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ep.2
しおりを挟む家の中にいても聞こえるくらいの声量で叫ばれて、わたしは慌てて玄関に向かった。
通販は何も頼んだ覚えがないけれど、実家からとかかな。――いやでも、宅配便にしては時間が遅すぎないだろうか? もう23時を回っている。
怪しく思いながらもおそるおそる玄関扉を開けると、サンダルを履いた脚が隙間にガッと入り込んできた。
「きゃっ」
そのまま強引に扉を開けられて、男がのっそりと入ってくる。
肩まで伸びた髪をハーフアップにした、無精ひげの男。一重の三白眼。上背があり、やたらとガタイがいい身体に、毛玉だらけのスウェットを着ている。
や、や、や、ヤバイ奴だ! 強盗!?
つい呆然としていたが、悲鳴を上げようと口を大きく開ける。その途端、手で口を塞がれた。
男がニィ、と笑う。
「ひさしぶりだな、嫁ちゃん。ちょっと邪魔するぜ」
「!?」
ひさしぶり? 嫁ちゃん? こんな明らかに怪しさ全開の男、まったく面識ありませんけど!
口を塞がれているので、わたしのそんな訴えはすべてくぐもった唸り声になってしまった。
「夕希、どうしたの? ――……って、兄さんじゃないか」
「おーキヨタカもひさしぶり。ちょっくらメシ恵んでくんね? もう腹ペコペコで。ついでに5万貸して」
「前に貸した3万も、その前に貸した10万も返してもらってないけど? まあ、ごはんくらいは恵んであげるよ。ほら兄さん、夕希が苦しそうだから離してあげて」
「おっと、悪い悪い」
男はわたしの口を解放すると、サンダルを脱ぎ散らかして家の中に上がってきた。案内も待たずにリビングへ向かっていく背中を指さし、わたしはぶるぶると震える。
「お、お、お兄さん!? あんな怪しいオッサ……ん゙んっ、あんな人だったっけ?」
清隆のたった一人のお兄さんとは、結婚式でしか顔を合わせたことがない。そのときは、ちょっと人相が悪いだけで清潔感もあって、ちゃんとした人に見えたのに。さっきの姿では、言っちゃ悪いけど、治安が悪めのヤバイ人にしか思えなかった。
「あははっ! 結婚式では一応身なりを整えてくれてたからね。普段はいつもあんな感じだよ。ごめんね、せっかく俺のためにお祝いで用意してくれたのに。兄さん昔からしつこいから、お金あげるか家に上げるかしないと絶対帰らないんだ。ほんとごめん」
「料理はたくさん作ってあるから……全然いいんだけど……びっくりしちゃった」
「お金にはだらしないけど、まあ見た目ほど悪い人ではないから。おなかいっぱいになったらすぐ帰ってもらうよ」
「いいよいいよ。久しぶりに会ったお兄さんじゃん。せっかくだからゆっくりしてってもらっても、わたしは全然気にしないよ」
「そう? ありがとうね」
清隆とそんなやり取りをしながらダイニングに戻ると、さっそくお兄さんは冷蔵庫から勝手に取り出したであろう缶ビールを開けるところだった。
「…………ぷはぁっ! うめぇ~」
一気飲みしたらしい缶をくしゃっと握りつぶし、お兄さんはもう1本ビールを手に取った。山賊か? なんとも豪快な人だ。
お兄さんに取り皿とお箸を差し出すと、さっそくおかずをよそいだす。
ダイニングチェアは2脚しかないので、ひとつづきになったリビングにお兄さんを案内した。山盛りのお皿とビールを片手にホクホクした様子のお兄さんは、ソファではなく地べたに胡坐をかくと、さっそく料理に手をつけ始める。
「おっ、美味いじゃん! これ嫁ちゃんが作ったん?」
「お口に合ってよかったです」
「キヨタカの作るフレンチとかいうお高い料理は味がよくわかんねぇからなー……あ、俺はこっちで勝手にやっとくから気にしないで」
「はぁ……」
気にしないでと言われましても。
遠慮のなさには唖然としたが、美味い美味いと言いながらバクバク食べている姿を見せられると何も言えなくなる。
「おいで夕希。兄さんのことはほっといていいから」
清隆に呼ばれ、わたしも席につく。
しばらくするとお兄さんの存在にも慣れ、わたしは清隆とたわいもない会話を交わした。たまにお兄さんがおかずを追加しにきたり、冷蔵庫から次のお酒を取り出していく。お酒が進むにつれ、それも気にならなくなった。わたしは昔から能天気だの大雑把だのと言われることが多かったが、こういうときには得な性格だと思う。
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