エスター公爵家の男たち~男性恐怖症の薄幸令嬢ですが、竜の父子に溺愛されて4人で幸せになります~

柴田

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33-1.真相




「言葉のとおりだ。私の心臓をナイングレイが持っている」
「でも……」

 ヴィンセントの胸からは確かに鼓動が聞こえた。ジゼルの視線が胸のあたりに注がれていることに気づき、ヴィンセントは言葉足らずだったことを悟る。

「古竜は心臓が2つあるんだ」
「え!?」
「そのうちの一つをナイングレイが持っている」

 つくづく人間との違いを見せられて、ジゼルは開いた口が塞がらなかった。――ただ、疑問が残る。ほかの古竜でも敵わないほど強いと自称するヴィンセントの心臓を、なぜナイングレイが持っているのか。まさかヴィンセントが自ら心臓を抉り出して、ナイングレイに渡したはずはあるまい。
 ジゼルの考えていることを読み取り、ヴィンセントはさらに説明を加えた。

「私は20年ほど前まで、眠りについていた。長い刻を生きる古竜は自ら休眠期に入ることが多い。その頃の私もつがいを待つことに疲れていて、500年ほど眠っていた」
「500年……」
「想像がつかないか?」
「はい」

 素直に答えるジゼルに、ヴィンセントは口端を緩める。

「休眠期は仮死状態になるから、いかな古竜といえど無防備だ。だから私たち古竜は、休眠期に入るときにはほかの古竜に護衛を頼むんだ。私はティティオール大森林を挟んだ向こうを縄張りとしている青竜――先代の青竜に眠っている間の守りを任せた」
「青竜って……」

 最近代替わりした、と耳にした覚えがある。

「そうだ。私が眠っている間に先代の青竜はつがいに出会い、そしてつがいと共に死んだ。それが20年ほど前のことだ。眠っていた私に青竜が死んだことを知る術はなく、無防備な私を守るものは何もなかった。その隙を突いたのがナイングレイだ」
「公爵さまの心臓を奪っていったのですね?」
「ああ。眠っていようとさすがに心臓を取られれば目は覚める。ただ、そのときのナイングレイは紅竜を連れていたから、心臓をすぐに取り戻すことは叶わなかった」
「紅竜……ですか?」

 黒竜、青竜、白竜、そして最後の一頭が紅竜だ。紅竜は古竜の中でも珍しく、自ら国を興し竜王などと名乗る酔狂な竜で、ドラウス帝国とは遠く離れた東洋の地を縄張りとしている。奇天烈な噂は数多く聞けど、ヴィンセントは紅竜との交流はほとんどなかった。
 その紅竜を、ナイングレイが連れていたのだ。

「紅竜の魔法で心臓を取り出され、どこに隠したのかもわからない。そしてナイングレイを殺せば心臓も連動して潰れるよう魔法をかけた、と紅竜は言っていた」
「どうして紅竜がドラウス帝国の皇帝陛下の命令を聞いていたんでしょうか」
「命令を聞いていたわけではないだろうな。おそらくナイングレイからの依頼を引き受けただけにすぎない。ナイングレイを殺したら心臓が潰れるよう魔法をかけた、ということは紅竜を殺しても問題はないということになるから、私に殺されるのを恐れた紅竜は、私が目覚めた瞬間に大荷物を抱えて飛んでいった。もう二度と私の前には姿を現さないだろうな」
「ちょっと変わった古竜なんですね」
「当代の紅竜は美しい男を食べるのが好きなんだ。美しい男を山のように捧げれば紅竜はなんでも望みを叶えてくれる――などという伝説のような事実が私の耳にも届くほどな」
「では紅竜が抱えていった大荷物というのは……」

 皆まで言わずとも察せられて、ジゼルは身震いした。

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