エスター公爵家の男たち~男性恐怖症の薄幸令嬢ですが、竜の父子に溺愛されて4人で幸せになります~

柴田

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26-1.ジゼルの卒業記念パーティー

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 ジゼルの卒業記念パーティーの開催日。

 今年も例年どおり卒業生の家族も招待され、賑やかな雰囲気に包まれていた。ジゼルはヴィンセントから贈られた真っ赤なドレスに身を包み、彼にエスコートされエスター家と共に入場する。

 そこには相変わらずネイアの姿はなかった。今回もネイアとは別行動でアカデミーまで来たようだ。そしてヴァルトロも、仕事の都合でテオドールに同行するかたちでアカデミーまで向かうためいっしょに入場はできない、という旨の手紙がジゼルのもとに事前に届いていた。
 なんでもテオドールが他国の行事に招かれていたらしく、ヴァルトロもそれに帯同しているのだとか。帰りの日程次第では少し到着が遅れるがパーティーには必ず参加する、というヴァルトロの強い意志もしたためられていた。

 皇帝が姿を現し卒業生へ向けて語るなか、キリアンはキョロキョロと辺りを見回す。

「兄貴はまだ来てないみたいだな」
「皇太子殿下もまだのようだし、やっぱり遅れるみたい」
「あ、そっか。兄さんには皇太子がくっついてくるんだった。それならいっそパーティーには来ないほうがいいんじゃねぇか?」
「そんなこと言ったらヴァルトロお兄様が悲しむわ」
「父上だって絶対そう思ってる」

 いたずらっぽく笑って舌を出すキリアンに、ジゼルはヴィンセントを見上げてみる。相変わらず何を考えているのかわからない無表情で皇帝の話を聞き流していたヴィンセントは、ジゼルの視線にすぐ気がついた。

「どうした?」

 キリアンの雑談も耳に入っていなかったようだ。

 ――――そうこうしているうちに皇帝の長い話も終わり、楽団が音楽を奏でだす。卒業生たちはそれぞれのパートナーと手を取り合い、ダンスフロアに進み出た。その光景を眺めるジゼルを見下ろしていたヴィンセントは、唇を引き結びあまり見たことのないような表情を浮かべる。

「――ジゼル」

 ヴィンセントに呼ばれて視線を向ける。彼は胸に片手を当て、それからジゼルに向けて手のひらを差し出していた。

「公爵、さま?」
「私と踊ってくれるか?」

 手のひらとヴィンセントの顔へ交互に視線を走らせたあと、ジゼルはそっと指先を乗せた。
 ジゼルの手を握り、ヴィンセントはダンスフロアに向かう。中央ではなく端の空いているほうへジゼルを誘導すると、ヴィンセントは少しだけ硬い動作でホールドを組んだ。
 曲に合わせてゆっくりとステップを踏むヴィンセントが微笑ましくて、ジゼルはこっそり顔を綻ばせる。

「本当にダンスの練習をしてくださったんですね」
「上手く踊れているか?」
「お上手です」
「そうだろう?」
「公爵さまと踊れるだなんて、とてもうれしいです」

 先ほどまでヴィンセントが上の空だったのは、もしかして初めてのダンスに緊張していたからだろうか――そんなふうに考えてしまい、ジゼルは頬が緩みっぱなしだった。
 相当のレッスンを重ねたのか、もともとのセンスか、ヴィンセントはジゼルを上手くリードして踊っている。だんだんと緊張が解れてくると、次第に動きもなめらかになっていった。たかがダンスひとつでジゼルがうれしそうにはにかむのを見て、柄でもないのにダンスのレッスンに励んだ甲斐があった、とヴィンセントは満足そうだ。

 ヴィンセントがダンスをしているところを初めて目にした貴族たちは、二人がダンスフロアの端で踊っているにもかかわらず、つい注目してしまっていた。
 いつも冷たい印象だったヴィンセントの表情が心なしか柔らかくて、恐ろしいとばかり思っていた彼の美しさを改めて認識する。思わず感嘆の溜息を吐くのは女性貴族だけではなく、男性貴族までもがヴィンセントに見惚れ、息をするのも忘れた様子だった。

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