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しおりを挟む「いつか用なしになったら、私はここを追い出されてしまうのかしら。……公爵さまがなぜ私を養女にしたのかわからないの。どうして私を助けてくれるんだろうね。私に何を望んでいるのかな?」
黙って聞いてくれている竜に、ジゼルはクスリと笑った。
「あなたに聞いたってしょうがないのにね」
相手が竜だから、本心を話せる。ヴィンセントも、キリアンも、優しいヴァルトロ相手でさえ、ジゼルは上手く話すことができなかった。目を見ることも難しくて、自分の気持ちを言おうとすると喉がギュッと締まってしまって、身体が震えてしまうのだ。
そんな自分がいやでいやで仕方ない。
「あなたみたいに空を飛べたらいいのに」
この竜のように自由自在に空を飛べたら、こんなちっぽけな悩みなど吹き飛ばしてしまえそうだ。
「きゃっ」
ジゼルの呟きを聞いた竜は不意に彼女を口に咥えると、自分の背中に乗せた。いきなりのことに状況がつかめないジゼルを乗せたまま、竜は羽を広げる。
まさか飛ぼうとしているのでは――と思い至り、ジゼルは慌てて竜の背中に手を伸ばした。竜の体表は全面鱗で覆われており、掴むところなどどこにもない。大きすぎるため首にも腕が全く回らず、しがみつくという方法もとれないまま、竜の巨体がふわりと浮かぶ。
「ま、待って……っ」
サーッと青褪めるジゼルに気づかないまま、竜は空へと飛び上がる。
「待ってってばー!」
竜はとてもゆっくり飛んでいるつもりだったが、平凡な人間でしかないジゼルにとってはそれでも空気抵抗が凄まじかった。おそらく風の音のせいで、竜にはジゼルの声が届いていない。
月に手が届きそうな高さまで上がる頃、とうとう踏ん張る力も尽きたジゼルの身体が竜の背中を滑っていく。
「きゃあああっ!」
あっという間に背中から落ちてしまったジゼルを、竜が慌てて追いかけてきた。
ジゼルは必死で竜に手を伸ばす。
ジゼルが落ちるスピードよりも竜の飛ぶ速度のほうが速く、難なく爪でキャッチされた。ジゼルが落下したことで背中に乗せるのは危ないと判断したようで、今度はしっかりと掴んだままゆっくり庭園に降りていく。
一瞬にして地面が恋しくなってしまったジゼルは、そっと下ろされるとヘナヘナと座り込んだ。
「……っやっぱり、飛べなくていい……」
じわりと涙が滲む。空なんてもう一生飛べなくていい。
ジゼルが「飛べたらいいのに」と言ったから、竜はよかれと思って彼女を背中に乗せて飛ぼうと考えたのだろう。竜は「ごめんね」と言いたげにジゼルを鼻先でつついてくる。
「もう大丈夫よ」
健気な竜の様子を見かねて宥めても、竜はしゅんと落ち込んだままだった。
――ジゼルは不意に、追いかけてくる竜の必死な様子を思い出す。すると、じわじわと胸の内からこみ上げてくるものがあった。ぷはっ、と噴き出したジゼルは、次に声を上げて笑いだす。無事に地面に降りられて安心したせいか、気が緩んでしまったようだ。
「あははっ! 私の願いを叶えようとして背中に乗せてくれたんだよね。ふふ、ありがとう。その気持ちがとってもうれしい」
鼻先を撫でると、大きな顔が擦り寄ってくる。それがまたくすぐったくて、ジゼルはしばらく笑い声を上げていたのだった。
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