで体勢の自由を奪い、致命傷を負わせようと追撃しかけたところに忍者の投擲刀が割り込み、飛び避けて二対一で仕切り直しとなった。
仕方がないと、ディフィートは腰にケースを装着して愛剣を納め、逆手持ちの居合の構えに変える。忍者、くノ一の順で縦に並んでの突進。これは、後ろの行動を読ませない、忍び特有の戦術であると身構えるディフィート。
案の定、忍者の肩を蹴って前に出て来たくノ一。空と地上、その両方からディフィートを襲うことで逃げ場を奪った。後ろに下がろうにも、霧が濃くなって来たせいで足場がろくに見えなくなった。地の利まで活かした【伊賀ノ正心】の戦術勝ち───、に見えたのはほんの一瞬のことだった。
ディフィートの頭上を取ったくノ一、その横から割り込んだ影に進撃を阻まれ弾かれる。同時にそれは、ディフィートの手元に飛来した。得物を受け止めたディフィートはその場に一回転すると、両眼を紫色から深い緑色に輝かせて電撃弾を放った。
「ふん、わざわざテメェらの専門分野で戦うかよ!最強を謳ってんだこっちは♪頭の出来も最強じゃねぇと、カッコつかねぇだろ♪」
「ぐ、うぅぐあ……」
「こんなところで死ねるか……」
くノ一の言葉を聞きつつ、最強の戦術と題して呼び寄せた【終焉を刻む指針】に秒針と分針、それから愛剣ドゥームズデイも装填して決め技を放った。
───終焉の刻を刻めッッ、ツーヴァイス・ブレイカァァァァ!!!!!!
地面に長剣を突き立てるように振り下ろし、地面を炸裂させながら雷切が忍者を襲う。
瞬く間に、焼き尽くされ消滅する忍者。その後ろで飛び去るくノ一。それこそが、怪異【伊賀ノ正心】その本体である。敗北を悟った際に、正に縋るような吐露を聞いたことで忍者は怪異の召喚体で、人間から怪異へ変わったのはくノ一の方であると見抜いたディフィート。
空かさず、辰上に連絡を入れて逃げた方角を伝えようとするが、ザーッとノイズが聴こえ上手く通信が出来ない。
やがて、辺りの霧が天候による一時的な現象では片付けられないほどに濃くなっていった。ディフィートは、自分の足でくノ一を追いかけることにしてその場から動き出そうとした。
森の中の橋を渡り、向こうから人影が見えたことで足を止める。辰上かと思い声をかけるが、返答がない。尚もこちらに近付いてくる。肌につく感じからして、他にも召喚体がいたのかと構えるやいきなり投擲攻撃が飛んできた。
「ッ!?テメェ、何もんだ?──────ッッ!!??」
「久しぶりだね……■■。あの怪異……、追いかけている……の?」
「お、お前は…………っ」
ディフィートは目を見開いて、目の前に現れた人影。その正体を見つめていた。
✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳
━ 同時刻 ━
ディフィートを見失ってしまった辰上は、戦闘中であろうディフィートに何度も通信を試みていた。
しかし、霧が濃くなるに連れて無線は機能しなくなり、視界が不自由ななか微かに聞こえていた戦闘音を頼りに森の中を進んでいた。それも、聴こえなくなりどこを目指せばいいか分からなくなった時、木を伝って移動する影を見つけた。
「あ、もしかして────」
「よぉ、辰上 龍生。やっぱり、オレの堕性気が微塵も残ってねぇな」
「ッ!?」
後ろを振り返る。
すると、辰上の口を押さえる手が伸びてきて、大木に叩きつけられる。脳震盪で視界が眩むなかでも、目の前に現れたのがアスモダイオスであると分かる辰上。人間態天汝 狩婬の姿でも、とてつもない力を発揮する。
辰上は抵抗することも、声を上げることも出来ない状態にされてしまう。天汝は、辰上の全身を舐め回すように睨み付け、以前に植え付けた堕性が綺麗に浄化されていることを確認する。
「アシュタロスを助けに来た時は増大していた。なのに、今は綺麗さっぱり消え失せてやがる。これもあの始祖の怪異による力だってのか?」
「んんっ!!ん……んっ……」
「ふっ……、ならこっちにだって考えはある」
悪魔の魔将としての超重圧で、辰上の体に脱力感を与える。
全速力で走って、息切れしながらもさらに無理をしたのではないかというくらい、疲労がどっと辰上を襲いその場にへたり込む。そんな辰上に馬乗りになり、天汝は辰上と唇を重ねる。
舌を突き入れて、唾液を流し込んで接吻をはじめる。すると、辰上は目を見開いて唇を離そうと藻掻くが、天汝はそれを両手で掴んで逃がさない。そのまま、辰上のスーツをゆっくりとボタンを外して脱がせていく。
真珠色の糸を引かせながら、唇を離すと尻尾を辰上の口に押し入れた。喋ることが出来ず、悶える辰上。天汝は、辰上のはだけて露わになった胸板に掌を優しく添える。
「さぁ、サバトって知ってるだろ?」
「んん……ッ、ん……ぐ…………っ!?」
「この前は小手調べで、流し込んだ堕性気だ。今度は麗由を堕とすための装置になってもらうぜ」
力を入れることが出来ない辰上に、闇の力が一気に注ぎ込まれる。
胸元に浮かび上がる紋様。妖しい光を放ち、血管のように辰上の体に広がるそれは、呪いの一種で堕性気に染まりきった身体を造り出すための土壌作りに使用されるものであると、天汝は嬉しそうに説明した。
「ほら。貴様のここも、堕性が注入されたことでまたバケモノ地味たサイズに変わっていくぞ?だが、安心しろ。今度はこのままでは終わらせない。お前はもっと、もっと悪魔に近付いてもらう」
反論の余地すら、与えてくれない天汝。
辰上は、これまでにないくらいにドス黒い何かに意識が呑まれて行きそうな恐怖に、ただただ晒されてしまうのであった。
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