エスター公爵家の男たち~男性恐怖症の薄幸令嬢ですが、竜の父子に溺愛されて4人で幸せになります~

柴田

文字の大きさ
39 / 132

17-2

しおりを挟む



 ネイアとの間に、使用人からの報告を受け急いで駆けつけた人物が割り込む。尻尾のように長い金色の髪が、ふわりと視界を遮った。

「やめろよ母さん!」

 キリアンはぐっと唇を噛み締めてから、ネイアを怒鳴りつけた。

「なぜなのキリアン! どうしてあなたまでその小娘の味方をするのよ!?」
「母さん、庭園も入るなって父上から言われてるだろ。俺に引きずって連れていかれたくなかったら、早く別館に戻ってくれ」
「なんでそんなにひどいことを言うの? わたくしはあなたの母なのよ? 息子だったらわたくしの味方をしなさいよ!」

 キリアンは大きな溜息をつく。これ以上口で言っても無駄だと感じ、指でくるりと円を描いた。

「きゃっ、やだ! ちょっと! 待ちなさいよキリアン!」

 ネイアは操り人形のように方向転換し、キリアンの指の動きに従って自らの足で歩いて行く。いつかヴィンセントがブランテ伯爵にかけたのと同じ魔法のようだった。
 別館へ続く方向から、わめく声がいつまでも聞こえてくる。

「ジゼル、大丈夫か?」

 振り向いたキリアンは、やるせないといった表情をしていた。
 母親から純粋に可愛がられていたキリアンは、ヴィンセントやヴァルトロのようにはネイアを嫌ってはいない。それでも母の言動や態度に思うところはある。
 ジゼルに手を上げようとする場面を目撃したキリアンの気持ちは、複雑だった。

 母に叩かれそうになっていたジゼルの姿を見て、彼女の調査報告書に書かれていた家族からの暴行の数々を思い出す。きっとまたトラウマで苦しんでいるはずだと心配になった。――キリアンがネクタイを締めようとしたときのように。

 だがしかし、心配は杞憂であった。半狂乱で脅えているんだろうな、と予想していた様子とは随分違い、ジゼルは弾んだ声でキリアンを呼ぶ。

「私っ、大丈夫です!」
「やたら元気だな。…………心配して損した」

 ぽつりとこぼれた声を、ジゼルは聞いていなかった。

「叩かれる前に避けたのでなんともありません。……私、初めて避けられました……!」
「お、がんばったじゃん」
「キリアン様のおかげです」
「俺? なんで?」

 弾けるような笑顔のジゼルを見て、キリアンは瞠目する。

「アンタのそんな顔、初めて見た」

 表情が緩むのを見たことはあっても、キラキラと目を輝かせて笑う顔は見たことがない。
 指摘され、ジゼルはパッと口元を手で隠す。自分でもとても久しぶりに晴れやかな気持ちで笑った気がした。最後に心から笑ったのはいつかも思い出せないほどの昔で、自分がどんな顔で笑うのかも忘れてしまっている。

 恥ずかしがるジゼルにキリアンは目を細め、少しだけ火照った頬でニッと悪戯っぽく笑った。

「悪くねぇよ、その顔」

 ますます恥ずかしがるジゼルの姿に、キリアンは声を上げて笑うのだった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...