エスター公爵家の男たち~男性恐怖症の薄幸令嬢ですが、竜の父子に溺愛されて4人で幸せになります~

柴田

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27-1.テオドールの切り札

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「――ジゼル嬢!」
「皇太子殿下……。あ、ヴァルトロお兄様! いらしていたのですね」

 重い空気を払拭するように溌剌とした声で割り込んできたのは、やっとアカデミーに到着したらしいテオドールだった。彼の首根っこを捕まえているヴァルトロにもかまわず、テオドールはジゼルにぐいぐいと迫る。

「ジゼル卒業おめでとう。ごめんね、今すぐ殿下を連れて行くから」
「まあ待てヴァルトロ。おまえが愛らしい妹に過保護になる気持ちもわかるが、俺にもジゼル嬢とダンスをする権利があるだろう? ジゼル嬢、公爵とのダンスが終わるのを待っていたよ。次は是非とも俺と踊ってくれるな?」
「え……と、あの」
「俺とは踊れないか?」
「やめろ」

 テオドールとダンスするのが嫌なわけではなかった。結婚を執拗に迫られることと、彼と噂されている状況でダンスを踊ることにより、外堀を埋めるような結果になってしまうことが嫌だっただけである。
 困惑するジゼルの前に立ちはだかったヴィンセントを見上げ、テオドールは一瞬たじろいだ。だが気合を入れるように自らの頬を両手で叩き、拳を握ってヴィンセントに対峙する。

「公爵! 娘が皇太子妃になることの何が気に入らない!?」
「ジゼルは皇太子妃にはならない」
「公爵が決めることではない。ジゼル嬢と俺の問題だ。ジゼル嬢、君の正直な気持ちを聞かせてくれないか?」

 ヴィンセントを挟んだまま尚も言い寄ってくるテオドールに、ジゼルは唇を噛み締める。今度はジゼルが気合を入れる番だった。ちゃんと自分の言葉で伝えなければ、テオドールは納得してくれないだろうと思ったのだ。

「私は皇太子殿下とは結婚しません。……私は、エスター家にいたいのです」
「では永遠に結婚しないと?」
「……そ、ういうわけでは」
「――もしや、公爵に脅されているのか? どうして俺を受け入れない? ずっと不思議に思っていたんだ。公爵やヴァルトロたちが頑なに俺を君から遠ざけようとするのを。皇太子妃になれるのだぞ? 俺の求婚を断る理由などあるまい」
「脅されているだなんて、そんなことは一切ございません!」
「それも言わされているのか?」
「違いますっ」

 話の通じないテオドールに焦れて声を荒げてしまい、ジゼルはハッとして口を手で覆った。
 思い込んだら一直線になってしまいがちなテオドールのことだ。ジゼルが求婚を拒む理由を勝手に想像し、その原因がエスター公爵家の男たちにあると考えたのだろう。
 今のテオドールの頭には、囚われたジゼルをエスター公爵家の男たちの手から救い出す考えしかないようだった。

 異様な雰囲気にホール中の視線が集まる。
 キリアンもジゼルの元に急いで駆けてきたが、ヴィンセントのまとう空気の圧を感じて口を閉ざすしかなかった。
 テオドールをなんとか大人しくさせたかったヴァルトロは、手遅れの状況にもはや打つ手なし、とヴィンセントの顔を見て悟る。
 じっと無言で見下ろしてくるヴィンセントの鋭い眼差しを受け、テオドールはごくりと息を呑んだ。

「普通じゃない。普通じゃないぞ、君に対する公爵の執着は! それが義理の娘に向ける目か?」
「何が言いたい?」

 テオドールはしばし躊躇うような様子を見せたあと、振り絞るように声を張り上げた。ヴィンセントのことは恐ろしいけれど、秘密を知った以上、それが自分の正義に反することならば口を閉ざしてはいられないのが、テオドールという男だった。

「ジゼル嬢を今すぐに解放しろ! 公爵が彼女にしたことを考えると俺は胸が張り裂けそうだ!」

 テオドールはもはや、ざわざわと騒ぎ立てる観衆の姿も目に入っていないようだ。
 ジゼルは困惑した面持ちでヴィンセントの服の裾を引く。〝ヴィンセントがジゼルにしたこと〟とは一体なんだろうか。そう思いながら見上げるが、ヴィンセントの視線はテオドールに向けられていた。
 エスター公爵家に引き取られるまでの経緯に、後ろめたい隠しごとでもあるのだろうか。四方八方に敵を作っていたブランテ伯爵のことだから、やはりヴィンセントの不興を買うような真似をしでかしていたのかもしれない。

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